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異界転生譚 ゴースト・アンド・リリィ  作者: 長串望
第三章 地下水道

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最終話 地下水道

前回のあらすじ

まさかの二連続飯レポであった。

 あれから結局、私たちはもつ鍋に舌鼓を打って締めとし、さしたる冒険という冒険も他にすることもなく解散と相成った。

 もちろん、バナナワニと戦っただけで終わった――守護者討伐というのはそれだけで十分な功績らしいけれど――私たちと違って、通路をまっすぐ進んでいった《甘き鉄(チョコラーダフェーロ)》は今後の探索に役立つ地図の製作を、右手に進んでいった《潜り者(ホムトルオ)》は水道施設の操作説明書の一部を発見するなど、それなりに成果を残しているのだけれど。


 しかし、実際問題あんまり活躍の場のなかった私としては、活躍せずに人の活躍を眺めるのが目的であるとはいえ、報酬の多さにちょっともらい過ぎではないかなと思わないでもない。


 まず金銭的報酬だけれど、基本給に上乗せする形として守護者バナナワニの討伐報酬が追加されたのだけれど、どう見てもこれが基本給より高い。

 本当にいいのかと確認してみたが、あれは本来であれば乙種より上の甲種魔獣、つまり冒険屋がパーティで組んで勝てるぎりぎりのレベルで、本来であれば複数パーティで挑むべき相手だったとかで、相場的にも正当な報酬であるらしい。


 さらにその他に、納品したバナナワニの素材の分も色を付けてもらえた。脳天を真っ二つという非常にシンプルな一撃で仕留め、その後の解体も丁寧で素材に傷が少なかったかららしいのだが、バナナワニ鍋の分の支払いも込みではないかとにらんでいる。


 製造の目途が立っていない《ソング・オブ・ローズ》の消費は無視できなくはあるが、まああれは私の主力武器の一つだけあってまだまだ在庫がある。一撃で仕留められなかった当たり威力にやや不安は残るが、まあ水属性の相手には効きが悪いのはもともとだし、仕方ない。


 それよりも気になるのは、リリオのあの一撃だ。


 リリオの剣が霹靂猫魚(トンドルシルウロ)の素材で強化され、雷精をまとえるようになったのは知っていた。しかし、私はてっきりスタンガン程度の威力だろうと思っていたのだが、今日のあれはどう控えめに見ても落雷クラスの一撃だ。

 魔力がすっからかんになったとリリオは言っていたが、果たして落雷を引き起こすレベルの魔力とはどれほどのものなのだろう。


 仮にあれを普通の落雷一発分とした場合、電圧にして二百万ボルトから十億ボルト、電流は一千アンペアから五十万アンペアまで考えられる。直撃すればあのバナナワニよろしく即死だし、例え避けても発生する凶悪なジュール熱と衝撃波、そして破壊物の破片などが問答無用で相手を殺す、まさしく必殺技だ。


 人間相手に使うには過剰すぎるし、化け物相手に使ってもあの通りのオーバーキルだ。


 溜めに時間がかかるとはいえ、あの技は危険すぎる。電気というものへの知識不足もあるのだろう。

 せめてスタンガン程度の使い方ができるように、雷精の扱い方を教え込んだ方がいいかもしれない。少なくとも、電気というものに関する知識は、私に勝るものはこの世界ではまだそうそういないことだろうし。


 なんだか一気に面倒な仕事が増えたかもしれない。飲み過ぎてふらつく頭を抱えて、私は寮に辿り着くなりベッドに倒れこんだのだった。




             ‡             ‡




 地下水道での冒険は、想像以上の大冒険でした。

 もっとこう、精々丙種の魔獣がうろついているくらいのを想像していたのですけれど、どうもそれらはすべてあのバナナワニが食べつくしてしまったようで、あの付近にはもう他に生き物が全然いないようでした。


 そんな中で的確に守護者の領域に立ち入ってしまったのはまた運が悪かったというか、誰も大怪我をすることなく倒せて運が良かったというか。


 もし仮にほかのパーティが遭遇していたら、こううまくは行かず、何とか逃げ切るか、それとも死者を出していただろうとは地下水道に慣れた《潜り者(ホムトルオ)》のクロアカさんの言です。


 確かに、私も()()がうまくいかなかったら死んでいたかもしれません。いえ、後でウルウにも怒られましたけれど、うまくいっていても死んでいたかもしれないとんでもない技だったようです。

 幸い雷精は私の体を焼くようなことはありませんでしたけれど、目前で発生した衝撃波が直撃していたら、今頃穴だらけになってずたずたになっていたかもしれません。

 私自身の発していた魔力の分厚い保護と、飛竜革の鎧の矢避けの加護がなければただでは済まなかったことでしょう。


 そしてまた、他の皆さんが離れていたからよかったものの、もしもう少しでも近ければ私は自分の手でパーティの仲間を焼き殺していたかもしれません。そうでなくても、狭い空間であんな爆発を起こしたのですから、ガルディストさんは鼓膜を破るような羽目になってしまいました。


 何とも反省の大きい冒険でした。


 しかし、それに見合った報酬もありました。

 沢山のおちんぎん、も魅力的ではありますが、なんと、食べ終えた後のバナナワニの骨格標本が水道局のロビーに守護者討伐記念として飾られることになったのです。しかもその台座には、討伐者である私たち《三輪百合(トリ・リリオイ)》の紋章と、名前が刻まれることになったのです!


 これは非常に名誉なことです。

 冒険屋として一花咲かせた気持ちです。


 まあ、トルンペートはそもそも冒険屋に憧れないですし、ウルウに至っては目立ちたくないのにと苦り顔です。

 ガルディストさんは今更この程度の名誉は束で持っている《一の盾(ウヌ・シィルド)》のメンバーですから、本当に心から喜べるのは私だけというのが少し寂しいですね。


 ともあれ、私たちは無事初めての地下遺跡冒険を無事に達成し、そして寝台に倒れこんだのでした。




             ‡             ‡




 とにかく疲れたってのが感想ね。

 まあ、あたしが何をしたかっていえば、走って、跳んで、投げて、気絶して、あとはお肉切って串に刺して焼いて鍋の様子見てただけなんだけど。

 冒険しにいったっていうより、一狩りしてご飯食べてきたって感じね。

 辺境だといつもの奴、って具合。


 それにしてもあのバナナワニは強敵だったわ。甲種魔獣ってのも納得。水上に上がってきてくれたから何とかなったけど、あいつの本領を発揮できる水中に引き込まれたら、あたしたちは全滅してたでしょうね。

 環境もあるだろうけど、あれは確かに飛竜と同じくらいにやばい奴だったわ。


 その飛竜と同じくらいにやばい奴を一刀両断したリリオも大概やばいけど。


 そもそも辺境の人間だって、一人で飛竜と戦ったりしないわよ、普通。

 罠にかけたり、強力な弓や魔術を使ったり、法術で弱らせたり、とにかくいろいろして地面に引きずり落として、それでようやく倒すの。


 そりゃあバナナワニは飛ばないし、動きもそこそこ遅かったけれど、それでもあんな強靭な生き物を一発で仕留めるなんてのは、辺境でも……まあ、珍しい方ではあるわね。いないって言えないのが怖いところだわ、本当に。


 あたしだって、辺境生まれではないにしても辺境育ち。鱗貫きの技くらいは身に着けてるのに、それさえ弾く強靭な生き物だった。それを、あんな落雷みたいな一撃で仕留めるなんて、ほんと、危なっかしいったらないわ。


 ウルウも叱りつけてたけど、あれは本当に危なかった。

 リリオは昔からそういうところがある。思いつめたらこう、まっすぐなのよ。それができると思えば、試さずにはいられない。

 ウルウには早いとこ矯正してもらわないとね。ウルウ自身の矯正もしないとだけど。


 ああ、それにしても、疲れたわ。

 さしもの武装女中も、あれだけ動き回って、その上食べ盛りの冒険屋たちのご飯の給餌なんて。あ、誤字じゃないわよ。あれはもう給仕じゃないわ。給餌よ。餌やり。


 あたしたち三人は、寮に辿り着くなり、いつものお風呂もすっぽかして、もう矢も楯もなく寝台に崩れ落ちたのだった。


 目覚めたウルウが不機嫌そうにあたしたちを浴場に引っ立てるのは、また別のお話。




             ‡             ‡




 いやまったく、末恐ろしいガキどもだ。

 俺が頼まれたのは、ちょいと冒険らしい仕事をやらせてやって、憂さ晴らしでもさせてやれって、その程度だったんだが、いやはや剣呑剣呑。まさかあんな目に合うとはな。


 しかしまあ、冒険屋ってのは冒険と惹かれあうところがある。

 かつて俺たちがメザーガ、お前に連れられて散々な目に遭ってきたように、あの嬢ちゃんたちもそうなのかもしれん。いや、或いはもっと強烈に、運命とやらに振り回されるのかもな。


 報告はそんなとこだ。

 俺にゃこれ以上は無理だ。嫌だ。お断りだ。

 そりゃお前らみたいなアクの強い連中の調整役やってきたがな、俺ゃああくまで野伏なんだよ。あんなじゃじゃ馬扱いきれるか。


 ほら、パフィストあたり最近暇してただろう。

 今度はあいつにでもやらせてくんな。


 くぁ、あ、あ。

 ああ、くそ、眠ぃ。さすがに歳かね、あの程度で疲れるなんざ。

 朝まで寝るから、もう今日は呼ぶなよメザーガ。




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