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21:アーリエラ様、まだ諦めていませんね

 我が国に二つしかない公爵家の令嬢であり、転生者だと自称され、さらにはゲームの中の悪役の『ボス』であるところのアーリエラ様から、二度目のお茶のお誘いをいただいた。


 しがない伯爵家の令嬢であり、『中ボス』であるところの私に拒否する権利などないわけだ。



 それにしても、接点を増やしていいものか。


 いや、向こうは『公爵令嬢』だ、親しくしておいて損はないだろう。レイミ情報では、この世界で貴族の上下関係はかなり重要らしいですし。


 先日、格上である侯爵家のご子息に嫌がらせをしたけれど、あれはジャブのようなものだし、奴には弱みがあるので大事にはならないだろうと踏んでの狼藉だ。


 あの狼狽えた様で溜飲が下がったけれど、婚約を取り消させるためにも、これからも積極的にヤツに嫌がらせを――げふんげふん、自分の意見をはっきりと伝えていこうと思う所存であります。






「お嬢、本当にソレでいくのか」


 品のいいお淑やかなドレスをまとい、ボラにうっすらと化粧もしてもらって気分アゲアゲの私に、バウディが確認してくる。


「ええ、コレでいくわ。あなただって、もう大丈夫だと太鼓判を押してくれたじゃない」


 一昨日、免許皆伝|(?)で松葉杖を一人で使うことを許されたのだ! 体力もついてきたし、松葉杖使いもかなり上達したので、当然だけれども! すっごく頑張ったからねっ。


 ちなみに、強化魔法のほうは、まだまだ魔力の体内循環でOKが出ておらず、地道な基礎訓練が続いている。あのおっとりしている母の基準にすら達することができない自分がふがいない……今日も帰宅したら、自主練習しなくては。



 松葉杖をついて歩く私に、バウディが渋い顔をする。


「そりゃ、確かにもう補助なしで松葉杖を使ってもいいとは言ったが。それは家の中でのことでな」


「だから、付き添いはしてって言ってるでしょ。さすがに、外で一人歩きはしないわよ。でも車椅子はいやなの」


 ビシッと言い切ると、彼は弱り切った顔で頭を掻き、諦めたように了解した。


 バウディはなんだかんだいって、レイミのお願いには弱いのよね。だからレイミに対してだけ口調を崩しているし、怖い顔や悪い顔は見せないようにしている。


 愛されてるんじゃないかと思うのよね、レイミって。


 そわそわする胸の奥を持て余しながら、帽子の角度を直した。








「まぁ、松葉杖になさったのね……」


 私を見た途端、アーリエラ様のテンションがあからさまに下がった。



「はい、車椅子では動きにくいですから」


「そうね、車椅子だと、落ちるときに身動きが取れませんものね」


 整えられた指先を合わせ、納得するようにうんうんと頷く。それ、あざとかわいいですね、アーリエラ様。

 でもちょっと待って、落ちるときってあれですか、ヒロインちゃんとホールの大階段でもみ合って落ちるときの話ですよね? 落ちる前提で話をしてますね?


 ここは公爵邸の入り口で、周囲にメイドもいるしバウディもいるので迂闊な突っ込みはできないっていうのに、なんて不穏なことをっ!



 彼女の先導で、先日と同じように庭のガゼボに誘われた。


 ゆっくり歩いてくれる彼女に、自分の足で続く。こちらに合わせてくれる気遣いは、さすが公爵家のご令嬢って感じがする。




 小さなテーブルとおいしそうなプチケーキの乗ったケーキスタンド、そして品のいいメイドさんが入れてくれた香り高い紅茶。


 ある意味、これだけでもここに来た価値はあるわ。いっそ、面倒なお話なしで、ティータイムだけでいいんだけどなぁ。


 バウディもメイドさんたちも離れて二人だけになり、まずは四方山話をしつつお茶とお菓子をいただく。


 超おいしい、幸せぇぇっ。


 絶対有名パティシエ作だわ、並んでも買っちゃうやつ。さすが公爵家だわね、このレベルが毎日楽しめるなんて。


 などと、現実逃避をしていたら、すぐに現実に引き戻された。



「――ところで、読んでいただけました?」


 早いわね、もうちょっと甘いケーキを味わってから、苦い話題に入りたかったんだけれど。


 口の中のケーキをお茶で流しこんで微笑みを浮かべ、少し困り顔の彼女を見る。


「はい、拝見いたしました」


「それはよかったわ。ところで、魔法学校もそれで通われるの?」


 視線が私の横に立てかけてある松葉杖を示している。


「ええ、勿論ですわ。車椅子で階段から落ちる、というのは洒落になりませんもの」


 うふふふふー、と微笑みを返す。

 危険の可能性があるなら、潰すに決まってるでしょうよ。


「そうですの……そうしますと、ヒロインちゃんの能力が、覚醒しないかもしれませんわね」


 物憂げに吐息をこぼしているけど、オイ、ちょっとお待ちなさいな、あなたヒロインちゃんの能力とやらを覚醒させたがってますね?


 敢えて、聞きませんけどね、いやな予感しかしないんで。


「そうですね、彼女が覚醒しなければ、アーリエラ様の危険も減りますもの」


 すこしゆっくり目の口調で、はっきりと言葉にした。あくまでアーリエラ様のため、というところを強調するのがポイントだ。

 そうすると、彼女も気持ちを浮上させたのか、儚げな微笑みを浮かべる。よしこれで、ヒロインちゃんの能力を覚醒させるのは諦めてくれたわよね。


「そうね、彼女が覚醒しなければ、かなり危険も減りますものね。仕方ありませんわね」


 すっごく名残惜しそうなのが怖い。

 やめてよね、公爵家パワーを使うとか、ナシよ。吹けば飛ぶような木っ端貴族であるところの我が家なんだから。


「それに……わたくしと第二王子殿下との結婚に、障りがあってはいけないものね」


 頬をわずかに赤くして、恥ずかしそうに言った彼女の可憐さといったら!


 彼女に会うのも二度目なので、落ち着いて観察することができた今回、わかったことがある、それは彼女の美しさだ。

 豊かな金色の巻き毛、バッサバサと長いまつげの奥の黒目がちな瞳は潤んでいてセクシーなのに少し垂れてる目尻が愛らしさを演出し抜けるように白い肌に映える血色のいい唇は思わずキスしたくなるようなキュートさで、正統派美少女。


 対する私は私の心のようにまっすぐでさらさらの黒髪、目は大きめだけど濃い緑色の瞳なのでクール系かしら、全体的に大人っぽいのですこし背伸びした服装が似合う感じ。ほんわか系の母とは似てるとは思えないのよね、かといって穏やかな父とも……うーん、色味は二人を引き継いでいるから親子関係は疑うべくもないからいいけどね。

 目が覚めた当初はガリガリだったけれど、しっかり食事して松葉杖を使う練習をしていたらすっかり頬の肉も普通程度に戻り、血色もよくなって美少女度が上がってきたのよ! これからも、この外見を磨くと誓うわ。


 まぁ、なんていうか、系統の違う美少女二人ってことよね。自画自賛。


「そういえば、アーリエラ様のご婚約者様は第二王子殿下ですね。婚約自体はもうされているのですか?」


 彼女からもらった薄いノートには、婚約していることは書かれていたけれど、いつごろ婚約したのかは書かれていなかったのよね。


「ええ。幼い頃から親しくさせていただいていて、先日内々に打診がありましたの、近々公表することになりますわ」


 頬を染めてもじもじするのがとても可愛らしい。


「それはおめでとうございます」


 本当ならば、物語に沿うようなことは喜べないけれど、これだけ嬉しそうにしている彼女に水を差すことはできないわよね。


 祝福をした私に、彼女はとても愛らしい笑顔で微笑んだ。

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