第二十五話 考察×2
久々なので、文体がオカシイかも。
また、第二部は三人称視点なので、その練習も含めて後半は三人称です。
目を開ければ見慣れた、慣れない世界が広がっている。
全ての物質が動きを止め、ありとあらゆる生物が排斥された世界。
『世渡り』で戻って来た世界は、いつもとまるで変わらない。
何もかもが動かない世界。動いているのは、俺だけだ。
持つ、という意識が無ければ、壁抜けだろうとなんだろうと可能だ。
この世界には質量と物体の概念しか無い。
どれだけ思い入れのある物であろうと、俺が持てる質量であれば、勝手に手に入れる事が出来る。それが現実世界に影響を与える事も無い。
そう、だから俺は気兼ねなく国立博物館だとかに入り込んで、国宝級の物品を持ち出せるのだ。他人の物であろうと、そんなの関係ない。俺には持ち主の顔を見る事も出来ないし、奪うと言う訳でもない。
複製して異世界に持ち込んでいる——そんな感じだ。
今回は、現代兵器の持ち込みを試みた。
自衛隊の基地に潜り込み、兵器をかっさらって来た。9mm機関けん銃、M4カービンなど、比較的持ち運びの簡単な物を選んだ。
当初にエアーガンを持ち込んだのは、弾が無くなって困らないようにするため。
しかし最近では、弾の代わりに放っていた魔力の方が貴重になってきた。そのため、銃弾が威力を持つ現代兵器に鞍替えである。どうせ当分の相手は魔物だ。
『世渡り』で持ち帰った物は、異次元に自動で入るようにした。突然現れると、面倒事になってしまうからだ。隣で寝ている奴も居る訳だし。
紐で銃器を釣って、弾薬や手榴弾はリュックに詰める。
あくまでこれは、エチゴ氷山攻略のための武器だ。戦争でこれらを使う気はない。これがギルバート帝国に流出しないように細心の注意を払うつもりだ。
俺が求めるのは、犠牲無い戦争終結。だが、戦争は俺の手のひらで起こる事ではない。無血はさすがに不可能だろうが、俺が参加した戦いは少なくとも誰一人殺す事無く終わらせたい。現代では不可能だろうが、幸い、俺には魔法と科学の知識がある。
戦闘を回避したい時、主に攻撃を受けたくない時、常套手段があるではないか。科学の力では実現不可能だろうが、魔法の力ならば可能だろう。大量の魔力の消費はその際仕方がない。人の命と空腹、比較するのも馬鹿らしい事だ。
戦争が終結したとして、問題は魔族と人間が共存出来るか、という点だけだろう。それについては、これからシュウの故郷で話せば良い。共存が不可能であるのなら、別の土地に移ってもらえば良いだけだ。
と。
「不可能だな。今のままじゃ、絶対に不可能だ」
突然だった。
初めて。この空間に入って俺は声を聞いた。いや、音と言う者を初めて聞いたかもしれない。
二度目。俺がこいつの声を聞いたのは、このゲームに参加する前の一度のみだった。
「……何が言いたい?」
姿を見せない——否、姿など存在しない××に俺は尋ねる。
「使いこなせていないのだよ。せっかく私が『創造魔法』を与えたと言うのに、お前はまるで使いこなせていない」
「使いこなせていない? なら教えろ」
せせら笑う××に、俺は素直に協力を仰ぐ。俺達の間で取り結ばれているのは協力ではなく、契約だが。
「気付いていない訳ではないだろう? どうしてお前は魔法を使えば、空腹などになる? まさかお前、私がそんなちゃちな力を与えたなどと考えていた訳ではあるまい? それは唯単に、お前が『創造魔法』を使いこなせていないから生まれる副作用に過ぎないのだよ。というか、私の力で『創造魔法』を発動しているんだ。使いこなせていれば、お前には一切の負荷はない」
「……『創造魔法』は物を作る魔法じゃないのか?」
俺の『創造魔法』の使い方は物質・魔法の構成だ。
物質を構成する原子が結合するイメージを想像し、それを『創造魔法』で具現化させる。魔法も同様に、マナと言う原子に似た粒子を想像し結合させるイメージだ。
確かに、新しい物を作っていない。
「そうだが、違う。『創造魔法』の真髄は、魔法を創造する事だ」
魔法の創造?
それは、まさか……。
「オリジナルの魔法を生み出す事だよ、我が主。『創造魔法』は零から一を生み出す魔法だ。本当に『創造魔法』を使いこなせれば、いくら魔法を使おうとも、何の副作用も起こりはしない。お前がやっていることは、先駆者のコピーだ。『平均』に呪われたお前だから故に、只の魔法も使えるのだろう」
俺は平均だ。
誰か一人でも一であれば、他の皆がゼロでも、俺は零ではない。その点は、平凡ではない。平均だ。誰か一人でも使えれば、不完全だろうが俺は使える。
……薄々気付いてはいた。
俺の使った魔法は、今でこそあり得ないらしいが、ことごとく戦乱時代の魔法と一致した。
「その只の魔法は、『創造魔法』の原理こそ使えど、使いこなせてはいない。だからお前の魔力を消費し、空腹状態に陥らせる」
要するに、俺自身が考えついた魔法であれば、魔力の消費が無くなると言う事か。
これは有益な情報を聞いた。
「解った。考えてみる。……が、お前は俺を手助けしていいのか?」
これは俺の心を折るゲームだ。手助けなんて、敵に塩を贈るようなものだろ。
と、××はくくくと気味の悪い笑い声を上げた。
「なに、より高い場所から落とした方が壊れやすいだろう? 物も、心も」
☆ ☆ ☆
「師匠〜、この風呂桶どうするんですか? ——って、もう寝てる」
シュウがナインの支給したタオルで頭を擦りながら小屋に入ると、ナインは寝ており、リンがジト目でシュウを睨んでいた。
「……ちょっとアンタ、話良い?」
「五月蝿くしたら師匠に怒られるんでパスで」
一切迷う事無く断るシュウ。そのまま夜の散歩とでも洒落込むのか、小屋から出ようとする。が、がしりとリンに肩を掴まれた。
「騒ぐな、とは言わなかった」
事実、ナインはぐっすりと就寝中の様で、こちらに背を向けて何の反応も見せない。駄々をこねるシュウを、リンは小屋の隅に追いやり問いつめる。
「アンタ、あいつに何を教えてもらったの?」
「黙秘権を行使」
リンがボカッと殴った。脅しではなく、ただ単にちょっとムカついただけで。
「なんですか、いきなり殴るなんて! 意味わかめです!」
「何それ……。まあいいわ、とにかく、一体全体なんなの、あの魔法」
ナインが使った魔法は魔法ではなく、どちらかと言うならば超能力に近いのだが、超能力と言う言葉を知らないリンには関係のない事であった。
魔法はイメージを媒介とし、それを空気中の各属性のマナで具現化させることだ。
例えば、火の玉を生み出す魔法。まず火の玉を想像する。それを構成するのに必要な火のマナを魔力で魔術反応させると、火の玉が出来る。後は魔術反応に使った魔力の残滓で火の玉を操作する、といった感じだ。
ナインの使った力は、マナを一切消費していない。『創造魔法』と自身の魔力で作り上げた、半オリジナル魔法と言った所である。
リンが気になるのは、シュウが使った魔法だ。
ジュドの使う結晶魔法に酷似しているが、全然違う魔法。ジュドの結晶は、触れても何も起こらない。が、シュウが作った結晶は、触れると効果がある。
「魔法……? ああ、師匠が教えてくたあの魔法ですか」
ポンとわざとらしく手を打ち、シュウはしばし黙った後、
「あなたも師匠に教えてもらえばいいじゃないですか〜。……もしかして、恥ずかしい? きゃは!」
底意地の悪い笑みと、気持ち悪い笑い声を上げた。
「〜〜ッ!!」
やけに人をムカつかせる反応であり、リンの腸が煮え繰り返った。
………………その後、しばらく何があったのかをリンは覚えていない。
気がついたら、ぼろぼろで床に転がるシュウがいた。所々焼け焦げたマント、怯えるようにぶるぶると震えてる。それが子犬みたいで可愛いのでリンが微笑むと、ビクッと縮こまり、頭を抱えて部屋のシミにでもなろうとするように壁に寄っていた。
リンは何故だか胸がすっとしていた。
「……で、どうなの? あの魔法は何?」
「ひっ!」
寄って行って肩を掴めば、顔を引きつらせて怯えるシュウ。
罪悪感なんて微塵も感じず、リンは問いつめる。
「答えなさいよ」
「し、師匠に聞けば良いじゃないですか……。なんで、僕が答えなきゃ——答えます答えます! 模範解答しますから、どうか、許して!」
リンがちょっと指に火を灯すと、シュウは簡単に態度を翻した。
「えっと、各属性のマナを魔力で圧縮して、固体化させてるんですよ。それで、敵がぶつかったりしたら、その圧縮していた魔力を解放して、圧縮していたマナで攻撃、って感じですかね。魔法使いでも何でもないんで、詳しい事はさっぱりです」
リンはシュウの後半の言葉を、まるで聞いていなかった。
マナを圧縮して、固体化させる? 水が冷えれば氷となるように、マナも何らかの操作を行なえば固体化する事が出来る?
そのような原理、リン達魔法使いは思いつきもしなかったことだ。リンは深く考え、自分も本当にナインの弟子になった方が良いのでは、などと考え始めていた。
「えっと、じゃあ、僕からも一つ聞いていいですか?」
「……え、ええ」
その時、リンは別の事を考えていたため、シュウの台詞になんとなくで返事していた。
だから、シュウの行為は、リンをとても驚かせるものだった。
シュウは、ナインを絨毯からたたき落として、こう尋ねた。
「あなたは師匠の何を信用しているんですか?」
ドサリとナインの身体が死体のように力なく床に落ちた。受け身を取る事も無く、人形のように意志無く転がる肉体。ピクリとも動かない。
「ちょっ……嘘、え?」
シュウの思いがけない行動にも、ナインの不自然な肉体にも驚き、リンは混乱する。
ナインの身体は、ぴくりとも動かない。散々こき使ってきた弟子に、人形のように扱われる師匠。その歪な関係に、リンは目眩を感じていた。
ナインの身体は、まるで魂でも抜けたように生気がない。
「もう一度聞きます。こんな師匠の、何を信頼しているんですか?」
シュウは何を思ったのか、乱暴にナインの身体を持ち上げた。
ぶらりぶらり、とナインの身体は力なく宙で揺れ動いた。
「師匠は何も語りませんが、僕は知っています。師匠は普通の人間ではありません。未来人とか、戦乱時代の生き残り、宇宙人……異世界人かもしれませんね。何であれ、僕らの生きる世界より高度な文明を持った世界で生きた人でしょう。だからこそ、僕らには思いつく事の出来ない魔法を創り出せる。最も、これは僕の勝手な推測ですがね」
ナインが使った魔法、教えた魔法。
マナを圧縮して音速で放つ、ものの数日で豪邸を建てる、マナを内包した温水を作り上げる、転移魔法、何百キロも強制的に移動させる力、異空間の創造、マナの固体化。
その推測は十分にあり得る、そうリンは思った。
「僕から師匠について確信を持って言えるのは、普通程度の能力しか持たないと言う事です。師匠は何らかの魔法でもって肉体を強化していますが、それを解いたら全てに置いてあなたに劣るでしょう。だからこそ、今は昏睡状態になっています」
ナインは圧倒的な力を披露した。そして、疲労もした。
ギルドの情報では、ナインは間違いなくCランクだ。
そこでリンは気付いた。
そうなると……、
「師匠が僕に魔法を教えてくれるのは、なるべく自分は魔力を使わないようにするためでしょう。少々リスクが大きすぎるんですよ、昏睡と言うのは」
「けど、そもそも魔法を使わなければいいだけでしょ?」
「生き残るのに、出し惜しみする人が居ますか?」
その通りかもしれないけど……、とリンは納得いかないようだった。
それに構わず、シュウは続ける。
「で、仮に師匠が異世界人だとして、では一体何故この国のために戦うと思いますか? 何が目的でこの世界に来たと思いますか? 師匠が危険を冒してまで叶えたい願いとは?」
「……そんなの、解る訳ないでしょ」
「そうです。僕も解りません。……だから聞きます」
「…………」
シュウは持ち上げた時の乱暴さから一転して、優しくナインの身体を絨毯に横たえる。それは、ちゃんとした師匠と弟子の関係に見えなくもなかった。
「あなた方は、師匠の何を信じますか? 何が目的で来たのかも解らない、一度大量の魔力を使えば昏睡状態に陥るようなこの人を、どう信用しているんですか?」
「………………」
「………………」
二人の間に、しばし沈黙が流れ、そしてリンが口を開いた。
「……アンタに答える義理はないわ。それに、どうせアタシ一人の答えになるわよ」
「………」
しばし二人は睨み合い、シュウが溜息をついた。そして、
「やっぱり僕じゃ聞き出せないか〜」、と口にした。実にあっさりと。
その様子を見て、リンは首を傾げた。
「何? 二人揃ってアタシに鎌かけてたの? それなら凄い迫真の演技だったわよ。……アンタがボロを出すまでは」
リンがキッと目を細めたが、シュウが首と手を振ってそれを否定した。
「師匠は関係ないですよ。本当に昏睡状態です。触ってみますか?」
そう言って、人形のようにナインの身体を扱うシュウに、引きつった笑みを浮かべるリンだったが、ちゃっかりナインの身体を弄くり回していた。
「呼吸も脈もある。……なのに生気がない?」
「だから言ったでしょ、師匠はどっか別の世界から来たって。魂が引き戻されている、とかなんとかじゃないですかね」
「……あれ、本当にアンタの推測なの?」
「そうですよ。師匠と過ごした時間は少ないですが、僕は師匠を良く知ろうと思いました。こんな僕でも、師匠は真摯に色々教えてくれましたから。それに僕、本当だったらギルバート帝国で死んでますからね。助けてくれた師匠には、忠犬のように尽くしますよ」
至極真面目なことを言うシュウに、リンは溜息をついた。
「……呆れた。アンタって、とんだ道化ね」
「それは勘違いですよ。僕、一つの事に集中すると後が全部駄目になるんです。師匠が死なないように考えに考えてるだけですよ。師匠、僕と似た所がありますから。自分の事のように思っちゃうんです」
シュウはどこか遠くでも見るように、そう答えた。
まるで、未来の自分でも見るように。
「さっきの質問、アンタはどうなの? アンタはこいつの何を信じてるの?」
「僕ですか?」
シュウはくすくす笑って答えた。
「師匠は、甘い物好きなんですよ。その所為か、考えも甘いんですね。信じるって言っておけば、期待を裏切らないような甘い人なんですよ。なにせ、世界平和を本気で実現しようとしている人ですから」
なんだか思ったように書けない日々が続き、更新が遅れてしまいました。
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次回辺り、例えばシリーズの一つ目の謎が解けるかも……。