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滑舌を気にするちょうじょ

「アクアー、風呂に行くぞー」


マリーブパリアで風精ニルと契約してからというもの、

アクアが時々姿を消すことがある。

繋がりがある俺には大体の位置がわかるし、

別に心配などはしていないのには理由があった。


『・・う・ょ、ちょ・・ょ、・ょうじょ・・』


微かにドア越しに聞こえるアクアの声を聞こえない振りをして、

宿で与えられている自室のドアを開けると、

ベッドの一部が微かに膨らんでいる・・・ように見えなくもない。

元から体の小さいアクアなので、

掛け布団の自然と出来るシワや膨らみと見分けが付かない為、

繋がりのある俺とアルシェ以外からすると、

このベッドを見てアクアがいるとは思わないだろう。


声を掛けながらドアを開けたにも関わらずアクアは反応を示さない。


「(アクア、風呂に行くぞ)」


念話で声を掛けると、

今しがた起きたかのようにモゾモゾと布団から這い出してきて、

欠伸と伸びのコンボを見せつける。


『ん〜、ごはんたべてねちゃったみたい〜』

「晩飯食べてすぐに横になったら牛になるって言ってるだろうが。

みんな待ってるから行くぞー」

『あい』


ベッドで座り込むアクアを抱き上げて腕の中に収めると、

まだ眠くもないクセに瞼を擦る演技を繰り返すアクア。


お察しの方もいらっしゃるだろうが、

見ての通り、

アクアは次女のクー、

そして新たに三女のニルが加わった事で、

さらに姉としての自立に目覚めたのだ。


クーはアクアを立てるので問題ないが、

ニルはクーが好きというだけでアクア達の事をよく理解してはいないらしいことから、

叱ったりする場面が来た時のために、

威厳ある姉になる為に、

まずは特徴的な舌っ足らずを直そうと影で努力しているらしい。


「今日もアレやるか?」

『やる〜!』


アレとは、

ニルに行っている訓練の一環で始めた[アメンボの歌]の事だ。

アメンボ赤いなから始まり、

植木屋井戸替えお祭りだまでを順繰り言っていく滑舌の練習で、

アクアは楽しいからと口にしているが、

その本質は滑舌の改善を目指していた。


「今度新しいやつも始めるけど、

アクアもやってみるか?」

『どんなの〜?』

「あいうえお、を言ったら[い]から始めて[あ]で終わる。

その後[う]で始めて[い]で終わる。

これを[お]まで繰り返したら、次はか行を同じように繰り返すんだ」

『あいうえお、いうえお・・あ、・・うえお・・あい・・・むずかしいね〜』


別に言葉で直接アクアからお願いをされたわけじゃないけどさ。

やっぱり良く見てるとアクアが挑戦したいこととかわかるもんで、

俺も直接確認など野暮な事はせずに、

こうやって訓練に誘ったりして協力しているのだ。


脱衣所の戸を開けると、

小さな男の子が猫の姿のクーを抱き上げていて、

ニルは服を置いておく棚の上に避難していた。


「なにしてんだ、お前ら」

『あ、お父さま!助けてください!』

『そうはちぃ〜、そいつはヤバいですわー!』

「あっ!こら待て!」

「待てはおまえじゃい。うちの娘に乱暴は許さんぞ」


するりと男の子の手の中をすり抜けて、

俺の元へと駆けてくるクーを追いかける少年の動きを止める。

肩をがっしりと握り込んで目線を合わせる為にしゃがみ込みながら優しく問いかける。


「君は娘の何なのかな?あ゛?」

「ヒッ・・!」

『そうはち!そいつは行きずりの男の子ですわー!』

「なぁーにぃー!!!」


食い込む指。怯える少年。煽るニル。


『ますたー、まってぇ〜!』

『ちょっとニルは黙っててくださいっ!!

お父さま、脱衣所で待っていたら湯から上がってきただけの少年です』

「あ、そうなの?

疑って悪かったな少年。次に姿を見たら殺すから湯冷めする前にママのお腹の中に戻りなっ!」

「ヒィィィー!!!」


元気に粗末なモノをぷらぷらさせながら脱衣所から出ていく少年。

悪は去った。


『ますたー、かわいそうだよ〜。

はなせばいいこかもしれないよ〜?』

「すぐに手を出そうとする軟派野郎がいい子なわけあるか。

あいつはいずれ渋谷に来る女の子にレモンサワーを勧めて、

柚子サワーしか飲めないと言われたら、

おめぇさてはエグザイルじゃねぇーなぁー?って脅す人間になる」

『そうはちは何をいってますのー?

クー姉さま、お風呂に行きましょー』

『そうですね・・なんだか無駄に疲れてしまいましたし・・・』


先の一悶着でずいぶんと疲れを感じたのか、

先に風呂場へと飛んでいくニルを追って、

珍しく俺が脱ぐのも待たずに人型のすっぽんぽんになったクーが、

とぼとぼと風呂場へと消えていく。


『ますたー、はやくぬいで〜』

「あ、はい」


冷静になるとあんなに怒ることでもなかったな。

相手は子供なのだから愛だの恋だのを結びつけたそれではなく、

単に可愛い可愛いクーを抱きしめたかっただけなのだろう。


こちらの反省などは関係ないと、

すっぽんぽんになって俺待ちしているアクアの言葉に脊髄反射で返事をするよわよわマスター。


「待たせたなっ!」

『くー、あらいっこしよ〜』

『お姉さま遅いです』

『そうはち、早く洗ってくださいなー!』


女が三人寄れば姦しいとは言うが、

この幼女の集団でも同じ言葉で適用となるのかね?


「はいはい、洗いますよー。

洗い終わったら滑舌の練習だからな」

『ういー』

『あくあもやる〜』

『お姉さまがやるならクーもやります』


結局、ニルとアクアだけじゃなくクーもやり始めてしまったが、

効果が必要なのはニルだけで、

アクアは姉力を上げるため、

クーはアクアの真似っこだ。


実用性と娘の支援と姉妹仲の向上の3つを一気に行う俺の子育て技術が我ながら恐ろしいなっ!

フーハッハッハ!!!


『そうはち、手が止まってますわー!』

「あ、はい」

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