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第二十一話 弟子と旅立ち

 家に帰ると、シュウは死んでいた。

 服を着て、廊下で倒れている。ピクリとも動かない。

 それはまあ、見事な死んだ振りだった。


「アホか。……お前、本当にそれで生き抜くつもりだったのかよ」


 俺は倒れたシュウを起こし、デコピンを喰らわせる。


「〜〜っ!! だって! すっごく痛かったんですよ!」


 シュウは目を擦りながら、涙ながらに事の顛末を語る。

 シャンプーが痛くて死んだ、という話だった。

 死んだ振りではなかったらしい。


「あのな〜、お前男の子だろ?」


「当たり前です。女の子に見えるんですか!?」


 何やら挑発的なシュウを見つめる。

 シュウは肩程までの白髪に、日に当たった事のなさそうな白い肌。中性的な顔立ち。それと正反対な黒い服で身を包んでいる。俺より一つか二つ若いだろうか。ヴァンパイアなので見た目と年齢が一致しない気がするが、精神年齢が低いからきっと合ってるはずだ。

 目を潤ませて膝を揃えて俺を上目遣いで見てくる。


「指をしゃぶってそんな目で見るな! しゃきっとしろ! しゃきっと!」


「きゃふん!」


 小突くつもりで蹴飛ばしたら、ゴロゴロと転がって壁にぶつかるシュウ。

 これは……。


「痛いですよ!」


「………………」


「……痛い……です、よ?」


「……おい」


 ひっ! とシュウが身を震わせた。俺はゆっくりとシュウに近づいて行く。


「お前には強くなってもらわなくちゃ駄目みたいだな。さすがにこんな腑抜けを守っていくのは俺でも無理だ。主に精神的に」


「ふえっ」


「修行だ修行! お前の腐った根性叩き直さなきゃ駄目だ!」


 ヴァンパイアの落ちこぼれだと知った時から考えていた事だ。

 魔族の中にも、適度に使える駒が欲しい。その駒にこいつは丁度良いと思った。

 しかしこいつ、今のままじゃ足手まといでしかない。素直な性格は高評価だが、ヘタレ属性は要らない。それと、戦力にもなってもらわねば困るだろう。

 新潟までの道中、話を聞いた限りではもの凄く危険そうだ。

 元々俺に戦闘能力はあまり無い。『創造魔法』は便利だが、あまり多用出来たものでは無いだろう。基本的に、『創造魔法』は物を創るのに秀でた力だ。ペンダントに魔法を付加したりとか、本来は加工が大変な竜の牙を剣にするとか。例外として、新しい魔法を創るとか。

 ……ん?

 ああなるほど、その手があったか。


「シュウ、一つ聞くが、お前魔法は出来るよな?」


「馬鹿にしないでください! これでも埃被ったヴァンパイア! 人間風情が調子に乗る——痛い痛い! 死んじゃう!」


 調子に乗ったシュウに拳骨をぐりぐりさせる。


「……えっと、一番魔力の弱い僕で、普通の人間の五倍……です。属性もだいたい全部使えます。脚力とかも、二倍くらい。そんな怖い目で見ないで!」


 そうか、巫山戯なければかなり使えるじゃないか。

 だが、まずはその根性を叩き直さねばならないな。



   ☆ ☆ ☆



「ギャーーーーッ!!」


 その日の夜。

 チヨダの森に木霊した悲鳴は、地竜に次ぐ新たな恐怖になったとかならないとか。



   ☆ ☆ ☆



「おはようございます、師匠!」


「ん。お前、日の光は大丈夫か?」


「フードを被ってるんで問題ないです! それより師匠! 今日は何の魔法を教えてくれるんですか!」


「……いやお前、今日から新潟に向かうだろ。というか、何? 随分熱心だけど」


 師匠と呼ばれるのは悪い気はしないが、なんと言うか、やけに熱心だ。


「僕は……嬉しいんです! 今まで駄目駄目だった僕でも、ちゃんと戦えるって解って……。何より、師匠、師匠の凄さを知りました。僕より全然だめなのに、頑張って……」


「………そりゃ良かったんだが、お前、強さを過信してないか?」


 軽く馬鹿にされているが、真実なので何とも言えない。


「大丈夫ですよ。師匠の言いたい事は解ってます。所詮これは魔力あっての戦術、仮染めの力、そう言いたいんですよね」


「……解ってるなら良いがな」


 たった一日で、こうまで変わるか。教えがいもあるし、何より俺より上の才能の持ち主。俺に出来ない事を、こいつはやってくれる。

 『創造魔法』において気をつけなければならないのは、物を創る(剣や建物、魔石に魔力を取り込むなどの物質構成)と、魔法を創る(特性付加魔法、治癒魔法など理解を超えた現象を起こす)のでは、圧倒的に魔法を創る方が疲れると言う事。

 それは、体内の魔力を使うか空気中のマナを使うかの違いだろう。

 魔力がCランク程度の俺は、すぐにへばってしまう訳だ。魔力が枯渇すると、何らかの状態異常にでもなるのだろう。特性で『自動魔力回復』とか創ってみるかな。


「じゃあ出発しましょう、師匠。道案内は僕がします」


「ん、頼んだ」


 といって、俺は亜空間から絨毯を取り出す。

 ペルシャ絨毯。

 いや〜、一度やって乗ってみたかったんだよね、空飛ぶ絨毯。

 宙に浮くイメージで創り、空気中のマナを勝手に使用して宙に浮く。俺の魔力を使わずともだ。一家に一枚、魔法の絨毯の時代が来るかもしれない。

 しかし、絨毯である必要性は無いがな。戦争が終わった頃に、商人としてここに来たかった。きっとぼろ儲け出来ただろうな。


「し、師匠! 飛空石なんて持ってたんですか!?」


「飛空石?」


 なんだ、空を飛ぶ魔石も存在しているのかよ。昨日の戦いで見栄はって空飛ぼうかとも思っていたが、しなくて良かったな。まあ、空に逃げても結晶を踏み台にして追っかけて来れそうだな。硬度、速度共に申し分無い魔法だった。だから、シュウに教えたんだが。恐らく、ジュドの使った結晶魔法とは別の物になっているだろうが。


「し、知らないんですか? えっと、数年前にギルバート帝国で見つかった魔石で、それを持ってるだけで宙を自在に舞えるって噂なんです。本当だったんですね〜。ギルバート帝国が国外に出さないようにしてるって聞いてました」


 ……時折思うんだが、魔法と魔石は少々便利すぎる。

 飛行機やモノレールはすぐにでも出来そうだよな。そう言えば、戦乱時代では今より技術が上だったか。もしかすると、当時はあったのかもしれないな、地形を変える程の技術があったわけだから……、もしかすると、俺のやろうとしている事はまずいのか?

 制御不能の古代兵器を発掘したら、どうしよう。


「まあいい。行くぞシュウ。ちゃんと道案内しろよ」


「師匠。どうやって操作するんですか?」


「いや、お前が引っ張るんだよ」


「えっ?」


 空飛ぶ絨毯は宙に浮くだけだ。そこから水平移動は外部の力を使わなければならない。絨毯が高速で動けば、振り落とされるだろうが。風が冷たいだろ。

 俺は絨毯に畳んで、ほれさっさと行くぞ、とシュウに命ずる。師匠って良いな。当然のように弟子をこき使える。


「し、師匠……」


「フード被ってたら日差しは大丈夫なんだろ? 体力付けると思って、頑張れ。多分簡単に引っ張れるから」


 拗ねるシュウを押して家を出る。またしばらく家を空ける事になるな。


「……し、師匠」


「ん? どうした……って、あれ?」


「おはようございます、ナイン」「……はあ」


 見れば、家の前にはレーンとリンがいた。


「おはよう。えっと……」


「レーンと呼び捨てにして良いですよ。不敬罪で処刑されたりしませんから」


 そう言って微笑を浮かべるレーン。背後の朝日が後光に見える。いやあ、朝から良いもの見た——ではないか。


「レーン。どうしたんだ? またウサギになりに来たのか? それとも、食べてほしいのか?」


 と意地悪な笑みを浮かべる。不敬罪で訴えられないのなら、敬語を使う必要も無い。最近敬語ばかりで疲れてたんだよな。


「ちっ、違います! 何言ってるんですか!」


「……レーン、前から気になってたんだけどさ、ウサギって何の話?」


「師匠……凄いです! 姫様に何の躊躇いも無く、普通なら処刑ものの台詞をさらっと吐けるなんて。寛刑物です!」


「尊敬じゃないんだ。寛大だけど刑に処されるんだ」


 閑話休題。


「で、何の用だ? 見送りとかはやめてほしいな、なんか死にそうだ」


「見送り、といえば見送りですけど……実は、リンを一緒に連れて行ってほしいんです」


「……そう言う事だ! 魔法騎士隊長様がありがたく付いてってやるんだ! 感謝しろ!」


 あ〜。


「シュウ、行くか。お前の母さんの病気早く治してやらなきゃ駄目だもんな」


「えっ、師匠。何無視してるんですか。一緒に連れてってほしいって、言ってるのに……」


 なんでこういう時だけ察しが悪いかな。


「あ〜、要するに監視みたいな物だろ? そりゃいらんよ。俺ってそこまで信用無い?」


「そうじゃありません! あなたは、国として失う訳にはいかない存在です。あなた無しで戦争に決着が着くとは思えませんから」


 おいおい、この国どこまでやばいんだよ。


「ナインと昨日戦ったジュドは、この国の最強の騎士です。それを負かした以上、あなたがこの国で一番ですから」


 道理で強かった訳だ——、じゃないよな。要するに、不本意ながら王国最強になってしまった訳か? ちょっと早い。もう少し後、牙を剥いてくる奴を倒してからそういう称号は欲しかったな。多分、快く思わない連中が少なからずいる。まあ、それは絶対に付いてくるものだし、まあいいか。

 これで戦場で常に前線に立てるだろ。そして、多少の我が儘も聞いてくれるはず。うん、とりあえず良しとしておこう。

 『能ある鷹は爪を隠す』、『出る杭は打たれる』の二つが残念な事になったが。


「あ〜、理解した。けど、いいのか? 戦争近いってのに魔法騎士隊長さんが来ちゃって。俺の事なんか心配要らないって」


「ちがうちがう。確かにアンタの強さだったらエチゴ氷山くらい心配ないけど、問題は戦乱時代の兵器を発掘しよう、っていう方。下手に扱って暴発させないように、っていう意味で私が付いて行くの!」


 それはありがたい。正直、そっち方はあまり理解出来ないからな。歴史を知らないし。間違ってドロドロ状態の巨人とか発掘したら大変だからな。


「んじゃ、リンもどうぞ絨毯へ」

「「…………」」


 さっと絨毯を空中に敷くと、呆れたように見つめられた。もう慣れっこである。


「アンタって、いつ会っても驚かしてくれるわね」


 そう言って恐る恐る絨毯に乗るリン。絨毯は垂直抗力と浮力を生む。そのため、人が乗っても落ちない。代わりに、推進力が無い。


「ナイン……、気を付けてくださいね?」


「ありがと。レーンも、食べられないようにな」


 意地悪く笑みを見せると、ぷくっと頬を膨らませるレーン。

 …………………。


「師匠……、もしかして僕は馬の役目ですか? 犬や豚ならわかりますけど、馬はちょっと」


「むしろ犬や豚がアウトでしょ、アンタ」


「新入りが調子乗るな! 僕を誰だと思ってやがる! 埃被ったヴァンパイア一族の欠陥品だぞ!」


「誇れる所が一つもないでしょ……」


 ……はっ、いかん、放心してた。

 しかしこの二人、出会ったばかりなのに随分と仲の良い事。道中が騒がしそうだ。


「じゃあ行くか。レーン………………、行ってきます」


「いってらっしゃい」


 レーンの言葉に、ぐらっと心が揺れた。

 その言葉は——奇しくも——俺が一度も言われた事の無い、普通の言葉だった。

 そう言えば、元の世界で俺は、こういった言葉をかけられた事が無かったな。

 帰る場所が無いから、変えようと思ったんだ。



 本当、これは罰ゲームだ。

 これじゃあ、帰りたくなくなっちまうだろ。



なんか、色々見失ってます。


……第二部から本気出します。

第一部は序章のようなものです。

主人公の能力が強いのか弱いのか、かなり判定しにくいなと思った今日この頃。

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