外伝:第22回精霊会議
『第22回!精霊会議を始めます!』
『おう~!』
ポチャポチャポチャと柔らかすぎる肉の打ち合う音が響く。
その正体は先日加階を済ませ、
受肉も果たした水精アクアーリィが拍手する音であった。
叩きつけ合う力も非力で、
小さなもみじを形成する肉付きも歳相応にもっちもちな為、
本来はパチパチパチと音がするはずのところ、
ポチャポチャポチャとすぐに掻き消えてしまう小さな音を鳴らしていた。
『お姉さま・・、このくだりが恥ずかしいのですが・・・』
『じゃあ、つぎはあくあがいうね~!』
『いえ、そういう事ではないのですが・・・』
対するもう1人の闇精クーデルカは、
生来の人見知りを十全に発揮し、
恥ずかしさでいっぱいであった。
この小さな子猫も先日、
自身の契約者の事を認めてマスターの呼び名から、
お父さまと親しみを込めて呼ぶように変化したばかりである。
そのお父さまはというと、
現在はアスペラルダからポルタフォールという町を目指して移動をしており、
その昼休憩の時間を使って、
同行者のアルシェと呼ばれている少女と共に模擬戦なるものを行っていた。
同じく同行者のメリーなるメイドは、
自分たちのすぐ横にて昼ご飯の準備を進めている。
『今回のお題はなんでしょうか、お姉さま』
『こんかいは・・・いたずらのあいであをぼしゅうしま~す』
『イタズラですか?でも、お姉さまはいつも最後は怒られていますよね?』
『ますたーにおこられるのもせいれいのつとめ!
くりかえすことでなかよくなれるんだよ~』
それはどうだろうか。
意識せずとも耳に入ってくる子供達の話を聞いて、
食材を切り分けながらメリーは思った。しかし、口には出さない。
『こんどのいたずらで、ますたーをおとすのがもくひょうだよ~』
『落とすというのは?』
『めろめろにさせることみたい。よくわかんないけど~』
イタズラではメロメロにはならない。
主人から賜った特注のフライパンに油を適量垂らしながら、
メリーは思った。しかし、口には出さない。
『普通に抱っこしてくださいと言えば撫でて貰えますよね?』
『そうなんだよねぇ?・・、ますたーあくあたちにあまいからなぁ~』
『なら、イタズラしなくてもいいのでは?』
『でもね、ますたーがまえにいってたの~!
こどものうちはすきなことをしろ、おとなになったらしゃれじゃすまんからなって!』
『洒落ってなんですか?』
『わかんない~』
ご息女に伝わっておりませんよ、ご主人様。
肉と野菜をフライパンで炒めながらメリーは後で主人にそれとなく教えておこうと思った。
それとアクアが構って欲しくてイタズラしているらしい事も、
同じくこっそりと教えようとも思った。
『前はどんなイタズラをしたんでしたっけ?』
『このまえはねぇ、ふとんをみずびたしにした~』
『あ、それ覚えてます!お姉さま、お尻叩かれてました!』
『あれはいたかった・・・』
腕を組んでウンウンと頷くアクア。
ご主人様は小さいから叩きづらいと言って手首のスナップを効かせて叩いていたあれですね。
途中からペちペちと鳴るお尻を叩く行為が楽しくなったのか、
ご主人様も楽しそうにぺんぺんしておりました。
肉野菜炒めをお皿に盛り付けながら、
メリーはその夜の事を思い起こしていた。
『また叩かれても知りませんよ?』
『ますたーとのすきんしっぷのためだよ!
なんだっけ?えっと・・そう!こらてらるだめーじってやつだよぉ~!』
『なんですか?コラテラルダメージって』
『わすれたぁ~』
おそらくご主人様の世界の言葉なのだとは思いますが、
アクア様の言う意味とは相違があるのだろうなぁと、
心の中で思いながらお米の炊きあがり具合を確かめるメリー。
『あ、そろそろできる~?』
「はい、皆様を呼んできてもらっても宜しいでしょうか?」
『よろしいで~す!ますたー!』
『あ、お姉さま!失礼します!』
空に浮かび上がって飛んでいく小さな子供と小さな子猫を見送り、
影から取り出したテーブルに各ご飯をよそっていく。
そして、今日も口から出るのはいつもの一言。
「今日も何も決まりませんでしたね・・・」