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3 腹黒魔法使いには困惑な所存です。



 ノーシア・ディムシー。



 銀髪の、陰のある美青年。すらりと伸びた高い身長と、あまり表情の変わらない鋭利な印象の顔で、美しいけど怖い、とよく評される。


 その性格をひとことでいうなら、変人。


 得意魔法が《闇属性》の《回復魔法》というだけで、魔法に詳しいひとは彼の人格を疑う。


 でも、こんなのは序の口。


 好きなものは、オカルト。悪魔っぽいもの退廃的なもの歪なものが好きで、部屋の壁紙はたぶん溶けた内臓をイメージしてる。


 嫌いなものが多く、好きなものは少なく、数少ない好きなものに対してはその分、愛が深く重い。


 そして、その趣味があんまり常人には理解しがたい。




 ああ。思い出した。

 主人公に心を開いていくきっかけが、『君の頭蓋骨の形に ぐっときた』からだったね。




 なにそれ。と液晶ごしに笑っていたときはよかった。









 ちゅ。



 ちゅ。




 そんなノーシア君の唇が


 私の唇にそっと重なり、優しいキスが何度も何度も、落とされます。





 どうしてこうなった。



 

 本当にどうして?どうしてこうなった?

 











 すこし、時間を巻き戻してお話します。




「私には豚の姿になる呪いがかけられています。解いてほしいのです。」




 あの、ルルゾの寝込みを襲った次の日、

 私はノーシア君の研究室を訪ねて、単刀直入に言いました。

 

 ノーシア君は、無表情で、言葉少なく、腹黒で、オカルトに造詣が深い。

 闇属性の魔法使いなのに、なぜか得意な魔法は癒し魔法や回復魔法っていう、変な設定のキャラ。

 呪いを好み、毒を好み、だからこそ、逆の呪いの解除方法や薬の配合にも詳しい。


 そう。ぽろっと忘れてましたが、呪いといえば、このノーシアくんの得意分野なのです。

 

 だから、もしかしたらキスとか関係なく普通に呪いをといてもらえるかもしれません。そう期待して正面からおねがいしにきました。

 

 

 彼の好物は、バナナミルクシェーキ(ものすごく甘い)です。

 持参して献上したら、やっぱり態度が軟化しました。ちょろいゲームシステム万歳。

 

 

 

 ずぞぞ。と、バナナミルクシェーキを飲みつつ、ノーシア君は言います。

 

「……解呪魔法 無理」


「呪い すごくつよく 君の魂と絡み合ってる……無理やりほどくと、体がちぎれて 死ぬ まちがいない」



「そうですか」


 がっくり、肩が落ちてしまいます。


「解除条件はおそらく、思いあった恋人とのキスなんですが、なにかヒントになりませんこと?」


「それ 恋人つくれば 解決。 かんたん 違う?」


 この姿で恋人作るのが簡単だとお思いか?

 そうめちゃくちゃ言いたいところだけど、口に出すのはとても惨めなので言いません。


「婚約者がいますけど、キスしても呪いはとけませんでしたわ」


 いや、あれ。キスって言えるのかな。唇が掠っただけだし。むちゅーとキスしないと駄目とかだったらどうしよう。

 とか考えていると、

 同情しきった目のノーシア君に慰めるようにぽんぽん軽く頭を叩かれます。

 

 ん?いまの言葉、なんか誤解された?違うよ?ただ事実を言っただけなんだけど。



「その男……見る目……ない」


 あれ。近い近い。

 

 次はがっしりと頭を両手でマッサージするみたいに、手で捕まえられます。なんですか?これも慰めてくれてるの?

 

 

「うん… 頭蓋骨はまぁまぁ」

 

 ふぇ?なんか不穏なこと言ってない?


「……豚の……形のふるえた楕円のフォルム……不恰好で素敵……かわいい……」


 低い音量でぽそぽそとなにか囁いてます。


「むしろ、理想……てきなかわいさ……?」


なんでしょうか。よく聞こえませんが、なんなんですかー。







 と思っていたら、唇がふさがれていました。

 

 

 

 

 why?

 

 

 

 ちゅ。

 

 

 ちゅ。

 

 

 何度も何度も、ノーシア君と私の唇が重なり、呆然としていると舌まで絡められそうになって、ぎょっと押し返しました。

 

 


「むぅ……呪い、とけてない」


 

 子供のように拗ねたように呟く姿は、可愛らしいのに、猛禽類のような凄みがありました。

 

 狙った獲物は決して逃がさない獣の雰囲気が――

 



 ええええええええええええええええええと。

 

 落ち着け。

 

 落ち着くんだ。素数を数えろ。私っ。

 




「えと、呪いを解こうとしてくれたんですね。ありがとうございます。でも、そのあのですね。いきなりキスする前にちょっと一言欲しかったかなぁなんて。」


「呪い とけないまま いい」



いや、よくないよ?



「その呪いのからみついた 豚のままの姿、美しいと 俺 思う」



「君が 好き」



 突然愛の告白をして、にっこり満足げに笑う彼。

 

 

 ゲーム内でも現実世界でも、ああ、彼の趣味は本当に常人には理解しがたいなぁ。とあらためて私は思いました。











どうしよう。




どうしよう。





胸が甘く甘く疼く。






頭がふわふわする。




嬉しい。




嬉しい。








けど、ちょっとまって。今の告白って、この、着ぐるみの外見が好きってことでしょ?!!!


呪いとけたらどうなんの?!



っていうかさ、つまりは、あれでしょ。


ノーシア君がただ悪趣味だってことでしょ??!!!


頭蓋骨が好きな男だもんなっ?!!





その後、私は何度も 舞い上がっては、我に返るを繰り返しました。











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