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第二十三話 

ランキング上位になっててびっくりしました。

いや、本当に、驚きました。……どうしてこうなった?

感謝です!

「う〜、腹減った……」


 一面に見えるのは、地面に顔を埋めた魔狼。一瞬、一瞬で全ての魔狼を叩き伏せた。

 やはりというか、あの『創造魔法』は魔法という扱いになり、俺の体内で魔力と思われる何かが消費され、現在空腹状態である。

 まずいのである。

 予想以上に反動が大きい。目の前がクラクラ、足はふらふら、お腹はぺこぺこ。

 速度を持った瞬間移動の連続、これほどとは……。

 所詮俺は平凡で、真似は不可能という事か。しかし、まがい物なりにも出来てしてしまう辺り、やはり俺は『平均』に呪われているのだろうか。


「さすが師匠、すごいです! そんな隠し球があったんですか」


 結晶を解き、シュウが駆けて来た。

 シュウに教えたのは、結晶魔法もどきだ。

 各属性のマナを圧縮し、固体レベルにしたのだ。各結晶にその属性の能力が付加され、触れた物にその効果を与えると言う、盾兼剣といった魔法。

 一定間隔を空けて使わないと、自分も巻き込まれると言う危険性も孕んでいる。そのため、ヴァンパイアと言う不死身属性を持ったシュウに教えた訳だ。

 また、マナを結晶化するのにも大量の魔力を有する。結晶の形に留めるのに、想像以上の魔力を使うのだ。

 まったく、欠陥ヴァンパイアのくせに出来過ぎな弟子である。

 嫉妬したくなった。


「一応な。けど、こりゃ俺には無理だ。反射レベルの判断力に大量の魔力を費やす駄目魔法だ。お前にも教えようが無いし、教えても実践では不可能だな。切り札には使えるかもしれないが、長期戦には向かない」


「………………」


 顔を引きつらせたリンがこちらを見ているのは知らんぷり。

 どうせまた規格外な事をしでかしたのだろう。

 日も暮れて、夕焼けと薄い月が見える空。

 地図を見る限り周辺に街や村などは無い。お腹も減った。

 と言う訳で、森の一角を陣取る。


「んじゃ、全行程の三分の一に達したし、夜も近いから今日はここで休むか」


「師匠、ヴァンパイアは夜行性ですから、大丈夫ですよ」


「なんだ、馬車馬のようにこき使われるのに慣れたのか。んじゃ、ボロ雑巾のようにこっぴどく扱ってやろ——」


「疲れました! 足が重いです〜、今日はここで休みましょう!」


 ザ・手のひら返し。

 こき使うと言っても、絨毯を引っ張って歩くだけの簡単なお仕事だ。まあ、昼日中にヴァンパイアがやるのだから、簡単なお仕事ではないかもしれないが。

 しかし、さすがヴァンパイア。常人なら五日はかかる距離を半日程で来た訳だ。このペースで行けば、エチゴ氷山がどんな環境かは知らないが、三日で新潟に着くのではなかろうか。

 何故シュウに休ませるかと言うと、のんびりこそ出来ないが、一応初めての旅なのでゆっくりしたいからだ。というのは建前で、本当は移動中の空飛ぶ絨毯上で『世渡り』をするのが嫌だったからである。


「リンもそれで良いか? ……って」


 いかんいかん、女の子を野宿させるわけにはいかないか。

 二十一世紀を生きる日本人として、それは駄目だろう。


「え? 勿論、構わないけど」


「ん? 良いのか?」


「むしろソレ以外にどうするって言うのよ」


 うむ、カルチャーショック。そう言えば、この世界の文化レベルは低いんだった。いや、騎士なんだから野宿くらい普通にするのか。


「だがしかし、うら若き少女を野宿させる訳にはいかんでしょ」


 と言う訳で、森の木を伐採。『創造魔法』で平屋を建築。

 おおよそ十二畳程の広さの、壁と屋根に床だけの簡素な建物。この際、野郎と同じ部屋なのは我慢してほしい。うむ、創った俺が言うのもなんだが、風が吹いたら倒壊しそうな簡易な建物だな。


「……これって野宿って言うの?」


「知らん。家とは呼べないから、そうとも言えるだろ」


 空飛ぶ絨毯をそのまま建物内に入れて、これで木の固い床で寝る心配は無くなった。

 さて、晩ご飯である。魔力消費=空腹のため、のんびり支度はしてられない。

 マントの袖に手を突っ込んで、重ねられた皿に鍋を取り出した。鍋には人参、ジャガイモ、タマネギ、鶏肉が入っている。鍋の底には少々の塩胡椒もあったりする。


「……ねえ、アンタそれどこから出したの?」


「魔法の袋」


「袋なんて持って無いでしょ」


「目に見えないから、魔法の袋」


 ゴリ押し。呆れたように天を仰ぐリン。異次元魔法は、きっと驚かれるだろうから伏せておく。存在しているかどうかも怪しいし。

 調理、食材に手を添える。光が手から溢れ……。


「ナニソレ」


「調理。何片言になってんだ?」


「……これは調理とは言わないかも」


 以前披露した調理魔法である。最近この調理魔法は使っても空腹にはない事に気付いた。当時は一日に何度も『創造魔法』を使っていたため、何が原因で空腹になっているのか解らなかったのだ。

 調理と呼ぶかどうかはさておき、完成したのはポトフだ。牛乳があればシチューにでもしたかったが、生憎牛乳は所持していない。水は基本的に魔法で代用するため、異空間に液体を入れた事が無く、非常に不安だったのだ。牛乳臭い異空間とか嫌だ。


「師匠、見た目は良しとして、味はどうなんですか?」


「おい弟子、若干上から目線じゃないか? 弟子なら弟子らしく、師匠の出した物は文句言わず喰え」


 味はと言うと、まあ、普通だった。

 調理方法が方法だったため、味にも何らかの期待を寄せていたリンが落胆していたのは余談である。

 食後、今後のプランと言うか、エチゴ氷山について今更ながら情報収集開始。手遅れの気がしないでもない。


「エチゴ氷山は文字通り極寒の地です。生半可な装備で行ったら凍傷になります」


「ふ〜ん、それで?」


「寝たらそのまま永眠してしまいます。……師匠、随分と余裕ですね。何か対策でもあるんですか?」


「あるにはある。使えるかどうかは知らないがな」


 魔法で強力にしたカイロとか、どうよ?

 というか、吹雪軽減の魔法とか無いのか……。

 無いなら創るだけだが。

 いよいよもって、俺は来る時代を間違えたようだ。戦争の後に来たかった。

 新しい魔法の開発とか、カイロの持ち込みとか、凄く儲かりそうだな。


「それで、これが一番肝心なんですが、良いですか師匠?」


「勿体ぶってなんだよ」


「それはですね……」


「魔神伝説よ!」


「……魔神?」


 勿体ぶっていたため、肝心な所を取られて項垂れるシュウ。無い胸を張ってリンが続けた。


「戦乱時代に居たとされる魔神、その装備がエチゴ氷山の奥地、すなわち新潟の側にある訳。で、その装備なんだけど、魔神の怨念が籠ってるらしくて、エチゴ氷山を徘徊しているらしいのよ。それと、なんか凄く失礼な事考えなかった?」


 無いよ。事実なだけだ。しかし……らしいとは、随分と曖昧な言い方だな。

 嫌な予感がひしひしとする。


「これまで、エチゴ氷山を超えて帰って来た者はいないわ。行きか帰りに、死んでるのよ」


 ふ〜ん。おいシュウ、俺はそんな危ない場所だとは聞いてなかったぞ。何故目を逸らす。


「ちなみに、その装備って言うのが、魔剣ディアモンドと漆黒の鎧らしいのよ。噂どうりだとしたら、最悪の組み合わせよ」


「……どういう事だ?」


「魔剣ディアモンドは、使用者によって形を変え魔法を纏う剣ね。例えば、閃光魔法っていう目つぶしを目的とした魔法があるんだけど、それを纏わせると使用者以外には常に閃光を生み出す剣に見える訳。で、極めつけに絶対に壊れない」


「漆黒の鎧って言うのはですね、ありとあらゆる魔法を無効化する鎧なんですよ。ん? ああ、間違いました。ありとあらゆる魔法を塗りつぶす鎧です。魔法を使えばそれ以上の魔力でもって押し返されるらしいです」


「ついでに、魔獣の巣窟よ」


 そうだな、そんな話聞いた以上、魔獣なんてそりゃもうついでだな。

 剣が絶対に壊れなくて、鎧に魔法が効かない?

 普通にやばくないか?


「あ〜、シュウさんリンさん。一緒について来てくれたんだから、何か秘策あるんだよな?」


「まっさか! 私はアンタを信頼してるもの。大丈夫でしょ?」


「僕も師匠を信じてます! 師匠は凄いですから!」


 大丈夫な訳あるか! と怒鳴りたいが、信頼を失いたくはない。

 二人とも本当に俺を信頼の眼差しで見ている。なんでかな、なんでこんな信頼されるんだろ。特にこの弟子。俺はお前をこき使ってばっかりだぞ?

 ………………、秘密兵器を持ち込むか。

 正直、『創造魔法』によるとある人物の模写が失敗した以上、秘密兵器の持ち込みは確定だ。

 もう出し惜しみはしない、俺の持てる全ての策を講じて生き残ろう。

 それと、あわよくば、その魔剣は欲しい。多分、俺の策にちょうど良すぎる一品だ。

 とりあえず、そんな奴がいるのが解った以上、万全の状態で戦いに挑みたい。

 と言う訳で、魔力と疲労回復のために、粋な計らいをしようではないか。

 異次元魔法で大理石を出し、それを分解から構築し、簡単に風呂桶を作る。

 さらに追加で木を伐採して、なんと言う事でしょう、水気も無い森の一角に、簡易な温泉が出来たではありませんか。女性のために壁で周囲を覆う配慮もしていますよ。巧みの粋な計らいです、……自演乙。


「…………」


「さっすが師匠! 僕には思いつかない事を颯爽とやってのける! 猫も師匠も出来る事じゃないですよ」


「杓子だ、シュウ。意味の分からん間違いだから、宿題」


 『創造魔法』、風呂に温泉を満たす。エメラルドグリーンの水面に月が映る。


「この温水を創れるようにしておけ」


「うえぇ!?」


「何、簡単だ。俺に出来るんだ。お前に出来ないはず無いだろ?」


「頑張ります!」


 ちょろいな。シュウは間違いなく褒めて伸ばすタイプだな。間違えた、叩いて伸ばすタイプだ。俺がこの温泉を創れるようになるまで、一体どれほどの試行錯誤を繰り返したと思っているんだ。

 ただの水じゃない、多種多様のマナを内包した温水だ。

 これが出来るようになったら、恐らく結晶の硬度、すなわち魔力の密度はジュドのソレを上回るだろう。あのとき結晶が砕けたのは、それくらいしか理由が浮かばない。

 それと、リンが何やら驚きやら喜びやらで顔が変な事になっていたのは蛇足。


「まさか旅に出て温泉に入れるなんてね〜♪ アンタ最高っ!」


 一番風呂から上がったリンはご機嫌だった。……女の子の湯上がり姿、悪くないな。

 俺は一度水を分解して、シュウに目配りをする。


「やってみろってことですか……」


「一度きりだ。俺はもう眠いからな」


「僕が絨毯引っ張ってたとき散々寝てたじゃないですか」


「あれは寝転がってただけだ。寝てはいない」


 ぼやきながらも、シュウは風呂桶の前に来て、腕を掲げる。

 簡単に出来るように呪文は教えておいた。


「え〜と、ス、『spa』」


 瞬間、湯気と共に風呂桶に大量のお湯が流れ込んだ。

 まあ、魔法である。

 この世界の呪文、それは英単語だ。実に簡単だが、実は呪文と言うのはこれまた戦乱時代に失われたようで、魔法の発動は詠唱か魔法陣が現代では主流らしい。

 アルファベットは失われた言語、だが英語の辞書を持ち込んだ俺に死角は無かった。これで簡単に過去の優れた魔法を使えると言う訳だ。

 最も、呪文を言うのが恥ずかしいから『創造魔法』の派生として無言で扱っているのだが。


「じゃ、ちゃんと出来てるかどうか入って確かめるから、お前はどっか行ってろ」


「一緒に入りましょうよ!」


「断る。俺は優雅に寛ぎたいんだ」


 目を潤ませるシュウを一蹴し、俺は風呂に浸かった。

 ……うん、出来てんじゃねーか。

 あ〜、もしかして俺も羞恥心を放り投げて呪文を唱えれば、あんな栄養ドリンク付けの生活をせずにも温泉は創れたのか?

 ……真実って、時としては残酷な物だな。

 風呂から上がって、分解し、入りたければ勝手に入れと言って、小屋へと戻った。

 リンがぽけーっと上気した頬で明後日の方角を見ていた。うむ、魔力回復の効果は十分すぎたようだ。


「あ〜、リン。俺は寝る。起こすな触るな覗くなよ」


「覗くなって何? それってどっちかというとアタシの台詞」


「俺は寝顔を曝したくないんだ。ナインだけにな」


 若干浮いている絨毯の隅で横になり、眠りにつく。

 それは眠りと言う、旅立ち。

 『世渡り』発動。


久々の執筆だったため、若干おかしな部分があるかもしれません。

評価、お気に入り登録ありがとうございます!


感想・意見お待ちしております。


活動報告にて、少しだけ重要なお知らせ有り。

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