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AnotherWorld  作者: ♤Spade♤
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第二話 アナザーワールド

 女性の悲鳴が、この真っ暗な森全体に大きく轟いた。

 マコトは目を丸くして硬直する。

 ───な、何だ……!

 マコトの心拍数が爆発的に上昇する。周りに聞こえているんじゃないかというくらいの激しさだ。一気に呼吸が荒くなる。体が動かない。手足が震えて力が出ない。口はガクガクと痙攣して、言葉が出ない。

 え、何?俺……なんか聞こえた?ううん。何も聞こえてないよ?

 マコトはついに現実逃避に走ってしまった。

  「じゃなくて……!何なんだ今の……!」

 なんとか正気を取り戻したマコトは、ひとまず周りを見渡す。声が聞こえたのは正面から右の方角で、ここから見ても木、木、木だ。確かめるにはこの通路からどうしても外れなければいけない。

 しかし、この通路から外れる場合、道が分からなくなると後々ヤバイことになる。

 ヤバイこととは、察しの通り、迷子のことだ。てゆうかこんなとこで迷子になったらシャレにならないから。

  「うぅ………」

 マコトは唸って考えた。

  「うぅぅぅぅ……………」

  目を閉じて必死に考えた。

  「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…………………!」

 そこで、マコトは糸が切れたかのように叫んだ。

  「あぁもう……!気になって仕方が無い……!」

 マコトはそう吐き捨てるように叫ぶと、石を胸の前に構えて走り出した。その方向は、さっき声がした東の方角だった。

  茂みを飛び越え、荒れている道をできるだけ急いで通過していく。

  「おふッ……!」

 マコトは木の根に引っかかって転びかける。

  上体が前のめりになったところをなんとか持ち直すと、まっすぐ先を見た。

  少し先の方で木が消えてなくなっている空間があった。

  「ハァ……ハァ……ァァ…!」

  顎が痛い。全力で障害物レースをしているような感覚だ。

 とてもキツい。額から汗が滲み出てくる。

 それよりマズイ。もしあの悲鳴が何かに襲われている際に出されたものだとしたら、急がないと手遅れになる。

 その思考に至った瞬間、マコトの速度は急激に上昇した。

 もう根っこやらを飛び越えるのは慣れた。体力もデッドポイントが過ぎて楽になってきた。体が妙に軽い。スムーズに肺に酸素が取り込まれているのがわかる。

 マコトは足をバネのように跳躍させ、一気に加速する。全身に風を感じ、いつしかそれが心地よく感じるようになっていく。

  急げ……!

 これで勘違いだったら笑えないな。

 マコトは瞬時に迫り来る木を華麗に避け続ける。土の地面もしっかり足に馴染む。

  手遅れになる前に。マコトはそう強く思った。確か、以前もこんなことがあった気がする。ただ、あくまで気がするだけであって、まったく思い出せないが、なぜか体が覚えている。

  焦る。焦って焦って、必死に走る自分の姿が脳裏に不思議と浮かび上がってくる。

  邪魔だ……!

  今そんなこと考えていても邪魔でしかない。目の前のことに集中しなくては。一人の女性の命がかかっているかもしれないのだ。野放しになどできるか。人として。

 そしてついに、前方に木々がない広場のような場所が目に入る。

 その瞬間、マコトの脳裏に二つの選択肢が浮かび上がった。


  一。一旦隠れて様子を確認する。


  二。一気に飛び出す。


  二番は手っ取り早いにすぐに助けることもできる。だが、飛び出してからどうする。もし自分では歯が立たないような猛獣だったら?それで自分は立ち向かうことができるのか。見ず知らずの他人に、命を張る義理なんてあるのか?

  一の場合は、多少助けるまでの時間がかかるが、正確な判断をすることができる。敵を把握し、確実に奇襲で攻める。そっちの方が敵の不意もつくことができるし、戦うかどうかの危険度も図ることだってできる。

  明らかに一番の方が自分的にもメリットが大きかった。

 マコトは手前に位置する木に身を隠すと、手に持っている石を胸に抱き寄せた。そして、少しだけ顔を出し広場の状況を確認する。

  目を左右に動かし、辺り一面を余すことなく確認する。すると、マコトから見て斜め左側。一人、いや、二人の少女が抱き合って腰を抜かしている。

 その目の前には、緑色の小人?らしき奴がナイフを持って立っていた。

  何あれ。ゴブリン?

 マコトは奴を見た瞬間そう思った。でも、後になってから「ゴブリンって何だっけ?」と思った。確かに見た瞬間「ゴブリン」という言葉は浮かんできたのだが、その後になってすぐ消えてしまう。

 まあどうでもいいけど……

 奴の身長はやけに低く、一メートル弱ほどしかない。そんな小人がナイフを持っていると、なんだか普通の刀を持ってるような錯覚が起こる。まぁどうでもいいけど。

  奴改めゴブリンは、口をニヤつかせて一歩ずつ前へと歩み出る。そして、手に持ったナイフが月明かりに反射してキラリと光り輝く。それを見てマコトは鳥肌を立てる。

 そうだ。奴はナイフを持っている。それに比べて俺はどうだ。丸腰そのものじゃないか。勝てるはずがない。奴は運動神経は対したことないかもしれないが、あのナイフで一切りでもされればマコトにはもう戦えない。

 マコトが持っているのは、胸の前にあるこの石だけ。打撃には多少いいかもしれないが。小回りがまったく効かない。あんな軽そうなナイフを振り回されたら防ぐことはできまい。かといって殴っても一瞬くらいしか怯まないだろう。生憎マコトには一発ノックアウトのようなウルトラパンチは持っていない。

 ─────逃げるか……

 マコトの頭にその言葉がよぎった。

  今飛び出したら、下手したら死ぬかもしれない。そんな危険な賭けにでてどうする?助ける相手は赤の他人だぞ。そんな奴らに命貼る必要あるのか?ねぇだろ。あるわけない。あったら理不尽だ。

 マコトは一歩後ずさる。

 ────見殺しにするのか……

 そうじゃない。いや、確かに見殺しだ。でも、ただ俺は自分の命を優先しただけだ。自分には罪も何もない。あいつらがあんな怪物と出くわしたのが運の尽きだったんだ。これが現実なんだよ。

 そして、マコトはさらに後ろに足を持っていく。それの後に、ゴブリンも一歩、少女達に近づく。


 ───シロマならどうするだろう。


 ふとそう頭に浮かび上がった。あいつをマコトは尊敬している。行動力があって、思いやりがあって、頼りがある。まだ会ってから全然経ってないけど、すぐにわかった。あいつには力がある。生きていくための力が。

 マコトは立ち尽くした。

 シロマ。俺、もうあと少しで人として、男として、最低なことするとこだったよ。

 マコトはゆっくり息を吸い込み、吐き出す。そして、覚悟を決めた。

  赤の他人?それがどうした。赤の他人なら死んでもいいっていうのか?

  「んなわけあるかよ……」

 マコトは小さく、そして力強く呟いた。それこそ、理不尽じゃねぇか。

 マコトは石を利き手の右手に持ち直し、そのまま一気に振りかぶる。

 ───もう、どうにでもなれ。


  「らぁぁぁ………………ァァアッ!」


  壮大な雄叫びを轟かせ、マコトは思い切り腕を振り切り、石を投げつけた。

  体をムチのようにしならせて放たれた一球は、高速でゴブリンの方に飛んでいく。

  「グゥァ…………?」

 ゴブリンはこちらに首を向けようとした。その姿は、マコトの目にはスローモーションに見えた。

 こちらに視線をギリギリ持ってきたゴブリンは、瞬きして大きく目を見開いた。

  飛び退こうと何とか体を左右に持っていこうとするが、間に合うはずがない。

  次の瞬間。マコトによって放たれた石は、ゴブリンの顔面に直撃した、

  「グゥォアォアァォオ…………ッ!」

 ゴブリンの顔が歪む。一気に顔の形が変形し、口から血反吐が撒き散らされる。片方の目が潰れ、血が流れ出している。

  勢いのままゴブリンは吹っ飛んだ。

 その瞬間、マコトは少女二人に向かって力の限り叫んだ。

  「逃げろ……!」

 マコトはそう伝えると、素早く木の影から飛び出し、ゴブリンに向かって走り出す。

  少女たちはマコトの声に気づいたのか、目を見開いてこちらを向くと、ハッとなって立ち上がる。

  片方の気弱そうな少女は、目に涙を浮かべており、花をすすりながら手の甲で目尻を吹いていた。そんな少女を、もう一人の方が慰める。いいからはよ行けや!

 マコトは心の中でそう吐き捨てながら一気に加速する。

  「ふ……!」

 ゴブリンに追いついたマコトは、右手の拳を握り締め思い切り振りかぶる。鉄拳をすばやくマコトはゴブリンへと振り下ろすのだが、

  「うお……!」

 マコトの拳はスッとかわされ、前のめりに地面へと突っ込んでいく。

  体勢を立て直すことができず、マコトはそのまま勢いよく転倒する。

  「いっつぅ……」

 マコトは目だけ動かしゴブリンのほうを見る。すると、ゴブリンは「クックック」と苦笑してマコトのことを見下ろしていた。

 なんだこいつ………!

 マコトはゴブリンを睨みつけ立ち上がる。

 かっこ悪いなぁ……俺。

 いやね?石ぶつけて「逃げろ!」てところまでは自分でも素晴らしいと思ったよ?でも今の状況何……?

 マコトは心の中でこんな自分を呪った。少女達はもうこの場から逃げ出し、隅のほうの木の陰に隠れている。そのことに対してだけは、マコトは胸を撫で下ろすことができた。

  「くっそぉ………」

 マコトは腕で口元を拭い、ゴブリンに視線を戻す。奴の体はマコトより遥かに小さい。ならパワーもたいしたことないだろう。だがしかし、マコトは見くびっていたに違いない。奴は体も小さく力もないだろうが、その分スピード、反射神経ともに優れている。これはあの独特の小さめの体ならではの特徴だ。

 そこで、マコトはこのゴブリンの印象ががらりと変わった。あのすばやい動きに振りやすそうなナイフ。奴は持ち味のスピードで相手を翻弄し、隙を見てはナイフで切りかかってくるだろう。

  自分の背中に汗が滴り落ちていくのがわかった。マコトの額には汗がもうこべりついている。今まで気づかなかったが、マコトはこの自分が死ぬかもしれないという心の乱れから、心拍数が上がり、少しの動きでも相当な体力を消費していたのだ。

 このままだと、確実にマコトが先にばてて殺られる。

 そう思った瞬間、マコトは地面を蹴っていた。賭けだ。マコトは大きな賭けに出た。この賭けの成功する確率はかなり少ないだろう。しかし、迷っている暇などはない。この策以外に、マコトは思いつかなかった。そして、その少しでも勝てる可能性のある賭け以外に何がある。何もせずに死ぬくらいなら、生前を尽くして死んだほうがマシだ。

  「アァァァァアアアアアアア……!」

 マコトはすばやく体を捻り、右拳を振りかぶる。狙いはゴブリンの顔面。このままいけば確実に決まり、奴はノックアウトするだろう。

 だが、そう簡単にいくはずもなく、マコトの攻撃は空気を切るだけに終わった。攻撃を右に避けたゴブリンは、口元をニヤつかせながらバックステップでマコトから遠ざかろうとした。

  「─────らァアッ!」

 その瞬間、マコトは無理やり体を捻じ曲げゴブリンの方に体を向けると、素早く足を踏み込み突撃する。

  意表を突かれたのか、ゴブリンはマコトを見るなり驚きの表情を見せていた。

  今度こそは。そう思ったのだが、マコトの攻撃はまたまたゴブリンに避けられる。しかし、今回の一撃はほぼすれすれで、あと少しずれていたら当たっていただろう。避けるゴブリンも必死だ。いきなり思考を裏切られた攻撃に焦っているのだろうか。なら、もっとこのチャンスを活かして畳みかけるべきだ。

  「─────ッ!」

 マコトはそこから一気に攻めたてた。とにかくゴブリンに拳を振るい、避けられても、何度避けられても、攻め続けた。これが、マコトの賭け。ゴリ押しだ。

  決して有利な作戦ではない。このまま避け続けられて先にばてることだって大いに考えられる。でも、あのまま一発一発攻めたところで勝てるとは言いにくかった。それなら、全力で体力戦に持ち込んだほうがいいと、マコトは考えていた。

  一発一発素早く、そして強く繰り出し続ける。一回殴るごとに体力がもぎ取られていくのがわかる。体は汗でビショビショだが、もうそんなことは眼中にはない。目の前の敵をぶっ潰すことだけを考えた。

  「ォオオオオオオオオッ!」

 マコトは渾身の右ストレートを放つ。今までで一番体重の乗った一撃が、初めて、ゴブリンの顔面に直撃した。ゴブリンの顔の感触がマコトの拳に伝わってくる。そして、その顔が崩れて変形しているのも分かる。最大の一撃をくらったゴブリンは、一メートル以上も宙を吹っ飛んだ。続いて地面に叩きつけられ「ドサッ」という音が聞こえてきた。

  「ハァ…………ハァ…………」

 マコトの息は完全に上がっている。一呼吸する間が苦しい。肺がもっと酸素を蓄えようとしてくる。ただ、目の前で初めてゴブリンが攻撃を受け伸びている。この結果は大きかった。

 ───まだだ……!

  確かに今の一撃は重かっただろうが、まだ奴は生きている。奴が起き上がる前にここで追い討ちをかけるしかない。

 マコトは疲れた体に鞭を打ち、足を前に踏み出させた。そこから一気に加速し、スピードを上げる。

 ゴブリンまであと少し。着いた。

 マコトは拳を振りかぶり、攻撃態勢に入る。ここで奴を仕留める。それしか考えてなかった。奴の体に拳が届くまでにはもうコンマ数秒しかないだろう。

  届け……!

 マコトは限界まで力を振り絞る。あと少し。あと少しだ。あと…………!

  「うッ─────!」

  瞬間、マコトの腹部に激痛が走った。俺の拳に視線を送る。いや、正確には見れてはいなかった。ただ、マコトの拳が、ゴブリンを捕らえていないことだけはわかった。腹部には、ゴブリンの足が突き刺さっていた。実際には刺さってないけど。

  次の瞬間、マコトは中を浮き、背中を木に打ちつけられた。内臓が飛び出しそうになるが、幸いそれはなかった。

  「ギェァァァアアアアッ!」

 ゴブリンが飛び起き走り出す。速い。ゴブリンは一秒もしないでマコトの近くまでくると、ナイフを逆向きに持ち、思い切りマコトに振り下ろした。

 まずい。このままではゴブリンのナイフに体を貫かれて終わりだ。今思えば、こいつを見つけてからすぐに引き返すべきだったんだ。人を助けるなんて正義感に身を委ねたのが間違えだった。でも、今それを考えてもしかたがない。もうすぐでゴブリンのナイフに刺される。

 マコトは一瞬諦めた。もういいや。こんなよく分からないところで、いつまで経っても野宿し続けるくらいなら、いっそここで楽になってしまおう。

 だが、マコトは次の瞬間にはもうそんな考えは失せていた。マコトの視線には今、あの少女二人が映っていた。心配そうな表情。それはここからでもわかった。

  諦めてたまるか。最低限、ここまできたらもがいてやる。マコトは自分の横に落ちていた木の棒を拾い上げ、前へと突き出した。

 ガツン。木の棒はゴブリンの手を受け止めた。とても重たい手ごたえが腕から全身に伝わる。予想以上に強い力だ。最初こいつを力が弱いと考えていたが、全く逆だった。

  「く………!」

  腕が折れる。折れないけど。でも折れるんじゃないかってくらいの力だ。じりじりとマコトが押され、ナイフがマコトの目に迫る。一瞬でマコトの体に鳥肌が立った。

 ヤバイ……!ヤバイヤバイ……!

  少しずつ、確実にマコトの眼光にナイフが近づく。汗が一気に沸いて、手にもつ木が滑って力がぬける。

 マコトは目をつぶり、歯を食いしばった。

 そして次の瞬間、

  「ガァ………」

 ゴブリンのうめき声が聞こえたかと思うと、ゴブリンは頭から血を出して倒れ掛かってきた。「うぉ……!」とマコトは仰け反り、血だらけのゴブリンを避ける。

 その後ろには、マコトが最初に投げた石だろうか、とにかく大きめの血が付着した石を持った人影があった。

  「え……っと……」

 マコトはその石を持った人影の正体に少し戸惑ったが、すぐに自分が彼女たち、つまり、自分が逃がした少女二人に助けられたのだと悟った。

 その後になってマコトには、安堵感と一緒に、何とも言えない恥ずかしさに襲われた。

  石を持った少女は、肩を前後に上げ下げしながら、呼吸を整えるのに必死だった。

  「だ、だい……じょうぶ?」

  不意にそう聞かれ、マコトはなぜか対応に困る。

  「だ、大丈夫……かな?」

  口ではそう言っているものの、正直大丈夫なわけなかった。腕は痛いし、それ以上に腹部がヤバイ。丁度鳩尾をやられたらしく、さっきからマジでヤバイ。

  「でも本当に助かったよ。ありがとう」

  「いや、お礼を言うのはこっちですよ。教われてたところを、その……助けてもらったわけですし」

  「あ……」

 そうだった。今思い出したが、最初に彼女らを助けようとしたのは自分だった。そう思うと、とても惨めに思えてくる。

  「あたしはカレン。よろしく」

  少女改め、カレンは胸に手を当て、堂々とそう言った。第一印象は、髪が長めで、すらっとしててスタイルのいい少女で、とても強がりだが、さっきのように窮地には弱いということだった。

  「俺はマコト」

 マコトはそれ以外に言うことがなく、自分の名前を言うだけで終わってしまった。

  前を見ると、カレンがもう一人のほうに「ほら早く!」といいかけている。相当な人見知りなのだろうか。

  「い、イロハです……」

 イロハは、リンゴのように顔を赤め、言った瞬間に顔を下に向けカレンの後ろに隠れてしまった。ヤバイ。超癒される。

 じゃない!マコトはすぐに顔に出ているであろう思考を読み取られる前に、話題を別のものへと切り替えることにした。

  「あ、あのさ、カレンさんたちも……その…ここまでのことの記憶は……?」

 そう問うと、やはりと言うべきか、カレンたちは表情を曇らせ顔を見合わせる。そしてカレンは少し笑うと、マコトの考えていることとはまったく別のことで口を開いた。

  「さんはいいって。見た感じ歳も変わらなそうだしさ。それに、ちょっと気恥ずかしいし」

 カレンが言ったのはそのようなことで、マコトは少し呆気にとられた。しかし、次に発せられた言葉に、マコトは顔をしかめることになる。

  質問に対してだけど、全く覚えてないの。覚えてるのは自分のこととかだけで、目が覚めたらここにいたって感じ。で、「も」ってことは、マコトも?」

  「うん。知り合いも家族のことも全く」

 やはり皆そうなのだろうか。例外がいるのではと考えていたのだが、今の答えを聞いて少し可能性が下がってしまった。

  同時に思い出したのだが、もうシロマの洞窟から離れて結構経っている。早く帰ってやらないと心配をかけてしまう。だが、マコトは自分がまだ食料を手に入れていないことを思い出し、気持ちがズンと下がっていた。

 しかし、マコトはシロマ以外の生存者と合流することができ、奇妙な生物が出るという危険性も把握することができた。そのことだけは、現在の状況からすれば大きな進歩だろう。それに、出会ったカレンとイロハも一緒に行動することになれば、生存率も、生きていく中でのメンタル面に関してでも都合がいい。

  確かに食料を確保できなかったのは痛いが、マコトはシロマ以外の人と出会えたことの喜びのほうが大きかった。

  「あの、よかったらなんだけど」

 マコトはさっそく切り出すことにした。彼女たちをこのまま放っておくわけにはいかない。孤立すれば、またさっきのような怪物に襲われるだろうし、人としてそんな血の涙もないことはできない。

  「俺たち、というか……今ちょっと別行動してるシロマって奴がいるんだけどさ、その……そいつと俺とで行動しないか?このまま俺も放って帰るのもあれだし、俺たちとしても一緒にいる人が増えたほうが心強いし……さ?」

 ちゃんと伝わったかな……俺こういうの苦手だし。自分で自覚もなしに変なこと言ってたかも。ああヤバイ…!なんか恥ずかしくなってきた……!

  一人マコトがパニクっていると、カレンがサラッと返事をよこした。

  「うん。そうだね。その方があたしもい役立つし、それにいいパシリもできあがるしね」

  「おい。そのパシリって俺のことじゃねえよな……」

 カレンからの予想外の返事に、マコトはそう尋ねたが、帰ってきたのは「当たり前じゃない」の一言だった。

  今改めてマコトは、このカレンがなかなかのドSよりであることに気づいてしまったが、もう遅い。きっとこれから酷い扱いを受けるのではないかと、マコトの頭はその不安でいっぱいだった。


  二人と行動を共にすることになったマコトは、ひとまずこの森から出るためにひたすら歩き続けた。道なき道を進むのは苦難だったが、一本の通路。つまりマコトが最初に通ってきた道に出てからは早かった。

  一本通路を歩き続け、森から出たところで、マコトは足を止めた。理由は、洞窟の穴の前で、シロマが立っていたからだ。シロマはマコトから向かって東の方角を見上げ、口をポカンと開いていた。

  傍から見ると不気味に見えるのはなぜだろうか。後ろで二人が少し引き気味な反応をしていた。おいシロマ。きっとお前最初っから変な印象受けてるぞ。

 マコトはそう心の中でシロマに語り告げると、再び歩き出してシロマのもとへと歩み寄る。

  「シロマ、どうしたんだ……?こんなところで……」

  心配してそう声をかけると、シロマはこっちを向くことなく、口だけ開けて応答した。

  「…………マコト。あれ……」

 シロマはそう小さくつぶやくと、人差し指を向いている方角に指した。

  「え……なんだって?」

  「あれだよ……!あれ」

 マコトはシロマの人差し指の方向を追って、シロマの言う「あれ」を見つけた。

  「……!」

  一瞬でマコトは言葉を失った。その「あれ」というものを見て、複雑な気持ちが心の中を交差する。

 それはここからそう遠くはないところにあり、ここを出て食料を探しに出る前までは気づかなかったが、今は星の明かりでくっきりと確認できる。

  「あれ」は、ここら一辺とは明らかに違うオーラを放っていた。凄まじい存在感だ。あの冷静なシロマがこうも固まるのも無理はない。

 マコトの目に映っていたのは、この大自然とは真逆の、そして広大な。記憶がない今でも感じるような、これまでに見たことのない建造物。

 そう。そこには、マコトの目には、凄まじいオーラが渦巻いている巨大な大都市が映っていたのだ。


  ***


  翌日、マコトたちは一刻も早くこの洞窟を旅立った。目指すは洞窟の向かいから東の方向にそびえる巨大都市。そこにつくまでの時間はそうかからないだろう。とはいっても、大体五キロ近くはあったんじゃないかと思う。まぁいつもの体調ならたいしたことないかもしれないが、昨日から何も食べてないマコトたちにとっては相当厳しかった。一体何度カレンにおぶってと言われただろうか。まぁおぶらなかったれど。

 なんとか街の入り口にたどり着き、マコトたちは大きな門をくぐった。すると、大都市の内部の光景が一気にマコトたちの視界に入り込んだ。

  「ぁぁ………!」「凄い……!」「おっきい……!」

  俺たちは反射的にそのような言葉が口から漏れた。それはそうだ。見渡す限り続く巨大な街並みは、何層にも重なっていて、中心にはどこまでも高く続く大きな、いや、大きすぎる塔が建っていた。その中心から流れ出してくる川の水はこの入り口の外まで続いている。建物だけではなく、ここの住民たちもたくさんいる。しかし、皆マコトたちとはだいぶ違う格好をしている。すべて薄っぽい布などの貧相な感じだ。マコトは自分の格好をチラッと見る。少し袖の短いパーカーに動きやすめのズボンにスニーカー。どう見ても、マコトたちは浮いていた。よく見ると、皆マコトをチラ見しまくってはヒソヒソと耳打ちしている人もいた。正直気分がいいとは言えなかった。

 そんな中、他の住民とは明らかに違う集団を発見する。体を鉄の鎧で覆っている者や、背中や腰に剣を帯びている者もいる。その集団はいくつもあり、彼らは皆マコトたちを見ても全く反応なしだった。彼らにとってはたいしたことではないのだろうか。今の情報量じゃあ到底分かるはずもなかった。

  住民たちに変な視線を浴びせられながらも、マコトたちは歩き進んだ。ここら辺には屋台がたくさん出ていて、おいしそうな匂いに釣られてしまう。だが、マコトたちには今、一銭もお金もない。これでは食べ物が目の前にあっても拝むことしかできない。

  「拷問だろこれ……」

  「我慢しなよ。水ならなんとかなりそうだから」

  水かよ。マコトはそう心の中で毒づきながら歩き続けた。そもそも水なんて行きに川の水飲んだから。

 しかしさっきから、自分たちが一体どこに向かっているのかさっぱり分からない。こんなところ初めてだし、まったく知らないことだらけだ。でもシロマは迷いなく足を動かしている。まるでこれが初めてではないかのように。それとも、何か手がかりでもあるのだろうか。そんなことマコトには知る余地もないが、自信ありげにどこかに向かってくれているなら、こっちにとっても都合がいいので気にも留めなかった。

  「シロマ。これからどうするんだ?」

  確かにどうして手がかりがあるのか知りたいが、それよりもマコトには、その手がかり的なものがどのようなものなのかの方が気になっていた。

 シロマは少し間を置くと、こちらに顔だけを向けて答えた。

  「まぁ適当に観賞」

  「………はぁ」

  大体そうなのではないかとは薄々思っていた。でもよくこんな腹も減って視線が痛いとこで呑気に街観賞なんてできたものだ。

  「でもすごいねぇ。こんなに大きな街。どのくらいあるんだろ」

 カレンが周りを見渡して、そう関心深く呟いた。

  「さぁ。五キロ以上はあるんじゃない?」

 マコトの勝手な予想だが、無視するのもなんだったので答えておいた。ここからでは上の層に隠れて反対側がどうなっているかは見えない。だが、この街の中心と思わしき塔までは相当ある。だが、今思えばちょっと五キロは盛りすぎたかもしれない。

  「イロハ?」

 シロマはイロハの方に顔を向けると、少し心配げに声をかけた。

  「さっきから何も話してないけど大丈夫?」

  「え……?」

  不意にそう聞かれたイロハは硬直して顔を赤めている。そう言われてみれば、この街に来るまでもほとんど喋っていない。初めてあった時からこういう正確だということは大体わかっていなけど、マコト的にはもう少し喋ってもらいたいと思っていた。

 イロハは数秒目を泳がせおどおどした後、「す、すみません」となぜか謝り、さらに赤面となって俯いてしまった。

  「え……」

 これにはマコトもシロマも呆気にとられて言葉を失った。

  「無理しなくてもいいからさ。これからもっと仲良くなれば言い訳だし」

 シロマは冷静にそう答え、自分の犯した失態の穴を埋め返した。

  「………は、はい」

 と───────っても小さく、イロハはそう返事をした。

 マコトとシロマは苦笑いを浮かべつつ、この話題を流すことにした。

 シロマの奴、変な話題出すなよ。なんか気まずくなっちゃったじゃん。

 マコトはむスーッとした表情で、背を向けているシロマを睨んだ。

 しばらく歩いていると、シロマが急に歩く足を止めた。適当なところに視線をやっていたマコトは、危うくシロマと衝突するところだった。

  「ど、どうした?」とマコトはシロマに視線を向けようしたのだが、自然とマコトの目はその向こうへとつられていった。なぜなら、シロマの目の前に、全身を凄い鎧で固めたいかにもヤバそうなオーラを放った兵士が立っていたからだ。

 マコトは反射的に後ずさろうとした足を踏ん張って停止させた。シロマを見るが、前を向いているため表情がわからない。お願いだがらシロマ何か言ってくれ。

 マコトはチラッと後ろに振り向く。二人とも完全に硬直状態だ。特にイロハなんて言葉じゃ表せないくらいの異常事態になってる。

 これはマズイ。でも俺たち何もしてないよ……?なんでこの人こんなところに突っ立ってるの?早くシロマこの人避けてよっ!

 どれくらい間があったか知らないが、とうとう兵士の方が口を開いた。

  「貴様ら。この街のものではないな?」

 やっぱりわかるよね。こんな浮きまくってる服装じゃあバレるよね。いやでもダメなの?無断でこの街入るの。

 その疑問が通じたかのように、シロマが兵士の問いに答えた。

  「はい。先ほどこの街に来たばかりです。しかし、まったく記憶がなくて」

  「記憶がない?」

  兵士はシロマの言葉をそう繰り返して言うと、「ハッ」と何かを思い出したかのように声を漏らした。

  「わかった。貴様ら。ついてこい」

  兵士はそう言うと、こっちに背を向け歩き出した。それについてシロマも歩き出してしまった。

  「え、ちょっ!」

  急な出来事すぎて、マコトたちはまだ現状が理解できていない。それになんでシロマはすぐ言うことを聞いちゃうのかもわからない。一言くらい俺たちに何か言ってくれよ。

 パニくったまま、マコト、カレン、イロハの三人は先を歩く兵士とシロマのもとに走り出した。


 マコトたち一行は、数分ほど歩き続け一つの建物の前へと来ていた。建物は他の建物と比べると少し小さめで、貧相でもあった。

  「私はこれで」

  「ま、待って……!」

 マコトは引きとめようとするが、兵士は無反応でサッと背中を向け歩いていってしまった。

 そのままマコトたちは数秒、沈黙が続いた。そしてマコトは、一番にシロマを睨みつけた。

  「おい……!どうしてこうなった……!」

  現在、マコトたち。主にマコトは混乱していた。シロマの勝手な行動により変な場所に連れてこられ、ここがどこなのか、場所を見失ってしまった。

  「シロマ。私たちにも納得のいく説明してもらえないかしら?」

  全員がシロマに視線を浴びせる。もし自分がこんなことになったらいても立ってもいられずに逃げ出すだろうな。などと考えながらも、マコトはシロマを睨み続けた。

  「大丈夫。それに僕は質問に答えただけだよ。この街のものではない。そうだろ?」

 そう言われ、マコトとカレンは黙り込む。それからもシロマは自分の思考についてを語り続ける。

  「それに、自分の記憶がないってことを教えた直後にあの兵士は明らかに態度が変わった。だとしたら、僕たちはここに来る運命だったんだと思うんだ。度の道僕たちには目的がなかったんだ。ここでならお金ももらうことだってできるかもしれないし、この街のことも教えてもらうことだってできる。今の僕たちにとってはまたもないチャンスじゃないか」

  「た、確かに……」

 シロマの説明にマコトは完全に論破されてしまった。最初にあった時から思ってたけど、やっぱりシロマは凄い。マコトとの脳の出来が違うんじゃないかと思う。もう今の意見には誰も口出しすることはなかった。それまでに完璧な意見だ。

  数秒。マコトはシロマに視線を戻すと、今からすべきことを語った。

  「入ろう」

  「あぁ」

 マコトたちは目の前の一軒の家のドアを見つめる。そして、シロマが一歩歩み寄り、右手でドアノブを掴み、回した。

 ………ガチャ

  ドアノブはボロボロな外見の裏腹に、とてもスムーズに回すことができた。それからゆっくりとドアを開いていき、とうとうドアが全開になる。

  中を覗き込むと、そこは何やらシャレたバーみたいなお店だった。客は一人もおらず、マコトたちだけのようだが、カウンターの向こうには一人、店員らしき男性が居座っている。彼はとても目つきが悪く、正直話したくない。そんな彼は今、カウンターの上で食器を丁寧に拭いている。ちょっとシュールに見えなくもない。

  「すみません」

 そう断って、シロマ、マコト、カレン、イロハの順で中へとはいる。そこで男性はようやく気づいたらしく、こちらを向いて挨拶をしてきた。

  「いらっしゃい」

 とても低音な声が鳴り響いた。マコトたちはその声に少し震えながらも、カウンターの前に、椅子には座らず並んだ。

  「座ってもいいぞ?」

  「い、いえ。大丈夫です」

 そう断ると、男性は「そうか」と言って食器を拭くてを止めた。

  「あんたら。今日この街に来たのか?」

  不意に彼はそう質問する。

  「は、はい」

 その問いにはマコトが応答する。

  「記憶はある?」

  次に投げかけられた問いには、少々答え方が難しかった。が、そこでシロマが助け舟を出してくれた。

  「無いです。ほとんど」

 それを聞いて、男性は決心がついたようで、さっきまでダルそうな目をしていたが、今はとても真剣な表情をしている。

  「わかった。君たちを歓迎する。この大都市「アナザーワールド」に。そして俺はレインだ」

  一つ気になる点があった。別にレインの名前が変ってわけでもない。気になるのはこの大都市の名前の方だ。

  「アナザー?」

 マコトはそう呟いた。なぜもう一つという意味なのだろうか。そう疑問に思った心を見透かしたかのように、レインはそのことについて語った。

  「なぜアナザーという単語なのかは俺にもわからない。前者の者たちが決めたものだからな。それに、今はそんなことはどうでもいい。君たちがここに来たのは、ただ歓迎パーティをするためじゃない。というか歓迎パーティなんてしない」

  見た目とは裏腹なジョークに、マコト含め皆硬直してしまった。

 この人マジてシュールな場面多いな……

「君たちは、探索兵サーチャーという名目で、働いてもらう」

  「サーチャー?」

 その単語には聞き覚えがなかった。それは他の皆も同じようで、難しい表情を浮かべている。

  「そう。サーチャーは、我らヒューマンとの敵対種族、亜人デヴィヒューマンの狩猟が主な活動目的で、もう一つは、迷宮区の攻略。これが探索サーチという言葉がきた由来だな。で、サーチャーはその狩った亜人の身ぐるみを剥ぎ売り飛ばす。その金がサーチャーの主な収入だ」

  「あ、あの。迷宮区って……その……何なんですか?」

 そこでカレンが質問した。正直マコト自身も気になっていた。

  「迷宮区については後で説明する。まずはこのサーチャーになるかどうか。俺は強制はしない。やるかやらないかはお前らの自由だが、ここ以外の楽に稼げる職業があるなんて思わない方がいい」

  強制してないけど確実にこの人俺らを脅してるよな。超意地悪い。

  「他の仕事は命に関わりゃしねぇけど、サーチャーは別だ。命の保証はできない」

  「え……?」

  命の保証?そんな危険なの?サーチャーって。

 マコトたちがビビっている間にも、レインは次の話に入った。

 レインはカウンターの下から小さな袋をマコトたちの人数分、つまり四つ取り出した。その袋をカウンターに置いた時の音を聞いて、マコトは一瞬でその音の正体がわかった。

  「サーチャーになる奴にはこのゼニーコイン十枚と、サーチャーの証、攻略章を与える。攻略章があれば、戦闘系統の雑貨品や、宿屋の割引に、迷宮区への交通許可証にもなる。つまりサーチャーとして必須のアイテムってわけだな」

  「ゼニーコイン一枚はどのくらいの価値があるんですか?」

 シロマは真剣そのものの表情で言った。すると、レインはゼニーコインを一枚袋から取り出すと、こちらに見せてきた。

  「この都市では、一ゼニー百ブロンドで、十ブロンドあれば宿くらいには泊まれる。で、百ゼニーで一ライトになる。これは基本だから間違えないように」

 そう言うと、レインは指先にコインを乗せると、パチンとコインを弾き飛ばした。それを弾き飛ばした手で受け止める。その後はちゃんと元の袋にコインは戻した。

  「なるほど」

 シロマは顎に手を当て考え込んだ。マコトたちも同様だ。この誘いに、受けるか、否か。皆必死に考えていた。

  奴は命の保証はないと言った。狩猟とも言った。つまりこの職業は明らかに危険だ。それも命に危険が及ぶほどに。だが、だからと言って他の職業には行く手はない。しかも、このサーチャーになればゼニーコイン十枚も貰える。現在一銭も持っていないマコトたちにはこれ以上にない成果だ。

  「みんな……どうする?」

  聞いてみたものの、やはり返事はない。みんな決められないのだ。今は金がもらえていいかもしれないが、その後は命の危険もある。それを聞いたことでみんな答えが詰まってしまっているのだろう。

 だが、マコトは口を開き、自分の思ったことをそのまま言葉にした。

  「俺は……やった方がいいと…思う……。確かにサーチャーは危険かもしれないけど、今はお金が貰えるんだがら全然いいじゃないか。それにもし危険すぎると思ったらやめれば言い訳だし。現状このままじゃみんな飢え死にだよ。だから多少危険でもやるべきだ………と思う」

  最後に結局弱気になってしまった。でも、自分の思いは伝えることができた。あとはみんながどうするかだけど………

「僕も……マコトと同意見だよ。このままじゃ駄目だ。お金を手に入れて、最低限の食料も手に入れなきゃ」

  「そうだね。私も同じかな」

  「わ、私も………」

 マコトはみんなの顔を見た。正直、心の中に、もし断られたら。という不安はあった。誰一人としてこんな危険な職業やりたくないって思ってたら。でも、みんな笑顔で自分の意見に賛成してくれた。その嬉しさにマコトは少し泣きそうになった。まぁ泣かないけど。

  「みんな……ありがとう」

 マコトはもう一度みんなを見渡し思った。


 ───俺は、このみんなと会えて本当によかった。


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