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AnotherWorld  作者: ♤Spade♤
3/4

第三話 新しい日常

《修正点》前回では、お金の単位を「シルバー」と書きましたが、修正して「ゼニー」に変えましたので、ご了承下さい。

「何これ?」

 マコトたちは今、迷宮区の入口に来ていた。のだが、パッと見て、マコトの頭がその入口について理解するまでに数秒かかった。理由は簡単だ。その迷宮区とやらの入口は、空間が歪んでいるような、形のないものだったからだ。その大きさは大体縦三メートルで、横二メートルくらいの長方形で、見た感じ、この入口の向こう側。つまり入口の後ろはどうなっているのか気になったのだが、裏には回れないように壁ができているため、確認はできなかった。

 他のみんなも口をポカンと開いて立ち尽くしている。だってあり得ないでしょ。空間が歪んでるなんて。

「この(ゲート)の向こう側は迷宮区が広がっている。とは言っても、入って即亜人だらけっていうわけじゃなくて、迷宮区付近のベースキャンプになっている」

 そこで、マコトは疑問に思い、レインの説明の腰を折った。

「ベースキャンプは置いておくとして、なぜその迷宮区に亜人…?というものが存在するんですか?というか、そもそも亜人がこっち(アナザーワールド)に来ないなら放っておけばいいんじゃないですか」

 そのマコトの質問に、レインは迷うことなく答えた。

「いい質問だ。まずなぜ迷宮区に亜人が存在するのかという点に関してだが、ゲートが一つしかないというわけではない。つまり、ゲートは複数存在するんだ。その場所はまだ未知数だが、わかっていることとしては、我ら人間との敵対種族、亜人たちそれぞれの本拠地には、同じくゲートが存在する。これは確認済みだから間違いない。で、放っておけばいいという質問だが、まず野放しにしておくと、亜人たちに防衛ラインを突破され、ベースキャンプをこえてこのアナザーワールドへと侵入してくることが考えられる。だが、徹底的に亜人の数を減らす必要があるのが一つ。大事なのは次だ。迷宮区にいる亜人の体内には、魔石という結晶のようなものがある。その魔石は、ウィザードやヒーラーなどの魔法系のスキルに使用する《エレメント》の材料になる。だから、定期的にこの魔石を補充するために、亜人は狩り続けなければならない」

「は、はぁ……」

 その説明を聞いて、なるほどとも思いつつ、半分理解できなかった。というのは、俺の理解力が欠けているだけなんだけどね。

「それじゃあまずベースキャンプに行こう。本題はそれからだ」

 そう言って、レインはゲートの中に入っていってしまった。

「え……」すると、レインの体は光になって徐々に薄れていき、最後に粉となって散ってしまった。

「な、何これ……」

 ほんとナニコレ?凄いとしか言いようがないんだけど。てかこれどういう仕組みになってんの?

 マコトたちが唖然としている中、一番早く気を取り直したシロマが、みんなに向かって言った。

「行こう。レインさんが待ってる」

「そ、そうだな」「うん」

 そして、マコトたちはみんなゲートの中へと入って、光となり散った。

 視界が真っ白で、何も見えなくなる。耳がキーンとして、ちょっと気分悪い。でも、すぐにそれは弱まっていき、視界も徐々によくなっていく。

 視界が完全に広がり、マコトの目に素晴らしい景色が映り込んで来た。

「ああ……!」

 そこに広がっていた光景に、マコトは一瞬で見入った。辺りには防具を付けた様々なサーチャーが歩き回っていて、そこらじゅうに屋台が出ている。どこからともなく声が聞こえて止まない。ここの向こうが敵、いわゆる亜人で溢れているとは思えないほど、このベースキャンプは賑わっていた。

 辺りを見渡すと、すぐそばにレインが立っていた。

「ここがベースキャンプだ。ここでは鍛冶屋や雑貨屋、それに合成屋など。様々な店が揃ってる。狩りに出る前には、この市場に寄って行くと便利だ」

 それから、マコトたちはこのベースキャンプを一通り歩き回った。本当にたくさんの店が構えられていて、結構見応えがあった。

「ベースキャンプのことはもう十分だろう。だが、さすがに迷宮区は自分たちの目で確認してきてくれ。最初のうちは慣れないだろうが、誰でも経験することだ。経験を積んで、ここにいるサーチャーたちは強くなってきた。君たちも、誇れるサーチャーになれるように頑張ってくれ」

 そう言うと、レインはマコトたちに背を向け、ゲートをくぐっていってしまった。

 取り残されたマコトたちは、少々気分がよかった。なんだかいろいろと楽しみになってきた。何もかもが新鮮で飽きない。毎日が楽しくて仕方がないかもしれない。そう思うと、マコトはいても立ってもいられなかった。


 ***


 二週間後。マコトたちは迷宮区第一層に来ていた。

「マコト、背後に回ってくれ……!」

「わ、わかった!」

 マコトたちの前にいるのは、片手に槍を構えた一匹のゴブリンだ。奴は比較的に身長も低く、あまりパワーがない。それに、マコトが以前に森で丸腰の状態で出くわしたゴブリンに比べれば、このゴブリンは対して怖くはなかった。と、最初は思っていた。

 マコトがゴブリンの背後に回るべく、右側から弧を描いて走り抜けようとした。その時、ゴブリンは背中に身につけていたもう一つの小さめのナイフを、槍の持ち手と逆の手に持つと、スッと手首をスナップさせ、そのナイフをマコトに向かって飛ばしてきた。

「────うぉっ!」

 さすがにこれには意表を突かれ、マコトは上体を大きく仰け反らせる。なんとか回避しようと試みたが、ナイフはマコトの左肩を掠めていった。

「マコトっ!」

「いってぇ……だ、大丈夫……!それよりゴブリン!」

 マコトは痛みを堪えながら、ゴブリンの方に視線を送る。

「うわぁっ!」

 よそ見しているうちに、ゴブリンはもうマコトの目と鼻の先まで来ていた。槍を両手で持ち、先をこちらに向け走ってくる。左肩がズキズキ痛む。動かすたびに激痛が走る。これはかなり深くやられたようだ。しかし、不幸中の幸いというべきか、マコトの聞き手は右で、左腕が使えなくてもなんとかなる。

「ギェァァアッ!」

 次の瞬間、ゴブリンは槍を突き出してきた。だが、突進してくる姿勢から、奴が突きをしてくることは予測できていた。槍はマコトの胸元めがけて迫っていく。それをマコトは、右手に持った片手直剣ロングソードの腹に左手を置き、両手でゴブリンの槍を左側に受け流した。

 瞬間、ゴブリンは体制を崩し、槍を持った両腕は体の外側に投げ出された。もうゴブリンの胴はがら空きだ。ここを一気に決める。

 マコトは剣を左腰に構える。すると、シューっという音を出し、急に青い光をともし始めた、徐々に光の強さは増していき、マコトの剣の周辺は光に包まれる。これは《アクセルスキル》と呼ばれるもので、体内生成されるエレメントの力を剣へとつたらせ、スピード、威力ともに上昇させる、いわゆる必殺技みたいなものだ。

 ────ここだッ!

 光が最大に達した瞬間、マコトは大きく剣を水平にスライドさせた。これは、横に切る単発技ホリゾンタルというもので、アクセルスキルの初歩中の初歩のスキルだ。そのスピードと威力で、一気に風を巻き起こす。剣を振り切った道筋には、エレメントの光が残像となって残っている。だが、そこにはゴブリンはいなかった。なぜなら、奴は寸でのところで跳躍し、マコトの攻撃を避け後退していたからだ。しかし、マコトの手には、肉を切り裂く生々しい感触が残っている。すぐにゴブリンに視線を向けると、奴は片足だけで立っているのが見えた。続けて自分の右手に持った剣を見ると、赤い血がべっとりと付着していて、地面にはゴブリンの足が転がっていた。

「うっ……!」

 マコトは急に嗚咽に襲われ、剣を落とし口を押さえる。

「マコト……!」

 カレンの声がする。そうだ。まだだ。まだ終わっていない。奴はまだ立っている。勝負はついていないのだ。

 マコトは剣を拾うと、ゴブリンに視線を戻す。体がだるい。目眩も少しする。きっと左肩の出血で血が不足しているのだろう。そう思った瞬間、マコトの左肩に痛みが戻ったかのように滲み出してきた。

 ヤバイ……!めっちゃ痛い………!

「く……!」

 凄まじい痛みに、マコトは右手で止むを得ず肩を抑える。すると、手のひらにべっとりと赤い血が付着した。そこにとどまらず、血はどんどん溢れてくる。出血多量で死ぬんじゃないかってくらいの出血量に、マコトは目を引いた。

 マコトが立っていられずに膝をつくと、後方からこちらへ駆けてくる足音が聞こえてきた。

「スミーラ…アーネス…」

 カレンだ。カレンはマコトのそばに膝をつくと、右手をマコトの肩に近づけ、エレメントを集中させている。そして、今口にしているのは、ヒーラーにだけ使えるヒール魔法だ。

「プロスタスト…ヒール!」

 そう唱えると、マコトの肩から痛みが薄れていき、いつしか何もなかったかのように傷が癒えていた。

「助かる!」

 マコトはそれだけ言い捨て、勢いよく地面を蹴った。今は一人でシロマがゴブリンを抑えている。あり得ないことに、ゴブリンは片足だけになった今もまだ、しぶとく交戦していた。

「くっそ…!これが最下級種族かよ!」

 駆け寄るマコトに気づいたようで、シロマは「頼む!」と叫ぶと、ゴブリンの槍をアクセルスキルで思い切り弾き返すと、横っ飛びで後退する。そこにマコトが入り込む形で入れ替わる。前方にいるゴブリンは今度こそ体制が傾いており、槍は後方にいっているのでガードも不可能だ。

 マコトは剣を構えアクセルスキル、単発垂直技ヴァティカルを繰り出す。縦に一直線を走る切っ先は、ゴブリンの寸でのところで停止する。

「─────何ッ!」

 何事かと思い、マコトは目を見開いた。ゴブリンはどこから取り出したのか、ナイフで攻撃を防いでいた。だが、ナイフはアクセルスキルでそのまま叩き落すことができた。とは言っても、ゴブリンは体制を立て直し、両手で槍を握りしめている。

「ちくしょうッ!」

 マコトは罵声を上げながらもゴブリンを滅多斬りする。しかし、その剣はすべてゴブリンの槍により受け流されていく。このままではすぐに反撃がきてこの攻勢をブレイクされるに違いない。

 腕が疲れても、マコトはとにかく剣を振り下ろし続ける。だが、何度やっても同じこと。状況は変化しない。腕の耐久力も限界に近い。剣を振るう速度、それに威力も、徐々になくなっていく。

「マコト……!今行く!」

 後方から、力強く、そして頼りがいのある仲間の声が聞こえてきた。シロマは全速力でマコトに駆け寄る。一旦マコトは後ろへ飛び退けシロマとスイッチする。

「はァ……!」

 シロマは剣と盾を巧みに使いこなし、盾で攻撃を受け流しては、マコトと同じく片手直剣で切り伏せる。羽田から見ても、その動きにはほとんど無駄がなく、少しずつだが、ゴブリンの体に傷を付けていく。

 状況を不利に感じたのか、ゴブリンはひとまず後退する、口を情けなくあけ、肩を上下に動かしている。明らかに疲労していた。

 これはチャンスだ。ここは全員で畳み掛けるべきに違いない。正直まだ腕が痛いが、さっきよりは全然楽になった。

 それをシロマも感じ取り、思い切り声を張り上げた。

「みんな…!ここが正念場だ!ここでどっちが踏ん張るかで勝敗が決まる。気を引き締めるんだ……!」

「「おう」」

 みんないっせいに声を上げる。あのイロハでさえ、少しではあるが声を上げた。そうだ。あともう一息なんだ。あともう一息で、初めて、サーチャーとして亜人を狩ることができるのだ。マコトたちは現在、一匹として亜人を仕留められていない。毎回どこかで墓穴を踏んだり、あまり単体の敵を見つけることができなかったということもあり、まだ一銭も稼げてはいない。サーチャーに入隊した時にもらった十ゼニーも、少なからず徐々になくなりつつある。少しでも利益を得なければ、お金がなくなって生活もできなくなってしまう。それをなんとか解消させるにも、今目の前にいるゴブリンを狩らなければならない。

「ァァアア───────ッ!」

 マコトは地面を勢いよく蹴りつけ、足元に砂埃が立たせながら走り出す。

 一瞬でゴブリンとの距離が詰めらる。マコトは加速しつつも、剣を構え、意識を集中させる。次の瞬間、構えられたロングソードに光がともる。

「スケアー…ケイミス…ゼヴィノス…!」

 マコトがゴブリンに突っ込む後方から、黒い靄のような玉が通過していく。イロハだ。イロハの唱えた術式によりスケアー属性の魔術によるものだ。黒い物質は一直線に曲がることなく進んでいく。のだが、マコトや他メンバー全員、その前方を見て絶句した。

「シロマ…!後ろ!」

「え……っ!」と、後ろを向こうとするが遅かった。次の瞬間、黒い球体がシロマの背中に直撃したのだ。すると、ピタっとシロマは痙攣した後、体が硬直する。そう。スケアーという属性は、相手の体を一時的にストップさせるもので、攻撃を受けたものはおよそ五秒間はどうしても動けない。それが今、シロマに直撃してしまった。これはマズイ。マコトとゴブリンとの距離は狭まりつつあるものの、まだたどり着くまでには一秒はかかる。

「くッ!」

 マコトは力の限り加速した。速く、もっと速く…!奴の元へ!

 ゴブリンが剣を振り下ろそうとする中、マコトはなんとか追いつくと、シロマとゴブリンの間にもぐりこみ、すばやくアクセルスキルを直撃させる。加速があった分威力がブーストされ、マコトの攻撃を止めようとしたゴブリンの武器は吹っ飛び、三メートル近く飛び落下した。

「行けるか……?」

 マコトは振り向き声をかける。「大丈夫…」とシロマも応答し胸を撫で下ろす。

 ゴブリンは後ろに下がって槍を回収していた。しかし、様子がおかしい。ゴブリンは顔を下に向け、息を吸い込んでいる。このような行為は今までに見たことがない。そう思った瞬間、マコトの背筋が急速に冷えた。

 ───何か、いやな予感がする。

 それを見ていたマコトたちは、下手に動くことができなかった。カウンターを警戒したジャらだ。だが、今思えば、この時に奴を攻撃しておくべきだった。

 それから二、三秒過ぎた瞬間、ゴブリンは行動を起こした。

「────ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 鼓膜が破れるんじゃないかってくらいの轟音がマコトたちを襲った。絶えられずにみんな耳を塞ぎ、膝を付きそうになる。

 数秒後、やっと咆哮が収まり、マコトたちは耳から手を離しゴブリンを見ると、奴には変化は見られない。悪あがきか何かだろうか。往生際が悪いことだ。ならこっちからまた反撃すればいいこと。

「シロマ……!いっせいに畳み掛け────っ!」

 そう叫ぼうとした瞬間だった。

 ─────ギャァアアアアアアアアッ!

 マコトたちの前方から叫び声が轟いた。だが、それは目の前のゴブリンではない。しかも、その声の数は複数存在していた。向こうの茂みからガサガサと物音が聞こえてくる。その瞬間、マコトに緊張が走った。

「まさか……」「嘘だろ………」

 マコトとシロマの二人は同時に後ずさる。なぜなら、前方の茂みからゴブリンが飛び出してきたからだ。その数三匹。それぞれ異なる武器を持ってこちらへ走ってくる。

「に、逃げろ……!」

 マコトは瞬間的に振り返りそう叫んだ。その間にもゴブリンたちはこちらに向かってくる。ゴブリン一匹もろくに倒せないマコトたちには、今この状況は絶望的そのものだった。

 マコトは体の向きを変え、一心不乱に走り出した。それに続いてシロマとカレン、イロハも走り出す。ここから全力で走れば、ベースキャンプまでそう遠くはない。念のためにベースキャンプ付近での狩りが幸いした。

 だが、ゴブリンたちも簡単には逃がしてはくれない。奴らも必死にマコトたちを追いかけてくる。そのスピードはマコトたちと同等かそれ以上。少しでも気を抜けばすぐに追いつかれてしまう。

 一分くらい経っただろうか。体が疲れてきて足が重い。後ろを振り返ろうにも、追いつかれるんじゃないかと怖くて振り返れない。

「うわああああああああああ!」

 それでもマコトたちは懸命に走り続け、なんとかゴブリンの逆襲から逃れた。


 それから、マコトたちはベースキャンプからアナザーワールド(みんなは中央都市と呼んでいる)に戻ると、格安の宿、新米サーチャーの中では兵舎と呼ばれている宿へと足を踏み入れる。

 中は格安とだけあって、かなりボロく、大量の埃が舞っている。最初に目に飛び込んできたのは、カウンターに座るおばさんだった。

 シロマはカウンターに歩み寄ると「一晩お願いします」と言って、両替してきた百枚のブロンド貨を十枚カウンターの上におく。すると、おばさんは無言でその銅貨を受け取ると、机の下から鍵を取り出し、ポンとカウンターの上によこした。それをシロマは「ありがとうございます」と言ってありがたく受け取る。それを羽田から見ていると、とても礼儀がよく見える。まあ実際礼儀がいいのだが、マコトはいつも、それを見るたびに「シロマってすげえよなあ」と心の中で思う。

 最初は別になんとも思わないのだが、毎日続けていると面倒くさくなり気だが、毎日欠かさずに、シロマは一言お礼を言って鍵を受け取っているのだ。

 それからシロマは、ゆっくり奥の廊下へ行き階段を上がる。二回には四つの扉があり、マコトたちは鍵の番号と同じ《三》の部屋へと向かう。二と一は使用中で、他の団体がいる。しかし、まだマコトたちはその団体とは一度も顔を合わせたことがない。心の中では、いつか会ってみたいと思っているのだが、思い切って勇気を出せないでいる。

 そんなことはさておき、マコトたちは扉を開けて中へと入る。中はたいして広くはなく、木の硬い二段ベットが二つとクローゼットだけが置いてあった。しかし、さほど汚れていないのは、毎日自分たちがこの部屋を使っているからだろう。

 マコトたちは部屋の中に入るや、バックパックを壁に放り出してベットにダイブした。実際ダイブしたのはマコトとカレンだけなのだが。

「二人とも荷物を整頓してからそういうことはしろっていつも言ってるだろ?」

「すこしくらいいいだろ?寝させてくれよシロマ」

 マコトは駄々をこねながら寝返りを打つ。

「駄目だって。じゃなきゃ飯抜きにするぞ」

「はあ…?なんでそうなるんだよ────」

「いやあ、マコトとカレンの二人分飯代が節約になるのはおとくだなあ。うん」

「えっ?あたしも?」

 カレンが驚き、枕に埋めていた顔をすばやく上げる。

「やればいいんだろやれば!」

 ふてくされながらそういうと、マコトは渋々と起き上がって荷物のほうへと歩み寄り、中身を整頓し始めた。バックパックには、さまざまな戦闘用品に携帯食料、金などが入っている。それらをちゃっちゃと慣れた手つきで整頓し、マコトは再びベットに座り込んだ。

「シロマ……」

「ん?」と、シロマがこちらに視線を向ける。

「このままでいいと思うか……?」

「……なにが?」

 カレンとイロハがこちらをキョトンとした目で見ている。

「この状況だよ。まだ一匹も狩れてないじゃん……」

 一匹も狩れてない。というのは亜人であることは言うまでもない。すると、シロマはうつむき、口を開いた。

「思ってないよ。なんとかしないとって。でもさ、考えてもしょうがないよ。ただ今は、僕たちにできることを精一杯やるしかない。あとのことはあとで考えればいい。そうは思わない?」

 その答えは筋が通っていた。マコトのように先のことばっかり考えていてもしかたがない。確かにそうだ。今できること、それは一匹でもいいから、亜人を狩り、金を手に入れる。それだけだ。

「そうだな。確かにそうだ。ありがと。シロマ。ちょっと楽になれたわ」

 マコトはそう言うと、ベッドに倒れこみ目を閉じた。


 ***


 マコトは今、ある小屋の前に立っていた。サーチャーになって一日目。マコトは称号をもらうためにここに来ていた。

 シロマの話、というか、現役のサーチャーから聞いた話によると、まずサーチャーは称号というものを受け取らなければならないらしい。その称号とはつまり、サーチャーとしてやっていくための技術、戦闘武術の基礎を極めたものに与えられるもので、その称号とやらがないと狩りには出られないとのことだった。

 で、称号にもさまざまな種類がある。しかし、マコトにはまだそのすべては把握し切れてはいない。記憶しているものとすれば、シロマの《パラディン》、カレンの《ヒーラー》、イロハの《ウィザード》、そしてマコトの《ソードマン》くらいだ。

 ソードマンとはとくにシンプルなもので、片手直剣という、刃渡り五十センチくらいの長くも短くもない普通の剣一本だけのスタイルだ。シロマ曰く、もっとよい称号はあるのだが、なぜか、ソードマンがいいと言い張るので、まあこれまでの信頼もあり、マコトは渋々ソードマンを選択した。

「てゆうか……」

 なんでこんなにボロいの…………?

 そう。なぜか、称号をもらえるというこの建物は、思っていたものよりも少し、いや、だいぶボロい。確かシロマのところは結構きれいな感じで大きかった気がする。称号が違うだけでここまで変わるものなのか。そう思った瞬間、マコトは不安にかられた。大丈夫だよな……?マジで……

 マコトは恐る恐るドアノブに手をかける。金属の冷たい感触が手に染み付いてくる。ところどころ錆びており、長いこと使われていることがわかる。

「ギィー」という明らかに錆び付いているであろう音を立てながら、マコトはドアノブを捻り、ドアを前へ引っ張る。すると、この建物の中が明らかとなった。

「うわ………」

 正直、酷いものだった。木作りの床や壁はさまざまな所が腐っており、蜘蛛の巣と埃が充満していた。

 嫌々マコトは足を踏み入れ、少しずつ前へと移動していく。一歩歩くごとに床がきしみ、耳障りな音を立てる。辺りの明かりは蝋燭だけで、視界は薄暗く気味が悪い。そういえばここ、土足いいのかな。しかも俺挨拶とかしてないから無断進入だよね………

 少し進むと、古臭いドアが表れた。しかしこのドアは錆びてはないようだった。ドアノブに手をかけ、慎重に捻る。

 ────ガチャ

 その瞬間、マコトの背中から突風が巻き起こった。

「うおッ!」

 マコトはその勢いに負け、ドアの中に転がり込んだ。何回転もしてやっと壁らしきものにぶつかり、勢いがおさまる。「いってぇ…」マコトは頭を抑えながら上体を起こそうとした。しかし、体が動かなかった。

「な……!」

 マコトは何かに押さえ込まれているのに気づき、顔を上げて絶句した。なぜなら、そこにいたのは、一人の女性だったからだ。

「お、お前はどこから来た!」

 彼女は言った。いやお前がどこから現れたんだよ!

「そ、そこのドアからですけど……」

「んなことは分かってるんだ!用件を言え!」

 いやあんたがどこから来たって最初に聞いたんじゃん。と、つぶやきそうになったがなんとか堪える。

「え……とぉ……その……しょ、称号を……もらいに?」

 片言になりながらも用件は伝えることができ、マコトは胸を撫で下ろす。「称号?」と、彼女は目を丸くし、抑えている手の力を緩めた。

「ほ、本当?」

「本当」

[嘘じゃないよねぇ?」

「はい」

「称号をもらいに来たのよねぇ?ソードマンの」

「だからそうって言ってるじゃないですか」

 ヤバイ…。なんかこの人面倒くさい。

 彼女はやっと理解したのか、立ち上がって少し下がると、不吉な笑みを浮かべながら「来た来た来た…」などとつぶやいている。本当に大丈夫なのだろうか。

「いったた……」

 マコトはゆっくり立ち上がると、もう一度彼女に視線を戻す。改めて見ると、とてもきれい、と思ってしまった。金髪のつややかな長い髪に、緑色の目。真っ白な肌は、とても綺麗で見とれてしまう。

「ごめんね?でも毎回こうやって確認しなきゃいけない理由があってね」

 こんな乱暴な来客者の確認があってたまるか。そう思わずにはいられなかった。

「まぁいいです……気にしてないんで」

 ここは適当に流して、本題に入らなきゃいけない。マコトは称号のことについて話し始めた。

「それより、ここでソードマンの称号をもらえるってことであってるんですよね?」

「もちろん。ここはソードマン訓練所。て言っても、今はこんなにボロボロだけどね」

 何があったのか、その時は確かに気になったのだが、どうせ長い話になるだろうことなので置いておくことにした。

「私はアテナ(知恵と戦術の女神)。よろしくね」

「ま、マコトです。よろしくお願いします」

 マコトはひとまずお辞儀をすると「座って」とアテナがテーブルに手招きするので、遠慮なく甘えることにした。

 椅子に腰掛けると、アテナはお茶を出してくれた。なんかどこにでもいそうな感じなのに、これでも神なんだよな……と、ついつい思ってしまう。

「えっと……他に誰もいないんですか……?その……他の訓練してるサーチャーとか」

 マコトがそう聞くと、アテナは「あはは」と少し笑い「最近はいないなぁ。確かもう十年くらいかなぁ。弟子こないの」と、あっさりとやばいことを口にした。

「じゅ……!」

 十年って……大丈夫なのかよ。やっぱり違うところのほうがよかったんじゃないかと、今更のように思えてきたのだがもう遅い。それにアテナ曰く、弟子が十年もいないという。この状況で他の称号を選択するのは少し気が引ける。ここは我慢しなきゃいけない。

「まぁそんなことより本題に入るけど、称号を受け取るには四ゼニー必要だけど、ちゃんとレインからもらってきたかい?」

「はい。あります」

 これは事前にシロマから聞いていた。確かに現実的に考えればタダで戦闘技術を学ぶなんて虫が良すぎる。これはしょうがないことだろう。

 マコトはレインからもらった小包から、銀色のコイン四枚、四ゼニーを取り出し机の上に置いた。

「一……二…………うん。ちゃんと四ゼニーあるね。じゃあ早速だけど、こっち来て」

 すろと、アテナは席を立ち、奥のドアのほうへと歩いていく。相変わらず室内は暗い。アテナの位置を認識するだけで一苦労だ。置いてかれないようにマコトもすぐ席を立ち、アテナの背中を追いかける。だが、アテナは扉の前で親切に待っていてくれた。この人はちょっとおかしな面はあるけど、人としては少し優しいようだ。

 アテナはマコトが来たことを確認すると、ドアを開けて中へと入っていく。それについてマコトも入ると、そこはベッドが一つ置かれた不思議な空間だった。

「ここは?」

「私の寝室」

「そ、そうですか……」

 少し女性の部屋に入るのは抵抗がある。男として。だからって、決してやましい気持ちなんてないけど。

「こっち来て」

 アテナがベッドの横で呼んでいる。マコトは少しためらったが、何変なこと考えてんだと、自分が恥ずかしくなり、さっさとベッドのほうまで近づく。

「服脱いで」

「……………は?」

 マコトは目を丸くした。なんでこうなった。服脱げってさ。いやまだ初対面だし、別に嫌ってわけじゃないけどさぁ。まだこういうのはもう少し仲良くなってからって言うか…………段階を踏んでからって言うか………

 マコトの脳内はパニック状態だった。頭が正常に回らない。この状況に完全にオーバーヒートしてしまったようだ。だが、そんな中マコトは必死に思考をめぐらせた。

 とにかく。ここは、少し男としては残念……いやいや!人間として断りべきだ。こんなの間違ってる。なんとかアテナさんを説得しないと………!

「ちょ、ちょっと考え直して────」

「だから、ステータス貼るから服脱いで背中見せろって言ってるの。わかる?」

「え……?」

 瞬間、マコトは自分が勘違いをしていたことを察し、顔を赤める。マジで恥ずかしすぎる。

 そんな下を向くマコトを見ながら、アテナは頭に「?」を浮かべている。

「す、すみません……今脱ぐんで」

 マコトはあわてて上の服を脱ぎ床に置く。

「じゃあちょっとベットにうつ伏せで寝転んで」

 言われるがまま、マコトはベッドに近づく。近づいたはいいのだが、そこでまたマコトに邪念が襲う。

 ───このベッドでアテナさんがいつも寝てるってわけだよね………じゃない!これじゃただの変体じゃないか。こんな自分が恥ずかしい………

 やはり少しはためらいながらも、マコトはぎこちなくベッドにまたがる。うつ伏せになると、マコトは両腕を枕のように組んで目を押さえる。

「ちょっと力抜いて」

 知らぬ間に体が強張っていたようだ。マコトは深呼吸して体の力を抜く。

「じゃあ始めるね……」

 そう言うと、アテナはマコトの背中に手を置き、何やらブツブツ唱えている。

 そして数秒後、

「はい。終わったわよ」

「え、もう?」

 あまりの速さにマコトは目を丸くする。

「もうって言っても。じゃあ背中見てみん」

 アテナは部屋の端に目を向ける。そこには、一メートルくらいの鏡があった。これで見ろということだろう。マコトはベッドから降りると、その鏡の方に近づき、背中を向け鏡を見る。

「な………!」

 そこには、紋章のような、数字のようなものがたくさん刻まれていた。

 上から順に、【34】【41】【26】【68】。他にも色々あるがよく読めない。

「ステータス。あんたの能力値みたいなものかな。上から《筋力》《エレメント》《体力》《敏捷性》」

「こ、これって、どんなもんなんですか……?その、平均的に……」

 すると、アテナは少し顔をしかめると「低い」と、あっさり答えた。それを聞いて、正直残念だった。まあ体つきからしてもマッチョって感じでもないし、どっちかと言えば痩せているといった方が正しいだろう。記憶はないが、きっと昔は運動なんてあまりしていなかったのだろう。

 マコトが苦笑いを浮かべていると、「ただ……」と、アテナが口を開く。

「敏捷性だけは平均より大幅に高い。戦闘スタイルを考えれば他の奴らとも負けずと劣らない武器になると思う」

 それは、マコトにとってうれしい一言だった。

「さすがは知恵と戦術の神。考えることが違いますね」

 アテナは笑みを浮かべながら「そうおだてないで」と照れている。内心、これで本当に神なのか……?と思わなくもなかった。

 マコトは脱いでいた服を拾い上げると、サッとすばやく着替えると、そこら辺にあった椅子に座るよう、アテナが指示するので、マコトはそれに甘えて腰掛ける。アテナも椅子に座ると、これからのこと。つまり訓練のことについて語り始めた。

「今日はもう遅いし、迷宮区に行くのは夜中にしよう」

 広場の時計で見たときは四時ぴったりだったので、きっともう六時近いだろう。まあこれはあくまでマコトの腹時計なので、窓のないこの部屋では、今いったいどのくらいの時刻なのかは分からない。

 が、その前に、なんで遅いのにまた遅くの夜中になるのか、少々疑問に思ったが、相手は知恵と戦術の神。きっと考えがあってのことだろうので、いちいち口出ししないでおいた。

「えっと、具体的には何をするんですか…?その訓練って」

「まぁまずは基礎からかな。剣の使い方。剣を持ったことは?」

「ないです」即答だった。確かにほぼ一瞬に近いが、ナイフなら使った。あのゴブリンとの戦闘の時に。しかし、ナイフと剣では勝手が違うし、重さだって比じゃないだろう。

「でしょ?だからまずは基礎。それから、エレメントを使った攻撃アクセルスキルの練習」

「アクセルスキル?」

 マコトの頭に「?」が浮かぶ。いったいどういうものなのか、まったく想像がつかない。

「言葉では説明しづらいからそれはまたあとで。で、今からはその練習のための練習、肉体改造だ」

「に……!」

 肉体改造……!それは聞くだけでおぞましい言葉だ。また記憶にはないけど、なぜか体が覚えている。きっと肉体改造にいい思い出がなかったに違いない。

「じゃあさっそく!」

 と、いきなりアテナは立ち上がり、不気味な笑みを浮かべる。それを見て、マコトは背筋が凍るように固まる。

 アテナは空中にエレメントの光で文字を書く。すると、急に白い光が集まり、一つの物質を生成する。その形は徐々に棒状に伸びていき、最終的には木刀に変化した。それをアテナは手に取ると、こっちに放り投げてきた。

「うわっ…!」マコトは反射的に立ち上がり、それを両手で抱きかかえるようにキャッチする。その瞬間、マコトの両腕に凄い重力がかかった。

「重っ…!」その重さにマコトは少しよろめく。

「まぁそれは大体七キロくらいだから、剣はそれよりもう少し重いかな」

「こ、これより重いって、どんだけ重いんだよ……!」

 マコトはそうつぶやきながら、両腕に思い切り力を入れ、木刀を構えて見せた。ドヤっとマコトはアテナを見るが、「それ普通の剣より軽いって言ったよね」と言われ、逆に恥をかいた。

「まずはそれを五百回素振り。終わったら呼んでぇ。私はリビングのもう一つの扉のとこにいるから。そしたらご飯ね」

 と、それだけ言い捨てると、アテナはそそくさとドアから出て行った。後から「お腹すいてるから早くしてねぇ」と聞こえたが、マコトはイライラして無視をした。ドSキャラはカレンだけで十分だっての。

「はぁ……」

 マコトは深くため息をつき、腕に力を入れる。そして、ぐっと上へ持ち上げ一振り。

「これきついな……かなり」

 それからマコトは、ひたすら、ひたすら素振りし続けた。それが一時間近く長引いて、あとでアテナにどやされたことは言うまでもない。

書き始めて早三話に達しましたが、この物語に対して、読者がどう思っているのか、感想などに書いてくれますとありがたいです。あと、こうしたらもっと読みやすくなるなどの、小説を書く際のアドバイスなども書いていただけると幸いです。これからも、この「AnotherWorld]をよろしくお願いします!。

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