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異界転生譚 ゴースト・アンド・リリィ  作者: 長串望
第十五章 竜囲い

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第四話 亡霊と対竜最終防衛線

前回のあらすじ


すごかった(三回目)。

男爵から冬の装いを贈られ、いざ臨むは対竜最終防衛線モンテート。

 すごかったすごかったってさんざん言ったけど、竜車に乗り込む頃には私たちはいつもの私たちになっていたように思う。

 というか、結局のところ、私たちは私たちでしかなかったというか。


 私は竜車に乗り込むなり早速げんなりし始めたし、トルンペートは毛布用意してくれたし、リリオはいつものいい声でどうでもいいおしゃべりして気を紛らわせてくれるし。


 そりゃ、朝はまあ、ぎこちないところもあったし、気恥ずかしかったけど、いつもの面子で、いつものことしてるんだから、なんとなくいつも通りの空気になって、結局いつも通りやっていくんだよね、

 別にいつもと違う話するわけじゃないし、バカップルみたいにいちゃいちゃしだすわけでもない。そうしたいとも特に思わない。


 ただ、少し距離感が変わったっていうのかな。

 溝ができたとか、そういうわけじゃないんだけど、でもまあちょっと、クッションの綿が寄ってしまったようなすわりの悪さがあって、でもそれはそんなに悪いものでもなくて、なんだか変な気持ちだ。


 竜車の飛行が安定して、私もなんとか会話できるくらいになって、私たちはいつも通りに下らないお喋りをした。しようとした。してるつもりっていうか、うん。

 いつも通り、普段通りを気にかけるように、装うように、全員が全員そんな風にふるまっているようではあった。


 私も朝みたいにぴりぴりしてないし、トルンペートもそわそわしてなくて、リリオだってにやにや笑いはひっこめた。

 でも、まあ、うん。

 やっぱりまあ、 ちょっと落ち着かない。


 私たちの関係は変わってしまったけれど、でもそれはいままでの関係がなくなったわけじゃない。

 私たちは相変わらず友情を持ち合わせていたし、姉妹のように思う気持ちもあったし、冒険屋仲間としての仕事意識も、ちゃんとある。

 そこに、今までになかった属性が、突然、ちょっと増えただけだ。


 まあ、そのちょっとだけが、見えないところ、気づかないところで少しずつ違和感になって、つまずいたみたいに戸惑っている、のかもしれない。

 私が雪道の歩き方にまだ慣れないように、それはきっといつか自然なものになる、のだろう。

 なってくれないと、困る。


 私だけじゃなく二人も、同じようなことを考えていたようで、暇つぶしにポーカーなんかしてる間も、気が付いたらなんだか目があっていて、私たちはなんだか照れ笑いしてしまった。

 それは、やっぱりなんだか少しぎこちなくて、それから、やっぱり悪くない気持ちだった。


「うん、やっぱり、私たちには急すぎたかもしれませんね」


 リリオが吹っ切るように笑った。


「まあ、あんまり突然すぎたからね」

「事故みたいなもんだったものね。事故では済まさないけど」

「それは勿論、まあ、今後の『交渉』次第ってことで」

「えーっと、それはつまり」

「辺境の蛮族式交渉は嫌だからね」

「ウルウって恋文とか交換日記とかする感じなの?」

「うっさい」


 ただもう少し普通の付き合いを続けたいと言うだけだ。

 そりゃ、あんなことしちゃったから、何が普通かって言うとあれだけど。

 そんな私の複雑なのか面倒くさいだけなのかわけわかんないメンタルを酌んでくれたわけじゃないだろうけど、リリオはただ柔らかく微笑んだ。


「私たちは、私たちなりのやり方あり方を、少しずつ見つけていけばいいと思いますよ」


 そう締めくくるリリオは、なんだかとてもすっきりしたような、いいこと言ってやったみたいな笑顔だけど。


「はいフラッシュ」

「ストレートフラッシュ」

「……役なし(ブタ)です」


 順当にぼろ負けしていた。


 その後も予定調和と言わんばかりにリリオをぼろっくそに負かして小遣いを巻き上げたのだが、まあ、なんだ。悪くないよ、やっぱり、こういうのは。

 私も、リリオも、トルンペートも、別に変っちゃいない。変わっちゃあいないんだ。

 ただ少し、ほんの少しだけ、私の中にある二人が、二人の割合が、増えたって言うだけなのかもしれない。属性のタグ付けが、一つ二つ増えたって言うだけかもしれない。

 それで、それでさ、そのタグが、今まで使ったことのないやつで、ちょっと扱いに困ってるんだけど、でもまあ、そのうち、なんとなく馴染んでいくんじゃないかって、そう思う。今は自然と、そう思える。


 変なのって、自分でも思う。

 ほんと、変な気分だ。

 以前の私なら、誰かとの関係が変わるのって、苦痛だった。

 何も変わらないでほしかった。

 生きているのがしんどくて、死んでいくほどの気力もなくて、楽しくもないような人生を、それでもこのまま続いてくれって、変わらないでくれって、そう祈ってた気がする。


 変わることは怖いことだ。

 自分が変わることも、周りが変わっていってしまうことも。


 選択肢はいつもはいかいいえだけの二択であってほしかったし、いつも同じものを選ぶ実質一択であってほしかった。

 生きていくことは変化の連続で、死ぬことさえ大きな変化で、いつだって怯えていた。

 見ないふりして、知らないふりして、死んでないだけで生きていないような、当たり障りない人生を生きてきた。


 でも、今はさ。

 今は、昔ほど怖くない。

 おっかなびっくり歩いてたら、馬鹿みたいに笑う声が聞こえるから。

 それもまあ、悪くないかな、なんて。

 そんな風に思うのだった。


 まあ、そんな私のポエティックモノローグは誰に聞かせることもなく、朝食と胃液がブレンドされた虹色に規制されるだろう乙女塊とともに窓から不法投棄された。

 空からの嘔吐は不思議な解放感と爽快感といつもの不快感とがあるけれど、真似するのはお勧めしない。吐かないに越したことはないのだ。


 私がトルンペートにお腹をさすられながらリリオの子供っぽいけど心地よい声を聴いてなんとか人の形を保っているうちに、竜車は目的地にたどり着いたようで、マテンステロさんのアナウンスとともに容赦なく激しい揺れがおろろろろ。


 相変わらず乱暴に竜車が着陸し、ようやく私はふわふわしない足場を得た。

 二頭の飛竜が着地する音がそれに続き、私は二人の力を借りてなんとか身だしなみを整えた。

 死にそうな顔はもうどうしようもないとして、せめてぼさぼさの髪はどうにかして、あと水で口もゆすいでおきたかったのだ。


 今更《隠蓑(クローキング)》で隠れようとは思わない。

 どうせ強制イベントなんだから腹をくくって精々楽しむとしよう。


 竜車を降りた先は、カンパーロの竜車場とはまた趣が違った。


 まず、クッソ寒い。

 寒さに体を慣らしていこうと思って《ミスリル懐炉》はしまっておいたんだけど、後悔するレベル。

 男爵さんにもらったもこもこ毛皮の上下とかのおかげで死ぬほど寒いとまでは言わないけど、さらしてる顔面が凍り付きそうだ。

 フード被りたい。かぶって前締めきって閉じこもりたい。さすがにそうもいかないけど。


 この寒さは、単にカンパーロより北だとかそういうことだけではなく、標高の違いがあるんだろう。

 モンテートというのは山にへばりついた領地らしく、子爵の屋敷というか城もその山のただなかにおっ建てたものだそうで、つまりここは冬の北国の山の上なのだ。

 そりゃ寒い。

 そして空気が薄くてちょっと息苦しい、気もする。

 今回竜車乗るときに、「慣らしとかないといけないから」とか言って気圧調整する仕掛けを止められてた時点で嫌な予感はしてたけど、さては結構な標高あるなここ。

 この便利ボディでなければ結構きつかったと思う。


 で、竜車場の造りは、カンパーロではほとんど雪の上に塗料で線引いただけの広場みたいだったけど、モンテートの竜車場は丁寧に雪かきされて、石畳かな、地面が見えているのだ。私にはよくわからない標識や停止線みたいな模様も書いてある。

 すっかり日も暮れているけれど、かなり強い光源がいくつも、高所から照らしていた。

 見上げれば、人工光じみた白い光が、金属製の細い柱の先で輝いている。

 確か輝精晶(ブリロクリステロ)とか光精晶(ルーモクリステロ)とか呼ばれてる珍しい精霊晶(フェオクリステロ)だ。

 それを惜しげもなく使った照明が、等間隔で並んで、広々とした竜車場を照らしているのだった。


 降り立った私たちを迎えたのはやはり儀仗兵たちだったけれど、こちらもカンパーロとはまた違う。

 カンパーロの出迎え儀仗兵たちは、飛竜革の鎧を着た騎士という感じだったけど、モンテートの儀仗兵たちはみな、マテンステロさんの着てる飛行服のようなスタイルなのだ。

 マテンステロさんのものと違って、鮮やかな赤の飛竜革でできていて、胸甲などが施されて鎧に近い感じだ。造りもしっかりしていて、成程これが飛竜に乗っていたら格好よさそうだ。

 まあ、マテンステロさんのはこれを参考に南部で手に入る素材で作ったものだから、見劣りするのも仕方ない話ではある。


 儀仗兵たちで驚いたのは、飛行服だけでなく、掲げた武器もだった。

 カンパーロではそれは槍だったけど、飛竜乗りたちが掲げるそれは、どうにも、見覚えがある。

 それもこの世界ではなく、生前の話だ。

 それはどう見ても銃剣に見えた。あの、銃の先っぽに刃物がついたやつ。

 私は銃の類にはあんまり詳しくないのでよくわからないけど、テレビで見た猟銃とかみたいな形状だと思う。素材は何かわからないけど、飛行服に合わせてか赤く塗装されている。


「……銃あるんだ、この世界」

「ああ、投射器(パフィーロ)ですね。良く知ってましたね、ウルウ」

「うーん……私の知ってるのと同じかどうかはわからないけど」


 まあでも、あれだけ形状が似てたら似たような用途の武器だとは思うけど。

 機会があれば調べてみよう。


 歓迎の楽団もカンパーロみたいに華やかな感じじゃなくて、規律の整ったマーチング・バンドって感じ。曲調も勇ましいもので、力強い。

 雪が降っていないとはいえ、この極寒で演奏できるって言うんだから、楽器も演奏者もタフだ。

 金管楽器なんか、下手すると呼気が凍り付いて唇はがれなくなるんじゃなかろうか。それ以前にこの空気の薄さでよくまあその肺活量維持できるものだ。

 エクストリーム・マーチング・バンドかよ。


 そんな盛大なお出迎えの中心人物が、モンテート子爵バンキーゾ・マルドルチャであるらしかった。

 子爵さんは顔にすっかりしわの刻まれた高齢のようだったけど、私と同じくらい背は高く、がっしりとした骨太の体型だった。筋肉も太そうで、しわ以外はまるで老いを感じさせない。

 雪国なのに随分日焼けしてると思ったけど、あれは雪焼けとやららしい。


「よく来た!」


 野太い声が力強く響く。

 言葉を飾らず、率直に端的にものをいう人のようだ。


「久しぶりだなマテンステロ! 息災のようだな!」

「ええ、お久しぶり。爺様も元気そうね」

「無論だ! おお、リリオ! 帰ったか! お前は相変わらず小さいな! 縮んだのではないか!」

「むがー! 少しは大きくなりましたよお爺様!」

「むわっはっはっは! 愛い奴め! おお! 武装女中のチビも生きておったか! 長生きしろよ!」

「閣下はそろそろご勇退召されては」

「相変わらず生意気なことよ! 善哉善哉!」


 実に豪快に笑い、実に豪快に肩を叩いては再会を喜ぶ子爵さん。

 身体もでかいけど、耳が遠いからなのではと疑うほど声もでかい。

 なんというか、いよいよ蛮族らしい蛮族が出てきたなって感じ。


 そしていよいよ私の番になったのだけど、なんか威圧感がすごい。

 身長あんまり変わらないから見下ろされるわけじゃないけど、圧迫感がすごい。

 あと顔が怖い。


「フーム。それで、貴様が婿殿か!」


 またその流れか。

 マテンステロさんほんと余計なことしかしないな。

 しかしまあ、もはや否定もできない既成事実があるわけで、ここは粛々と、


「成人したてのリリオを傷物にしたからにはわかっとろうな!」


 ああん?


「ひょろっこいナリしおって、まだ公界(くがい)ン立たん、あずないリリオばだまくらかしてぎゃんにやがっとろう、ぬしゃ! かー! わしゃ、ぬしゃんごつおどくさか女がいっちょん()ーかん! くそごうわく!」


 なんか、えらい勢いでまくしたてられている。

 興奮しすぎてお国言葉が出てしまっているので何と言っているのかはわからないけど、これで褒め称えられているってことはないだろう。

 いまにも殴り掛かってきそうな剣幕に、お付きの人が抑えにかかり、リリオとトルンペートも顔色を変えたけど、私はそっと制止する。


 リリオの関係者にはご挨拶行脚する羽目になるだろうと思っていたけど、さすがにこの扱いは、頭にくる。


「傷物だって?」

「おーそがじゃ! わしゃ聞いとぉぞ! 小僧ン屋敷でこんげちゃんこか娘っ子に、」

「──傷物にされたのは私だ!」

「──あア?」

「こちとらその娘っ子に二十六年物の処女膜ぶち破られて泣かされてんだぞ訴えたら勝つからな!」

「な、なに? なんじゃとォ?」

「その通りでございます。面目次第もありません」


 トサカに来た勢いで逆切れすれば、爺さんは目を白黒させて狼狽えた。

 謝罪会見じみて死んだ目で犯行を認めるリリオに、爺さんは形容しがたい顔で固まった。


 冷え切った石畳に、貴重な辺境貴族の土下座が披露されたのだった。

用語解説


輝精晶(ブリロクリステロ)

 光精晶(ルーモクリステロ)とも。非常に希少な光の精霊の結晶。古代王国の遺跡には、どういった手法で集めたのかこの結晶が多くみられる。


投射器(パフィーロ)(Pafilo)

 小銃のような見かけの兵器。

 火薬の代わりに魔力で爆発を起こして銃弾を撃ち出す、または魔法そのものを撃ち出す火器。

 ここでは魔法を撃ち出すもの。

 強い指向性を与えることで、通常の魔法より射程や威力が向上する傾向にある。

 ただし帝国で実用化されているのは大砲サイズで、魔導砲と呼ばれるもの。

 銃のサイズだと気軽に装填できる実包や魔法式が用意できず、使用者は自前の魔力を流し込んで自分の魔法に指向性を持たせるという、魔法の発動媒体として用いなければならない。

 実質的に高い魔力を持つ辺境人の専用武器と化している。


・モンテート子爵バンキーゾ・マルドルチャ(Bankizo Maldolĉa)

 すでに老境に達しているが、バリバリ現役の武闘派。

 いかにも肉弾戦が得意そうな見かけだが、当代一の飛竜乗りでもある。


・雪焼け

 雪に反射した日光で強く日焼けを起こすこと。


・「ひょろっこいナリしおって、まだ公界(くがい)ン立たん、あずないリリオばだまくらかしてぎゃんにやがっとろう、ぬしゃ! かー! わしゃ、ぬしゃんごつおどくさか女がいっちょん()ーかん! くそごうわく!」

(意訳:「筋肉もついておらず弱そうな姿をして、まだ世間知らずで、幼いリリオのことを騙してとても調子に乗っているだろう、お前は! かー! わしはお前のような生意気な女が一番嫌いなのだ! とても腹が立つ!」)


・「おーそがじゃ! わしゃ聞いとぉぞ! 小僧ン屋敷でこんげちゃんこか娘っ子に、」

(意訳:「おお、そうだ! わしは聞いているぞ! 小僧(注:モンテート男爵)の屋敷でこんなに小さな娘に、」)


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