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第三十話 連戦

 頭の無くなったティガーグールはそれでも集落にグールを投げていたが、グールを振りかぶったところで、赤い眼の剣がティガーグールの右肘から上を切りつける。

 近くで見ると、腕にズレがあったのでそこを狙ったのだ。

 元々のティガーですら腕を切断する事は難しかったのだが、硬度の上がったグールの腕を切断するのはさらに難易度が上がる。

 そのはずだったが、戦闘行為に耐えられたとしても赤い眼の剣の切れ味には耐えられなかったらしく、くっつけていた腕が簡単に外れて切り落とされた。


「だとすると、次は右足か?」

「そう言う事です。これで発射台としての機能は停止します。それから村の救援に行きましょう」

「それなら急ぐとするか」


 大きな右腕が無くなったティガーグールは、ただでさえ緩慢な動きで考えると驚くほど大きな死角が出来ている。

 投げ損なわれたグールを切り倒し、沼に着地するようにティガーグールの右足を切る。

 この右足もティガーとの戦闘の際に大きなダメージを与えていた。

 そのせいでティガーグールの右足は切断され、腕と足を失ったティガーグールは体を支えられなくなり、右側に倒れる。

 こうなってはティガーグールと言っても、ただの粗大ゴミでしかない。

 完全に機能が停止した発射台などに時間をかけるのも意味が無いし、投げ込まれたグールに沼の一族が苦戦しているかもしれないので、翔英はティガーグールから集落へ戻ろうとする。


「選抜隊候補に選ばれるだけの事はあるみたいだな。お前よりよほど優秀みたいだぞ」


 赤い眼の剣にそう言われ、翔英は倒れた粗大ゴミだったはずのティガーグールを見る。


「そんな事が出来るんですか?」

「俺に言われても知らないが、出来ると思った方が良いだろう。実際にやっているのだからな」


 翔英が驚きの声を上げるのに対し、赤い眼の剣は冷静に言う。

 既にこの近辺にはグールは十体もいないのだが、その内二体がティガーの体を支え、別のグールが切り飛ばされた右腕をティガーグールのところへ持ってくる。


「考えてみると生きている訳ではないのだから、いくらでも修復可能と言う事か。村への援護より発射台の破壊を優先すべきではないか、指揮官?」

「そうですね」


 と答えて、翔英はティガーグールを見る。


「発射台の破壊と言うより、修復要員を倒す方が効果的です。残りのグールを倒しましょう。弾が無ければ発射台だけでは意味が無いし、倒すのも簡単だから」

「そうだな、そうしよう」


 赤い眼の剣はそう言うと飛び上がろうとしたが、その場でジャンプしただけになった。


「おっと、効果切れか。まあ、あの耳女にも実力の違いは分かった事だろう」


 確かにあの立体的な動きを見せられれば、実力の差はわかるだろう。

 頭上からの攻撃であればグールに対し一方的に攻撃できると言う事も伝わったはずだ。

 とはいえデデレデの性格を考えると、それで素直に頭を垂れるかと言うとそうでもないような気もする。


「でも、これ以上戦闘行為を継続させても勝ち目がない事くらいわかりそうなモノですけど」

「グール程度なら最初から相手にもならん」


 翔英が残ったグールに切りかかろうとした時、上空から異様な獣のいななきが響き渡る。


「おや、夜の魔物のお出ましか」

「夜の魔物?」


 翔英が空を見上げると昨夜と同じく月明かりはあるものの、異常な影が迫ってくる。

 翔英はグールから離れ、坂道の途中で剣を構える。

 その獣はティガーグールの上に降り立った。

 大きさはティガーと変わらないくらいの巨大な牛のような魔物だが、その牛の巨体を空に浮かせるほど大きく逞しい翼を持っている。

 さらに口からは炎が漏れている。

 どう見てもティガーより危険そうな、手を出すべきじゃない魔物に見える。

 牛の魔物は、今はティガーグールをバリバリと音を立ててかじっている。

 赤い眼の剣が再三硬いと言っていたのだが、牛の魔物はまったく気にすることもなく蹄で抑えながら、食いちぎっている。

 この牛にかじられたら、痛いでは済みそうに無い。


「確かレッドブル、だったな。夜の魔物の中では標準クラスの魔物と言える。これに勝てないようでは、夜に行動は出来ないと思うべきだ」

「ティガーと比べると?」

「日中の敵とは比べ物にはならないぞ。さあ指揮官殿、いかがいたしましょう?」


 赤い眼の剣は楽しそうだ。

 ティガーより危険度が高い牛で、大きな翼を持ち空から降りてきたと言う事は空を飛ぶことも出来る。

 口から炎が漏れている事を考えても、おそらく炎を吐く事も出来ると言う事だ。

 そこから考えられる事としては、先ほどまで翔英がティガーグールに対して行っていた優位を完全に相手に奪われていると言う事だ。

 赤い眼の剣は近接戦闘では部類の強さだが、斬撃を飛ばすと言うような有効な間接攻撃を持っていない。

 牛が上空から炎を吐きかけてきたら、翔英には打つ手が無い。


「デデレデにさっきの魔術を使ってもらう必要がありますね」

「では集落へ行くか? グール程度を処理出来ない連中は、何人いてもレッドブルの餌食になるだけだぞ?」


 翔英が集落に行けば、あの牛も呼び込むことになりかねない。

 そうなっては投げ込まれたグールどころの問題ではない事くらい、翔英にも分かっている。


「どうするつもりだ? この程度の決断も出来なければ、指揮など無理だと思うぞ」

「ここで戦いましょう。沼の一族には危険過ぎます」

「まるでいっぱしの戦士気取りのセリフだな。俺としては、お前程度であったとしても失うのは手間なのだが」

「相手は牛ですから首をいけば一撃で倒せませんか?」

「そいつは俺でも難しいな。まず狙うべきは翼だろう。空を飛ばれては手が出せない。一撃で賭けるとすれば、的も大きい翼の方が勝算はある。ただし、有効打を見込めるのは一撃目だけだ。それをミスすれば、空に逃げられる」


 まだ牛はティガーグールを齧っている。

 チャンスはこの一撃のみ。

 翔英は坂の途中から、沼にいる牛に向かって突進する。


「ショーエー! 無茶しないで!」


 牛の背後から切り込んだ翔英が、まさに牛の翼を切ろうとした時、集落の方からデデレデの絶叫のような声が響く 

 あまりにも悪いタイミングだった。

 牛はのっそりと振り返ると、切りかかろうとしている翔英に気付き、炎を吐き出す。

 まるで火炎放射器のように直線的な炎だったので、翔英は横に飛んで炎を避ける。

 勢い余って沼の中に飛び込む形になったため、体中泥だらけになってしまったが、かろうじて完全に避ける事が出来たので火傷はしていない。


「ショーエー!」


 集落からデデレデが飛び出してくると、翔英のところへやって来る。


「おい、耳女、邪魔だ!」

「無茶しないで! 一人で何とかなる相手じゃないわ!」


 泥まみれであるにもかかわらず、デデレデは翔英を助け起こす。

 綺麗な鎧が泥で汚れるのは申し訳なかったが、デデレデはそれを気にしていないみたいだ。

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