表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
交錯する時間軸  作者: 通り雨
3/3

後編


 ───その願い、聞き入れた。





◇◆◆◆




「脆いなァ…」


 人間は本当に脆い。

 特に女子供などは、一捻りで命を散らしてしまう。

 強者を求めているわけじゃあ無いけれど、こんな展開も望んでいない。

 そもそも、どこで狂ったというのだろう。

 俺はただ…──


「………」


 ふと、一人の女の顔が頭を掠めた。

 家が隣同士の幼なじみで、村にいる同年代の子供中でも、特に気が合った。病弱だったけれども優しくて、芯が強くて。

 滅多なことでは泣かない人だった。

 けれど、たった一度だけ泣かせてしまった事があった。

 あれは、いつだったか…──


「……くっだらねぇ」


 あいつは死んだんだ。それを嘆く時期はとうに終わった。


 ──これは復讐だ。


 あいつ自身が望んでないことだってのは、よく知っている。もしこれを見ているのならば、必死に止めただろう。

 だから、…これはあいつのためなんかじゃない。そんな奇麗事を吐くつもりはない。

 これは、俺のための復讐だ。

 あいつが最期まで恨むことのなかった奴らだけれど、俺にとってはずっと敵だった。

 だから──




 そうやって回想に耽っている間に、森の中のとある湖に来てしまったらしい。

 自分の村から大分離れた所だから、もちろん見覚えなんざありゃしない。


 最初は復讐のためだったが、見境なく村の住人を殺している間に、どうでも良くなった。

 これは快楽のための殺人なんかじゃないが、自分の意志で止める気にはなれない。どうせ地獄に堕ちるんだから、一人殺しても百人殺しても同じだろう。

 元から腕っ節が強かったというのもあるが、自分の居た村はおろか、その隣の村でも自分を止められる者は居なかった。

 途中で出会った旅人や盗賊も皆殺しにしたし、何人殺したかなんて一々覚えてなどいない。


 自分が狂っているなんて、百も承知だ。あいつが生きている頃から、そんな事とっくに自覚している。

 あいがいない世界なんて、生きていても面白くない。

 どれだけの人を殺せば、誰かが自分を殺してくれるのか。


 ──断罪を望んでいるのに、いくら殺しても神は現れない。

 村に伝わっていた言い伝えでは、神は人を殺した者に天罰を下すらしい。

 それが生きているうちになのか死後なのかは分からないが、そろそろ来ても良い頃ではないだろうか。


 それとも、大陸中の人間を殺せば……?



「…やってやろうじゃねぇか」


 死んで行き着く先は地獄の最下層だろう。

 しぶとく生きていようと、今死のうと、あいつには会えやしない。

 それならいっそ、



「──何してるの、こんな所で」


 懐かしい声が、耳朶を打った。


「っ…え……?」

「久しぶりだね。といっても、あれから一週間も経ってないのだけれど」


 元気そうだね。

 一メートルほど離れた位置に、ふわりと髪をなびかせて立っている女性。

 その服装は見覚えのある物で、とても現実味を帯びているけれども、理性がそれを否定した。


「何で……っ」

「神様がね、君を止めるために私を遣わされたんだよ。生き返ったわけじゃないから、この通り肉体は無いけれど」


 彼女を呼んだ声は、音にならなかった。

 ──約束を破っておいて、名前を呼べるわけがない。


「それはともかく。…私がこうして現れた理由、解ってるよね?」


 私は大量虐殺なんて望んでいないんだよ。

 何度も言った筈なんだけどなぁ、と溜息混じりに諭され、居たたまれなくなって視線を外す。

 怒られるであればまだ良い。けれど、こんな風に感情のない視線を向けられるのは辛い。


「………悪い」


 まだ何やら言いたげな表情だったが、その簡素な謝罪の言葉に彼女は嘆息すると、ゆるりと首を振った。

 ──まあ、私は裁く立場では無いからね。君が心から反省しているのならば、私が出る幕ではない。

 そう言って再び此方を見た彼女は、やや逡巡してからぽつりと言葉を呟いた。


「……地獄に堕ちる覚悟は?」


 ある、と思う。

 けれど…もうこれが最期で、彼女に会うことはおろか、声さえも聞けないのだったら。


「──…なぁ、俺の名前を呼んでくれよ」


 最期なんだろ?

 地獄に堕ちるのは仕方がない。暴走しすぎたのは理解している。

 だからせめて、と懇願すると、彼女はぎゅっと眉根を寄せて、小さく横に首を振った。


「私はもう死んでいるから、出来ない。それはことわり──侵すことの出来ない規則なんだよ。というか、君こそ私の名前を呼ばないんだね?」

「……血で穢れてンのに、呼べるわけねぇだろ」

「そっか」


 そこでようやく微かな笑みを浮かべた彼女は、不意に彼の元に走り寄って行き、彼の背中に腕を回して抱きついた。


「…ごめん」

「……それはこっちの台詞」

「じゃあね。……───愛してる」


 彼の言葉を遮りまくし立てるように別れの挨拶を述べた彼女が、最後の言葉を自分だけが聞こえる音量で零す。


 ──刹那、とても強い風が吹いた。




これにて完結です。

終わり方が中途半端だと思いますので、もしかしたら後日談やこの後の話もあるかもしれませんけれど。

要望があればまた書くかもしれませんが、それでも、これで一区切りとさせていただきます。


読んで下さった方々、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ