第二十二話 結晶と赤
今回、試験的に作風を変えてみました。
気に触るようでしたら、書き換えようと思います。
お昼でした。
三人の旅立ちを歓迎するような、晴れ渡る空でした。それはもう、ぎんぎんぎらぎらお日様燦々といった日でした。おかげで東京から北へ向かった三人は、あっという間に埼玉に到着していました。そして、ヴァンパイアが溶けるような、そんな一日でした。
「……ぐううう、日が……火が、目をぉぉぉぉ」
「欠陥品とはいえ、ヴァンパイアか。ちょっと日に当たっただけでこれか」
「なんでわざわざ日に当てさせたのよ……。まあ、普通に進むよりかなり速いから休んでも良いと思うけど」
木陰で三人は休んでいました。正確には、休んでいるのは二人で、一人は苦しんでいましたが。
ナインが試しにシュウのフードを取ったのが事の発端で、あっという間にシュウは地面を転げ回り始め、うつ伏せで動かなくなったのでした。突ついてもピクリとも動きません。
「いや、確かめておかないとまずいだろ? 昼間の戦闘で役に立つか立たないかは死活問題だ」
「それにしても、もう少しやり方があったんじゃ……」
「くどいぞ、リン。後悔先に立たず、一応反省はしている」
馬がダウンしたため、三人は街道沿いの森で立ち直るまで休憩と洒落込んでいました。そもそも、誰かが引かなければならない空飛ぶ絨毯は、本当に空飛ぶ絨毯なのでしょうか?
「……一つ聞いていい?」
少し躊躇いを見せて、リンは尋ねました。
絨毯の上で寝ているシュウ、に座っているナインに。
「アンタは、戦いが嫌いだって言ってなかった? 人が死ぬのも殺されるのも見たくない、って言ってたでしょ? それでどうして、戦争に参加する事にしたの?」
ナインは少しだけ唇を噛み、小さく笑みを浮かべて言いました。
「師匠〜、重いです」
違いました。シュウでした。
本当に空気の読めない奴です。ここは黙って話を聞く場面です。
ナインは空気の読めない駄目な弟子から降りてやり、リンに背を向けました。
「……嫌いだな。戦争だろうが何だろうが、人が死ぬのは嫌いだ。だからこそ、戦うんだよ。より少ない犠牲でこの戦争を終わらせるために」
「だけど、アンタはこの国の人間じゃないんでしょ? この国の人間に義理立てする理由なんてないはず。だからと言って、あちらの国に付くのも変。一体何が目的なの?」
「答えなきゃ駄目?」
ナインは振り返りながら、小首を傾げて上目遣いでリンを見ます。
駄目、と反射的に言いそうになったリンでしたが、そこは抑えて、肩を竦めました。反射的に否定しようとするリンは、もしかするととてもSなのかもしれまーーちょ、やめ、何をす……。
「いいわよ。アンタが信用出来るか出来ないか、もう決断してるから」
「へえ……、それじゃあ期待に応えなきゃならないな。けど、忘れてもらっちゃ困るぞ。俺が何をしたのか……」
「?」
ナインの言いたい事が解らず、リスのように首を傾げるリンでした。
☆ ☆ ☆
同時刻。
レーンは一人、チヨダの森最深部、魔女の住む家へと向かっていた。
魔女の住む屋敷はレンガ造りで、ナインの家と比べると一回り程小さい物だが、それは立派な建物だった。レーンは深呼吸し、その建物のドアを叩く。
ほどなくして、銀髪の少女がその戸を開けた。
「懲りずにまた来たの? 今度はウサギじゃ済まないわよ」
少女は長い銀髪をツインテールにしており、その目つきは鋭い。背の高さは二人とも同じ位だ。少女の険悪なムードに対して、レーンはキッと気を引き締めた。
「エリス姉さん。話だけでも聞いて頂戴。もう時間は余り無いの」
エリスと呼ばれた少女、レーンの姉はじっと彼女を見て、そして家の奥へと消えて行く。
「立ち話もなんだから、さっさと入りなさい」
「はいっ」
エリス・リア・ラザウェルは、また来てくれた妹に見えない所で、小さく笑みを浮かべていた。
「どうせ戦争が近いから、私に戻って来てほしいって話でしょ?」
「……どうしても戻って来てくれないの?」
エリスの出したお茶を飲みながら、上目遣いで聞いてくるレーン。うっと息を詰まらせるエリス。どうやら、シスコンのようである。
「……嫌よ。一度は追い出したくせに、ちょっと都合が良すぎるんじゃない?」
「それは解ってます。だけど、このままじゃこの国は滅びます!」
「私一人が戻ったくらいで、何が変わるって言うのよ?」
「姉さんは優秀な魔法使いです。私なんかよりも、よっぽど強いし」
エリスは皮肉っぽく言うが、レーンが机を壊さんばかりに叩いて反論した。
しかし、エリスの態度は変わらない。むしろ悪化した。
「何? 馬鹿にしてるの? 謙遜のつもりかもしれないけど、嫌みにしか聞こえないわ。アンタが私より優秀だから、私はこんな森の奥に住まなきゃ駄目になったのよ!」
「違います! それは、父上が勘違いをして……」
「違わないわよ! アンタは文武両道、おしとやかで人当たりも良かった。で、私は? おてんばで人に迷惑かけて、魔法が使えただけ。父上の判断は間違ってないわ」
「うっ……」
「出てって! 何が遭っても、私は戦争になんて参加しないわ!」
突き飛ばすようにレーンを追い出し、エリスがバタンと扉を閉じた。
前回とまるで同じだった。前回はレーンがこの後もしつこく食い下がったら、ウサギにさせられたのだった。
考えを変えてくれるまで待つしかない……。これは諦めなければいけないかも、とレーンは俯き足取りを重くして森を後にした。
レーンが森を出るのを魔法の鏡で覗いていたエリスは、それを見届けてから一枚の紙を手に取った。そこには、筆記体でcommunicateと書かれており、エリスはそれを口元に寄せる。
「ジュド。とりあえず今まで通り、アンタの言ってた鎧を作っておく。結晶魔法を秘めたミスリルの鎧。材料はいつもの場所に置いておいて」
と、紙に書かれた文字が光り、声を伝えてくる。
『助力感謝する。しかし、何故妹君の意見を聞かれぬのだ?』
「下手な詮索は身を滅ぼすわよ、ジュド。お前は知る必要の無い事」
『申し訳なかった。では、材料はいつものように。鎧もその時に』
「頑張って頂戴」
そう言ってエリスは紙を口元から離した。
その時の表情は、どこか悲しげな物であった。
☆ ☆ ☆
「おい……起きろシュウ!」
「ひあっ!? し、師匠……怒鳴らないでくださいよ。ヴァンパイアは聴力も優れて……」
「だったらこの状況もすぐ察せるわよね」
「いっ!?」
シュウが飛び起きたのを見て、俺は視線を周りへと戻した。
周りには、オオカミを思わせるモンスターが、軽く三十程以上いる。付け足そう、体長二メートル弱のモンスターが、俺達を取り囲んでいた。
リンが気付いてくれたから良かった物の、俺一人だったら気付けなかっただろう。こいつら、めちゃくちゃ速い。気付いた時にはもう囲まれていた。
ぐるるる、とうなり声を上げながら、じりじりと迫ってくるモンスター達。
「魔狼、Bランクのモンスターよ……。どうするの? 策があるとか言ってなかった?」
そう言うリンの体は震えており、どうやらこれは異常な事態だと判断出来た。
まあ、シュウの力を試すのに丁度良いか。
「策なら有る。シュウ! 頼んだぞ」
「了解です、師匠!」
シュウがそう言うのと、魔狼が襲いかかって来るのは同時だった。
瞬間、襲いかかって来た魔狼達は土の壁にぶつかり、体が燃え、水中に閉じ込められ、雷に打たれ、風に刻まれた。
色彩豊かな半透明の結晶が壁のように俺達を囲っていた。
突っ込んで来た魔狼の三分の一が今のでやられ、残った三分の二はその動きを完全に停止させた。
「初めての実践にしては上出来だ、シュウ」
「はい師匠! 残りはどうしますか?」
「俺も試したい事があるから、ここでリンを守っててくれ」
そう言って俺が一歩前に出ると、結晶が横にずれて道を開ける。
結晶の壁から出た俺は、『創造魔法』であるモノをイメージする。
これが成功しなければ、俺は戦争なんかに参加はしない。これが出来なければ、俺はCランクの一般人、満足に戦えもし無いのだから。
俺がイメージするのは、者。
想像完了、イメージ補完、『創造魔法』発動!
瞬間、赤き閃光が生まれ、刹那、静寂が辺りを満たした。
俺は魔狼を全て一瞬で地面に叩き伏せた。
試験的に作風を変えてみましたが、どうでしたでしょうか?
感想・意見・指摘をお待ちしています。
例えばシリーズと銘打って、今回初めてリンクしたかも。