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16:義足にギミックはロマンなのに

 学校の七不思議になってそうな話を聞かされて悶絶している私と、愉快そうに笑う意地悪なボンドのいるダイニングテーブルに、お茶を用意してきたバウディが戻ってきた。



「お待たせしました」


 バウディがボンドの前にジョッキのビールを置き、私の前にお茶を出してくれた。

 真っ昼間だけどビールありなんだね、ボンドの顔が輝いてる。


「おほっ! こいつはありがてぇ、遠慮無くいただくぞ」


「無理をお願い致しますので」


 なるほど、私の無茶振りのお詫びってことか!


 というか、これから打ち合わせするのに飲んで大丈夫? バウディがそこらへん、しっかりしてると思うのでツッコミは入れないけど。


 ゴッゴッゴッと喉を鳴らしてビールを飲むボンドを、呆然と見る。


「ぷはぁっ! いい酒じゃ。頭がすいすい動きそうじゃ」


 そう言うと、持ってきていた鞄から紙とペンを取りだした。


「足首は可動式にするっちゅーてたな、こんな感じか?」


 サラサラっと描いた足首のイラストは、足首の所に芯が入っていて縦にしか動かせない仕様に見える。


「ううん、そうじゃなくて、つなぎ目は丸くして足のパーツで包み込むようにしたら、多少斜め方向にも対応できるのではないかと思うの」


「丸くする。なるほど、それでこっちを被せて外れないようにするわけか。こいつぁ面白ぇじゃねぇか」


 プラモデルの可動部分のイメージを伝えると、すぐに理解してイラストにしてくれる。


「そうそう! 爪先の方は硬めのゴムみたいな素材だと、地面を捉えやすいと思うのだけれど、どうかしら?」


「素材を変えるんか……ふむ、それなら、いい素材があるぞ。魔力の込め具合で硬度が変わるゴムじゃ。成形がちと難しいが、わしの腕なら問題ねぇ」


「さすがボンドさんっ! 素敵っ」


 バウディが二杯目のビールを持ってくる間に、きゃっきゃと二人で話し合う。


「これで、ふくらはぎのところをパカッと開いて武器が取り出せたら、とっても格好いいと思うのよね、ロマンがあるでしょ?」


「確かにロマンじゃのぉ、でもなぁ、強度が足りん。素材を金属にすると、どうしても重くなるし、金属にしても、武器を入れる十分な空洞は取れそうにないのぉ」


 材料の名前を手慰みのように書き連ねている。知ってるものもあれば、レイミの記憶にない素材もあった。


「強度は落とせないものね……。私が羽のように軽かったらいいのだけれど――そうだ、体を軽くする魔法ってないのかしら?」


「そのようなものはありませんね。それならば、物質を強化する魔法のほうが現実的だとは思いますが」


 苦肉の策を口にすると、ビールのおかわりを持ってきたバウディがテーブルのメモを見ながら肩を竦める。受け取ったボンドは、今度は一気にビールを空けることはせずに、美味しそうに少しずつジョッキを傾けながら、ウンウンと頷いていた。


「物質の強化魔法? そんなのがあるの?」


「兵士が武器に掛けたり、鍛冶師がハンマーに掛けたりしとるよ。自分の手の延長ってぇ感覚で魔法を発動するもんらしい、ある意味身体強化が進化した感じだろう。わしゃぁできねぇから、聞いた話だがよ」


 身体強化の進化版ってことは、日常使いしてオーケーってことじゃない?


「じゃぁ、私、それを習得するわ!」


 両手で握りこぶしを作って宣言した私に、二人は残念そうに首を横に振る。


「身体強化と物質強化は、かなり難易度が違う。そう簡単には――」


 宥めるように言うバウディの言葉を遮るように、ダンッと机にこぶしを落とした。


「やらないで諦めるなんて、そんな馬鹿なことはないわ。折角の好機チャンスに、挑戦しないでどうするのよ」


 成功するまで努力を続ければ、努力は必ず実るのよ!


「かっかっか! そりゃぁそうだ、行動を起こさねぇと可能性はゼロだが、動けばゼロじゃなくなる。それがどんだけ凄いことか、よくわかってるじゃねぇか」


 私の言わんとすることを理解してくれたボンドが、親指を立ててウィンクしてくれた。


「その心意気、気に入った! まずは、こっちを元に、普通の義足を作ってやる。ただ、この足首の接合部だが、新しい技術になるから、まずは新技術の認可を申請しちまおう。考案者は嬢ちゃん、開発者はわしの共同名義になるが、いいか?」


「それって、申請しなきゃならないものなのよね?」


 特許のようなものと考えていいのか、他のなにかなのかよくわからない。


「ああそうだ、新しい技術ってぇのは、広く知られなきゃ技術は進歩しねぇ。秘匿するだの、占有するだのってぇのは、**の小せぇヤツのすることだ」


 腕組みをして、ふんっと鼻息荒く説明するボンド。一部レイミの知識では理解できない単語があったけれど、きっとスラングなんだろうなぁ。


「なるほど、技術を公開する機関に申請するってことなのね。いいのではないかしら? 色んなものに応用してもらえば、もっと世の中が便利になるのだし」


「さすが嬢ちゃんっ! 話が早ぇ! そうなんだよ、そういうことなんだよ。めんどくせぇ話は親父さんとやっとくからよ、他にも面白そうなもんがありゃぁ、どんどん出してくれ」


 面倒なことは父がやってくれるのね。あ、そっか、一応未成年だから、ちゃんと保護者を通しますってことかな? まぁ、義足ができるなら、特許関係はどうでもいい……いやまてよ、父、ちょっと心配だから、同席だけさせてもらおうかな。


「わかりました。なにか思いついたら、相談しますね」


 取りあえずここは、頷いておこう。何個か思いつくものはあるけれど、こっちの世界に既にあるかもわからないから、また次回でいいわよね。


 今後も義足を作るまでに打ち合わせがあるだろうし、先に説明用のイラストとかを描いておいてもいいわね。




 このあと用事があるというボンドを見送り、バウディに見守られながらえっちらおっちら松葉杖で部屋に戻り、ちょっと休むつもりで横になったらそのまますっかり寝入ってしまった。

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