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2 メインヒーローは婚約者な所存です。






 ぴんぽんぱんぽん♪

 

 

 全面敗北のお知らせをいたします。繰り返します。全面敗北のお知らせをいたします。

 

 

 

 

 

 

 なんとも残念な事実が発覚です。

 

 私が転んで頭を打って事態に気がついたときには

 なんと、もう、乙女ゲームはエンディングを迎えて、とっくに終わっていたのです。



 

 

「そんなぁぁあああぁ」



 がっくりと肩を落としながら、

 向かい側の校舎の窓からオペラグラスを取り出して、

 いちゃいちゃする二人を見つめます。

 

 

「リリア、愛してる」

「私も愛してるよ。もうっ。」


 とアテレコするならそんな感じですね。


 ヒロイン(リリア)ちゃんと結ばれたのは、2人いるメインヒーローのルルゾ…じゃない方。

 設定は、リリアちゃんの幼馴染で純情熱血キャラ、火魔法の使い手で、名前はティオくんです。ティオ・フレイアルだったかな。

 

 ティオくんとくっついたんだ……。

 平穏でつまんないと、ユーザー人気いまいちなんですが、ここはリアル。

 変にお金持ちの貴族との結婚とか息苦しいもんねー。ヒロインちゃんナイス判断だわー。

 

 ああ。本当に二人でいちゃいちゃラブラブしてます。

 

 本当に幸せそうで、ハーレムルートへの誘惑が入る隙間はなさそうです。

 

 うん。現実世界だと、ハーレムとか作らないよねぇ。

 人間関係ややこしいだけだし。私もそう思うわー。

 いやぁ、若い二人が幸せでめでたい。

 めでたいんですけど。

 

 

 私の救済計画がさらりと八方、ふさがりましたね。

 

 いや、まだか。

 まだ道はあるか。

 

 

 他キャラ攻略ルートでは、まだルルゾは私の婚約者です。

 

 ええ。私があいつにヒロインちゃんみたく真実の愛に目覚めさせて、ぶちゅりとキスすればいいんでしょ?

 

 お、おうですよ。

 やったりますですよ。(やけっぱち)

 呪い解除のためですもの!

 

 

 私だって、プレイヤーつまりは、リリアの立ち位置にいたことはあるのです。

 

 やってできないことはない、かもしれません。

 

 ルルゾルートのイベントの起し方は覚えてる…ような。覚えてないような。

 

 

 うん。覚えて……覚えて……覚えてないわー。

 

 物語の乙女ゲー転生ものの登場人物ってよく、フラグが立つ日とか正確に覚えてるよね。キャラの台詞とかも。

 

 

 私、このゲームを好きだった。攻略がさくさくで楽だったし、フルコンプはしてるけど、キャラの名前と、だいたいの設定。特に気に入ったイベントとか台詞、数個くらいしか覚えてない。

 

 

 

 

 

 

 

 ……あれ。やっぱりふさがってる? 八方とも?

 

 

 

 

 

 まぁ、いいや。ぐじぐじ悩んでもしょうがないし。

 

 

 一度、ルルゾの様子を見に行こう。

 

 

 

 だいたいのルルゾの居場所は生徒会室なので、その前で待ち伏せします。

 

 

 あ。いた。早速声をかけてみます。

 

 

「ルルゾ様 あら奇遇ですわね」


 こんな喋り方でおっけーでしょうか。

 うん、不審がられてる様子はありません。

 

 でも、うひゃあー。美形の生徒会長になんかすごい嫌な物見る顔されますよー。ぞくぞくしちゃいますねっ。

 


「豚…いや、ローザか」

 

 豚ってしっかり聞こえましたよ。失礼な。

 

 あら。ルルゾったら、なんだか憔悴しきった顔をしてます。

 ショックなことでもあった? ああ、リリアの恋人になれなかったからだね。きっと。

 ルルゾはメインキャラなせいか、初期からヒロインへの好感度とっても高いし、攻略しなくてもしつこくリリアに絡んできます。 婚約者いるくせにな。

 

 ははん。ざまあ。

 もう一度言おう。ひとのこと豚とか言っちゃう性格だからだよ。ざ ま あ。

 

「なにか今、すごくムカつくことを言われた気配がしたんだが」

 

「気のせいでは?」 

 口には出してませんよ。あなたと違って。

 

 そのまま、ルルゾはむっつりと黙ってしまいました。

 沈黙が重たいです。

 

 しょうがありません。目的を果たしてすぐ退散することにします。

 

「……その、これ、よろしければどうぞ。」

 

 差し出したのは、瓶入りのサイダーです。

 

 マジプリってゲームは、超ヌルゲー。つまり異常に難易度の低いゲームなのです。

 ハーレムルートを目指すのに難しくないように、攻略対象に遭遇する度に贈り物ができます。

 好物をうまく贈ると、ハートマークがてろりんと出て、ぐんと好感度が上がっちゃうんのです。

 

 で、会長の好物はサイダーです。

 

 

 まぁ、現実ですし、うまくいくとはあんまり思ってないんですけど。

 

 

 「…………俺の好物だ。その、ありがとう。ちょうど飲みたかったんだ」

 

 

 うまくいきました。

 

 

 「では失礼いたしますわね」

 

 

 ちょろい。なんだか、ちょろい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ときは流れて、2週間後です。

 

 

 この2週間。授業を受けつつ、毎日、ルルゾを生徒会で待ち伏せてはサイダーを押し付けました。

 

 

 

 

 

 その結果がこちらです。

 

 

 

 なんということでしょう。

 

 

 

「あぁ、ローザ。お前か。ふっ……暇なやつだな」

 

 

 

 あんなに嫌われていたのに、態度がとても軟化しています。

 

 

 

 ちょろい。ちょろいぜ。ルルゾ。

 

 

 というか、ゲーム攻略的には、一度好物を贈ることで20好感度が稼げ、それを×10(月~金×2)したので、ゲームだと、好感度200マックスのはずなのです。ゲーム終了時期になれば、イベントがおきてハッピーエンドだって迎えられる数値ですよ。

 

 

 いや。好感度50きざみで自動で起こるはずのデートイベントとかかっ飛ばしてるけど、そこはほら私は噛ませ役で、主人公じゃないからイベント用意できなかったんじゃないかなー?と勝手に推測しています。

 

 

「思えば、俺たちは婚約者だというのに、お互いのことを知らなすぎだな」

 

 心なしか、ルルゾの瞳がきらきらと輝いています。

 

「え、はい。そうかもしれませんわね」


 もう一度だけ言わせてほしい。ちょろい。




「……ずっと一度ちゃんと話す機会を得たいと思っていたんだが、生徒会の仕事が忙しすぎてな」



「あら、書類整理くらいなら、お手伝いしますわよ?」


「…………そうだな。頼むか」


 それから、生徒会室の書類棚のほうで、黙々と作業しました。


 ときどき、ちらりと、ルルゾのほうを見ると……目を指で押さえてマッサージしたり、肩を無意識に回したりしてました。


 ……お疲れの様子ですね。目の下にちょいとクマができてます。


 リリアのことで悩んでるんでしょうかね。


 さらに、黙々と書類を分類していきます。気がつけば、夢中でやってしまいました。


 あ。なんかややこしい書類の束がでてきたから、ルルゾに指示を仰ぎましょうか。



「ルルゾ……あ……」


 ルルゾは椅子に腰掛けたまま、上向いて寝ています……。器用だな。





 そういえば、ゲームでもこういうイベントありましたね。




 ルルゾの寝顔を見て、どっきりするヒロイン。


 仰向けに背もたれにもたれたまま…端正な寝顔をばっちりくっきり見せて寝るイベントスチルを見て……普通、机に座って寝るときは机側にうつ伏せで寝るだろう、首痛そうだし乙女ゲー仕様だなと思いましたが、現実で再現されてしまいました。



 わぁ。綺麗。

 

 

 目をとじると、下手な女性よりも整っていて優しい顔で……まるで眠れる森でキスを待つお姫様のようです。





 あれ。




 これってチャンスじゃない? むしろ、キスしろよと神様が言っている?



 寝込みを襲うのはたしかに卑怯ですが、単に『ローザへの好感度の高いルルゾのキス』が呪い解除の条件ならば、これってこれって千載一遇のチャンスなのではないのかしら。

 

 たまたま、ヒロインと同じイベントが起こっていますが、

 私はヒロイン、ではなく悪役豚女の立ち位置なのです。

 

 これを逃すと、正攻法で、彼と豚の着ぐるみの私がキスするまで恋愛イベントをすすめなければならなくなるでしょう。

 

 それは可能なんでしょうか。

 

 

 急に手のひらがじわりと汗をかきます。


 どくんどくん。


 心臓も早鐘を打ちます。


 眠りが浅いとかないでしょうか。じーっと観察します。呼吸は規則正しいようです。


 よく見ましょう。


 起きる気配はないようです。

 

 

 えーと。

 

 

 どうしよう。

 

 

 寝てる間で本人さえ知らなければいいんじゃないの?

 

 

 別に、悪戯するわけじゃない。これは人命救助活動。私の人としての命の救助に必要な行為なのです。

 

 

 

 えーい。

 

 女は根性!

 

 覚悟をきめて、顔を近づけ、もうちょっとで唇がふれる……そんな距離で、私は止まりました。



 ………やっぱりやめておきましょう。卑怯ですものね。と少し身をひいた瞬間。ぎぃぃと椅子が鈍い音をたてて軋みました。



 そして


 心臓が凍りました。




 ルルゾのぱちくりと開いた目がこちらを見ています。



 うああ。うあああああああああああああああああああああああああああ。



 よっぽど焦っていたせいですかね。


 私は手すりを掴み、椅子を思いっきり引いてしまいます。


 それに慌てたルルゾがバランスをくずして私に覆いかぶさる形になります。



 あ。あ。今。


 お互いが驚いて動いた拍子に、なぜか、唇と唇がかすってしまう事故が起きました。





 なんていうか目的は達成しましたが、なんていうか致命的な失敗が発生しました。





『奴は……とんでもないものを盗んでいきました。……あなたの唇です。』



なぜか、銭形のとっつあんの声が脳裏に響きます。過度のパニックです。





「ぎにゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」




 叫んで叫んで叫んで



「ごめんなさいぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ」



 走って逃げます。





 キスしたのはわざとじゃないんです。わざとだとしてもちゃんと理由あるの。変態じゃないよ。仮に変態だとしても、変態という名の淑女なんだよ。ああとにかく寝込みをおそってすみません。警察は勘弁してください。



 ああ。うたた寝して目が覚めたら豚の着ぐるみが覆いかぶさってたら、恐怖だよね。

 

 

 気持ち悪いとか思われたよね。ストーカーめ。どんだけ俺のこと好きなんだよ。とか思われたに違いない。



 ううう。恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしくて死ぬ。



 もうルルゾと廊下とかで会ったとしても、話しかけられない。



 いっそ恥ずかしさで身が溶けてしまいそうだ。



 そして、鏡の前でさらに絶望する。

 

 

 頑張ったのに、呪いはとけてない。とけてないんだ。



 どういうことだろう。





 詰んだ?



 今度こそ詰んだ?



 いやいやいや。



 不確定要素が多すぎて、判断ができない。

 ゲームだったら、パラメーター見れば正確な情報がわかるのに。そもそもネットに繋いで攻略情報確認とかできるのに、現実は不便だわ。


 ルルゾの好感度が足りなかったのかもしれないし、あんな掠めるようなキスでは駄目なのかもしれません。


 だいたい、そもそもが、もしかしたら、呪いが解ける条件はルルゾとのキスではないのかもしれません。

 

 うん。

 

 そうだよ。ルルゾからストーカー加害者扱いされたとして、まだ打つ手はあるんだよ。


 そうなのです。じっくり落ち着いて考えてみたら

 あのシナリオの『呪いのとけるキス』の条件は、

『リリアの恋人が私をリリアだと勘違いしたまま、私にキスをする』なのかもしれません。


 つまりはティオに、あの一時的に想い人を誤認する薬を飲ませて、キスしてもらえばいいのですよね。



 ティオとリリアには大変申し訳ありませんが、私の人生がかかっています。








 さて、問題は、今のところ、薬の製作者……ノーシア君にその薬を作ってもらう方法がないってことだよね。






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