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異界転生譚 ゴースト・アンド・リリィ  作者: 長串望
第八章 旅の始まり

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第七話 亡霊と白髪妃

前回のあらすじ


アルプスの家で食べそうなご飯を頂いた。

そしてブランクハーラの逸話を聞くのだった。

 ブランクハーラ家とかいう、八代続けて冒険屋なんかやっているという恐ろしい血統が明らかになったわけだけれど、ついでに言うとそこに辺境人とかいうサイヤ人みたいな血筋が入っている劇薬毒物な組み合わせってことも明らかになったわけだけれど、まあそれで私の知っているリリオが別人になるというわけでもない。


 まあ、リリオがどうしてこんなに小さな体でもあそこまで強いのか、そしてまたどうしてそこまで冒険屋にあこがれるのかという理由は何となくわかったような気もする。


「リリオのお母さんも確か、冒険屋なんだったよね」

「そうですね、もともと母は冒険屋として、依頼を請けて辺境にやってきたんでした」


 何事も力がなければ解決できない辺境人が、外部の冒険屋に依頼することは、そんなに多くない。大抵のことは内部で解決してしまえるからだ。

 その辺境人が依頼することと言えば決まっている。


「…………海産物?」

「そうなんですよ。辺境って、海と面してないんですよね」


 湖などはあるらしいけれど、やはり、海のものとは違う。

 内陸地である辺境にとって、一番の贅沢というものは、やはり海産物であるらしい。

 力がすべてである辺境でも、やはり権力というものも一つの力であるらしく、当時まだ当主として日の浅かったリリオのお父さんは、箔付のためにも、就任祝いとして南部の海産物を用いたパーティを開こうとしたらしい。


 海産物、それもできれば生の状態で、という難しい依頼を請けたのが、当時南部で冒険屋をしていたリリオのお母さん、マテンステロさんだったそうだ。

 干物など加工品ならばという冒険屋は多くいたけれど、生で持っていけると宣言できたのはマテンステロさんだけだったという。


 それというのも、彼女が優秀な魔法の使い手で、海産物を上手に凍らせてほとんど生と変わりない状態で保存することができたというのが一つ。そしてもう一つは、従兄妹のメザーガという使い勝手のいい子分がいたことだった。

 当時まだ開拓したばかりであった南部からヴォーストまでの運河便を用いて、ご自分で風を操ってとにかく急がせ、特急便で海産物を届けに行ったらしい。


 そしてヴォーストから辺境まで自前の馬車で駆け抜けて、見事にリリオのお父さんの就任パーティを成功に導いたことが出会いのきっかけだったそうだ。


 リリオのお父さんも、正直あまり期待していなかったところに、予想以上の成果をもってやってきた冒険屋にいたく感激し、ぜひとも当家の専属にとお願いするほどだったらしい。


 しかしブランクハーラ家の人というのは奔放なようで、ひとところに縛られるのを嫌って、マテンステロさんはこう条件をつけたんだそうだ。


「私は自分より弱い人の言いなりになるつもりはないわ。私に一太刀でも浴びせられたら考えます」


 なんだかイメージしてたよりずいぶん過激な発言をする人だけれど、宣言に従って一太刀浴びせることに成功したお父さんのプロポーズを受けて、ついにマテンステロさんは膝を折って結婚することに決めたらしい。

 これだけ聞くとあっさりとしたロマンスだけど、実際にはなんと一年間も毎日挑んで、ようやく勝ち取った勝利だったらしい。お父さん余程情熱家だったみたいだし、付き合ってあげたマテンステロさんもまんざらではなかったのかもしれないね。


「母は寒いのが本当に苦手で、冬の間ははぐれ飛竜でも出ない限り暖炉の傍から動こうとしない人でしたから、夏も涼しい辺境に一年も滞在して挑戦を受けたっていうのは、つまりそう言うことだったんじゃないでしょうかねえ」


 そんな情熱家な夫婦の間に生まれたのが、リリオとそのお兄さんであるティグロだという。ティグロは二歳違いで、今は十六歳だとか。


「兄は髪も白くありませんし、どちらかというと父親似ですね。当主にも兄の方が向いているのは確かです」


 さて、そんなお母さんが亡くなったのが、リリオが十歳の冬だったそうだ。


「実際には、私は母の死に目には会えていないんです」


 その冬、季節外れのはぐれ飛竜が出たのだという。飛竜にも季節ってあるんだね。まあ、どんな生き物でも冬は嫌いか。

 まあ、その季節外れの飛竜が出たと聞いて、真っ先に剣を取ったのがマテンステロさんだったという。


「母はいつも暖炉の前で凍えているような、大人しい人でしたけれど、飛竜が出たとなるや誰よりも早く駆け付ける、勇敢な人でした」


 しかし、それがいけなかった。

 勇敢さは時に無謀とも似ている。

 マテンステロさんは僅かな隙をつかれ、飛竜に一呑みにされてしまったのだという。お父さんや兵士たちもすぐに飛竜を倒してマテンステロさんを助け出そうとしたらしいのだけれど、飛竜はすぐに飛び立ってしまって、結局その行方は知れないそうだ。


「じゃあ、リリオはその時以来」

「そうですね。母がなくなってしまってからは、トルンペートと父と兄と動物多数だけが私の心の支えでした」

「思ったより多いな心の支え」

「数も大事ですけど、質も大事です」

「リリオはお母さんっこだったからねえ」


 今もまだ少し寂しくはあるそうだった。

 けれど、たくさんの人に慰められ、いまはもう悲しくはないと。


 そのように告げるリリオの横顔を、私は誇りに思う。

用語解説


・マテンステロ(Matenstelo)

 リリオの母親。南部の冒険屋一族ブランクハーラの生まれ。

 冒険屋としては非常に優秀で、魔法も使え、近接戦闘もでき、飛竜とも渡り合えた。

 辺境人でないものが辺境人と同等以上に戦える、という数少ない例外存在である。



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