第十一話 エーカが何れも答えるれしゅ
「お帰りなしゃい。待ってたれしゅ」
宿の受付で待っていたのは、エルフのイケメンではなく、何故かギルドのピンク髪の幼女だった。
エルフのイケメンは馬の世話でもしているのだろうか。
「あれ? ギルドの方は?」
「もうウェーちゃんが来たから、交代したれしゅ。ちょーかんじんはここの事をよくわかってないから困ってると思って、わたちがお世話するでしゅ」
困ってはいるが、大きなお世話でもある。
そもそも困っている事だらけで、何に困っているか伝える事さえ困る状況においてこの幼女に解決出来る事があるとは思えない。
それにどうせ身の回りの世話をギルドの誰かがしてくれるのであれば、この幼女ではなく、あの巨乳少女の方が良かった。
「何か、わたちじゃない方がよかったとか思ってましゅ?」
「え? い、いや、助かります」
「じゃ、おにもちゅ運びましゅ」
そう言うと幼女は翔英の持つ買い物袋を持つ。
どうやら彼女の中では決定事項になっているようで、こちらの意見は必要としていないと言う事は分かった。
今日の買い物で持って帰ってきたのは、衣類なのでさほど重い物でもないため、親戚の子供がお手伝いに目覚めたようなものだと思い、任せる事にした。
「おや、お帰りなさい」
翔英が幼女に買ってきた物を渡していると、エルフのイケメンが戻ってきてくれた。
「今日はお手柄だったと聞きました。部屋は二階の三号室です」
エルフのイケメンはそう言ってカウンターに行くと、鍵を渡してくれる。
「あの、お金は?」
「ああ、そうでした。百になります」
言わなければそのまま泊まれたかもしれないが、翔英は支払いを済ませる。
あくまでも一泊の料金なので、この宿を利用し続けるには料金を払い続ける必要がある。
今日見たクエストの報酬金額で考えると、食事も宿泊も毎日クエストを達成していれば困る事は無い。
翔英が三号室の鍵を開けて入ると、その後ろを幼女がちょこちょことついてくる。
歩くぬいぐるみみたいで、けっこう可愛い。上半身のみ露出度の高い衣装より、いっその事着ぐるみとかの方が似合いそうだ。
扉を開けた右手側に鏡と洗面台があり、そこにも水道があった。
念の為蛇口をひねってみると、ちゃんと水が出てきた。
綺麗で冷たい水である。
そこから室内に入る時には靴を脱ぎそうになったが、そう言うところでも無さそうだったので、そのまま入っていく。
どうやらここは本当に寝るだけのスペースらしく、ベッドの他には小さな衣装棚と別室にかなり狭いがシャワーと思える何かと、便座と思える何かがあった。
ここは『召喚人』用と言う事だったので、『召喚人』に分かりやすいように作られていると思われた。
しかし、召喚人がそれほど多くないみたいなので、エルフのイケメンは馬の世話をして生計を立てているのだろう。
そう考えると、一泊百くらいで彼は生活出来るのだろうか、と余計な心配までしてしまうが、ここはギルドの施設も同然なので、彼はハンターとは別のギルド員なのだろう。
それこそ、受付の巨乳少女や、今翔英の後ろから付いてきた幼女と同じ立場と言う事だ。
「このにもちゅはどこに置きましゅか?」
「あ、今日のところはベッドの近くに置いてもらって良いですよ」
「わかりまちた」
幼女は荷物を運ぶ。
「れは、何れもしちゅもんしゅるれしゅ。このわたち、エーカが答えるれしゅ」
荷物をベッドのそばに置いた後、ベッドの上で正座している幼女、エーカが言う。
幼女をベッドに座らせているので、本来であれば部屋の主であるはずの翔英は居場所がなくなり、ベッドの近くの床に座る事になった。
必要無いとは思うのだが、赤い眼の剣は持ったままである。
「じゃ、まず最初に、何しに来たの?」
「お世話しましゅ」
翔英の質問に対し、エーカは真面目に答える。
この部屋に来て何を世話するつもりかは分からないが、エーカは本気で翔英の世話に来たと言う事は伝わってきた。
「だって、ちょーかんじんの人達は、すぐに無理して死んじゃいまちゅ。ギルドましゅたーもそれを気にちてまちた。だから、エーカが面倒見てあげるれしゅ」
それは山の中で赤い眼の剣に少し聞いた。
実際に翔英もあの山の中で命を落としてもおかしくなかったし、あそこで剣を拾う事を躊躇っていたら、確実に街に行く前にあのオークと犬から殺されていただろう。
「うーん、でも昨日の今日で、僕も聞きたい事って言うか、何が分からないか分からない状態だから、聞きたい事が何かを僕が聞きたいくらいですよ」
「あ、それ、言われた事ありましゅ。さささんがそんな事言ってたれしゅ」
エーカがうんうんと頷いている。
誰かから言われた、と言う事は伝わった。
だが、翔英としてはこれで会話は終了して、シャワーを浴びて横になってもいいところだったのだが、エーカはベッドの上で次の質問を待っている。
これは、彼女を満足させないと帰ってもらえそうにない。
「ギルドマスターは召喚人って事だったですけど、他に召喚人はどれくらいいるんですか?」
「しゃんにんれしゅ」
エーカは即答する。
三人、だよな。と、翔英は自分の中で処理する。
「ましゅたーの他には、隊長とさささんがいましゅ」
そんな感じで一般常識に答える様に言われても、翔英はギルドマスターも隊長も知らない。
そもそも隊長と言われても、それが何を指しているのかも分からないのだ。
「隊長は、この街で最強の隊長れしゅ」
「隊長って言うのは何人もいるんですか?」
「え? 隊長は隊長一人れしゅけど?」
最強の隊長と言っていたので、複数の隊の中でも最強の人物が通称で『隊長』と呼ばれているのかと思ったが、隊長と言うのは一人しかいないらしい。
ギルドの中でも最強と見なされている人物で、その人物の通称が『隊長』と言うらしい。
「何か知ってますか?」
「さあ、俺に召喚人の事は分からん。ただ、ギルドにはマスター以外にも召喚人がいる事は知っているが、その程度の事だ」
赤い眼の剣から見ると、『召喚人』の見分け方と言うのは人間から見た剣の見分け方と、それほど変わらないのかもしれない。
赤い眼の剣は極めて好戦的なので、最強の人物と言うのを知っているかと期待したのだが、そこには興味が無かったようだ。
「もう一人は?」
「さささんれしゅ。凄く優しいお姉しゃんれしゅ」
一瞬ギルドの受付嬢をしていた巨乳少女が思い浮かんだが、彼女は召喚人ではないので違う。
初日に大女が彼女の名前を呼んでいたが、それは『さささん』という響きでは無かった気がする。
「さささんがいないと、大変れしゅよ? 街を壁れ囲むのはさささんのアイれアれしゅし、ちょーかんじんの服とか食べ物とかも、さささんがいないと手に入らないれしゅよ?」
エーカの熱っぽい語りからも、彼女がその『さささん』と言う人物を尊敬している事も分かる。
その名前からは『隊長』以上に何も想像出来ないので、基本的に得られた情報は驚くほど少ない。
「小娘、俺からも質問がある。お前はアドバンス・ウェポンについてどれくらい知っている」
赤い眼の剣が、エーカに尋ねる。
「知ってましゅよ? アろバンしゅなウェポンれしゅ」
自信満々に答えるエーカだが、確実に何も知らないと言う事は分かった。
「アドバンス・ウェポン? 何ですか?」
翔英が赤い眼の剣に質問する。
「俺と同類の武器だ。召喚人を召喚出来る武器と考えれば分かり易いだろう。お前も俺が召喚したのだが、俺の方から使い手は選べない。その知らせが来るまで、使用者無しの状態になるわけだが、俺以外のアドバンス・ウェポンの情報がかなり少ないのだ」
赤い眼の剣が言う。
つまり召喚人は必ずチートアイテムを一つ持っていると言う事になる。
翔英の場合は剣だったわけだが、『ギルドマスター』『隊長』『さささん』と言う人物もそれらのアイテムを持っているはずである。
「もしそいつらの持っているアドバンス・ウェポンに心当たりがあれば、もしかしたら俺が知っているヤツかも知れないと思ったのだがな」
実に論理的。
戦う事にしか興味が無さそうな赤い眼の剣ではあるが、こう言う鋭いところがあるので、かなり頭は良さそうだ。
少なくともエーカより、色々知っている事だろう。
残念なのはエーカではその情報を得られなかったと言う事だ。
「とりあえず、今日聞きたい事はこれくらいですね。また聞きたい事があったら、ギルドの方に聞きに行きます。今日はありがとうございました」
「はい、ありがとうごじゃいましゅ」
そう言ってベッドの上で正座していたエーカは頭を下げると、ベッドから降りる。
それから帰るのだろうと思って見守っていると、エーカはベッドの下に潜り込み始める。
エーカの服装もあの巨乳少女と一緒なので、上半身の露出はかなりのものだがスカートは膝丈なので、こんな四つん這いになってもパンツが見える事は無い。
もっとも、こんな幼女のパンツを見ても翔英のストライクゾーンでは無いのでどうでもいい事でもあるのだが、やっぱり男である以上目が行ってしまうのは止められない。
可愛いお尻であるのは間違い無い。
とか言ってる場合でも考えてる場合じゃない。
「え? あ、あの、エーカさん? 一体何を?」
「今日はもうお休みれしゅ。またあちたの朝にあいまちょう」
明日の朝に会うのは構わないが、何故ベッドの下に潜り込むのかを聞いたつもりだったのだが、その質問はエーカには正しく伝わらなかった。
大体ベッドの下に何があると言うのだ、と思い翔英はベッドの下を覗き込む。
そこには布団代わりのシーツや小物入れなどが持ち込まれ、明らかにこのスペースで生活してやろうと言う野心を見る事が出来た。
「エーカさん? これは一体?」
「だから言ってましゅよ。お世話するって」




