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第九話 討伐証明のためには

「例えば、頭を持って帰るとかどうだ?」


 おもむろに赤い眼の剣が提案してくる。


「と、言いますと?」

「頭をまるまるで持ち帰れば、目も耳も牙も脳も全て換金出来るわけだ。オークでは大した金にならないみたいだが、これくらいになれば心臓と同じくらい金になりそうだと思ってな。『召喚人』は金がかかると言うのは知っている」


 赤い眼の剣が言う事は、なるほどと思わされる。

 しかも頭だったら、赤い眼の剣で切り取れば、面倒で気持ち悪い摘出作業を簡略化出来ると言うメリットもある。

 さっそく試してみる事にしたが、少し考えれば分かりそうな問題点が出てきた。

 重いのだ。

 しかもかなり大きい。

 両手で抱えなければならないくらいの大きさと重さのため、荷車や台車が無いと街まで生首を運ぶのは困難である。

 色々と戦おうとはしたのだが、頭を持ち帰る事は断念する事にした。

 戦国時代なども首級を上げたのが手柄の証とされていたものの、重い上に荷物になるので、首の変わりに鼻や耳を持ち帰ったと言われるくらいだ。


「だとすると、やっぱり心臓を抜くか。脊髄と言う手もあるが、かなり熟練した腕が無いと脊髄は難しいだろうから、心臓を抜いて金に換えた方が良い」


 赤い眼の剣が軽く言う。


「いや、そう言う素材とかには興味無いですから」

「興味無いのは構わないが、何かしら退治した証拠を持ち帰る必要はあるぞ。それにはもっとも金銭的価値のある心臓が良いと思うのだが、違うのか?」


 違わない。

 しかも心臓であれば、確実にティガーを討伐したと言う証拠にもなる。さらに申し分ない稼ぎであるのだから、一石二鳥と言う事だ。

 が、やっぱり気持ち悪い。

 今回は人間大どころではなく、地球上ではまず存在しないような象や恐竜並みの大きさを誇る虎っぽい化物である。

 逆に言えば現実感は全く無いので、リアリティーは薄いのだが、だから翔英でも簡単に出来ると言う事にはならない。


「ちょっと、一回やってみて下さい」

「あ? どういう事だ?」

「僕の体を使って、一回心臓の摘出をやってみて下さい。今回はこれ以上戦闘の必要が無いので、持ち帰るのも剣に刺して、こう、串みたいな感じでイケると思いますし」

「解体は面白くないんだが、お前の体を使ってやって良いのだな?」

「はい、よろしくお願いします」


 翔英はそう言うと、赤い眼の剣に体を委ねる。


「仕方が無い。自分で出来るようになれよ」


 赤い眼の剣はそう言うと、翔英の体を操ってひょいと仰向けになって絶命したティガーの胸に飛び乗る。

 運動神経があまり良くないはずの翔英だが、赤い眼の剣が操れば垂直跳びで一メートルくらい飛ぶ事が出来る。

 本当に魔法だよな、と翔英は感心する。

 その間にも赤い眼の剣はティガーの胸骨を簡単に切り開き、ティガーの体内が見える大きな窓を開く。

 そこに翔英は跪いて、左手を差し込もうとしたところで動きを止めた。


「おい、何故邪魔をしようとするのだ?」

「いやいや、だって、僕の手で何するつもりだったんですか?」

「心臓を取り出すのだろう? 手を使わなければ切り刻んでしまうからな。それとも自分で全てやれるのか?」


 出来ない。出来ないが、まさか自分の手を使う必要性があるとは思わなかった。


「心臓じゃ無いとダメですか? ほら、尻尾とか爪とかでも証明出来そうじゃないですか」

「俺に聞くなよ。確実に息の根を止めたと証明してこその討伐だろう。その証明としては代わりのきかない首や心臓がもっとも適していると俺は考えたのだが、違うのか?」


 赤い眼の剣の言う通りである。

 実際に誰かギルド関係者がついて来ている訳ではないのだから、ティガーを退治してきたと言う物的証拠を出す事が、もっとも有効な証明方法となる。

 それが尻尾や爪であれば、証拠として弱い。


「どうする? ここでやめるか? 今日も飯抜きで馬小屋だな。さて、今日はギルドに戻った時には水も出してもらえるかどうか。それ以前に、ギルドメンバーとして稼げないヤツは必要なのか?」

「……お願いします」


 としか言いようが無かった。

 もう正常な判断など出来そうにないのだから、下手な口論は諦めて全て赤い眼の剣に委ねる事にした。

 左手に嫌な感触がある。

 肉の中に手を突っ込むと言うのは、日常生活の中ではあまり必要無い事であり、そう言う仕事をしている人でもないと一生無縁な感触だろう。


「やはり死体では面白味が無いな。何より血が出ない」


 赤い眼の剣は呑気にそんな事を言っているが、翔英としては目眩を覚えていた。

 今この瞬間で言えば、無一文で食事が出来なかった事にも感謝出来た。

 もし食事を済ませて来たのであれば、間違いなく全て吐き出していたはずだ。

 本来ならこれは翔英が一人で全て行う必要がある作業なのだが、翔英は感触を耐えるだけで全ての作業を任せられるのだから、考え方によっては相当楽をしている事になる。

 が、もうやりたくない。

 こんな事なら食事も我慢するし、馬小屋で寝泊りも覚悟を決める。

 と言うより、イナゴモドキのクエスト報酬だけで食事と宿泊には耐えうる金額だった事を考えると、無理にこんな事をしなくても良いと言う事も分かった。

 後はその証明の為の部位を持ち帰る為の入れ物を用意すればどうにかなる。

 翔英はそう自分に言い聞かせながら、赤い眼の剣の作業が終わるのをひたすらに待ち続けた。

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