28:義足の代金に父びびる
いつも誤字脱字報告ありがとうございます!
ひとしきり喜び合ったあと、意を決したような雰囲気を作って父に向き合う。
「それで、お父様。ボンドさんに義足の代金を聞いたのですが」
敢えて、暗い表情を作って、言いにくそうに口にしてみた。
「う……っ、うん、いくらだい?」
父の顔が若干引きつった。
そして、あらかじめボンドから聞いていた金額を伝えると、明らかに硬直した。
わかるわー、結構引く金額だもん。
なまじ腕のいい職人さんだから、材料がね、いい物使ってんだ。
「お嬢……あんまり、旦那様をいじめんな」
硬直してから顔がだんだん青くなってる父を見かねたバウディが、助け船を出す。
ちぇーっ、バウディは父に甘いもんなぁ。
でもさすがに心苦しくなったので、すぐにネタばらしする。
「実はね、お金は心配しなくても、この前申請した新技術で賄えたみたいなの。次に作ってもらう義足の代金も出るって言っていたわ」
にっこり笑って告げると、父の顔色が一気によくなった。
「そ、そうか! それはよかった、うん、よかったよ」
涙目の父が「よかった」を連呼する。
……よっぽどだったのね、ちょっと申し訳なかったかも。あ、母、静かに怒らないで! ごめんなさいってば!
アイコンタクトで謝罪しておく。
父は心の安定を取り戻したところで、今日も性懲りもなくお持ち帰りしてきた書類をダイニングテーブルに広げた。
「お父様、今日はいつもよりも多いようですね」
「そうなんだよ、ほら、月末だろう? 書類を溜めて出すひとが多くてね」
ため息をつく父に同情を禁じ得ない。
小口の出納の仕事をしている父なので、仕方がないのかなとは思う。
いつものように、父が仕事をしているのを見守ろうとしていたら、母から圧が。
ええぇ……今日はこれから、物体への強化魔法を習おうと思ったのに。
いいから父を手伝え、という無言の圧力に抗う術はなく。父に意地悪するんじゃなかったと猛省した。
「お父様、お手伝いいたしますわ」
そう申し出ると、父の顔がパァッと明るくなった。
顔色に出過ぎじゃないのかなぁ。
「そうかい? ありがとう、レイミ。今、計算機を持ってくるよ!」
軽い足取りで書斎に向かう父を見送り、とりあえず書類を分けることを始めた。
こうやって書類を見ているとわかるけれど、ルーズな人間ってどの組織にもいるのね。同じ筆跡の書類が高確率で間違っていたりさ。古い日付の料金の精算をしていたりさ。
文字自体は綺麗でもねぇ、内容がクソだとねぇ、むかついてくるねぇ。
そもそも、上司の決裁があるのに、なんでこんなにミスが多いのかしら、この部署の上司もクソね。
空いている紙に、クソのお名前とクソ上司のお名前と部署をメモる。これはあとで、私の手を煩わせた人物リストとしてまとめておこう。
「それにしても、こんな大雑把な精算書で、よくお金が下りますね」
やろうと思えば、いくらでも横領できそうじゃない?
だって、領収書の添付が無いなんてさ、いくらでもでっち上げられるじゃない。
「いや、一応、予算があるからね、その範囲内なら、ある程度は許されてるんだよ」
父が電卓を叩きながら言った言葉に、むかっとする。
「許してどうするんですか。それって、私的流用が日常的におこなわれている、ってことですよね」
我々ノ血税ガ!!!
「いや、あの、でもね、それを把握する方法も無いわけだし、仕方ない面もあってね」
父のいいわけを聞き、怒りがさらに膨れるわよね、もうっ。
目で数字を追い、右手で猛烈な勢いで電卓を叩きながら、怒りが浸食する頭の中でつらつらと別のことを考える。
この世界の識字率はまだ百パーセントじゃないし、いちいち領収書を発行するのは、平民には余計な出費になるわね。
紙自体の供給は十分っぽいけど、使い捨てられる程のお値段じゃないみたいだし。
父の元に上がってくるのは、確かに些末な金額ではあるかもしれないけれど、それが継続して罪を罪とも思わぬクソ共の懐を潤しているのが気に食わない。超気に食わない、抹殺すべきだと思うの(過激派)。
この世界に魔法があるんだから、あれだ、嘘発見器みたいな魔道具があってもいいんじゃないかしら? 書類の正当性を合否判定するような。
ボンドに聞いてみよう。
先ほどのブラックリストに、今のアイデアをメモしてから、計算に戻る。
「そういえば、お父様。この間違った書類って、差し戻したら、また決裁を取り直してお父様のところまで戻ってくるの?」
だとしたら、またこの書類をチェックすることになるのか。
正直に言って、面倒なお話だわね。
「うーん。戻しはするけれど、私のところに戻ってこないことの方が多いかな。他にも同じ内容の仕事をしている人はいるからね」
曖昧に笑って、だけど決してこちらを見ない父にピンとくる。
後ろ暗さが全開ですね、父よ。絶対よくない処理がまかり通ってるんだ、これは。
口を開こうとしたとき、うしろから肩を叩かれた。
「お嬢、ちょっといいか」
珍しくバウディに呼ばれ、席を立つ。
あーなんか、わかる。何を言われるのか、薄々わかるわ。
「腕を貸してちょうだい」
「どうぞ、お姫様」
にっこり笑う彼に、うふふふーと笑い返しながら立ち上がる。
薄ら寒い。
「じゃぁ、お父様。頑張ってくださいね」
「え、戻ってこないのかい?」
本気で驚いた顔をしているけど、それは父のお仕事ですよ。
「少し疲れてしまったので、このまま部屋に戻りますね。キリのいいところまでは終わっておりますから」
「いや! いいんだよ! ゆっくり休みなさい。無理は禁物だからね」
本心から私の心配をしてくれる父に、引き継ぎを済ませてから。バウディの腕を借りてゆっくりと歩いて部屋に戻った。





