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学校に内緒でダンジョンマスターになりました。

学校に内緒でダンジョンマスターになりました。Ⅲ

作者: 琳太

【学校に内緒でダンジョンマスターになりました】短編版の【Ⅲ】です。短編はこれで終了となります。

【Ⅰ】https://ncode.syosetu.com/n1147fs/   

【Ⅱ】https://ncode.syosetu.com/n4588gi/ 

 を先にお読みいただいた方が良いと思われます。

カクヨムに【連載版】投稿してます。

たくさんの誤字指摘ありがとうございますm(_ _)m

 一学期が始まって直ぐに実習は始まらない。

 俺は最初の土日を利用して学校から少し離れたダンジョンに行くことにした。近場のダンジョンには上級生と鉢合わせする可能性があるからだ。

 目測甘く電車とバスを乗り継いで片道三時間もかかったよ。


 探索者はダンジョン以外の武器の所持に関して規制がある。

 JDDS指定の鍵付きのトランクケースを使うか、JDDSで借りるかだ。

 前述のケースは鍵が二個ついており、片方は持ち主、片方はJDDSの鍵で開ける。JDDSの鍵はナンバーが振ってあり、各ダンジョン事務所で数千種類ある鍵が保管されている。

 ダンジョン事務所で鍵を開けてもらわないと武器が取り出せないシステムだ。


 ちなみに俺はレンタルする。武器は爺ちゃんの刺身包丁と鉈を持ってるけど、十八歳になって免許取立ての探索者はほぼレンタルするから。

 親が金持ちで武器を購入してくれるって奴もいるけど、そこそこ使える武器は安くても百万を超えるからな。

 その点、レンタルなら一日数千円で借りられ、後払いも可能なのだ。最低の千円じゃ斬れない鉄の剣だけどな。


 俺は実は中身は風船でパンパンに膨れたリュックを背負って、事務所で剣をかり、一泊二日の探索を申請する。

 探索者なりたてが一人で二日も探索するのは、無謀ととられ一度は止められる。だがそれまでだ。

 JDDS側は引き止めたという実績がいるのだ。

 探索者はあくまでも自己責任。もし死んだとしてもそれは探索者本人の責任で、JDDS側に責任がないとするため「引き止めた」という証拠を残す。


 このダンジョンは交通の便が良くないし、ドロップ率が悪いと不人気のダンジョンだ。

 それでもボチボチ探索者はいる。


 俺は一階層をレンタルのショートソードを構えてどんどん進む。


 飛んできたホーンスパロウを叩き落とす。


 ここが不人気なもう一つの理由。

 飛行型モンスターが多いことだ。一応うちと同じモンスターが数種類出るので選んだのだが、それ以外は飛行型が目立つ。

 このダンジョンはモフィ=リータイ(うち)と同じ洞窟型で真っ暗なタイプ。

 この前《暗視》を手に入れた俺には全く問題ないが。

 ここを探索するには灯りがいるし、飛行型は不意を疲れるし逃げられやすい上、攻撃が当たり難かったりする。

 洞窟内の天井の高さはは平均3メートル、高いところは5メートルくらいある。

 遠距離攻撃の方法を持たないものには厳しい。

 遠距離攻撃と言っても弓ではない。命中補正がある魔法攻撃だ。

 魔法は放った後にもごく僅かだが操作できる。本当に僅かだがその数センチ(距離にもよるが)が明暗を分けるのだ。

 矢をあてようと思ったらスキルが必要になる。戦闘(コンバット)スキルの《弓術》とか職業スキルの《弓士》だな。弓関係以外では身体強化系の《命中率上昇》とか《必中》あたり。


 したがって攻撃方法は襲ってきた相手がこちらの武器レンジに入ってきた瞬間を狙う、若干の危険が伴う戦闘である。


 裏山ダンジョンと同じように、まずは先に進むことを目標にした。余裕があればマップを埋めようと思う。

 なんせ今の俺には《階層転移》があるので、戻るのが楽になったのだ。


 ようやく五階層に到着したのは昼もかなり過ぎた頃。階段前で遅めの昼食をとって暫し休憩する。

 今この階段前に他の探索者はいない。いたら休憩後回しで中ボス部屋に突入した。せっかく中ボスがいるのに他の探索者に取られたらもったいない。

 ここの中ボスのリポップは2日以上かかるのだ。


 休憩を終え、用足しも済ませた。男の俺は壁の隅っこに向いて携帯トイレ使えるけど、女の探索者って大変だよな。パーティーならトイレ用の簡易テント持ち込んだりするらしいが、そんなの設置してたら〝今出してます〟って言ってるようなものだ。

 スライムのいるダンジョンなら排泄物を溶かしてもらったりするのだが、スライムのいるダンジョンって5割未満なんだよな。


 昔のフィクションでは〝ゴブリンとスライムは最弱モンスター〟扱いされていたせいで、ダンジョン黎明期にはこの二種類のモンスターに結構やられたそうだ。


 スライムは気配が探りにくく、アメーバーのようにデローンとのびてて、誤って踏んで転倒。立ち上がるまでにもたもたしているとそのまま溶かされかかる。慌てて剥がそうと掴むと今度はその手が溶かされる。

 スライムは火が苦手なので、ライターなどの火を近づけるだけで剥がれるので、落ち着いて対処すればちょっとの火傷ですむはずなのだ。


 そしてゴブリンだが、人型で武器を持ちこともあるモンスターが弱いはずはない。

 小学生くらいの男子でも包丁持って襲われたら、怪我どころじゃ済まないよな。ゴブリンは本気で殺しにかかってくるから。

 今のゴブリンの脅威度は三に設定されているのだ。


 学校のダンジョンは二年生では五階層までしか探索許可がでていない。

 三年生で中ボスを倒すことが一つの進級条件になっている。通常はパーティー戦闘だが、過去にソロ討伐した先輩がいる。

 俺が例に出した先輩だ。彼は今もソロで探索を続けているのだが。

 ……まさか、まさかな。あの先輩もどこかのダンジョンをソロ踏破してダンジョンマスターになっているとかじゃないよな。


 うちの裏山ダンジョンみたいに、都合よく新規のダンジョンが現れ、協会にバレる前に踏破するなんて確率から考えてあり得ないと思う。

 うん、ないな。きっと学校以外で有益なスキルスクロールを手に入れたかもしれない。


 サポート科の技術学部の生徒は、すでに職業や技術スキルのスクロールを手に入れていたり、手に入れられる伝手があったりするものが多い。

 同学年に親が有名な刀鍛冶(ソードスミス)ってのがいて、すでにエピックスクロールの鍛治を持っており、三年になったら習得する予定のやつがいるという話を聞いたことがある。


 実際治療師や回復術以外ならそこまで価格は高くはない。まあ数百万はするけど。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 他にも探索者がいるので、モフィ=リータイ(うちの)ダンジョンを探索した時のように階段めがけて突っ走ることはできず、四階層へ降りる階段を見つけるまで、四時間以上かかった。昼食をとって四階層を探索し終え、中ボス部屋に到達したのは十六時を過ぎていた。


 しかも中ボスは誰かに倒されており、リポップしていなかった。残念だ。

 そのまま六階層を少し探索したが、下り階段を見つけられず、五階層の中ボス部屋へ戻る。

 ドロップ品は魔石の他は皮が二枚と爪が四個、風切羽が数枚。スクロールはなくローヒールポーションを一本宝箱から発見しただけだ。

 風切羽って錬金術の素材になるらしいから、一枚でも数百円から千円くらいで引き取ってもらえるらしい。

 でもたいした金額にはなりそうもないので、二階層のラビットと四階層のビッグフットがうちと同じだったので売却用ドロップ品を水増ししよう。


 中ボス部屋の転移オーブを使ったフリをして、俺はマスタースキルの《階層転移》で自分のダンジョンコアルーム────今はコアに権限がないのでダンジョンマスタールームになるのか? に転移した。そこでリュックの中身を入れ替える。

 そして何食わぬ顔で入り口に戻ると、戦利品を売却した。ドロップ品売却が六万円ほどになったので、一日の稼ぎとしては良い方だと思う。


 武器のレンタル費用と足代と、今日のホテル代を引いたら爺ちゃんの包丁代には全然足らない。

 明日はモフィ=リータイ(うち)のドロップ品をもう少し増やして売ろうかな。確か七階層にも同じモンスターが出たはずだ。




 ダンジョン近くの格安ユースホステルで、途中のコンビニで購入した夕食を取り、さっさと寝ることにした。

 翌日は早朝から行くことにし、まだ暗いうちにコンビニで朝食用のサンドイッチとコーヒー、昼食用におにぎりとお茶を購入してダンジョンへ行く。

 流石に朝早いから人が少ない。ていうか不人気ダンジョンだけあって協会の職員しかいなかった。


 休憩所で朝食を食べ、トイレを済ませてから中に入るよう手続きをする。今日も武器をレンタルだ。


 昨日一度通っているし、まだ他の探索者がいないので階段までは、最短コースで走った。おかげで五階層までは二時間ちょっとで五階層へ到達した。

 転送を使わなかったのは、多少でもドロップを稼ごうと思ったからだが、あまりエンカウントしなかった。

「あ、扉が閉まってる」


 一晩たって中ボスが復活していた。ここの中ボスのリポップまでの時間は調べてなかったが、夜の間に時間が満ちたようだ。

 レンタルのショートソードは中ボス戦に役に立ちそうにないので、刺身包丁と鉈を装備する。


 俺は扉に手を当てそっと押す。するとゆっくりと扉は開いていった。

 ボス部屋は真っ暗だったが今の俺は《暗視》スキルがある。ドーム状の空間の中央に鎮座するモンスター。


 中ボスがゆっくりと立ち上がると、ドーム状の壁面位ぽつ、ぽつ、ぽつと、等間隔に設置された松明が灯っていく。

 電気や日光に劣るその明かりは揺らぐことで、却って視界が悪くなる。

 文明の力に囲まれて育った身に原始的な明かりはありがた迷惑である。


「ブモオオォォォ……」


 牛型のモンスターは鼻息荒く、前脚で地面をかいた。

 普通の牛の1.5倍はある牛が、頭をというか、角を俺に向け突進してきた。

 こんなの食らったら一発アウトである。

 闘牛よろしく突進してくる牛型モンスターを、直前でよけざまに切りつける。

 一瞬でも気を抜けばこっちが吹っ飛ばされる。そんな緊張の中何度目かの突進を避けようとした時、牛型モンスターが今までと違う行動をとった。

 頭を捻って横に裂けた俺を追うように角が迫る。攻撃を繰り出しかけた手を引き、胸の前でクロスする。


 ギャキャィーーンと、神経を逆撫するような音を立て、鉈と角がつばぜり合う。鉈にクロスさせた刺身包丁までがキシキシと軋みをあげる。

 身体は角の衝撃を逃すため、そのまま後方に飛んだが力比べに俺の方が負けた。

 バキンと鉈が真ん中から砕けた。刺身包丁でなく鉈が砕けるとは、どんだけ硬い角だよ。なただけで済んでよかった。


 壁際まで吹っ飛んだが、おかげで牛型モンスターとは距離が取れた。


「ブゥボオオォォォ……」


 先ほどとは異なる雄叫びに身構え、相手の挙動をみる。

 あ、俺の負けじゃなくって引き分けか。牛型モンスターの方角が奴の足元に落ち、黒い粒子に変わっていく。


「おあいこってことで、じゃあ続きはこっちからいかせてもらおうか」


 突進を待つのではなく、こちらから突っ込み直前でフェイントを混ぜて切りつける。

 相手の突進の威力を削げば、攻撃力をそぐことができるし、角の折れた右側を狙うことで奴の攻撃手段を減らせると踏んだ。


 結果は俺の勝利だ。戦闘中は時間の感覚が狂う。アドレナリンのせいか短く感じたが、実際は三十分以上かかっていた。


「モォォ……」


 最後の足掻きのような一鳴きを残し、牛型モンスターは黒い粒子に変わっていった。

 そして代わりに現れるドロップ。


 手に入れた《アイテム鑑定Ⅱ》のスキルを使う。


 =エピックウエポン・ブルホーンソード=

 プッシュブルの角の剣/刺突効果大


 あの牛型モンスター、プッシュブルだったか。剣というより鍔部分も角の形をしており、若干十手みたいな感じではある。鉈がお釈迦になったので武器はありがたかった。しかも特殊効果付きだ。


 =エピックアーマー・ブルマント=

 プッシュブルの革のマント/回避力上昇大


 表面はプッシュブルの皮のままの茶色なんだが、裏面が目の覚めるような赤だった。形は闘牛士の纏うソレだ。

 丈が腰あたりまでしかなく、マントというかケープみたいだ。人前で着るのはちょっと恥ずかしいかも。

 しかしこちらも特殊効果付き。装備しない手はない。

 いったん休憩を取ろうと思い、マスタールームへ転移する。

 流石に中ボス戦で疲れた。魔石と素材以外のドロップはほとんど無く稼ぎとしてはイマイチだが、できたてダンジョンじゃなければこんなものだろう。




 少し早いがマスタールームで昼食をとり、今日の収穫物を確認する。ラビットとビックフットの魔石を追加しておいた。あとは七階層で出るはずのハウンドウルフのドロップ品を混ぜるかどうかだな。


 反対に今日得たビッグフットより上のランクの魔石を《倉庫M》に放り込みリソースへ変換する。

 当然ランクの高い魔石の方がリソースが多い。その分金もいいが今はリソース回収も大事だ。

 そして協会には俺が低層でラビットばかり相手にしていたと思わせることができる。


 このマスタールームをもっと居心地良く改装したいが、リソースを食うので暫しお預けだ。


「マスター、リソースの不足は解消しましたが、まだ余剰は微々たるものです」


 ダンジョンコアが「もっと餌くれ」とねだってきた。


「今日中にダンジョンボスを倒したいけど、無理だろうな。できるだけ下層に潜ってランク上のモンスターの魔石を取ってくるよ」


 そう告げて俺は刺身包丁の他に新たに手に入れたホーンソードとブルマントを装着する。

 六階層以降のモンスターにレンタルのショートソードは役に立たない。


 鉈はリソースに変換された。多くのダンジョンモンスターを倒した鉈は、それ自体にリソースを吸収するのだ。

 よって壊れたといえかなりの数のモンスターを屠ってきた鉈は中ボスの魔石くらいのリソースを保有していたのだった。

 この刺身包丁もかなりリソース溜まってそう。心なしか最初より切れ味いいし、欠けたところもどこだかわからないようになっている。

 確かに爺ちゃんに教えてもらったように研ぎ直したりしたが、素人の俺の研ぎで、切れ味上がったり欠けた部分がわからないくらいになるとは思えない。


 これリソースに変換したら爺ちゃん泣くよな。


 午後は六階層からスタートして十六時過ぎにようやく八階層へ到達することができた。


 ハウンドウルフの素材を売りたいから七階走まで行ったことにしようと思ったが、レンタルのショートソードじゃ六階層以降の戦闘はちょっと厳しいんだった。

 今回は諦めて六、七階層で得たドロップ品はリソースへと変換した。アイテムは皮と牙と爪と角がそれぞれ二〜三本だが、素材の在庫はあるので今回はいいだろう。

 買取所では五階層までのもしか売らないことにした。一旦マスタールームへと転移し、ラビットとビックフットのドロップ品を増やして荷物を整理した。

 装備も外さないと、中ボスは誰かが倒した後でしたというふりをするつもり。


 低階層のドロップ品といえリュックはパンパン、しかも脇に毛皮をまとめたものを抱えて現れたから、ちょっと驚かれた。

 まあ、初心者でソロの俺が五人パーティー並みの戦利品を抱えて帰ってきたのだから。

 ちょっと多すぎたかな。でもおかげで十万弱の売却金を手に入れることができた。


 爺ちゃんの刺身包丁分くらい……には届かない。爺ちゃん一体どんなけ高級な刺身包丁買ったんだよ。

 うちまわり山で海まで遠いし、爺ちゃんの趣味釣りとかじゃないよな。ガキの時渓流釣りに連れていってもらった頃があったが、魚捌いてたのってそれくらいしか見たことないんだが。


 高級刺身包丁だったからここまで戦ってこれたとは思う。うんもう少し稼ごう。

 そして寮に戻るべく帰途につく。


 あー、明日からの学校鬱陶しいな。でも高卒資格をもらうため一年我慢しよう。




 翌日からの授業は極力クラスメートたちとは関わらないように過ごした。

 二年生で別クラスだった奴らは特に接触して来ようとはしなかったので、ちょっと過ごしやすい。

 なんせ俺と同じクラスにいるってことは最下位クラスであるということだ。前橋たちのように他人に構っている暇などないのである。


 三年生で結果を残せるかどうかが、今後の自分の探索者人生に影響するのだ。

 皆必死に放課後も鍛錬に励む。


 迷高専にもクラブのようなものがある。といっても一般の高校とのクラブとは違う。スポーツをすることもあるが(サッカーやバスケのように場を観察し判断する能力、咄嗟の動きなどを鍛えることができるスポーツや、この二つや武術系のクラブはあるのだ)それも戦闘の補助となるものに限られる。


 俺も二年生まではたまにサッカーをしていた、が今はやめている。


 誰もいなくなった教室からトイレへ移動する。あたりに誰もいないことを確認して個室へ入った。


 迷高専の校舎はダンジョン内にあるので当然《階層転移》が有効なのだ。

 マスタールームへ転移し、探索の準備、装備を装着して俺は昨日の探索の続きをするため、ダンジョンの八階層へ転移した。


 俺がこのダンジョンに転移でやってきたため、協会の記録には残らない。そしてこのダンジョンが踏破されたとしても、その時間記録上俺は迷高専校舎にいることになっている。


 あんまりトイレに篭ってると思われても困るので、毎日一時間くらいしか探索できないので、どれくらい進めるかはわからない。

 できれば今日八階層制覇したいな。





 結局木曜日までかかって九階層まで踏破した。残りは十階層のボスのみ!……と思っていた時が俺にもありました。

 金曜日に勇んで挑戦したところ、続きがありました。

 前情報で十階層だろうということだったんだが、まだ下があったようです。全部で十五階層かな。


 言われてみれば、入り口(ゲート)出現間際でしか十階層ダンジョンの報告はなかったんだよ。

 いくら不人気とはいえ、毎日探索者は入っているここのダンジョンが、出現してそこそこ経つのに十階層なままな訳なかった。


 ダンジョンコアの最終目的は踏破されずに成長を続けることなのだ。

 時間とリソースがあれば増やすよね。


 ちなみにここ十階層の中ボスはジャイアントフットというアンゴラウサギのようなモッフモフの象ほどの大きさのあるウサギ型モンスターでした。ビッグフットの上位種だ。

 さほど高くない天井……といっても十メートルはある中ボス部屋の中を跳び回り、蹴り技を放ってくるのだが。

 さすがエピックウエポン、ブッシュブルソードである。刺突効果(大)付きなもので面白いくらいに刺さりました。

 やっぱり武器性能って探索においてはスキル以上に重要だと思う。

 総合戦闘論の先生も言っていた。「何はおいても武器がなければ戦えない」と。

 魔法スキル持ちなら遠距離攻撃できるかもしれない。だが、接近されたときに重要なのは武器だ。武器は使い方で防具(盾)にもなる。できれば探索にはメインウエポンの他にサブウエポンを最低一つ、許されるなら数個所持するべきと言っていた。

 俺も鉈が粉砕されてしまったが、刺身包丁があったし、役立たず扱いのレンタルショートソードもあった。


 今後もいろいろ武器を増やした方がいいかもしれない。俺には《倉庫M》という無限収納可能なスキルもある。

 油断するとリソースに変換されてしまうが。


 中ボスのジャイアントフットの魔石、指示出してなかったのに、というか出してなかったからだがリソースに変換された。ジャイアントフットのドロップは素材と魔石だった。

 素材の方はモッフモフの毛皮だ。元が象サイズなので一体倒したら大人のロングコートが作れるほどのサイズの毛皮がドロップする。

 これで作ったコートはセレブなお方たちに人気だそうな。

 お袋にコートプレゼントしようかな。いやうちのお袋毛皮のコートとか着るタイプじゃないな。

 婆ちゃんとひなと三人にお揃いでベストとかでもいいかも。


 誰が加工賃出すかだけど、やっぱり俺だろうから、爺ちゃんの包丁代以外も稼がんといかんな。




 翌日の土日は正規の手続きを踏んで、ダンジョンにやってきた。今回は前回のショートソードでは無く、かなり値段のお高いロングソードを借りた。

 先週と違って今回は六階層以上の中層にトライすると、手続きの時に申請したのだ。

 中層のモンスターにロングソードならそこそこ通用する。ロングソードもピンキリなんだが、斬れ味の良いのをチョイス。

 ショートソードが一日千円で、最低のロングソードは二千円、今回借りたのは一日五千年で二日で一万円である。

 放課後に稼いだ素材も売る予定だから、元は取れるだろう。魔石はすでにリソースへと変換してしまっているのでないのだ。


 一階層から寄り道せず下を目指す。五階層の中ボスは中三日でリポップするらしいが、誰かが倒したみたいで今回はいなかった。

 六階層から十階層のモンスターをそこそこ倒しながら十階層へ。

 中ボスは俺が昨日倒したばかりだから復活していない。一日目はここで終わってマスタールームへ転移した。

 この一週間の間にいろいろ持ち込んで、ちょっと快適になっている。


 二日目の日曜日は十二階層で終了、十三階層への下り階段を発見したところで終えた。

 また明日から放課後にちょこちょこ進める予定だ。


 さて、二日間の成果だが、中階層とあって二十万ほどになった。税金で一割持っていかれるけど。

 これで爺ちゃんの包丁代はクリアした。次はそこそこ良さげな武器を購入するための資金を稼がねば。


 でもそこそこ良さげな武器って七桁するんだよなあ。


 次の週は先週のように毎日ダンジョンにはいかなかった。

 まずは月曜日は爺ちゃんに包丁代を送金しに銀行へ行った。


 電話の向こうで喜ぶ爺ちゃんに小言を言う婆ちゃんの声が聞こえてきた。なので婆ちゃんに変わってもらって、ジャイアントフットの毛皮の話をした。

 火曜日にダンジョンから帰ってくると、ひなからメッセージが届いていた。ばあちゃんは俺の提案通りベスト、母さんはマフラーと帽子、ひながフード付きポンチョがいいと言ってきた。

 ひなのが必要布面積が一番大きいぞ。

 知り合いにそう言う加工を請け負ってくれる人がいるとのことで(知り合いのそのまた知り合いってことで直接は知らないらしい)翌水曜日はジャイアントフットの毛皮を宅配便で送ることになった。一緒にうちのダンジョンでドロップしたラビットとビッグフットの毛皮もいくつか入れておいた。


 さすがに加工代は自分たちで持つと言われたが、ひなにそんな金はないので十万円ほど送金しておいた。

 これで持ち金がなくなって、ゼロからためることになったのだが、まあいいさ。


 そして木曜日に十四階層を踏破し、下へ降りる階段を見つけたところで終了。明日の金曜日にはボス戦だ。




 十五階層で待ち構えていたのは真っ黒な狼だった。大きさは白虎より一回り大きい。

 俺は両手にブルホーンソードと、刺身包丁を握り締め、向こうが立ち上がる前に突っ込んでいった。

 流石に十五階層のボスである。十階層ボスの白虎より強かった。正直舐めていたかもしれない。今の俺ならやれると。

 十階層とはいえダンジョン踏破して、特殊なスキルを手に入れたし、エピックウエポンも手に入れた。

 体力も身体能力も上昇し、強くなったと()()()()()


 ろくに戦闘ができ無かった二年生の時と比べりゃ、当然だ。学年最弱の俺の身体能力が上がったとして、せいぜい一クラス上くらいの戦闘能力だったんだ。

 スキルだって戦闘用のものは持っていない。

 リソースを得るためと、下へ進むことを重視し戦闘をこなしてこなかったツケだな。


「くそ! ローポーションくらいじゃ役に立たねえ」


 三本あったポーションは使い切った。幸運だったのは黒狼がバフやデバフを使ってこない力押しタイプだったってことか。


「おりゃあああ!」


 俺を丸呑みでもしようと大きく開けた顎門に向かって気合を込めて刺身包丁を突っ込んだ。

 腕をやるわけにはいかないが、ここで終わるわけにはいかない。伸ばした腕を力一杯引き戻す。

 バキンと勢いよく刺身包丁が折れる音がして、手元には持ち手しか帰ってこなかった。


「クッソ、爺ちゃんの……」


 満身創痍で武器をなくした右手を見る。そういえばブルホーンソードはどこだ?

 黒狼に弾き飛ばされて……探そうと前を向くと、黒狼が粒子に変わっていくところだった。


 見るとおれた刺身包丁の刃先が黒狼の頭の上から突き出していた。吻合する力が強すぎて自滅したっぽい。


 カランと折れた刀身が地面に落ちる。


「た、助かった」


 そのまま俺も地面に落ちるように倒れ込んだ。






 四月某日、あまり人気のなかった全十五階層(推定)のダンジョンが踏破され、消失した。

 ダンジョンより排出された探索者は、誰も十五階層に到達しておらず、ダンジョン踏破した探索者パーティーが見つからなかったことが一時期論争を呼んだが、後日JDDSより、協会所属の探索者による踏破であったと発表された。


 それが事実かどうかなど、〝ダンジョンボスのドロップはなんだったんだろう〟〝どれくらいの価値があっていくらくらいで売れるのか〟などと言う話題ほど一般探索者や市民にとって興味を引くものではなかった。


Ⅱから5ヶ月なので前回の半分です!って偉そうに言えるもんじゃないですが。

連載版の内容とかなり設定齟齬が出てしまったので、短編版はこれで終了になります。

連載版はカクヨムに投稿しております。

章ごとにある程度ストックが溜まってから投稿してますが、2020年12月11日に55話まで投稿済みです。

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[良い点] 面白かったです。 これからカクヨム版を読みに行きます!
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