エイプリルフール六日目!きっと君はもううんざりしてるだろうね。退屈してる。飽き飽きしてるんだ。でも楽しもうよ。今日という日は二度と来ない。花を摘め!酒を飲め!この日を生きよ!私たちは明日死ぬのだから!
前回のあらすじ
乗っ取り憑依系ヒロインとテロ活にいそしむウルウ。
有力者の心臓を抜き取ったり死体を芸術的な角度で見せしめにしたりとぶらり暗殺テロリスト旅は続く。
地味な下準備を終えて、いよいよ大怪獣カメ吉くんによる帝都襲撃!
しかしまさかの別のプレイヤー参戦により、ふたりは苦戦を強いられ……。
IFストーリー
亡霊と祈りの宮
「ウルー! しっかりするかしら! はやく起きるかしら!」
ユーピテルのキャンキャン煩い声が頭に響く。マジでうるさくて頭痛がひどい。
今回はメスガキもとい子供の体なんだっけ、そういえば。最初のうちは倫理観ゥて顔してたけど、慣れてくるともうなんとも思わないっていうか思わないようにしてるっていうか、似合うじゃーんみたいに茶化さないとやってられないんだよね。
ほんと子供の声って嫌だ。甲高くて頭に響くし、自分が最低最悪の大人に育っちゃったなっていうのが切々と感じられてしんどい。
現実がつらすぎるのでもうちょっと寝かせてください。
しかしそんな私の祈りは虚しく、ユーピテルはいよいよ私を揺さぶり始める。
胸を強く強く、何度も何度も押してくる。痛いし、苦しい。ごぼげぼと変に水っぽい咳が出る。
「やめ……ユーピ、テル」
「ウルー! インベントリを開くかしら! ワタシじゃアイテムが出せないかしら!」
なんだろ。朝ご飯欲しいのかな。
ぼんやりとかすむ視界に、ユーピテルの顔が映る。
育ちのいい子供だったんだろうねえ。歯並びもよくて、頬なんかぷっくりしててさ。大事に育てられた子なんだろうね、この体。その頬が、血で濡れてる。
「け、が……」
「そうかしら! はやくポーションを!」
怪我してるの、と聞こうとしたけど、ユーピテルは元気に叫んでる。返り血かな。戦闘は私が率先してやってあげてたのに、この子が返り血浴びちゃうなんて、なんかミスったかな。
頭が回らない。息が苦しい。
言われた通りにインベントリに手を伸ばすけど、力が入らない。指先が震える。アイテムが取り出せない。
かすむ目で見下ろせば、私の胸。こっち来てからいいもの食べてたからかな。ヒト殺してても身体は元気で、カップ数も成長して、おかげでお腹の方が見えないけど。
その胸の間が、赤い。黒い装備が裂けて、むき出しになった肌がさらに引きちぎれて、中身の赤と白が見えている。わお。セクシーだね。セクシー通り過ぎてるかな。
自分の傷を理解した瞬間、激痛が走る。お前こんな重傷者に心臓マッサージしてたのかよ馬鹿か。いやでもそれで意識が戻ったのなら結果オーライ? どっちにしろ死にそうだけど。っていうか死ぬのか。これ死ぬな。
自分で自分の死がわかる。《生体感知》を使うまでもない。自分の命か零れ落ちていって、取り返しがつかないのを感じる。数字で言えば私の《HP》はゼロだ。ここから回復する見込みはない。この世界からしたら万能の回復薬に見える《ポーション》だって、ゼロになった数字を回復することはできない。
だからこれは、死ぬまでの猶予みたいな時間だ。
心臓が止まっても脳が死ぬまでには時間がかかるように。酸素の供給が絶たれて意識を失っても脳細胞のすべてが死ぬまでに時間がかかるように。
私は死ぬ。それがさだめだ。
わずかな時間に私は思い出す。
立派に育ったカメ吉の背に乗って帝都とか言うでかい町を攻めたことを。
想像以上にヤバ目の戦力が迎え撃ってきて焦ったけど、事前にばらまいておいたダニーズその他の生物兵器のおかげでだいぶ削れていて何とかなったことを。
私が消費度外視でバフアイテム盛りまくったカメ吉がなんかバリアみたいなのはりまくってた城壁をぶち抜いたこと。
そしてその発射後の隙を狙うかのように別の地竜が急に現れて突進してきたこと。
そして混乱の中、私はユーピテルを庇って胸に一撃、重いのを食らってしまったのだった。
レベル最大とはいえ、私の耐久は障子紙程度。しかも相手は私以外のプレイヤーだった。
「は、っ……あ、ぐっ……」
「馬鹿! ウルー! 寝るなかしら! ワタシを庇う意味なんてなかったかしら!」
そうだ。
意味などなかった。
ユーピテルは死んでもすぐに別の体に乗り移って復活する。
人族がいる限り、ユーピテルは実質的に不死だ。
でも庇ってしまった。咄嗟に庇ってしまった。それは反射的な行動だった。
どんな攻撃も避けることのできる私でも、あえてあたりに行ってしまえばそれも無意味だ。
でも、仕方がないと思う。
ユーピテルは復活するとしても、それはネットワーク上に存在するユーピテル総体が回収できた記録をもとにしている。ユーピテルは何度も死んできたけど、死そのものは理解しない。死ぬその瞬間を、あるいはその前後を、ユーピテルの端末は経験するけれど、ユーピテル総体は拾い上げることができない。その最後の思いを、ユーピテルは失い続けていく。
馬鹿げた感傷だと思う。けれど数えられることのない痛みが、拾い上げられることのない苦しみが、掬い上げられることのない私との思い出が、ほんのわずかな瞬間のことだったとしても、存在することに耐えられなかった。
私が与えるのではない死が、ユーピテルに触れることが耐えられないほど嫌だった。
気持ち悪いやつ。
私は知らず、笑みをこぼした。血と咳もこぼれて、苦しい。
私をここまで追い詰めるとは、大したやつだよ。
私はあのプレイヤーのことを少し思う。ペイパームーン。《千知千能》。低レベル帯のほとんどあらゆる魔法《技能》を習得した、手数の怪物。
あいつは死に体の私が反撃で繰り出した《死出の一針》を、避けずに受けた。奴は待ち構えてた。反射《技能》だった。想定もしていなかったしょぼい《技能》も、あいつのレベルで繰り出せば、即死効果を反射させるほどに練り上げられていた。あるいは、この世界でさらに練り上げた結果か。
《死出の一針》の即死貫通効果は、即死の反射とは別の処理がなされるから、やつもまた即死攻撃を受けて死んだ。即死の相打ちだ。あいつはそれとわかって狙ってた。絶対に私を殺せる瞬間を待ってた。以前にあいつの相方を仕留めたのをよほど恨んでたらしい。まあ、気持ちはわかるよ。今更だけど。
私の指先がキラキラと光りながら崩壊していく。末端部分から私が崩れていく。やっぱり普通の人間じゃあないんだなって、なんだか他人事のように思う。
ユーピテルがそれに気づいて慌てて押さえようとするけれど、触れれれば触れるほどに私の体はボロボロと崩れていく。光になっていく。ユーピテルの子供の体が悲鳴を上げた。どうしようもないのに、どうにかしようとして、どうにもならないまま、どうにもならない現実を目にしていた。
「だい……じょ……」
「ウルー! ウルー! 嫌だ! 嫌かしら! 行かないで! ワタシをおいていかないで!」
「ま……あ…る………」
私の体はそして、一筋の光となって、空に消えた。
あとには嗚咽をこらえながらうずくまるユーピテルだけが残された。
「う、裏切るなら! 裏切るなら、最初から……! こうなるとわかっていたのに! いつかこうなると!」
二千年を生きてきた、あるいは、死に続けてきたユーピテルは、きっとずっと一人だったわけではないのだろう。現地の人間をだまして使った方が、どれほど効率がいいか知れたものではない。
でも今のユーピテルはひとりだった。仲間を作ろうとしなかった。たとえ仮初でも、たとえ偽りでも、それがいつか必ず失われるのだということを、きっと何度となく味わってしまったから。
「ウルー…………お前も……お前も行ってしまうのかしら……」
そのユーピテルが、なし崩し的にではあっても、ようやく得た旅の連れが、妛原閠という女だった。損得関係なく、なんのしがらみもなく、ユーピテルという個人のためだけに、苦楽を共にし、歩いてきた。
それは二千年という長さに比べたら、一瞬のようなものだったかもしれない。
それでも、その一瞬が、ひと時でもユーピテルをくじけさせるほどの重みがあったのなら、申し訳ないけれど、嬉しく感じてしまう。
「なんかごめんね」
「ごめんで済んだら…………ほわぁっ!?」
「とりあえず汚れはおとそっか。衛生的じゃないし」
ほとんど跳ねるような勢いで驚いて振り返ったユーピテル。その血まみれの頬をハンカチで拭ってやる。私の死体は消えるけど血は残るんだなあと思うと不思議だ。服の方はもうこれムリかなあ。白衣は何としてでも着ようとするから、なんとか染み抜きしてあげないとだけど。洗剤とか手に入りやすかった前世が懐かしい。また大根的な野菜探さないとかなあ。
「な、な、な、なっ」
「やあ、たまたま通りがかった妛原閠の双子の妹だよ。以後よろしくね」
「雑なキャラロスト対策みたいなこと言ってんじゃねーかしら!!」
ううん。ガチ目に怒られてしまった。
でも君を殺すたびに私も少なからずダメージ受けてるのでそのあたりちょっとわからせてやりたかったというのがあるのでね。仕方ないね。痛くなければ覚えませぬ。
「おまっ、おま、えっ、いま死んだかしら!? なんかいい感じに消えたかした!?」
「うん、ああなるんだねえ。あれこそ《エンズビル・オンライン》で死亡したときのエフェクトだね」
「プレイヤーが遊んでたとかいうゲームの話かしら? なんかその形に成形されてこの惑星に来たとか……」
「そうそれ。で、ゲームなので、死ぬとリスポーンする」
「死ぬとリスポーンする????」
君だけはそれで首傾げちゃだめだと思うけどなあ。
「まあ、所持金と経験値半分になって、しばらくはステータス減少するから、おとなしくしないとだね」
「それだけで済むならワタシよりお手軽かしら! もっと死ぬかしら!」
「嫌だよ。君だって毎回死ぬの嫌でしょ」
「決まってるかしら!」
「だって、ねえ」
『死ぬほど苦しいから』
顔を見合わせて、ぷ、と笑いがこぼれる。
同行人の死はユーピテルのメンタルに大きなダメージになるらしいのはわかったから、よかったよかった。
だからデメリットについては黙っておこう。
「カメ吉もあれはもうダメかもね。敵の地竜がうまいこといなしてる。賢い個体だ」
「うーん。思ったより突っ込めなかったし、適当なところで引き揚げた方がよさそうかしら。またぶん投げヨロかしら」
「一度インベントリに突っ込めばあのサイズの生き物も《薄氷渡り》の効果範囲になるのって、バグだよねえ」
「グリッチかしら! 変なこと言ってデバッグされたら困るかしら!」
帝都の目前に突然巨大な地竜が現れた脅威のメカニズム。それって重さをなくしたカメ吉を私が抱えて、バフかけまくっていい感じの角度でぶん投げたっていう脳筋スタイルだからね。ひもでつながった私もそれにつられ吹っ飛ぶというトンチキ物理。飛翔後の姿勢制御はユーピテルが計算したけど。
ペイパームーンは倒したし、周囲で戦ってた兵士たちもあらかた蜂ドローンその他の生物兵器といい感じに削り合ってくれた。帝都陥落まではいかなかったけど、城壁は崩せた。混乱も招けた。死なない私たちが死ぬ連中に与えた損害としては上等だろう。
「これからだよ、これから。時間はいつだって私たちの味方だ」
「二千年も失敗し続けてたワタシにそれ言うかしら?」
「いまは私も君の味方だからね。死なない私と死なない君。私たちは永遠さ」
「そうかしら。永遠かしら」
その語尾はどっちかわかんないなあ。
…………復活した私と違って、ペイパームーンは戻ってこない。奴の相方だったMETOも、殺したあと復活してこなかった。
だから復活するかどうかは、私たちの認識次第なのだと思う。私がユーピテルと過ごす日々の中で空腹を思い出したように。眠ることを思い出したように。傷つき疲れることを思い出したように。
私は復活を信じていた。復活せねばならないと信じていた。
《エンズビル・オンライン》では、最後に祈りをささげた神殿で復活する。だから私のリスポーン場所はどこになるかと思っていたけれど、それがユーピテルのそばというのはなかなか自己分析しがいのある心理だ。
私は神に祈らない。神は応えないからだ。特に邪神なんぞは。
そんな私が祈るのは、復讐に駆られたこの小さなかみさまだ。ユーピテルを思い、ユーピテルのために、私はユーピテルに祈りをささげる。
だから私は今後も、ユーピテルのために殺して、ユーピテルのために生きて、ユーピテルのために死んで、ユーピテルのそばで蘇るだろう。
そのたびに私は失うだろう。所持金を。経験値を。その名前で定義された、思い出を。
ライトノベルを読んでたのは、メリットでもありデメリットでもあるね。私は復活には代償が必要だと認識してしまっている。
そしてそれは、私の場合、思い出だ。復活する度、私は思い出を少しずつ削っていく。
いつかなくなるまでに、ユーピテルとの思い出をたくさん増やしていかないといけないだろう。
私はもう思い出せない父の顔に別れを告げて、歩き出す。
「ああ、おなか減った。死ぬとおなか減るのかな」
「こんな死体だらけの中で食欲出るのはドン引きかしら……」
「生きてるっていうのは、お腹がすくってことだよ。帝都でなんかよさげの店探してみよっか」
「襲撃したばっかりの町でごはん食べようとしてるのはマジでドン引きかしら」
でも、まあ、行けるところまで行こう。
もし歌の通り、誰も永遠に生きたりはしないのだとしても。
私たちはどこまでもどこまでも一緒に行こう。
用語解説
・カメ吉
ユーピテルとウルウが卵から孵化させて育てた地竜。
最初は脳改造して操縦する予定だったが、ウルウがカメ飼ってみたいと言い出したためすくすく元気に育った。これだけでかくて丈夫だとうっかり潰しちゃう心配がないので、ウルウとしては安心して飼えるペット枠。
名づけでもめたためじゃんけんで決めた。
・生物兵器
マダニの改造種と現地の蜂を電波で操作して操る予定だったが、ウルウがよけいなアドバイスしまくったせいで本編よりだいぶエグ目に仕上がった。
ユーピテルにまさかの倫理観を説かれたが、結果として本編以上にえぐい成果を出している。




