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それはまるで砂糖菓子のような 〜春のうららのノスタルジー ○○年前、某国にて〜

作者: 角守

初投稿なので誤字脱字があったらすみません…。

春の昼下がり、私(仮名:シキ)たちのクラスは幼稚園の教室で先生の読み聞かせを待っていた。この幼稚園は某国にあり、クラスの中で日本人は私1人だけだった。私たちは5歳だった。教室の中の靴を脱いで遊ぶスペースで、私たち約20人はカーペットの上に座って先生を待っていた。



いつもは違うが、このときたまたま私は一番後ろにいた。本が見えないかもしれないな、と思った。

ふと横を向いたらその同じく一番後ろにいた隣の男の子、アランと目が合った。


先生を中心に大まかな半円を描いて座っていたので、隣には彼以外いなかった。アランは金髪だったが瞳の色は覚えていない。グレーだったような気もするし、ブルーだったような気もする。○○年前のことだから許してほしい。



目が合うとアランは微笑んだ。ひそひそ声で、


「シキ、ねむそうだね、ぼくの膝のうえで寝てていいよ。」

とささやいた。



「…え、別にいいよ。」


私はひそひそ声で返した。このとき別に眠くはなかった。すると彼はさっきよりもにっこりと笑った。

ドキッとした。彼は遊んでいるときは普通に優しい子だった。こんな風に笑う彼を見るのは初めてだったのだ。アランってこんな風に笑う子だったっけ?なぜここで笑うのだろう。そんな私を見て彼はニコニコしながら、まあまあほらほらとささやき、膝に招いた。



私は今まで見たことのなかったその笑顔に圧倒されてしまい、思わずその申し出を受け入れた。

まあ、アランはいたずらするような子じゃないし、みんな横向いておしゃべりして誰もみてないし、みてたとしても先生に見つからなければ大した問題じゃないし、アランがいいって言ってるんだからいいか。



私は彼の膝のうえに頭をのせた。

しばらくすると頭を一定のリズムでなではじめた。彼のなでる手は優しかった。…なんだか、まるでお母さんの膝の上みたい。一番後ろにいたのでアランと私のことを誰も見ていなかった。私は目を閉じた。



しばらくして目を開け、壁の時計を見ると先生がくる時間になった。先生が来るかもしれないのでありがとうと言って体を起こした。でもまだ先生は来なかった。



するとアランは

「先生が来るまでもうちょっと寝てなよ。」

とまたあの笑顔を浮かべながらささやいた。私には断る理由がなかった。彼の膝枕は予想外に心地よかったのだ。そうだね、わかった。ありがとう。また膝の上で目を閉じた。



彼はまた頭を一定のリズムで撫で始めた。私は完全にリラックスしていた。




次の読み聞かせの時、アランのいる一番後ろに行って彼に話しかけた。

「この前は膝枕やってもらったし、今度は自分がやるよ、アランもねむいでしょ?」

私はやってもらったことへの恩を返そうとした。



だが、アランはニコニコして断った。それどころか、またここ、膝の上で寝てていいよ、とささやくのだ。あの微笑みを浮かべて。



「いや、この前やってもらったから、私はいらないよ。一回私の膝で寝てみて、いやになったらアランが自分で起きればいいじゃん。」

それでも彼はなかなかわかったとうなずかなかった。押し問答の末に私はいいからとつい強引に袖を引っ張った。彼は仕方なくといったようすで私に頭をのせた。



アランの頭が膝に乗ると、私は母やアランにやってもらったように、一定のリズムで頭を撫でた。


アランの金髪は窓から差し込む陽の光に当たって、キラキラと輝いていた。彼の髪はゴールデンレトリバーの毛並みのようにサラサラとして、さわるのは気持ちよかった。



「アランの金髪はきれいだね。」


私はつぶやいた。5歳にして私はアランの母になったような不思議な気分になった。もちろんみんなは横の人とおしゃべりして、誰も見ていなかった。アランと私と、2人きり。



しばらくして自分が何回か頭を撫でたところでアランは起き上がり、やっぱり交代しようと言った。


「え、ごめん、下手だったかな。」

私は戸惑った。


「違うよ、やっぱりぼくが膝枕をする方がすきなんだ。」

間髪入れずに彼は自分の膝を指差しながら、あのニコニコした顔でささやいた。彼は座ると、私の服の袖をつん、とつまんだ。先程私が袖を乱暴に引っ張ったのとは違っていた。それでも触れられた瞬間びくりとして、もしかしてさっきの袖で怒ったのかと彼を見たが、


「ほらシキ代わろう、膝の上に来て。」

アランは微笑み、優しくささやいた。



「えぇー?へんなの、わかった。」

私は彼に甘えることにした。そしてほっとした。よかった、彼は怒ったわけではなかったみたいだ。



私は再び膝枕をしてもらった。

前と同じく気分はとてもよく、完全にリラックスしていた。アランは一定のリズムで膝の上の頭を撫でつづけた。


もしかしてアランは、クラスの中では珍しい、自分の黒くてクセのない髪の毛を触りたかったのだろうかと考えた。

確かに私のクラスで髪が黒いのは私だけだった。他の子はブラウンだったり金髪で、男の子も天然パーマがかかっていた。女の子は親に髪を結んでもらったり、編み込みをしてもらっている子が多かった。私は何もしていないショートヘアだった。彼女らに膝枕をすると髪型が崩れたであろう。


だが仮にそうだとしてもこのとき、髪をつまんだりはしなかった。彼は純粋に膝枕をして頭をなでなでするのを楽しんでいるようにみえた。


前よりも先生がくるのが遅かった。先生がくるまでの長い時間、彼の膝に甘えた。



アランはいつもこの読み聞かせの時間、一番後ろにいた。たまに後ろにくると決まって先生が来るまで膝枕を誘ってきた。私はいつも彼に甘えていた。先生が来るまでの短い時間だったが、彼の優しさが、手から伝わるのだ。安心して目を閉じていられた。



ただ季節が夏に変わって暑くなってからは、私は膝枕をしてもらうのをやめた。

夏になっても、2人だと彼は笑顔でまあまあそう言わずにと食い下がった。そんなときは周りの人を巻き込んで3、4人くらいでおしゃべりしたり、後ろの方に行かないようにした、そんな記憶がある。秋になっても変わらず、それっきり彼の膝枕は終わった。



小学校は別々で、彼とはそれっきりだった。正直○○年ぶりに膝枕の好きな少年を思い出して戸惑っている。これで年齢がティーンであれば、少女マンガのワンシーンのようになっただろう。



帰国して少女マンガを読んでも、全く思い出すことはなかった。なぜ今思い出したのか自分でも理解に苦しむ。自分がこのように異性(しかも5歳)に甘やかされたことがあるのに驚いている。



アランには弟や妹がいて、いつも家で膝枕であやしていたのだろうか。真相はわからない。だが彼は本能的に知っていたのだろう。愛は与えられるものではなく、与えるものであると。



fin






ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 描写が丁寧で、想像しやすいです。憧れるw
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