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交錯する時間軸  作者: 通り雨
2/3

中編



 駆ける。

 駆ける。

 駆ける。


 そうして、半刻ほども駆けた頃だろうか。

 徐々にスピードを落とした魔物は、ある地点で止まった。

 くわえられて走られたことにより酔った女の子は、降ろされた当初は反応が薄かったが、復活するとキョロキョロと辺りを見回した。


「ここは…?」

「初めまして」

「え…?」


 身近な所から声が聞こえてきた。

 そちらを振り向くと、黒髪を高めの位置で一括りにした女性が、膝を折って女の子に笑顔を向けていた。


「あ……。おねえさん、だれ?」

「私? …そうね、私は××」


 女性の言った名前に馴染みが無いようで、女の子はきょとんと首を傾げた。

 それに淡く笑って、女性は付け足した。


「私がいた村の言葉で、神様につかえる人たちの事よ。君には、少し難しいかもしれないけれど…」


 成長すれば直に分かるようになるよ、と女の子の頭を撫でた女性は、ふと女の子の背後を見た。


「どうしたの? おねえさん」

「…いえ、何もないわ。──急にで悪いのだけれど、あなたの弟を少し預けてくれない? …今ならまだ間に合うから」

「え……」

「といっても、初めて出会った不審人物を信用しろって方が難しいんだけれども」


 どうしたものかと困った表情で呟く女性を見た女の子は、抱いていた弟を若干持ち上げた。


「あのね…っ! 泰呀が冷たいの。いつもはもっとほかほかなのに…」


 必死に弟は大丈夫かと訊ねてくる女の子の目には、涙が浮かんでいる。


「今はまだだけれど、きっとすぐに大丈夫になるわ。一緒に行って、歯車を戻してもらいましょうか」

「はぐるま…?」

「その子はね、元々ここで死ぬはずじゃ無かったの。けれども、私のせいで少しずつ皆の歯車が狂ってしまった。この子は、私が狂わせた歯車の影響を多く受けた人の一人なのよ。死んでしまった者たちはどうしようもないけれど、その被害を必要最小限に収める…──それが、私に科せられた使命なの」




◇◆◆◆




「隊長! №21との連絡も途絶えました!!」

「場所捕捉が途切れた位置から推測するに、標的はこちらに向かってきているものと思われますッ…!」

「標的が通った後の村の状況は!?」

「不明です!」

「このままの速度では、およそ一カ月と経たずに中央部に着くものだと思われます」

「標的だって生き物だ、睡眠くらいはいくらなんでもとるだろう!?」

「それを鑑みて希望的憶測で一カ月です! 早ければ二週間以内にでも……っ」


 組織内に響き渡る声はどれも、悲鳴に近かった。

 ──正体不明。被害状況不明。原因や現在地も予測不可能。

 組織内からは「標的」ではなく「化け物」や「アンノウン」にしようとの案もでているが、それでは余計に恐怖を煽るということで、却下されている有り様だった。


「このままでは、この大陸中の人が……」

「滅多なことを言うな!」


 上司から叱咤が飛び、軽率な発言をした部下は、ハッと口許を押さえた。


「すいませんでした!」


 ──だけれども。

 その部下の呟きが、この状況を雄弁に物語っているのだった。





◇◆◆◆





「ある方から、弟さんにはこれを飲ませてあげるようにって」

「これは…?」

「さぁ? 私は、詳しいことは知らされてないの。…けど、栄養があるのは確かだから心配しないで」


 変わった形の瓶に入れられた白い液体。

 問うた女の子に、先ほどの女性は肩をすくめた。毒ではない事は確かだけど、何が入っているかは分からないのだと答える。


「まだ乳呑み児なのね」

「うん」


 たわいもない話をしつつ、弟へとそそれの液体を飲ませる。

 そうすること十数分、漸く全てを飲み終えた弟は、お腹がいっぱいになったようで、ゲップをするとすぐにスヤスヤと寝始めた。

 そこで一息吐く。弟が元気で安心した。

 女性は、眠る弟をじっと見つめる女の子の頭を微笑ましげに撫でた。

 それから、おもむろに天を見仰ぐと、やがて立ち上がった。


「おねえさん……?」

「──元気でね、あなたもあなたの弟も。…私は行かなくてはならないから、もう行くけれど」

「え……?」

「ごめんなさいね。詳しいことは教えられないのだけれど…私は、あの人を止めるために猶予を与えられているに過ぎないの。止められなければそれまでだし、止められる保証もない。けれど、止めなければ被害が増えるから……」


 元はといえば私のせいだから、償いはしないといけないの。

 これが罪滅ぼしになるのかは分からないけれど、せめて。


「もう会うことはないだろうけど──元気でね」


 目を瞑って、と言われるままにぎゅっと目を閉じる。

 もう一度頭を撫でられた感覚がした後、耳許で、ヒュッと風を切り裂く鋭い音がした。


「おねえさ…?」


 開けても良いとは言われなかったけれど、今まで女性がいた所から人の気配が消えたのを察して、女の子はそぅっと片目を開いた。

 すると、目の前にはおろか、辺りを見回してみてもさっきの女性の姿はない。

 それどころか、一軒家の外に出てみても、人の姿は見つけられなかった。




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