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10:父の趣味は人助け

今回は短めです。

 その日の夕食には、ちゃんとダイニングに顔を出すことができた。


 お茶会のあとに昼まで寝込んでも、レイミだから納得されてしまったんだけど。両親から、もう調子は大丈夫なのかと、くどいくらいに確認されてしまった。

 確かにお茶会で疲れてダウンしちゃったんだけどね、疲れて寝てただけだからちょっぴり罪悪感があって、一生懸命元気アピールをしてしまった。



「レイミが元気ならいいんだ。そういえばレイミ、ボンドに松葉杖を頼んだそうだね」


 やっと体調がいいことを納得されると、話題を変えた父に言われて首を傾げた。

 ボンド……接着剤的なアレのことではないわよね? ニュアンス的に名前っぽいし。


「松葉杖はバウディに頼みましたけれど、ボンドさんというのはどなたでしょう?」


「レイミも会ったことがありますよ。ほら、車椅子も作ってくださった、ドワーフの魔道具職人さん」


 母に言われて、記憶を引っ張り出す。


 ドワーフというのは、あれよね、小柄でガタイのイイ種族の人よね、ええとこの世界の大陸の北部にドワーフの王国があるのね。


 それに、聞き捨てならない『魔道具職人』という素敵ワード。

 その魔道具職人さんが車椅子を作ってくれたとき、納品に来てくれたり調整もしてくれていた筈なのに、ぼんやりとしか思い出せない。

 基本的に、ここ一年の記憶ははっきりしないからしょうがないか。



 それよりも、気になることがある。


「あの車椅子と松葉杖って、魔道具なんですか?」


 あの車椅子はどこをどう見ても電動には見えないし、松葉杖も魔道具にはならないわよね。


 私の質問に父が笑う。


「勿論、違うよ。だけど彼は腕のいい職人だから、魔道具じゃない物も作ってくれるのさ」


 魔道具職人は原型となる道具も自作するものなのね、今レイミの記憶の引き出しから出てきたわ。だから、松葉杖も作ってもらえるってことかな?


「本当は作らないのよ、だけど、お父様に助けられた恩があるからと、いつも快く引き受けてくださるの」


 母の補足でさらに思い出す。


 そういえば、父はちょくちょく人助けをするって。

 ボラも、どこかの貴族で働いていたけれど、そこでなにかあって、ウチに来ることになったって。

 子供であるレイミに詳しいことを話す人はいないから、なにがあったのかは知らないけれど、ボラはよく働いてくれるからボラの瑕疵ではないのだと思う。


 そして、料理人も同じように訳ありでウチに来ていたはずだわ……となると、記憶がはっきりしないけど、バウディもきっとそうね。


「ふふっ、旦那様は優しくていらっしゃるから、人徳があるのですわね」


 ニコニコして言う母に、父は照れて頭を掻いている。



 ああっ、大事なことを思い出した……そうだわ、確かに父は優しいし、躊躇わず人を助ける気概のある人だけれども! だけど! そのせいで、騙されることも数知れず!

 レイミには隠しているのだと思うけれど、それでも我が家の財政が苦しいことはレイミですら知っていた。

 多分、赤字にはなっていないと思うけれども、決して裕福ではない。王宮に勤める官吏だし、宮中伯であるからそれなりのお手当はもらってるんじゃないかと思うけれども、はっきり聞いたわけではないし、なにより、聞きにくい。

 いや、でも三人も人を雇っているのだから、それなりなのかしら? 昨日の公爵家を見てしまったら格が違いすぎて、普通というのがよくわからないけど。


 でも、家ではこんなにおっとりしたお父さんだけど、きっと仕事のときはバリバリ働いているのよね。王宮勤めなんて、エリートなんだろうし。



 人は見かけによらないわね――なんて、思っていたのは一瞬だけだった。



 食後のお茶を終えた父は、片づけられたダイニングテーブルに書類を広げだしたのだ。


「お父様……? これって、お仕事の書類ですか?」


 見てはいけないのかも知れないけど、見てしまう。


「ああそうだよ、書斎の机はちょっと手狭だからね。それに、こうやってみんながいるところのほうが、仕事が捗るんだ」


 娘が気にしたことが嬉しいのか、ほくほくした顔で教えてくれる。


 い……いやいやいや! そうじゃなくて!


 母はソファに移動して、編み物をはじめる準備をしていて、父がここで仕事をすることをなんとも思っていないようだ。


 レイミはいままで、すぐに部屋に引っ込んでいたので、父がここで仕事をしているのを――ああ、知っていたわね。でもそれが日常だったのね。



 国の運営に関する書類を、自宅に持ってくるってどうなの?

 機密的に不味くはないのかしら……。


 指摘するのも今更だろうと、ダイニングテーブルでゆっくりとお茶を飲みながら、父の仕事っぷりを眺めることにした。

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