NO.1
初投稿です。いろいろ変なのは目をつぶってください。間違いがあれば感想欄でご指摘いただければ直します。
【朗報】なんか知らないけど死後の世界にいる【悲報】
1:名無しの亡者
話をしよう。あれは今から36万・・・いや、1日半ほど前だったか。まぁ、いい。俺にとってはついこの前の出来事だが
_人人人人人人人人人人人人人_
>雪山で遭難して凍死した!!<
ーY^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y-
ということで死後の世界にいる。なんか質問ある?
俺がこんなスレッドを立てたのには深い事情がある。日本海溝どころかマリアナ海溝よりも深いだろう。まぁ、俺にとってだが。
その事情というのは、まぁ、死んだのだ。俺は死んだのだ。スレッドに投稿したように俺は雪山で遭難した。その最期の瞬間だって今も覚えてる・・・というか、自分が死んだ記憶なんて1日そこらで忘れられるわけがない。そう。何度も確認するようだが俺は死んだのだ。
では、俺はなぜこうしてスレッドを立てることなんてできているのか・・・。実のところ俺にもよくはわかっていないが、きっとここが死後の世界だからだろう。今俺がいるのは俺が今までずっと暮らしてきた実家の自室だ。しかし、この実家にもその周辺にも人が一人もいないのだ。コンビニに行っても店員も客もいない。ゲーセンはゲームの筐体を操作する音もなく、虚しくクレーンゲームやリズムゲームの音楽が響いているだけだった。飲食店に行けば換気扇が回る音と店内のライトがついているだけ。駅のホームはなぜか無人の電車がダイヤ通り運行している。バスも同様無人だった。
以上の異常な事態より俺は、この世界は死後の世界であり、俺以外に人が存在しないと考えた。もしそうなら惨い話だ。死んだ俺にはおそらく寿命なんてないだろう。ここ一日半は疲れもなければ睡眠欲もわかないし食欲すらない。人間の三大欲求がなくなったような虚無感だ。そんな世界で永遠に一人だなんてここは下手な地獄より地獄的なんじゃないかとも考えた。そこでほかに人がいるかどうか探すことにした。
しかし、ただ虱潰しに探していくのも億劫というものだ。そこで俺は思い出した。この世界には電気が通っているのだということを。つまりはインターネットなどのネットワークも通常通り動作してるのではないか?急いで自室のパソコンの電源をつけてみる。立ち上がったパソコンには電波が通っているという表示が出てた。300MBPSという快適な数字だった。家のルーターも機能していた。Yahoo!のトップページを開く。ニュースの欄にはいろいろあったが、もっとも俺の目に留まったのは
「あぁ、やっぱり死んだんだな」
記事の内容は『雪山で遭難したと思しき遺体を発見。遺体は君倉 聊爾(19)と判明した』となっていた。その記事を見てさらに確信を得た。ここは死後の世界だと。心の片隅でこれは夢なんじゃないかと思ったり願ったりしたのかもしれないが、そんな気持ちをバッサリと両断された。
そして、人の存在を確認するためには、何らかのアクセスの形跡を見つけるのが手っ取り早い。そこでなぜ2chを検索したかは謎だが、人のアクセスの後を見ることができた。いつものようにアスキーアートや画像が張られ、それに対して様々なレスポンスが返ってくる。そんな画面を見ているだけでなぜかうれしくなった。世界では独りぼっちだがこうして人がどこかに存在するという事実を確認できたからだろうか?
しかしそうしているうちに、だんだんと他人と会話がしたくなってきた。別に声で会話しなくてもいい。チャットなどでやり取りするだけでもいい。人と触れ合いたくなった。人間のいない世界にまだ1日半しかいないのに。俺は思いのほか寂しがり屋なのかもしれない。
そういうことで俺はスレッドを立てることにした。タイトルは
【朗報】なんか知らないけど死後の世界にいる【悲報】
だ。
2:名無しの亡者
釣り乙
そうしていると早速レスポンスが返ってきた。まだ投稿してから30秒と経っていない。「釣り乙」何て言い方だが、それでも会話ができている気になって少し満たされる気分になる
3:名無しの亡者
死人に口があるのか、たまげたなぁ・・・
4:名無しの亡者
一体1は何をいっているんだ
5:名無しのもーじゃ
いや、おいお前らハンドルネーム見てみろ!!
6:名無しの金の亡者
どういうことだおい!こいつら死んでるじゃねぇか・・・
7:冷やし亡者
≫1
とりま死んでる証拠はよ。あとお前がいるのが死後の世界だってのも
「お、待ってた質問来た」
8:名無しの亡者
1だ。Yahooニュース見てみろ。そこに俺の名前がある。探せ!俺のすべてを雪山に置いてきた。
9:名無しの亡者
2ch民は証拠を求め突き進む。
10:名無しの亡者
世はまさに
11:名無しの亡者
大亡者時代!!
12:名無しの亡者
≫8-11
仲いいなお前ら
13:冷やし亡者
調べてきた。
『雪山で遭難したと思しき遺体を発見。遺体は君倉 聊爾(19)と判明した』
おいこれ不謹慎すぎるだろ。
14:名無しの亡者
正解。名前も出たことだしこれからコテハンは『リョウジ』とする。
ここが死後の世界だって証明だけど、俺以外に人間がいない。マジでいない。
電車が無人で動いてやがる。どうなってんだ・・・
15:名無しの亡者
おいおい、死人の名前のカタリとかちょとsれならんしょコレ・・・
16:名無しの亡者
死人の名前を勝手に使うとか、2chの民度も落ちるとこまで落ちたな
17:名無しの亡者
≫16
2chの民度とかもとからないに等しいだろwww
それにしてもひどいな。遺族の気持ちとか考えられねーのか
18:名無しの亡者
≫14
通報しますた
19:名無しの亡者
≫18
GJ
あ、ヤバイ。悪質ないたずらと勘違いされた。いや、それもそうか。死人がネットでスレたてるなんて発想普通ないわな。というかここで運営にアカウントをBANされたら本気で笑えない。
20:冷やし亡者
みんな忘れてるようだがリョウジの発言に無視できないものがあったぞ。
無人電車が走ってるってどういうことだ?
取り敢えず動画でも撮影してあげてみろ
21:リョウジ
≫20
了解撮影してくるわ
確かに証拠となるものを取ってくる必要があるだろう。俺はスマホをポケットに入れて出かけることにした。何かあると困るのでデジカメもついでに持っていくことにした。
電車の時刻表を検索すると思った通り普通に、次の電車の時刻が出てきた。俺はそれに向かうようにして家を出た。駅に行く途中にコンビニや飲食店をスマホで撮影していく。当然のように無人だ。つい一昨日まではこんな光景は想像すらしていなかった。
駅に着いた。駅は近年改築されたばかりでかなりきれいだ。白を基調とした外装に空色や薄緑色などの色で模様が施されている。近未来感がそこはかとなく漂うような外観だ。だからこそというべきだろうか、すたれてもいないのに人一人いなくシンと静まり返っている駅は言いしれない不気味さに包まれていた。
無人になっても自動改札は機能してるので切符を買い改札を通る。その間スマホの撮影機能で構内を撮影していく。清掃が行き届いていて目立った汚れが少ない。煙草の一本や吐き捨てられたガムの後とかも探してみたけど何もなかった。日本の清掃員頑張りすぎだろ・・・
電車が来るまで駅の椅子に座って待っている。電車が来るのはあと2,3分後のはずだから引き続きスマホでホームを撮影していく。売店はシャッターが下りていないのに中に店員がおらず、立ち食いソバ屋も客もおばちゃんもいない。唯一わかるのは店の中に煙が立っていること。
「え?嘘!?」
今までは人がいないため活気あふれる生活感がなかったが、ここには人がいないのに人の痕跡がある。撮影することも忘れ、いつもの癖でスマホをポケットにしまう。もしかしたら・・・と思い、店の中に入る。そこには湯気とともにかぐわしい香りを漂わせるそばがよそわれているどんぶりがあった。
「なんで!?」
しかも、食べた形跡などはない。いったい何のために?使われた調理器具なども見当たらない。
「ん?」
そうこうしていると、ゴトンゴトンという音が聞こえてきた。
「やば、電車忘れていた!」
急いでホームの黄色い線へと駆け寄っていく。無人電車の撮影をするためにポケットからスマホを取り出そうとするがすぐに取り出せずポケットに意識を取られてしまう。次の瞬間
「あっ」
急いだあまり足をもつれさせ躓いてしまった。その勢いでホームから飛び出し、線路の上に落ちようとしてしまう。しかし落ちるより早く横から電車がやってくる。100%電車に轢かれるだろう。死後だというのに走馬燈のようなものが見える。
(2回も死ぬ人間なんてそうそういないよなぁ・・・)
自分が挽肉になる未来を想像すると自然と涙が滲んでくる。走馬燈から涙が滲むまで実に0.02秒。現代の医学上確実に人間の思考回路の速さでは起こりえないことが起こっている。流石は人間の体だ。が、そんな人体をもってしても迫りくる膨大な質量の鉄の箱を前にしては耐えることはできないだろう。
そして無慈悲にもリョウジと電車は衝突する。
駅に停車しようとしていたため電車の速度は走行時に比べれば落ちているものの、人一人を轢殺するのには十分なものだろう。
「ぶっ!!?」
痛みは無かった。顔に押し付けられる鉄の塊によって変に口から息が漏れた。
「ばっ!?ぶっ!?のうっ!?」
リョウジはまるでゴム鞠のように地面をはねてゆく。頭や体が線路の枕木に打ち付けられて何かに接触するたびに変な声が出る。電車は停止した様で『ドアが開きます。お足もとにご注意ください』というアナウンスが流れる。もっとも降りる人なんていないのだろうが。
「・・・ん?」
そこでようやくおかしな点に気が付く。そう。意識があるのだ。
「うん?!」
そして気が付く。まったく傷がついていない。打ち付けた体も頭も電車に轢かれる前と何一つ変わりがない。そして、痛みがまったくない。つまり・・・
「うん。一度死んだからか?もしかしてもう死ぬことはおろか傷つくことすらないのか?そうじゃなきゃ俺は今頃ネギトロになってただろうな」
そして重要なことに気が付く
「あ、挽肉だろうがネギトロだろうがミートパテだろうがそんな場合じゃない!早く無人電車を撮影しないと」
電車の停留時間が何分だかは把握していないが、10分以上はいないだろう。すぐにホームの上に上り開けられたドアに入る。幸いなことに電車に轢かれたにもかかわらず、スマホは故障すらしていなかった。机から落としただけでも壊れることもあるというのに。スマホの耐久性というのは本当にわからない。
電車の中は全くの無人だった。スマホをいじる若者も、新聞を読む社会人も、眠りこけた老人もいない。普段よく見ていた日常の風景は、人間がいなくなるだけでこうもガラリと印象が変わるものだとこの二日間で思い知らされた。
「これネットにアップロードしても合成とか言われるんじゃないか?」
ふと、そんな言葉が漏れた。スマホの録画録音機能は洩れなくその呟きを拾っているのだが、そのことに気が付くのは、動画をアップロードした後だったりする。
撮影し始めて2,3分が経った頃に『ドアが閉まります』というアナウンスが聞こえた。急いで電車の車両の外に出る。無人電車のドアがしばらくすると閉まり、コンプレッサーの空気の抜けるような音がした後電車は走り出す。俺はその一部始終をスマホで録画していた。そして、電車が過ぎていったのを確認すると録画の停止ボタンを押した。
「とりあえずはこれでいいか。しかし、電車に轢かれるなんて一生に一度歩かないかの体験だろうなぁ」
それもそうだろう。一生に一度体験すれば、十中八九その生涯を閉じるだろうから。
そして思い出す。自分が持ってきた電子機器はスマホだけではないということに。電車に轢かれたときにデジカメはどうなったのかと思い、急いで確認する。
「デジカメは・・・あっ、ヒビが入ってる。いや、ここは死後の世界。親父にも美久美にもバレるわけないし・・・」
壊れたデジカメを見ていると生前の家族を思い出した。俺には2人の家族がいた。正確には3人だったが。一人は親父。二人目は妹の美久美。三人目は母親だ。まぁ、母親の方は美久美が1歳の時に死んでしまっているから、美久美からしたら家族は俺と親父だけということになるだろう。
そんなことを思っていると、不意にスレッドの一つのレスポンスを思い出す。
『遺族の気持ちとか考えられねーのか』
「俺が死んで・・・どうしてるかな。葬儀もまだだろうな。はぁ」
そしてさらに懸念が浮かぶ。もしも家族が俺のスレを見たら?ありえない。美久美は2chの存在すら知らないだろうし、親父はそういうのには興味がなかったはずだ。ただ、もし、万が一、不意に、ありえないことだが、二人にスレッドを見られたら?二人はどんな反応すぉするだろうか?俺を信じるだろうか?2ch民のように不謹慎だと言い激昂するだろうか?どちらにせよ、うれしくもあり悲しくもある反応だ。
「ほんとなんでこんなことになったんだろうな。人のいない世界かと思いきや人のいた痕跡もあるし、ネット越しにコミュニケーションもとれる」
その問いかけをしたところでこの世界に人はいない。答えが返ってくるわけでもない。ネット上に問いかけても答えが得られるとも思えない。
「・・・立ち食いソバでも食べて帰るか」
別に腹が減っていたわけじゃない。そもそも空腹を感じない。ほんの少し何かが恋しくなっただけだった。啜ったソバはいつか食べたものと同じで、別段変わったものではなかった。しかし、胃に物を入れること自体がどこか久しぶりで感慨深いものだった。生きていたころはこれを必然のように繰り返していたと思うと死んでようやく食べ物にまともに感謝した気になった。
文字数は5000程であまり多くはありません。また投稿ペースは安定しない上に遅いので気長にお願いします。