現実世界
理音はひとまず立ち上がってみた。自由に動けるようだった。楽也は理音の手をとって説明を始めた。
「簡単に言えばこの意識世界が嘘遣の世界だよ。俺ら嘘遣はこの意識世界で動いてる。名前のまんま意識のみで形成された世界だよ。だから…ほら、こんなこともできる。」
楽也はそういって軽く三メートルほどジャンプをしてみせた。理音も恐る恐る跳んでみたが、一メートルにも達しなかった。
「怖がってたらだめだ。自分がどのくらい跳ぶのかをイメージしなきゃ。」
理音は試しにニメートルくらいの跳躍を想像して跳んでみた。すると理音の体はちょうどニメートルくらいまで跳び上がり、普通に落下を始めた。理音は落下することまで考えてはいなかった。地面に落ちた瞬間周囲の霧がもわっと立ち込めた。理音の予想に反し体は衝撃も痛みも受けなかった。
「ここでは体は実体を持たない。要は衝撃とかの物理的ダメージはないんだよ。」
理音はをれを聞いて納得した。それを見た楽也がさらに続けた。
「ここでのことをざっと説明しよう。ここにいる俺らの体は意識だけだ。だから現実世界でではありえないほどの身体強化が可能なわけだ。残念ながらそれ以上のことはできないけどね。」
理音は楽也に連れられて歩き始めた。
「教えることはたくさんあるけど、出口のことからだね。出口はゲートと呼ばれていて、時空の裂け目みたいな感じだよ。見えないけど。俺の姿が急に見えなくなってもついてこいよ。今日は帰るだけにするから。」
それからどのくらい歩いただろうか。同じ景色を延々と見続けた気がする。気がつくと理音の前から楽也の姿は消えていた。理音はさっきの楽也の言葉を思い出し、そのまま歩いた。急に辺りを光に包まれ、眩しさに思わず目を閉じた。
目を開け、なぜか伏せていた体を起こすと楽也くんの家だった。
「よお。無事に戻ってきたか。」
真司が理音に気付き声をかけ、楽也を呼んだ。楽也は手にマグカップを持って現れた。理音の前にもりんごジュースの入ったしマグカップが置かれた。理音はジュースをマグカップにいれるのかと思ったが、口は挟まなかった。席に着くと楽也は話の続きを始めた。
「意識世界との行き来はいくつかの条件が揃うと発生するんだ。気づいた?」
理音は考えた、が結局わからなかった。
「あっちに行く時の条件は三つ。目を閉じること、意識世界を意識すること、目標を定めることだ。何について意識するかで意識世界のどこに着くかが変わるんだ。帰るには目を閉じて、ゲートを通ればいい。ゲートが見つかればだけどね。」
真司が楽也の言葉を継いだ。楽也は言いたかったセリフを真司に奪われたような気がしていた。
「まぁ、ほんとはもっと複雑なんだけど、それは追ってあっちで体験しながらわかるよ。あ、あっちにいる間はこの体は抜け殻だから使用場所と時間は考えてね。こうやって見張りをつけるのもありだし。」
と、いうことは自分の体はここでずっとグッタリしてたということになるのだろうかと理音は思った。
「誰が見張りだよ。」
楽也の言葉にすかさず真司は笑いながら返した。なんだか理音も笑えてきた。なんだかホッとしたのか眠くなってきた。体の疲れはないが、頭は疲れていた。
「家に帰ったら寝てもいいけど、考えるなよ。またあっちに行くことになるからな。」
理音はなんだかぼんやり聞きながら、コクリと頷いた。二人に別れを告げると家に戻って、ベッドに身を投げ出した。夏休み一日目。何だか大変だった。今年の夏は忙しそうだ。そんなことを思っていたが、やがて考えるのをやめ、眠りに落ちた。
今回は新たな登場人物はいないため、登場人物紹介はお休みです。