プロローグ
「もしも、願いが一つだけ叶うなら――何をお願いしますか?」
白い雲が波の飛沫のように煌く青いの下、優しい海の色をした女の子の髪が風に吹かれてふわりと揺れ、恥ずかしそうに、けれど少し嬉しそうに……ふにゃりと力なく愛らしい笑顔で微笑みかける。
嬉しいときは心から笑い、悲しいときは心から涙を流す。素直で純粋な彼女の笑顔を見ると、自分も満たされたように思わず自然と笑顔になっていた。
――忘れるな、と記憶が叫ぶ。
あの彼女の笑顔を。幸福に満ちたあの表情を。
「――っ」
焼けるような痛みが全身を走る。
傷口から流れ落ちる生暖かな感触が、動くたびに悲鳴をあげる両足が、現実を、今を鮮明に伝えている。視界には赤色に彩られ、元は生命が宿っていた亡骸の舞台を楽しそうに踊る黒髪の女の子が映っていた。
その狂った姿はなんて美しく、悲しいのだろう。
黒髪の彼女は嗤う。それが正しい姿、あるべき形だとでも言うように。
だが、そんな姿を彼女と過ごした時間が否定する。
「――笑えてないじゃないか」
これが彼女の望みだとは思えない。
彼女が望んだものは――もっと幸せな未来だったはずだ。
「これがあいつの望みなのか?――答えろ、レイ!!」
「――……」
レイと呼ばれた黒髪の少女は静かにその声の主を見据え、彼を拒むように、ナイフのような鋭い視線を向け敵意をあらわにした。……が、それでも彼はやめようとはしない。諦めるわけにはいかなかったのだ。
彼女とした約束を果たすまでは――決して。
「……諦めが悪いんですね」
知っていたけれど……と鼻で笑う。その顔は楽しそうで――どこか寂しそうだ。
「さ、もう始めましょう。――これが最後の……」
「最後じゃない――始まりだ」
燃え盛るような赤い夕焼けが沈み、深い闇に包まれた世界を月が静かに照らす。
魔力が弾ける音が、銃声が、金属の擦れる音が遠く響き渡り……永遠に感じた時は終わりを迎える。
――もしも願いが一つだけ、一つだけでも叶うなら。
それは自分のためではなく、仲間のために。
そして、彼女の未来のために。
俺が彼女を――救ってみせる。