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異界転生譚 ゴースト・アンド・リリィ  作者: 長串望
第九章 静かの音色

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第七話 白百合と錬金術師の館

前回のあらすじ

いかにもやばい液体を飲ませたところペラペラしゃべるようになってくれたぜ。

 町役場でお話を伺った後、私たちは早速、一年前の落雷で亡くなったという錬金術師の館を訪れました。


 館は、いろいろ実験をするからでしょうか、町の中心から外れた郊外にぽつんと立っていて、どこか寂しげではありましたけれど、お庭も広いですし、造りも立派なもので、北部でしたらちょっとした貴族の別荘として普通にありそうな具合です。


 こういう感じの言い回し繰り返していると、本当に北部って簡素なんだなって思われるかもしれませんけれど、仕方ないんです。北部も辺境も、雪が恐ろしく降り積もるので、装飾が多いとその部分が雪害で壊れて、どんどん損傷が侵食して家一軒つぶれるくらいは訳ないんです。


 ぶっちゃけ辺境の実家も、毎年冬が来るたびにどこかしら彫刻やら装飾やらがやられるので、そのたびに修繕してもらってるくらいです。代々受け継いでるものじゃなかったら、もっとのっぺりした壁にでもしてやるからなって、毎年父がぼやいているくらいです。


 どのくらい積もるか想像できます?

 正面玄関は死守するとしても、裏口なんかは完全に埋まって、下手すると二階とか三階から出入りするのが普通です。


 なので、勿論最低限の装飾というか見栄えはありますけれど、東部のようにあまり細かい装飾ができないというだけなんです。

 北部や辺境の建物もきちんとした造りをしていますし、見れば感心するような装飾もあるんです。ただ、東部が優美すぎるというだけで。


 何しろ東部って平和な時代が長いので、戦争で壊されたものとかも少なくて、古い時代の装飾が残っているって言うのも大きいですよね。


 何の話でしたっけ。


 そうそう、錬金術師の館です。


「……見た感じ、そこまでエキセントリックではないな」

「えきせん?」

「突飛な造りではないね」


 そうですね。

 妙な実験をしていたとかいうのでなんかこう、もっととげとげしていたり、もっとまがまがしかったり、妙な機械が積んであったりとかそう言うのを想像していたのですけれど、全然そう言う感じではありません。

 ヴォーストの錬金術師街なんかまさにそんな感じでしたね。河に毒々しい色の液体垂れ流してるような、そんな感じの。


 でもこの館はそんなことがなくて、むしろ庭木なんかもよく手入れされていて、小綺麗な感じです。


 実際、東部らしい造りというか、美的景観にこだわった実に立派な館で、年を取ったら東部に住みたいという人の気持ち、よくわかるなあ、とそう思わせるような具合です。


「……住所、間違えてないですよね」

「いや、他にないしなあ。ほら、門扉にも売り出し中の看板ついてる」

「本当ですね」


 これだけ立派な建物なのですぐに買い手もつきそうなものですけれど、やはり郊外というのがネックですね。馬車とか持ってないときついですもん。それに錬金術の実験で汚れたり改造されたりしてる部分を修繕して、とかそこらへんも込みで考えると結構お高そうですし。

 つまり実際貴族か、結構なお金持ちの商人とかでもないとなかなか手を付けられない物件になっちゃうわけですかね。


 それに、仮に錬金術師が亡くなってすぐに異変が起き始めたとしたら、その後ほどなくして街の人々はそれどころではなくなっていたことでしょうし、買い手がつかなくても無理はありません。


「まあ考えていても仕方がありません。とりあえず、日が出ているうちに下見してしまいましょう」

「待って」


 私が早速門扉に手をかけると、ウルウが珍しく鋭く私を制しました。

 もしやウルウ独特の鋭敏な感覚を持って何かしらの危険を察知したのでしょうか。


 私が振り向くと、ウルウはもっともらしく頷いて、こう言ったのでした。


「一応ここ売家だし、勝手に入ったら不法侵入にならない?」

「……あー」


 成程、もっともです。

 実にもっともなんですけれど、この期に及んでそれ言う?みたいな感じではあります。


「考えてもみようよ。ただでさえ亡くなった人の家に侵入しようっていうだけで祟られそうな雰囲気あるところに、不動産屋からもいちゃもんつけられたらたまったものじゃないじゃない。そこらへんは万全に下準備してからでも遅くないと思う」

「あたしもウルウに賛成。それに、もしかしたら昼間に入っても何も出ないかもしれないし、夜になってからでもいいんじゃない?」


 うーん、トルンペートにまで言われると、さすがに私も折れざるを得ません。ちょっと突っ走りすぎたかなと言われれば、そうかもしれませんし。


 私がしぶしぶ了承すると、慰めるようにウルウが頭をなでてくれました。


「まあ、そんなに急がなくても、多分ここで間違いないよ」

「どうしてわかるんですか?」

「ここが東の端だから」


 そう残して早速不動産屋にむかう背中を追いかけながら、私は少し考えました。


 東の端にある館……そしてはっと気づきました。

 そうです、ここは東の端なのでした。

 町で一番先に夜が訪れ、一番先に夜が明ける立地。

 町の西が夕暮れでも、まず真っ先に夜闇に包まれ、そして朝日が最初に差し込む場所なのでした。

 それは、不思議な音色が聞こえ始め、そして消える時間と同じなのでした。

用語解説


・不法侵入

 誤解されることも多いが、ファンタジー・イコール無法ではない。

 帝国は帝王を頂いてはいるが、列記とした法治国家である。

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