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中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。【書籍化】  作者: こる
本編

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26:ボンドの工房見学

誤字脱字報告ありがとうございます!

 商業区域にあるボンドの工房に、バウディが押す車椅子で到着。


 我が家は貴族区域の端っこで商業区域にわりと近いので、思ったよりもかからずに到着した。


 車椅子には松葉杖をホルダーで装着してきているので、工房についたら松葉杖をついて歩く。このホルダーも、出がけにボンドがちゃちゃっと作ってくれた。


「それにしても嬢ちゃん、松葉杖ももう使いこなしてるんじゃな」


「ええ、バウディから、家の中ならひとりで歩き回る許可ももらえたのよ」


 意気揚々と言った私にボンドが愉快そうに笑い、工房の中を案内してくれる。入り口を入って手前に応接セットが置かれていて、奥に作業場があった。

 全体的にコンパクトな作りだけれど、作業道具が整然と並んでいて、丁寧に使っているのがわかる。


 工房ってくらいだから、弟子もいるのかと思ったけれど、ボンドはひとりでやっていて、どうしても手が足りない時だけ、仲間に助っ人に来てもらうらしい。


 きれいに片付けられている作業机に私の義足を置くと、手のひらサイズの円柱形の缶を持ってきた。


「この艶出しで磨いて、防水をすれば完成だ」


 言いながら、小さな刷毛で手際よく、艶出し兼防水となるオイルを塗っていく。

 一度塗って小型扇風機で乾かし、塗っては乾かしを数回繰り返し、最後に目の細かい布で力強く磨いていく。


「嬢ちゃんの肌の色に近い木を使ったから、靴下が薄くても大丈夫じゃろ」


 なんと! そんなところまで気にしてくれてるなんて、さすが職人だわ。


「もっと堅い木を使ってもよかったが、それだと色味が合わんし、堅すぎると割れる可能性もあったからの。よし、こんなもんか、つけてみるか?」


「はいっ!」


 二人が席を外すのを待ってから、義足を装着する。二度目なので余裕綽々よ!


 緩みがないか確認して、部屋の外で待っている二人を呼び戻し、松葉杖をついて二人の前で立ち上がった。

 魔力を循環させて下半身に強化魔法を使うと、動きがスムーズになる。

 歩くということを集中して行うイメージなんだけど、集中するのも習慣化できてくると、意識を割く割合が減っていくらしい。

 要は、慣れるっちゅうことよね。


 ということで、慣れる最短ルートはたくさん歩くことなわけだ!


「これなら、松葉杖もすぐ要らなくなりそうじゃのぉ。せっかく作ったのにのぉ、この曲線なんか最高のできなんじゃけどのぉ」


 思いのほかしょんぼりするボンドに慌てる。

 そうよね、こんなに素敵な松葉杖だもんね、作るのも大変だっただろうし。


「こ、この松葉杖は私の宝物ですわ、まだまだ使いますから安心なさって。あ、そうだわ、私これから強化魔法を物に掛ける練習もするつもりですの、だから、前に言っていた義足に武器を仕込むのを相談しませんか! ほら、内側を空洞にできれば、なにか入れられるでしょう? 私、ご相談してみたいものがありましたの」


 松葉杖をつきながら作業台に近づき、興味を持ったらしいボンドに身振り手振りで、義足に隠す武器を説明する。

 隠す場所の狭さから、無難なのは手のひらサイズのナイフとか、アイスピックのようなものになるだろうと言われた。うむ、想定内。


「でも、それでは、かなり接近しないといけないですよね。そこで提案なのですが――」


 三段ロッドー!


 警察や警備の装備品だったりするアレですよ。シャキンって伸びるアレ。

 作業台に置かれた紙に、図を書いて説明していく。


「へぇ、なるほど、円錐を内側に入れることで伸ばせるようになるのか、面白い伸縮の構造だ。ある程度強度もほしいとなると、ふむふむ、スイッチで飛び出すように? スプリングを中に入れてか、そうさな、できんこともないか、入れ子の具合がキモかもしれんな、ガタつきがあれば破壊力が落ちるだろうし。ああ、なるほど、物体に強化魔法をかけるのか。そうなると、義足への強化魔法と、武器への強化魔法の二手にわかれっちまうなぁ、いやできなくはねぇだろうな、現に騎士なんかはそれができてなんぼだからなぁ。でも、嬢ちゃんにゃぁ……え、やるって? そうか、まぁ、作ってみるわ」


 はいっ、作ってみるわ、いただきましたー!


「ありがとうございますっ」


 語尾にハートマークつけてキュルンって愛想を振りまく。

 レイミの容姿に似合わないかもしれないが、ほら、それは気持ちの問題だから。


「……お二方共、そもそもご令嬢になぜ武器が必要なのでしょうか」


 咳払いしたバウディが、低い声でそう告げた。

 私とボンドは視線を交わし、説得を開始する。


「いえ、違うのよこれは、令嬢として必要な武器ではなくて、義足の可能性の問題なの」

「そうじゃ、義足が持つ可能性を広げ、その能力を遺憾なく発揮させるっちゅーのは、技師としての一つの使命でもあるんじゃ。物の可能性を広げるのは、重要じゃろう?」


「ボンド様は魔道具職人ですが、これは魔道具ではありませんよね」


 バウディの冷たい視線が私たちに刺さる。

 でも、そうか、ボンドは魔道具職人なんだものね! それなら、もっといい物が作れるんじゃない?


「そうだわ! ボンドさん、この三段ロッドに、電撃を発生させることはできないかしら!」


「お嬢……」


 鋭い視線が私にのみ刺さってくる。一極集中、痛い、痛い。


「違うのよ、殺傷能力を持たせるわけじゃなくて、電撃で相手を気絶させるの。これなら殴る必要がないから、強化魔法もいらないでしょ? 気絶させるほど殴るより、よっぽど安全じゃないかしら? ね、ボンドさんっ」


「そ、そ、そうじゃの! そうなると、この握り手は電気を通さない素材で作らにゃならんな。あと、魔力石を入れる場所も必要じゃ、小さな魔力石で、使い切りにするか、ある程度大きな魔力石で繰り返し使えるようにするか、どっちがええじゃろうの」


「使い切りだと、もし相手がひとりじゃなかったときとか、一回で倒せなかった時、危険ですわね」


「そうなると、大きめの魔力石か。ふむふむ、電撃の規模も考えねばならんな。じゃが、相手の図体によって、かなり変わるか……となると、魔力を直接流すようにして、その量で規模を変えればいいか。じゃが、そうすると、握り手側にも電撃が通ってしまうか」


「電流の流れを一方方向にするものを、途中にかませることはできないかしら」



「電流を一方方向に?」


 わくわくする顔のボンドに、仕組みを説明する。

 ちなみにこれは、過去に付き合ってた工業系男子から教わったものだ。あいつは、本当に、知識を教えるのが大好きっ子だったからなぁ。

 他にも色々教えられた、使い道なんかない知識だと思ってたけど、人生なにが起こるかわからないものねー。


「おもしれぇじゃねぇか! さっきの入れ子の武器もそうだが、嬢ちゃんの想像力は素晴らしいのぉ。若い柔軟な脳みその可能性ってやつか!」


 いえ、異世界知識です、すみません。

 曖昧に微笑んでいる私の頬に、バウディの視線が刺さってくる。いいじゃないの、技術の発展に寄与したって。


「よしよし、これについては、わしが研究してみよう。すぐにはできんかもしれんがな」


「私もまだ物体への強化魔法を習得していないので、ゆっくりで大丈夫ですわ」


 とはいいつつも、ボンドの研究が完成するまえに物体への強化魔法を習得しなきゃね!


 どっちが早くできるか――ふっ、ボンドも同じことを考えてるみたいね。合わさった視線に、お互いニヤリと笑う。


「ああそうだ、忘れとったが、新技術のアレの使用料振り込まれてるはずじゃて、確認しといてくれな」


「え? 使用料? 振り込み?」


 きょとんとしてしまった私に、ボンドが片目を瞑って親指を立てた。

 え、そんなに儲かったの? いやいやまさかね。


「その義足の分の代金は、そっからもう貰ったからの。なに、新しい義足の分も、余裕でまかなえるじゃろうて」


 そんなに?

 驚いたけれど、たまたま運がよかっただけみたい。大手の工房が悩んでいたところに、今回の技術がマッチしたみたいで、そこで結構な収入につながったらしい。

 義足の代金が家計の負担にならなくて、本当によかったわ。

 火の車ってわけじゃないだろうけど、我が家はそこまで裕福じゃないしねぇ。


「今回の、入れ子構造と飛び出す仕掛けも確認しておくぞ。もしかしたら、既に登録されてるかもしれん」


 もし、新技術の認定を受けれたらラッキーくらいかしら。


「まぁ、この電流を一方方向にするのは、間違いなく新技術だろうがな」


 ボンドがにやりと笑い、私も悪い笑みを口の端に浮かべる。

 先立つものはいくらあってもいい。


 なにせ、今後なにがあるかわからないのだから。



 ひと月後に控えている魔法学校の入学への不安を、胸の奥に押し込めた。

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