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第二十六話 邂逅

 夏休み最後の花火大会とでも洒落込んだような、大量の硝煙が鼻にこびり付いている。

 雪が微かに積もり始めている道に、赤い花を大量に咲かせた。

 『特性付加魔法』で強化された肉体は、銃の反動を殺す事が出来た。銃器に関しては素人の俺だが、照準を合わせて引き金を引くだけの簡単なお仕事はこなせた訳だ。

 エチゴ氷山に近づくにつれ、魔物の数は増えて来ていた。リンとシュウには魔力温存しておいてもらい、魔物は俺一人で片付けている。

 その代償が、硝煙と頭を吹っ飛ばされた魔獣の死骸だった。

 一撃必殺を試みたため、頭蓋骨が派手に弾けている。脳漿をぶちまけ、目玉を転がし、もの言わぬ口が何か言いたげに開いている骸達。

 キモチワルイ。自分でやっておいて、ちょっと後悔していた。

 そして、そんな惨状に対してはまったく狼狽えない二人に、ちょっと引いていた。


「……これが銃。正直、怖いものね。ジュドでなければ止められないわよ、こんな攻撃」


「速度、威力、共に申し分無しですね……。特筆すべきはその速度でしょうが」


 と二人はあご髭でも撫でるようにして、討論していた。

 ……うん。こんなの間違ってる。コイツ等、まだ十……あれ、何歳だっけ? まあいいや、とにかく、子供がこんなのを見ても平然としていられるような世界は間違ってる。

 魔獣が身近に存在している所為かもしれないけどさ。

 ……止めだ、止め。俺は自分が死体を見たくないから戦争を止めるんだ。断じてこの世界の人達のためじゃない。更に言うなら、この罰ゲームを楽しむためなんだ。偽善だよ。


「安心しろ。ギルバート帝国の銃は、これほどの連射性能と命中精度、威力もない。所詮エアーガン、当たりどころが悪くない限り死なない」


「でも師匠、師匠の知らないところで、その武器が開発されてるかもしれないじゃないですか」


 どこの世界も、兵器開発は以外と簡単に飛躍するのかもしれないしな……。俺達のいた世界にはない魔法って便利なものもあるし。


「そうなったところで、俺がいれば大丈夫だ。それに見た所、ジュドの結晶魔法も破れるか怪しいからな。あいつが前線で結晶魔法を張っておけば、何事も無いだろ」


「広範囲で張れる訳ないでしょ」


「それなら壁を創り出せば良いだけだろ。銃弾は直線的な動きだからな」


 そもそも、俺の作戦がうまく行けば、戦いすらも起こりはしないのだけど。

 戦力よりも戦術だよ。

 と。


 ガシャン。


 甲冑が動くような音が、他の全ての音を割いて耳に飛び込んで来た。

 視界の端に、Gを思わせる黒い物体が見えたような気がした。


「あっ……、あ……」


「おっと」


 気丈なリンが突如崩れ落ちそうになり、慌てて支える。むう、軽いな。何故か無償に高い高いをしてやりたくなるような体躯だ。

 ますます、リンを戦場に置いておきたくなくなった。

 そのリンの視線の先、俺達の道の先には——、


「噂は噂、嘘だと思ってたんだけどな。……いや、噂や嘘だと思いたかっただけかもな」


 二メートルに及ぶ漆黒の鎧に、身の丈と同じ長さの禍々しく黒ずんだ剣。

 脳裏を霞む噂、伝説。


「リン。……あいつになんか魔法攻撃してくれ」

「えっ!? ……わかったわ」


 俺は一応、真偽とやらを確かめてみるためにリンに魔法攻撃を促す。一瞬驚いたような顔をしたリンだったが、頷き杖をそいつに向けて振った。


「はぁっ!!」


 瞬間、橙色のバケツサイズの火の玉が鎧目がけて数十発飛んで行った。


 無詠唱魔法、だろう。さすがの魔法騎士様だ。

 けどごめん、多分無駄だーー。

 

「「……嘘」」


 ガシャン、ガシャン。


 鎧は、今の攻撃で一歩もひるみはしなかった。

 否、あれは攻撃を喰らっていないのだ。火の玉が着弾したとするならば、相手へのダメージの有無に関係なく、火は拡散するだろう。だがそれが見えなかった。ということは……。

 吸収。


 ガシャン、ガシャン、ガシャン。


 歩くごとになる甲冑の音が、リンとシュウの恐怖を倍増させているようだった。

 がくがくと生まれたての子馬みたいに震えるリンを後ろに隠し、俺は一歩前に出た。

 男児たるもの、女の子の一人や二人、守ってやりたくなるもんだろ。いや、シュウは男だけども。


「師匠!!」


 目を見開いたシュウが叫んだ。

 この野郎、まるでこれから俺が死にに行くような展開に持ち込んでんじゃねーよ。

 俺はまだ英雄にもなってないんだ。負けるつもりはないぞ。

 俺は更に一歩、すぐに一歩と進み出す。


「師匠……」


 歩みを止めない俺にシュウは泣きそうな声を出した。

 ……ああ、くそ!

 俺にショタの趣味はねーんだよ!

 俺は振り返ると、シュウに向かって師匠らしく悟らせるように話しかけた。


「シュウ、俺とお前は似ている。俺もお前も、何でも出来るがそれを極められはしない」


 尤も、俺の方がお前より弱いんだけどな。

 俺は上を目指せないが、お前は頑張れば上を目指せるんだ。

 お前は『平均』に呪われていないからな。 


「そんな俺達が、他の優秀な奴らに勝つにはどうする? 

 簡単な話だ。その優秀な奴らが駄目な分野で戦えば良いんだ。

 自分の土俵で戦うって奴だ」


 オンリーワンになりたかった。だから俺は契約したんだ。

 そして決めた。自己満足の世界を作り上げると。


「戦争を誰も殺さずに終える。それって、誰もやった事ないだろ?」


 そんなもの戦争でもなんでもなく、ただの茶番だろうさ。本当にそれが可能なら、その時戦争はただのシステムに成り果てる。俺と言う人間を英雄に昇華させるための。

 俺は頑張る。

 誰かが死んで、泣きたくないから。


「それを叶えるためには、俺は戦うべきなんだよ。魔神伝説を打ち倒す、それだってまだ誰もやった事ないだろ?」


 俺はそれだけ言って、早足で二人の元を離れた。

 ここからは人外バトルだ。俺は人間だけれども。



 二十メートルの距離を開け、俺とそれは対峙した。

 兜の狭間から覗くのは、虚無。中身はいませんよ、ってか。本当に怨念のようだな。

 噂は噂、だからこその真実。

 魔神伝説。

 魔神が創り上げた武器に、その怨念が宿り徘徊していると言う噂。

 絶対に壊れない魔剣に、魔法を吸収する鎧。

 随分といいもん装備してるじゃないか。一つくらい俺に譲ってくれたって罰は当たらんだろ。


 さあて。

 『魔王』の契約者の俺と、『魔神』の亡霊。

 王と神、どちらが格上だろう?

 


心持ち駆け足です。

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