第二話 奴隷の少女
「さてと、とりあえず服は後日また買いに行くとして、とりあえず今日は家に帰ろう」
「……家? えっと、どこに? なんで街から出たんですか?」
「そりゃ、俺の家が森の中にあるから」
「も、森!? この森って、あの魔女が住んでるって有名な……」
少女は顔を強張らせ、青い顔になる。
ただでさえ栄養失調でやせこけていると言うのに、その所為で絶望に染まった顔になった。
「そうなの? 少なくとも、俺はそんな人見た事無いけど」
「危険です! 金貨が有るんでしたら、街に家を買いましょう! 普通の家ならすぐ買えますから!」
「え〜、だって街なら目立つだろ? 俺は恥ずかしい」
「自分の命とどっちが大事なんですか!?」
「……多分その『自分の命』って、君の命だよね。大丈夫、魔女なんか怖くない」
実際に魔女に合った事は無いが、せいぜいウサギにされるだけだろう。
そして俺みたいな奴に喰われるのだ。
「魔女じゃなくても、凶暴な地竜が住み着いてます!」
「それなら倒したから問題ない。そのお金で君を買ったんだし」
「ふぇっ?」
あまりの驚きで、変な声を上げる少女。顔もぽかんとしている。
そういえば、地竜の部位を売った店でも、こんな顔された。
そうそう、珍獣でも見るような目だ。
……泣いて良いかな。
「ああ、君。もしかして俺の事舐めてる? なら見せてやろう、俺の魔法の凄さを!」
「えっ、いや別にそんな——」
「ほい」
俺が人差し指を空に上げるのと、景色が歪むのは同時だった。
「え?」
「はい到着」
少女は驚いたようだ。
それもそのはず、俺がやったのはル○ラみたいな魔法。
もしかすると、この異世界には一瞬で移動する魔法が無いのだろうか?
魔法はイメージ、その発想が無ければ確かに使える物ではない。
「……これは?」
そう言って少女が指差すのは、俺の家。
現代にあるような、普通の二階建ての一般住宅。
エアーガンや今着ている制服、それは俺の力、『世渡り』で持って来た物だが、さすがにこの家は無理だ。
そこで『創造魔法』と『世渡り』の応用である。
まず、『世渡り』で自分の家の間取りの書いた本を持って帰ってくる。
あとは材料を集め、『創造魔法』で創れば良いのだ。
この『創造魔法』、ある種面倒な物である。
最初、家を『創造魔法』だけで作り上げようと思ったのだが、どうにも上手くいかなかった。というのも、ゼロから一を生み出した場合、ちょっとでも気を抜くと霧散してしまうのだ。
そのため、今この家にソファーなどの家具は一切無い。
形だけも良い所である。
電気は無いし、水道も通っていなければ、ベッドも無い。
材料は木と釘、それに壁紙だ。釘と壁紙しか持って来れなかったのだ。
この『世渡り』も全能ではなく、俺が持ち上げている物しか持って来れない。重い物は持って来れないと言う事だ。
おまけに、一日に一回の制約付きだ。
本日は味噌と醤油、それに砂糖と胡椒、コンソメを持ち込んでいる。
だって、昨日街を見に行ったら、塩しか無かったんだ。
味気ない料理は、かなり苦手なのだ。
「……あなたは、何者なんですか?」
「遠い国から来た旅人、かな」
訝しむ少女を押すように、俺は家に入る。
まだワックスを塗っていないので、床はざらざらしている。
「とりあえず、お風呂に入ってもおう」
「オ、フロ?」
「お風呂。温湯浴みって言うのかな? あれ、温泉無いの? そんな習慣無い?」
「いえ、ありますけど……。魔物がたくさん住む山奥にしか温泉はありませんし、湯浴みは貴族みたいな上流階級の方しか……。あなたは、貴族なんですか? こんな立派な家に住まれていますし」
「いやいや、自分の国では普通だと思ってた。マジか……」
やばい、早速カルチャーショック。
日本と同じ形の土地だから、同じくお風呂くらい有ると思ったのに……。
まだ大衆化していないだけだ、きっと。
いっそ、温泉でも掘って経営するか。同じ日本で育ったのだ、きっとこの気持ちよさははまる。そして俺は儲かる!
うん、しばらくそれで軍資金を溜める事にしよう。
「そうか、ありがとう……えっと、名前は?」
「私……ですか? ……リース、です」
「そっか、よろしくリース」
「…………何なんですか、あなた?」
リースは呆れたように俺を見つめる。
「普通、奴隷にはあんな豪華な食事なんて与えませんし、自由にもしません。どうしてなんですか?」
おにぎりが豪華な食事? ……ふざけるなよ。
「それは俺の台詞だな。お前等、人の命をなんだと思ってる?」
「私は……奴隷です。人ではありません」
リースは俯き、認めたくないが奴隷だと認めようとする。
俺はリースの額にデコピン。
「はうう」
「アホ。一体何がどう他の人と違うって言うんだ? だいたい、さっきは見逃せとか行ったくせに、何を言ってるんだか。結局、お前はどうしたいんだよ」
「………………」
と、リースは泣きそうな顔で俺を見上げてくる。
「俺に意見を求めるな。お前の自由だ。返答次第で殺したりはしないから、言ってみろ」
「………ひく、ひく」
と、リースの水色の瞳に雫が浮かび上がり、何故か泣き始めてしまう。
やばい、俺なんかまずいことした?
「え……、ど、どうした?」
「ひっく、だっ、て、初めて……、だから……。人……、として、……扱ってもらうのが。……皆、物みたいに……売られちゃって……」
「……そっか」
俺はしゃがみ込んで、リースを抱きしめ頭を撫でてあげる。
「もう大丈夫。俺はそんな事はしないから。怖かったんだろ? 我慢してたんだな、偉い偉い。好きなだけ泣いて良いから」
「うわぁぁぁぁぁぁ」
きゅっとリースを抱きしめ、俺は思い付く。
この世界で初めてやる俺の征服だ。
リースは泣き止むと、疲れていたのかすぐに寝てしまった。
先日買って来ていた毛布をかけてやり、俺は外に出る。
「本当は、自由に生きてほしいんだけど……、これはな。独り立ち出来るまで、俺が責任持ちますか」
さて、征服開始だ。
なんとなく、ロリコンと言われても弁解出来ない気がして来た。
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