09:魔道具とは電化製品ということでよろしいか
ドアがノックされ、入室の許可を求めるバウディの声がかかる。
「お嬢、入っていいか」
「ちょっと待って!」
枕の下にノートを突っ込んで背中をもたれさせ、手早く上掛けを戻し、いつも枕元に置いてあるショールを羽織った。
この間、四秒! どうよ、この早業。
「入っていいわよ」
よし、セーフ! 怪しまれてはいないわね。
枕の下が気になるけど、見ちゃダメ。気にしちゃ駄目。
「飯食えそうか? 持ってきたぞ。……って、どうした? 髪がボサボサだぞ」
食事を乗せたトレーを机に置いた彼に指摘されて、そういえば寝起きのままだったことを思い出す。
照れながら手櫛で整えようとしたら、バウディがポケットから櫛を取り出す。
枕がずれたらまずいので、梳かしてくれようとするのを固辞して、あとで自分で梳かすことを約束する。
「あ、そうだ! ねぇ、バウディなら魔道具ってどんなものかわかるかしら?」
「は? 魔道具? どうしたんだ、お嬢」
そうね、どうしたんだって思うわよね? だけど引かないわよ。
「ねぇ、あれってどういう仕組みで動いてるの? 魔法学校でも勉強するのでしょ?」
「ああ、なるほど。昨日、公爵令嬢と学校の話でもしたのか」
そう勝手に納得してくれた彼は、私の机にある手のひらサイズのガラスのオブジェを持ってきた。そして、その土台の一部に触れると、灯りが点いた。
うん、タッチセンサー式のライトよね? あ、そうか、あまりにも日本と同じ使い勝手で気にしてなかったけど、これも魔道具なのか。
「これが一番わかりやすい魔道具だな。原理としては、底にある蓋を開けると、ここに魔力石が入ってる。ここの内側に魔道回路が仕込まれていて、それによってこの魔力石の魔力を使って灯りが点くようになるわけだ」
ライトをひっくり返して蓋を回して開けると、そこに四角い石が嵌まっていた、これが魔力石らしい。
あ、思い出した!
これって、魔獣を倒したら取れる魔力の塊だわ。確か、魔獣の体内で魔力が結晶化したものだったはず……あれね、胆石みたいなものよね。ちょっと違うかもだけど。
小さい魔獣からは小さい魔力石、大きい魔獣からは大きな魔力石が取れることを思い出した。
……記憶ってそうよねぇ、切っ掛けがあれば出てくるけど、思い出せないときはとことん出てこないわよねぇ……って、ぽんこつレイミめっ!
「そうなのね。魔道回路っていうのは、見れないのかしら?」
「へたに触るのも危ないし、魔道具職人も回路を見られたくないってのがあるから、特殊な手順が必要になるな」
なるほど、企業秘密ってわけね。
解体してみたいのはやまやまだけど、コレが高かったら辛いのでやめておこう。
「そうなのね、じゃぁ、魔法学校で習うのを楽しみにしておくわ」
そう言ったら、彼にまじまじと見られた。
変なこと言ったかな? 勉強が楽しみだって言っただけよね?
視線の意味を図りかねて首を傾げれば、彼はハッとしたように手にしていたライトの底の蓋を閉じて机に戻し、代わりに食事をベッドまで持ってこようとした。
「あ、そっちに行くから、そこに置いておいていいわよ」
ベッドで物を食べるのが嫌なのよね。
だから、起き上がって、机に手をついてぴょんと片足で立ち、彼が素早く引いてくれた椅子に座った。うん、かなりスムーズになってきたわね。
「見間違えじゃなかったのか……」
思わずといったように、彼の口からこぼれた。ああ、そういえば立ってるところを見せたのは、はじめてだったわね。
いっつも、部屋でこっそり自主練してたから。
見られてるとすれば、はじめて立ったあの日かな?
泣いてたところまでは見られてないわよね? あれは、レイミの感傷だったから、私にはノーカウントだけど、泣き顔を見られていたとしたら恥ずかしいもんね。
「このくらいは、できるのよ。あ、そうだ! 松葉杖、松葉杖なんてないのかしら? それがあったら、きっともっと楽に移動できるわ」
「松葉杖……」
なぜだかショックを受けた表情の彼に構わずに続ける。
「それがあれば、もっと行動範囲が広くなるでしょ? この一年で体力もかなり落ちて、すぐ疲れるようになってしまったから、これからはちゃんと動いて、魔法学校に入学するまでには、一人前の……いえ、半人前くらいまで体力をつけたいの」
キリッと表情を引き締めて決意表明した私に、彼はすこし泣きそうな顔をして……歪めた顔はすぐにニヤリとしたいつもの笑みに変わったから、見間違えかも知れないけど……大きな手で私の頭を撫でた。
最近は全然撫でてくれなくなっていたのに、久し振りで、勝手に胸がときめく。
「いい心がけじゃねぇか。すぐに松葉杖を手配してやるよ」
そう言って、丁度いい位置にあったのだろう私のつむじにキスをして、部屋を出ていった。
……バウディ! そういうところよ! あああっ、もうっ、レイミの心臓が爆発しちゃうじゃないっ!
ドキドキする胸を深呼吸で整えてから、彼が持ってきてくれた昼食に手を付けた。





