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第六話 近衛隊長は暇

今回も三人称です。

そろそろ一人称に戻したい……。

今回はかなり短めです。

 キースはホールにある椅子で伸びていた。


「噂の『公衆浴場』、まさかここまで気持ち良いもんだったとは………。なんでもっと早く来なかった、俺様。リンの調査結果次第では、潰されるかもしれないんだぞ」


 火照った顔で極楽極楽と椅子で伸びているキースを、一体誰が王女様の近衛隊長だと解るだろう。

 いや、一人は絶対にいるのだ。


「……しっかしリン。いくらなんでも遅過ぎるだろ。女性の化粧は長いからか? 俺様をいつまで待たせんだ。……って、俺は何様だ? 勿論俺様さ。俺様何様騎士様だ」


 一人で意味の分からない韻を踏むキース。

 リンが遅いとホールを見渡して、二つ気になる点を見つけた。


 入り口から見て左隅にある『医療室』と、右側にある『食堂』と書かれた暖簾だ。


 『医療室』は医療室だろうが、その下にでかでかと書かれた『騎士の方お断り』が気になる所だった。

 おまけに、先ほど町人風情の杖をついた男がそこに入っていったので、多少気になるのだ。


(騎士だから優遇される事はあっても、騎士だから利用出来ないってどういう事だ?)


 とか考えたキースだったが、それよりも気になるのは、右から良い香りを放ってくる『食堂』の暖簾の奥だった。


(これは……あの宿舎みたいな所に繋がってんのか。リンもまだ来ないようだし、ちょっと寄ってくるか)


 良い匂いに誘われて、キースは『食堂』へと向かった。



「「「いらっしゃいませ」」」



 暖簾を潜り、短い廊下を過ぎると、また数人の従業員らしき人達に礼をされた。


「えっと、ここは何?」


 食堂は広く、軽く五十名くらいが一斉に食事ができるような広さがあった。

 長テーブル二本、四人掛けのテーブルが五セット、二人がけの物が三セットある。

 今は数えられる程度の人数が長テーブルについて食事をしていた。


「基本的には私達従業員向けの食堂ですが、お金さえ払ってくだされば、品書きにある物なら何でも召し上がれます」


「へぇ……。味の方はどう?」


 礼をした従業員の少年にキースは尋ねてみた。

 まあ普通に、美味しいですよ、とか言うだろうと思いながらも。

 しかし、キースの予想を裏切る解答が帰って来た。


「私は今まで、こんな料理は食べた事が有りませんでした!」


 という少年に、他の数人も大きく頷く。

 それが良い意味なのか悪い意味なのか解らなかったが、キースは面白そうだと思った。


「それなら、なんかお勧めの物は無いか?」


 そう問われると少年達は顔を寄せて思案し、しばし迷った後、


「……プリン、でしょうか」


 と答えた。


「ぷりん? それはどんな食べ物なんだ?」


 キースには聞いた事の無い単語だった。


「えっと、甘くて、触感はプルンとしていて、口当たりは滑らかでとろける……お菓子ですね」


「……見た事も聞いた事も無いな」


「ええ。私達も誰も知りませんでした。ごしゅ——店長が、自分の国の有名なお菓子だと」


「………ほお。なら、それを一つもらおうかな。値段は?」


「銅貨二枚です」


「えらく安いな。ほら」


「確かに。少々お待ちください」


 そう言って少年は銅貨を受付に持って行き、注文をする。

 それを視界の片隅に置きながら、キースは二人掛けの椅子へと座った。


「お待たせしました」


「え? もう? えらく早いな」


「ええ。作り置きですから」


 そう言って少年が恭しくさし出したお盆の皿の上に載っているのは、黄色い山の頂上に黒い雪が積もったような、そんな見た目の食べ物だった。


「……何、これ」


「プリンです」


 少年はそれをテーブルに置き、恭しく礼をして去っていた。

 お盆の上にはスプーンも乗せてあり、それで食べるのだとキースは解ったが……。


「プリン……ねえ」


 キースは試しにスプーンでプリンを突つき、プルンと揺れるそれを見つめた。

 突つくと、プルンプルン、プリンプリンと揺れる。

 だからプリンなのか、とキースは理解した。


「………………」


 そして、恐る恐る掬ってみて、それを口に運ぶ。


「!?」


 途端、口の中で蕩けるプリン。

 まろやかな甘さが口の中で広がる。

 ほどよく冷たく、湯上がりのキースに丁度良い物だった。


「うまっ!? なんだコレ! 美味いぞ! ……ん?」


 と、そこでキースは気付いた。

 砂糖はかなりの高級品だと言う事に。

 一キロだいたい銀貨一枚であるため、王都でも滅多に出回らない。

 このプリンと言うお菓子、どう考えても砂糖は使っている。



 それを、たった銅貨二枚で客に提供するなど……ここの店主が死ぬ程安い。



 これは、どういう事なんだろう?

 リン程学の無いキースはよく解らなかった。

 


 キースが首を傾げながらホールへ戻っても、まだリンの姿は見えなかった。

 と、医療室から一人の男性が深く礼をしながら出て来て、それと入れ替わるように自分たちを出迎えた緑色の髪の少女が入り、しばらくして金髪の少女と一緒に出て来た。

 二人はイソイソと女湯の方へ消えて行った。


「なんだ?」


 キースは知らない。

 リンが湯船の中でのぼせていた事に。



ごめんなさい。

(後)を書こうと思ったんですが、その前に一話入れてみました。

次こそ『魔法少女の調査(後)』です。

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