13:魔法とはなんぞ?
昨日はあれからすぐに、バウディがレイミの使っていた教科書を持ってきてくれた。
今日は、それに目を通しているんだけど。
国の歴史、貴族社会の作法と心得、近隣諸国の歴史、魔力と魔法、魔道具についての教科書。
歴史系の本は鈍器サイズなのに、魔法関係の教科書は基本薄い。
魔法は、専門の学校があるからなのかもしれないわね。
魔法を使うために必要な『魔力』というのがあり、それは人間には必ず備わっているものらしい。だけど、魔力を体に溜めておける量、使った魔力がどのくらいで回復するかには個体差がある。
総じて王侯貴族は魔力の貯蔵量が多く、普通の人は少ない。
そして、魔法は一定以上の量がなければ発動しないし、魔法自体個人のセンスでその威力が変わってくるという。
だから基本は同じだけど、それから先の成長については本人が頑張るしかなく、魔法のセンスを磨くってところを魔法学校でやるらしい。
貴族には魔法を使って国を支えるという役目があり、有事の際には強制動員される。災害とか戦争とか、国史を読んだ限りでは最近は近隣諸国との関係が良好らしく、戦争の心配はないっぽいけど……。
「そういえば、バウディルートだと隣国への軍事介入が発生するのよね」
こっちの世界でも国家間の内政は不干渉だと思うのに、なんで軍が動いたんだろう……。よっぽどなことが起きただろうに、アーリエラ様がくれたあの薄いノートにはそこら辺の下りがバッサリなかったわね。
もう一度、彼女に会って疑問を解決すべきか、いや、彼女が覚えているような気はしないわね。どのみち、あの本の通りにことが進まなければ発生しないことだし、気にするほどのことじゃないかな。
貴族の役割としては、それ以外にもちゃんと国の運営とか、支配階級としての役目はもちろんあるようだけど、学校まで作って育成する意味はとても大きいってことはよくわかる。
だから魔法学校を卒業しないと、貴族として認められないっていうシビアさも、貴族っていう特権階級の義務であって好印象だわ。
「やっぱりちゃんと卒業しないといけないわね!」
レイミの立場を悪くするわけにはいかないし、我が家は一人っ子だからやっぱりちゃんと学校を出て、貴族として認められなきゃね。
それがなくても学校は楽しみなんだけれどねっ!
魔法って未知すぎて、無茶苦茶わくわくする。魔法の杖とかもあるのかしら?
「攻撃魔法、防御魔法、身体強化魔法、治癒魔法……色々あるのね。そうだわ、浮かせる魔法もあったりするのかしら? あの頭のいい女の子が一発で使えた、あの、なんとかれびおーさー、っていうやつ」
あの映画を思い出して、杖の代わりにペンを持って振ってみたけれど、そもそも呪文もあやふやなので魔法なんて使えるわけがなかった。
攻撃魔法や防御魔法っていうのは、中々連発はできないらしい。純粋に魔力をくうかららしくて、治癒魔法も魔力をくう上に、ガチ目のセンスが必要だから、使える人は多くないらしい。
だから貴族は平時には魔法を使わずに溜めておいて、有事の時だけ使用する義務があるということだ……え、ちょっとまって、そうしたら空を飛んで移動する計画、駄目じゃない?
ああ、でも、身体強化魔法は使えば使うだけ魔法の馴染みがよくなるし、集中力も上がるから、日常的に使うことは禁じられていないのね。
本を読み進めて、愕然とする。
――一定以上の修練度の魔法を許可無く使用した場合、罰金及び刑罰が科せられる。
簡単な魔法を使うのはいいけど、ある程度の威力のある魔法は駄目よってこと? まぁ、妥当かしらね、強い魔法を町中で使うような人間を罰せないのは問題だものね。
浮かぶ魔法はそこに該当しないわよね?
そもそも、浮かぶ魔法ってあるのよね?
ああもう、早く学校に通いたい! 魔法を覚えたいっ。
読み終えてしまった本を閉じて、次の本を手にする。
「あとは、魔道具ね」
一際薄い教科書を開いたが、バウディに教えてもらった以上の情報は書いてなかった。
「これも、魔法学校待ちかしら」
机に突っ伏して、教科書を閉じる。
「もう少し詳しく書いてくれてもいいじゃない、魔道具を作る工程とか必要な道具とか。魔法だって、ちょっとくらい使い方を載せててもいいと思うのよねー。折角だからちょっと使ってみようと思ったのになー」
「そういうのを危惧して、詳しく書いてねぇんだよ」
ポコンと頭を叩かれ、顔を上げる。
「入室の許可くらい、取ってくださーい」
腰に手を当てたバウディに唇を尖らせて見せると、もう一回叩かれた。それから、ニヤリと笑った彼が、親指で部屋の入り口を示した。
「お嬢の待ってたものが届いたぞ」