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第二話 初戦闘

「ヒィッ!」

「ビビるなよ。ただの雑魚だ」

「いや、だって、ま、まも、魔物って! 無理ですよ、無理無理」

「お前では無理でも、俺には問題にもならない」


 喉の奥で引きつった声を出す翔英に、赤い目の剣は笑う様に言う。

 今の状況でビビるなと言うのは、猛獣を放し飼いにしているところでバスから降ろされ、この剣を持っていれば大丈夫ですよ、と言われるようなモノだ。

 普通に考えて、それでビビらずにいられる高校生は、日本でも両手の指ほどもいないだろう。


「俺はお前達の事は正直よく知らないのだが、一つ良い事を教えておこう。俺はこれまでにお前達のようなモノを何度も見てきたが、最初の一戦目で死ななかった奴は、それからしばらくは生きていられた。中には元の世界に戻った奴もいるし、大金持ちになってこの世界で悠々自適に暮らしている奴もいる」


 剣は気を遣ってくれているようなので、口調ほど悪い奴じゃ無いのかもしれない。

 そう思うと、翔英は少しホッとする。


「リラックスしていろ。こんな程度のアソビで死なれては、俺の手間に対する割に合わない」


 赤い眼の剣がそう言うと、翔英は身体に違和感を覚える。

 何かに上から包まれた様な、奇妙な感覚だった。

 醜い人型が何か叫ぶと、涎を撒き散らす狂犬が一匹放たれる。


「うわっ!」

「心配するな」


 翔英は恐怖のあまり思考停止に陥るが、腕が、体が勝手に動かされる。

 突進してきた狂犬に対し、本人の意思とは無関係に翔英は剣を前に突き出し、狂犬の喉を刺し貫き、そのまま剣を上に振って狂犬を縦に裂く。

 さらにサイドステップで犬の側面に回り込むと、剣を振り下ろし、振り上げ、振り下ろす。

 飛びかかってきた狂犬は、地面に付くまでにブロック状の肉塊になっていた。

 さらに翔英の身体は、犬を放った醜い人型に迫り、人型の首を切り飛ばす。

 その頭の眉間を貫き、さらに胴を横なぎに切り裂く。

 切れ味鋭い剣閃で、首のない胴の腹部は大きく開き、その中から鮮血と腸が溢れ出してくる。

 翔英はあまりの惨劇に、目を背ける。

 もう悲鳴を上げる事も出来ない。

 それでも翔英の身体は動かされる。

 醜い人型が犬を放つ前に、翔英はその狂犬の首を切り落とし、さらに切り上げる事で犬の胴を真っ二つにする。

 醜い人型は、ここでようやく反撃に移る。

 手に持つ粗末な石槍を突き出し、翔英に攻撃を仕掛けてきたのだ。

 もし通常の翔英であれば、その槍を躱せたかどうかは五分五分だっただろうが、今は自分の意志ではなく、おそらく赤い眼の剣が翔英を動かしている。

 その状態であれば、この攻撃は不意打ちになりえない。

 翔英の腕は最小限の動きで、人型の持つ石槍の柄を切り落とす。それも三段に切り捨てたので、醜い人型の手にあるのは粗末な石槍ではなく、ただの木の棒になっていた。

 もはや勝負ありだが、翔英の身体は動く。

 粗末な槍と同じように、醜い人型の両肩から両腕を切り落とし、しゃがんだ状態で身体を横に一回転させると、醜い人型の足も切断していた。

 醜い人型は聞くに堪えない悲鳴を上げ続けているが、翔英自身はともかく、翔英の身体はその叫び声に怯む事無く、刀身を脳天から振り下ろし、醜い人型を綺麗に半分にした。


「準備運動にもならないな」


 赤い眼の剣は、つまらない事だと言わんばかりに呟く。

 その言葉の後に、翔英に身体の自由が戻るが、急激に両膝から力が抜けて座り込む。


「す、凄い」

「おいおい、何もしていないのに腰抜かす奴があるか」


 赤い眼の剣は、呆れて苦笑いしながら言う。


「それに、腰抜かすにしても、もう少し場所を選べよ。そこは血塗れの上に肉片だらけだぞ。内臓ぶちまけてるから、相当汚いんじゃないのか? ま、俺には関係無いが」

「ヒイィッ」


 翔英は慌てて四つん這いになりながら、そこから離れる。

 赤い眼の剣が言うほど、その近辺に血や内臓が散乱していたわけではなかったので、ズボンに多少泥が付いた程度ではあったが、辺りにはむせ返る様な異常な臭いが立ち込め、翔英はその場に嘔吐する。


「本当に、『召喚人』は最初に弱いな。大方がそうやって苦しむ。情けない限りだが、まあ、戦闘経験と言うモノが無いと言う事なのだろうな。いつもそんな事を言っていた」


 赤い眼の剣は呆れて言うが、随分と慣れた様子だ。

 翔英は涙目になりながら、切り刻まれた魔物の成れの果てを見る。

 見るも無残な肉塊だ。

 しばらくすると死体が消えたり、所持金が増えたりはしない。

ヤブの中に撒き散らされた肉片は、それと分かっていなければ何かも分からない風景の一部であるが、それと分かっている以上、異様な存在感がある。


「さて、それじゃ心臓をえぐって持っておいた方が良いぞ。街に降りた時に、端金ではあるが換金出来る。『召喚人』達は金遣いが荒いから、小銭でも持っておいた方が良い」


 赤い眼の剣はさらりと言うが、耳を疑う言葉である。

 切り刻まれた異臭を放つ肉片から、心臓を取り出せと言っている。


「どうした? ここで使える金は持っていないのだろう? 耳や眼でも構わないが、ただでさえ安いのに、それじゃ大した飯も食えないぞ」

「あ、あの、手袋とかは? それに、入れ物も無いし」


 翔英は泣きそうな声、と言うより半分泣きながら言う。

 授業で解剖をさせられた時でさえ嫌だったのに、今目の前にあるのは実験用のネズミやカエルではなく、大型犬くらいの大きさと人型である。

 日常生活を送っている日本の高校生であれば、ソレが肉片になって転がっている事も、その肉片から心臓を取り出す事も無い。

仮に異世界に転生した人がたくさんいたとしても、その経験のある高校生は、そう多くないだろう。

 問題は山ほどある。

 気持ち悪いと言うのも経験が無いと言うのも、無視出来ない大きな問題であるが、当然手袋も無いので素手で行わなければならないし、もし万が一換金用と言う事で心臓を抉り出しても、それを入れる入れ物も無い。

 まさかそれを持ったまま移動、と言うわけにもいかないだろう。


「何ならこう、串みたいに刺しておくか?」


 赤い眼の剣が、呆れながら言う。


「それなら運ぶのは簡単ではあるが、もし改めて戦闘になった時には、さっきの頭みたいな事になるから、換金は出来なくなるな」


 赤い眼の剣が言う。

 確かに先ほどの戦闘中に醜い人型の頭を貫いたが、そのまま戦闘を続けた時に大きく裂けて、今は醜いどころではない変形した肉片になっている。

 せめて何か入れ物が無いと、運ぶのは至難と言えた。

 実物の心臓と言うモノは見たことがないが、おおよその大きさは知っている。少なくもと片手に剣を持ち、もう一方の手で四個の心臓を運ぶのは無理だろう。

 翔英は大きな葉を探す。

 イメージとしては、時代劇などで出てくるおにぎりの様に、大きめの葉にそれら気持ち悪いモノを包んで、蔦で結んでそれを持ち歩くと言うモノだ。

 幸いそれに使えそうな大きさの葉や、何という植物かも分からないが蔦もあった。

 いよいよ最大の問題となる実技である。

 今日の実技は人体、及び犬の心臓摘出。既に解体されているモノもアリ。

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