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異界転生譚 ゴースト・アンド・リリィ  作者: 長串望
2025年エイプリルフール

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エイプリルフール三日目!普段見れないあの子の一面が見れるのっていいよねでも全然別の一面が出てくるのはそれはもう性格逆転っていうか別物っていうかオルタっていうかいや別にぜんぜん嫌いじゃないけどね私は!!

これまでのあらすじ


エイプリルフールが終わった。

エイプリルフールが終わるとどうなる?

知らんのか。

エイプリルフール二日目が始まる。

当然三日目もある。

「ちゃん様のお酒か……」

「そのちゃん様ってなんなのよ」

「プルプラちゃんって呼んでいいよって言われたけど後が怖いし畏れ多いからプルプラちゃん様って呼んで、段々略した結果」

「突っ込みどころが多すぎますけれど、まあプルプラ様に触れると頭がぐるぐるになるって言いますものね」

「なにそのシンの毒気みたいな扱い」


 詳しい説明は省くけど、宿で卓を囲んだあたしたちの前には、一本の酒瓶が置かれてた。

 内地には珍しくプルプラ様の神殿があったから寄ってみたら、お安く売ってたので買ってみた葡萄酒(ヴィーノ)だ。

 神殿は酒税免除されてるから醸造したお酒売ってることは珍しくもないけど、プルプラ様の神殿っていうのがキモよね。


「効果は何だっけ」

「『あの子のまだ知らない新しい一面を見せてくれます』でしたね」

「あやし~~~」

「トルンペートこういう博打(ばくち)みたいなやつなんだかんだ好きだよね」


 まあ、だから買ったみたいなところはあるわよね。

 効果とか副作用がはっきりわかるものの方が信頼性があるのは確かだけど、お遊びとして使うものならちょっと意外性とか博打みたいなところがあった方が楽しいに決まってる。

 まあ、それはそれとしてプルプラ様印のものは博打が過ぎるので、こうして瓶を眺めるだけで時間を潰しちゃってるんだけど。


「まあ、買ったのあたしだし、言い出しっぺから試してみるわ」

「いえ、ここは毒耐性の強い私からいきましょう」

「主人に怪しいもの飲ませるわけにもいかないわ。あたしが」

「いいえ、いいえ、従者に危険を肩代わりさせるなど主人の恥。私が」

「あたしが」

「私が」

「……………あのさ、そのチラッチラッっていうのやめてくれない?」

「別にそんなつもりはないわよ」

「ええ、私たちがお互いにやるよと言っているだけです」

「……………えー……じゃあ、私が飲む?」

「どうぞどうぞ」

「君らホントよくない学習の仕方するよねえ……」


 まあ、ウルウが言い出したことだしね、この様式美。

 小さめの硝子(ガラス)の酒器に注いでみると、透明感のある鮮やかな赤色。

 見た目はきれいだ。香りもいい。混ぜ物もなさそうだし、普通のお酒としても悪くなさそう。


「さ、ちゃんと見ててあげるから安心して飲みなさいな」

「ちょっとずつ試しましょう。飲む量で変わるかもしれません」

「君たちの慣れてる感じがもう、辺境の治安の悪さを思わせるよね」


 まあ、内地では滅多に見ないような何が起こるかわからない博打みたいな品が平然と横行してるし、あんまり間違ってもいないと思うわ。

 最近内地で流行っているっていう「幼馴染がある朝突然女の子になっちゃってドキドキわちゃわちゃする話」とかも、辺境だと割と普通にあるのよね。

 宴会で酔いつぶれて起きたら女になってたとか男になってたとかブツだけ入れ替わってたとか。

 ああいうのって、すぐ駆け込める神殿があるからこその博打よね。


「じゃあいただくけど……味は普通、かな。ワインあんまり飲まないからあれだけど」

葡萄酒(ヴィーノ)は当たり外れ大きいですから、普通に飲めるだけでも当たりの方では?」

「んー…………あ、でも、酔いが回るのは早いかも……?」


 舐めるようにちびちびやっていたウルウの頬がうっすらと赤くなった。

 本人も酔いが回ってるのを自覚しているみたいね。ちょっと揺れてる。

 ウルウは特別酒に強いってわけじゃあないんだけど、身体がおっきいからなのか、毒耐性的なものなのか、普段はこんなに早く酔わないのよね。


 うたい文句である『あの子のまだ知らない新しい一面を見せてくれます』ってのは、すぐに酔っちゃってべろんべろんになる、ってことなのかしら。


 ぐい飲みに半分くらい飲んだウルウはもう真っ赤だった。

 いつもねむたげっていうか目つきの悪い目元が、とろんとしてかわいい。


「ええと……ウルウ、大丈夫ですか?」

「んん……? あはは!! ぜんぜん大丈夫だよ!! げんきげんき!!」

「!?」

「!?」


 心配してリリオが声掛けたら、返ってきたのは「ぺかーっ」とした満面の笑みとリリオ張りのクソデカ返事だった。

 それはもう説明不要の異常事態だった。あたしもリリオも思わず身がまえたくらいよ。

 嫌そうな顔か、まあそんな嫌でもなさそうな顔か、面倒くさそうな顔か、たまの微笑みくらいしか見せないあのウルウが、身長差ありすぎる上にあんまり声張らないからいつも屈んだりしてるあのウルウが、無防備無警戒の全開の笑顔で口開けて笑ってる。何がツボったのか歯茎と舌みせて馬鹿笑いしてる。なんかちょっとえっちだってあたしが混乱したのもこれは仕方ないと思う。


「これ、は……ものすごく酔っぱらうとか、笑い上戸になる、ということでしょうか?」

「笑い上戸たって、いくらウルウが笑ってもこうはならないでしょ。もっとこう、含むみたいに笑うじゃないこいつ」

「あれはあれでかわいいしなんかちょっと色っぽいですよね」

「わかる。わかりみよね」

「わかりみ深いですよね」

「でも歯茎みせて馬鹿笑いしてるのもえっちじゃない?」

「それはちょっとわかんないですね」

「急に裏切られた……」


 あたしたちがクソデカ声で馬鹿笑いするウルウと言うもはや真昼の怪談みたいな存在にうろたえていると、ウルウはいつものぬるりとした気持ち悪い挙動であたしたちに迫り、ふたりまとめてぎゅうと抱きしめてしまった。おっぱいでおぼれる!


「ちょ、ちょ、なによ急に!」

「トルンペートかわいいね!」

「あ゚!?」

「いつもおすましで猫みたいでかわいいよね! 大好きだよ! たくさん甘えて欲しい! あと甘えたい! おっぱいおっぱい言うけどいつもお尻見てるのもかわいいね! いつも嫌って言うけどもっと押してくれたら仕方ないなあって言えるのにっていっつも思ってるよ!」

「に゚ゃ゚あ゚ーッ!?」

「トルンペートが壊れました! でもウルウの方が壊れてますねこれ!?」

「リリオ好きー!」

「おっとぉ!?」

「好きだよ、好き! 大好き! かわいい! かっこういい! 食べちゃいたい! でも食べたらなくなるのやだー!」

「解釈違い! 解釈違いですよこれ! でもこれはこれで! これはこれでってこういうことなんですね!」

「ようやくこの境地までたどり着いたようじゃな……」

「トルンペート老師がおっぱいに埋もれてる!」


 ウルウは信じられないくらい上機嫌で好き好き言いながら、あたしとリリオに交互に口づけたり、髪に顔をうずめて「今日はちゃんといいにおいするね」とか言ったりする。きれいに洗った後じゃないと露骨にお断りされたりするから大事だ。


 あけっぴろげで陽気なウルウはもはやウルウではないというかほんと解釈違いなんだけど、それはそれ、これはこれよ。正反対のウルウを感じることで、新鮮さと驚きが胸にザクザク刺さると同時に、普段のウルウとの違いがかえってウルウの本質を浮き彫りにして魅力を再確認できるわけよ。

 っていうのをおっぱいにおぼれながらあたしは念仏のように考えてた。こいつは酔ってる。酔ってるのよこいつはってずっと自制してた。

 好意をまっすぐ向けてきてちゅっちゅしてきてるんだからもうこれはそういうことでしょってあたしのムラつきは言うけど、さすがに酔っ払いに手を出すのはダメだ。素面になったら手を出すから覚悟しときなさいよ。


 などとあたしがムラムラと戦ってたら、ウルウは急にすんと黙り込んだ。

 そしてあたしたちをそっとはなすと、するすると音もなく部屋の隅にいき、壁に向かって膝を抱えて座ると、外套を頭からかぶって閉じこもってしまった。


「あっ! 効果が切れてしまった……ってコトですか!?」

「しまった、もっと堪能しておけば……ほらウルウ、まだあるわよ! 飲みましょうよ!」

「ぜっっっっっっっったい、嫌」


 ウルウは、含羞(がんしゅう)の人だったわね、そういえば。

 プルプラ様印の葡萄酒(ヴィーノ)は、まだ二人分残っていた。

用語解説


・プルプラ様印の葡萄酒(ヴィーノ)

 飲むと飲んだ量に合わせた時間分、性格が逆転する。

 陰気なものは陽気に、ひねくれものは素直に、勤勉なものは怠け者に。

 一杯飲めば五分、二杯飲めば十分、三杯飲むと一生。

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― 新着の感想 ―
基本的に内に秘めるし普段言ってないことやってない事を言ってやってるだけだこれ!なお当人の記憶は残るの酷いねさすが混沌の神 それはそれとして一生分で売ってるの怖…
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