34:主要キャラの選択間違ってませんか
誤字脱字報告ありがとうございます!
教師の名前はシュレイン・ロッド先生。
学校に張ってある防御の魔法が、アーリエラ様の魔法を感知したので一番若い彼が駆けつけたということだ。
若い先生はフットワークが軽いねー。
私のペースで歩きながら、打ち合わせ――もとい、よもやま話をする。
「防御の魔法なんていうのがあるんですか」
「そりゃぁな、魔法の訓練していて、外に魔法が飛び出ました、なんて言ったらおおごとだからな」
なるほど、外からの守りじゃなくて、外を守るんだ。
「それでだ、魔法の無断使用は、外でも、この学校内でも変わらない、法の裁きの対象となるんだが。ご両親から聞いてはいなかったか?」
「聞いておりました。強化魔法だけは、免除されるということも聞いていたんですが」
「ああそうだ、それはここでも同じだ――なるほどな。君は確か、先日事前に父君と挨拶に来ていた、ええと」
言いながら思い出す素振りをする彼に、言葉を引き継ぐ。
「はい、レイミ・コングレードと申します。ご挨拶が遅くなり、申し訳ありません」
先日父と共に、学校長に挨拶した。片足が義足であることと、初歩的な身体強化を使う許可をもらいにだ。
現時点で完璧な身体強化をしていたら、バウディも言っていたように問題が色々あるので、まだ不慣れで漏れ漏れなんですーってことにしてある。
とりあえず申告しておけば、強化魔法を使ってるとバレたときに、言い訳できなくもないだろうという考えからだ。
根回しは大事だもんね。
「ああそうだ、レイミ君だった。学校長から聞いているよ、入学前に身体強化を身につけてきたんだってね、凄いじゃないか」
「いいえ、まだまだうまくはできないので、魔力が漏れてしまうのですけれど」
私たちの視線が合わさり、ちいさく頷いた。
生徒が行き来する廊下の端で向かい合う。
「うんうん、そのことも聞いているよ。だが、防御の魔法に感知されるとなると、少し多めの魔力が出ていないと、感知しないのだが」
「実は、慣れぬ学校で、緊張してしまい。いつもなら、もう少し押さえられるのですが、魔力の揺らぎが大きくなってしまいました」
「ああ、なるほど!」
彼が大げさなぐらいの反応で、手をポンと打つ。
「だから、感知してしまったんだね。なに、大丈夫だ、学校長も職員に周知しているから、君の魔力の漏れについては、処罰されないよ。よかったね」
若干芝居がかってはいるが、聞き耳を立てていた周囲の生徒も、なんだ問題なしかと、離れてゆく。
ほら、やっぱり根回しは大事だ。
「まぁ本当ですか! 安心いたしました、もし緊張するたびに罰せられてしまったら、学校を辞めねばならぬかと――」
「シュレイン! そいつが、犯人か! 捕まえたなら、さっさと連れてこいよ」
空気を読まない闖入者の登場に、シュレイン先生が小さく舌打ちする。
でかい声で、犯人とか言うんじゃねぇわよ。
私も心の中で舌打ちした、せっかく大団円になるところだったのに元の木阿弥になるかも知れない。最悪。
内心の怒りがあふれ、ズカズカとやってきた人物を睨んでしまう。
ぴょんぴょん跳ねている深緑の短髪に、赤みがかった茶色の目の先生がやってくる、雰囲気が体育教師だ。
「ローディ先生、犯人ではありません。彼女はレイミ・コングレード君です、校長から事前に説明を受けていたでしょう、強化魔法の」
「ああ、あれか! なんだ、おまえ、人騒がせだな!」
バシンッと背中を叩かれてつんのめってしまった私の肩を、シュレイン先生が咄嗟に支えてくれる。
痛ぇわよ、馬鹿力。
「ローディ先生っ!」
シュレイン先生の鋭い声で、ローディ先生ははっとする。
「ああ悪いっ! すまなかったな、レイミ! おまえ、片足ないの忘れてた」
本気で焦って謝ってくれたけれど、最後の一言、最悪です。
なんですか、がさつを装った嫌がらせ?
周囲の生徒の控えめだが好奇の視線が私の足に向かうのを、気が遠くなりそうになりながら感じる。
「ローディ先生っ!!」
シュレイン先生が慌ててたしなめ、自分の失言に気づいたらしいローディ先生は、オロオロしだした。
「いや、あの、すまない、レイミ。そんなつもりじゃなくて、だな」
「名前……呼び捨てにするのは、やめていただけますか」
初対面なのにずうずうしい、という言葉は飲み込んで、敢えて弱々しい声でそれだけを伝える。
「え? ええと、俺はどの生徒も呼び捨てだから、おまえが特別ってわけじゃなくてだな」
特別とか特別じゃないとかが問題ではなくな……。
「ローディ先生、教頭先生からも注意されているでしょう。もうそろそろ、改善なさってもいいと思いますよ」
頭痛をこらえるような顔で、シュレイン先生が援護射撃をくれた。
常識人、ありがたい。
「うっ、そ、そうだな。改善する」
シュレイン先生に決意表明している彼を見ていて思い出した。
そういや、この人も主要キャラだ。
ぱっと見シュレイン先生の方が先生然としているのに、なぜこっちかなぁ……。
確かローディ先生の説明は、『ちょっとがさつだけど生徒に人気のあるフレンドリーな先生』で、辺境伯の次男だったはず。
なぜ辺境伯の次男が、王都で魔法学校の実技教師をしているのかは不明。
普通は次男あたりだと実家で長男の補佐をしていたり、なにかしら家業を手伝っているはずなのに……こんな調子だから、家でもてあまされたのかもしれないわね。
などと失礼なことを予想してみる。
「あー、悪かった、レイミ君」
何に謝られたのかわかんないけど、呼び捨てについてなのか、私の右足がないことをうっかり大声で言ったことについてなのか。
私の微妙な顔に気づいたシュレイン先生が、間に入ってくれた。
「レイミ君、今回のことは不問ですので、教室にお入りなさい。君はE組なので、担任はこのローディ先生になりますが……」
思わず、奥歯をかみしめてしまった。まーじーかー、担任なのかぁ。
「本来はB組に入るはずでしたが、E組が玄関に近いこともありまして」
「わざわざ、ご配慮いただいたんですね。ありがとうございます」
ちっっっともありがたくないけどね。
私の内心なんてバレバレらしく、シュレイン先生は申し訳なさそうな顔をする。
「もしも、他の生徒と変わらず歩けるようになれば、次年度は学力のみで組分けをすることもできますから」
なんて素敵な提案!
本当ならこの場で歩いて見せたいところだけど、『次年度』と強調されたところをみると、今年は我慢しなくてはいけないんだろうな。
「おいおい、シュレイン。なに勝手なこと言ってんだよ、足のねぇヤツに、そりゃコク――」
ローディ先生が言い終える前に、シュレイン先生の振り向きざまのアイアンクローが言葉を封じた。
ものすごく低い声で「黙れ」と、ローディ先生にメンチ切ってる。ローディ先生は青い顔をして、コクコクと頷いている。
シュレイン先生って優しそうな雰囲気なのに、そうでもないのかなー。
話のわかる先生だけど、ちょっと距離を置いたほうがいいのかもなー。
「それでは、シュレイン先生、ローディ先生、失礼いたしますね」
会釈をして逃げるように二人から離れ、まだ学校がはじまってもいないのにぐったりした気分で、もときた廊下を戻った。
一ヶ月毎日投稿できましたー!
最後まで毎日投稿できたら褒めてください(土下座)





