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中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。【書籍化】  作者: こる
本編

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31:勝利!/31.5:見守ることしか許されなかった者(バウディ視点)

 身体強化の練習の次は、バウディとのリハビリという名の筋トレ。


 今日は外を歩いてみようということで、お庭に出てきております。

 公爵邸のように東屋も広さも無いけれど、五メートルくらいは幅があるし、隣とは柵があるので心置きなく練習ができる。


 ある程度平らなものの、整地はされていないので、家の中を歩くのとは勝手が違う。


 ゆっくり、慎重にしなくてはいけない。


 身体強化は使わずに自前の体力だけで歩くのだけど、まるっきり身体強化なしだと義足が重いのよ。ベルトが足に食い込むし……。


 私の側にぴったり付いて歩く補助をしてくれているバウディが、言いにくそうに口を開いた。


「あのな、お嬢。奥様が言ってた、身体強化についてなんだが……」


 告げ口するみたいで嫌なんだろうな。


「わかってるわよ。前にも教えてくれたでしょ? 魔力を漏らさないで身体強化ができるのは宮廷勤めの魔術師級だって」


 さっきまで私も忘れてたけど、確かにそう聞いた。


 私の言葉にほっとした様子の彼だ。


「でも、それがどうしたの? だからって、やらない理由にはならないでしょう? 現にお母様ができていることなんだから、私もできておかしくないもの」


「そうじゃなくて。もう十分な修練度に達しているだろうって話だ。これ以上、魔力操作を学ぶ必要はないんじゃないか」


「何を言っているの、バウディ。上があるなら目指すでしょう」


 胸を張って言い切った私に、彼はがっくりと肩を落とす。


「……うちのお嬢が、男前に上昇志向だ」


 うちの、お嬢ねぇ。

 胸がほっこりと温かくなる。

 私がレイミではないと知っているのに、そうやって受け入れてくれるのが、本当にイケメンだと思うのよ。


 ――ただ、リハビリはスパルタだけどね……っ!





 あー、ぐったり、バウディは人を指導するのが下手かも知んない。


 母も根性論の人だけど、バウディは相手の体力を見誤ってる! 私の体力のなさは、本当の、本当に、最低レベルなのにっ!!


 最近はしっかり三食ご飯を食べて、運動もしているから、ガリガリが解消されてきたけれど、まだ筋肉がまともにあるとはいえない体なのよ。


 弱音を上げたいけど! 「こんなのもできないんですか」的な視線を見ちゃうとね、悔しくなるじゃない、頑張らずにはいられないじゃないっ。







 その結果、こうしてベッドにバタンキューなんだけれどもっ!



 夕飯をなんとか食べて、部屋に戻り、這々(ほうほう)の体で寝る準備をして、落ちた。






 そして、明け方、痛みに叩き起こされた。


 きやがったわね、幻肢痛! 絶対にくると思ってた! 今日こそ痛みおまえを克服してくれるわ!



 威勢のいいのは心の中だけで、痛みにのたうち回りたいのを堪え、寝るときにすぐ側に置いておいた義足をなんとか引き寄せて装着する。

 魔力を循環させるだけだから、ベルトを締める必要はない。


 スライム製の装着部にカポッと足を入れ、ヘッドボードに背中を預けて楽な姿勢をとる。


 痛みに散りそうになる意識を集中させて、魔力の循環をはじめた。


 冷や汗がだらだら流れるなか、なんとか魔力を巡らせる。すぐに散る集中力を必死でかき集め、やがて魔力を両足に巡らせることに成功した。


 これだけでも、かなり楽になってきたけど、まだまだこれからよ。

 多分魔力は漏れまくってると思うんだけど、そこをなんとかする余裕はないまま、足を引き寄せて体育座りになる。

 そして、右足を見ながら、両手で左右の足を同じように撫でさする。


 暗闇のなか、細部は見えない。

 だからこそいい、左足に感じる感触を右足のものとする。脳をバグらせるんだから。


 私はいま、痛い右足を摩っているという意識をしっかりと持つ。

 代替えの感触を左足に与え、右足を慰撫するんだ。



 しばらくそうしていたら、痛みがふっとなくなっていった。


「よしっ、計算通り!」


 思わずガッツポーズをして、バタンとベッドに突っ伏した。


 それにしても疲れた、痛みって筋肉が緊張しっぱなしだから疲れるよねぇ。




 なんとか義足を外してベッドに潜り込み、勝ち取った穏やかな睡眠を堪能した。









【31.5:見守ることしか許されなかった者】バウディ視点


 過剰な運動をした日は必ず、深夜痛みに苛まれるのはわかっていた。


 だが、彼女はそれを理解したうえで、歩行の訓練を行う。





「お嬢、なにかあればすぐに――」


 夕食後、部屋の前までエスコートした私の言葉を、彼女は止めた。


「今日はこなくていいわ、多少うるさくするかも知れないけど、入ってこないで。実験してみたいことがあるの」


 その自信ありげな様子にそれ以上言えなくて、ドアを閉める彼女を見送った。





 夜明けが近い深夜。


 部屋の中から押し殺した呻き声が聞こえる。


 入ってくるなときっぱり言われたことを思えば、すぐに入っては彼女が怒るのは間違いない。


 まんじりともせずドアの前で立ち尽くしていると、すぐに彼女の痛みに呻く声がちいさくなり消えた。


「まさか……本当に」


 あの痛みを克服したのか。



 そっとドアを開けて部屋を確認すると、ベッドの上に両足を投げ出して座る彼女がいた。


 目を閉じ、魔力循環をしているのがわかる。



 彼女は母親譲りの感覚センスで、高度な魔力制御を短期間のうちに身につけていた。

 それでも痛みに気が散るのか、両足に流す魔力が漏れ出ている。


 部屋を覗いていることに気づかれぬよう、気配を消し、息を殺して見守った。



 やがて、魔力が滞らずに流れるようになると、そのまま膝を抱え、それぞれの足を同時に撫でさすりはじめた。

 彼女の視線は右足の義足しか見ていない。


 魔力循環をしながら、足を撫でていた彼女は、やがて険しかった表情を解いて、ため息を吐き出した。


「よしっ、計算通り!」


 彼女の晴れやかな表情で、本当に痛みを克服したのだとわかる。


 その後、義足を外した彼女は眠りについた。



 目の強化魔法はそのままで、静かにベッドに近づく。


 ベッドの上に放置されている義足を元の場所に戻し、上掛けを肩まで引き上げる。



 激痛の中で魔力循環を成功させることがどれほど凄いことなのか、彼女は知らないだろう。

 そもそも、あの早さで魔力循環を習得したことも、強化魔法を習得してしまったことも――天才と呼ぶに値するということを、彼女は知らない。


 果たして魔法学校で平穏な生活ができるのだろうか。


 不安が首をもたげる。



 彼女は母親を基準に置いてしまっているが、そもそもその母の強化魔法も規格外ではあるのだ。ただ、編み物に特化しており、現王妃が作品を好んでいるから、宮廷魔術師が口を出してこないというだけで。


 どうやって、常識を教えればいいのだろう。

 一番常識に近いのは、父親なのだが……レイミは納得してくれなさそうだ。


 なんとか、魔法学校に入る前には、理解させなくては。

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