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第十六話 意地悪な教育

10万PV&1万ユニークありがとうございます。

「もう嫌だ〜!!」


 そう言ってアイラは逃げ出すように家から飛び出して行った。

 軍服を着込み、軍基地へと向かったのだ。

 しかし、何故逃げるように?

 はて、一体何が悪かったのだろうか?



 『世渡り』は元の世界の物そのものを持ち込む訳ではない。

 物に宿る魂みたいな物を持ち帰り、具現化させているようなのだ。

 そのため、元の世界でどれほど高価だろうが貴重だろうが、こちらに持ち込んでも元の世界で問題は起きない。

 そのため、俺がこの世界に持ち込む物は出来るだけ価値の高い物を選んでいる。

 今回持ち込んだのも、最高級のスーツ。

 執事なのだから、ダークスーツが良いのではと思ったのだ。

 が、これがどうにも気に喰わなかったらしい。


「……なんでナナシはそんな上等な服を着ているの?」


「そこまで上等ですか?」


「肌触りが良いし、縫い目も完璧。私の持ってるどの服よりも上等よ!」


 との事だった。

 技術的には作れるだろうが、繊維の質がまるで違うようだ。

 そして、朝食。


「……何コレ?」


 食材がそのまま食卓に並んでいるのだ。


「ほら、料理出来るんでしょ? 作りなさい!」


 何やら勝ち誇った顔をしたアイラと、苦笑いを浮かべているルイスが居る。


「……一応聞いておきますが、魔法を使ってもよろしいんですね?」


「勿論! ナナシにそんな事できればね!」


 という事で、俺は部屋に戻って料理本を持ってきた。

 これは浴場の食堂にも一冊置いてあり、言葉が通じるのはすばらしいと思った一品。

 写真に驚きこそ、そこに書かれた写真と文章から料理人ならちゃんと作れるのだ。

 まあ、俺の場合は出来上がりを見るだけだが。


「では、魔法をご覧になりたいとの事ですので」


 俺は食堂から皿を持って来てもらい、少し思案する。

 朝食は何が良いか考えていたのだが、アイラはそれを魔法が出来ないと思い笑みを浮かべていた。

 結構嫌な奴である。負けず嫌いだな。

 まあ、それも一瞬で崩壊するのだが。


「では、ポテトサラダとサンドウィッチにしましょう」


 食パン、ジャガイモ、酢と食用油に卵、ハムやレタス、ジャムなどを目の前に用意する。

 この異世界、食材に関しては結構充実しているようだ。

 調理器具は一切無く、盛りつけ用の皿しかない。


「魔法は見せ物ではありません。また、争うための力でもないでしょう」


 出来上がりを想像し、食材の上で右手を振る。

 瞬間、眩い光が食材を包み込み‥‥。


「ざっとこんな物でしょうか」

 

「………………」「おぉ!」


 綺麗に切りそろえられた、料理本にのったソレそのものが出来上がっていた。

 アイラは呆然と突っ立ち、ルイスは感激して声を上げた。

 しかし、まあ当然と言えば当然なのだが、味は普通だった。

 マヨネーズがないようで、ポテトサラダに関しては舌鼓を打っていたが。

 だが、基本的に庶民向けの本、料理は普通、食事は料理長に任せる事で一致した。

 もっと色々驚かせて優越感に浸りたかったが、下手に魔法を使って腹を減らすのは嫌だったから止めた。

 それに、ここの料理長の仕事を奪って逆恨みを買うのは避けたかった。

 まあ、おやつくらいは作るかもしれないがな。

 甘党ですから。


 食後、俺はアイラの部屋に呼び出された。

 アイラの部屋はお嬢様の部屋をそのまま再現したような部屋で(お嬢様なのだから当たり前なのだが、俺の中のアイラのイメージが未だ軍人のために起こった表現)、貧乏生活をしていた俺は部屋の物全て売り払いたくなる衝動に駆られた。

 まあ、この世界では俺、『世渡り』で持ち込んだ物を売ればかなりの金持ちになれるけどさ。

 天蓋付きのベッドに、赤いもふもふ絨毯、光沢を帯びた戸棚、曇り一つない窓ガラス。ベランダからは城壁までが一望できる。


「ナナシ。部屋、掃除して頂戴」


「かしこまりました」


 全てを廃棄しろと、わかります。

 俺が悪の魔法使いよろしく不敵な笑みを浮かべて両手を上げ、そこに魔力で出来た球体が出来た所でアイラが抱きついていきた。

 膨よか……とは言いがたい胸が押し付けられたが、俺個人としては嗅ぎなれない香水の匂いの方が胸をドキドキさせる物があった。

 ホワイ?


「ちょっ! 何しようとしてるのよ!」


「掃除ですが何か?」


「部屋を壊す気でしょ!」


「跡形も残さず綺麗になりますが?」


「どあほっ!」


 ぶん殴られた。痛い。伊達に大尉を名乗ってない。

 さて、冗談はここまで。


「冗談だったんですけどね」


「冗談には見えなかったわよ! 薄気味悪い笑みを浮かべて! 夥しい量の魔力を込めて!」


 自分の部屋だからか、随分と焦っておられる様子。俺に取っては他人事。


「わかりました。ちゃんと掃除すれば良いのですね?」


「……そうよ。一応見させてもらうわよ?」


「どうぞご自由に」


 俺は掃除道具を取ってくると言い、一度自室に戻る。

 一度家を造った時に掃除道具は持ち込んでいて、今は亜空間にあるのだが、亜空間を生み出す魔法を見られるのはまずいと思った。

 電気が使えないこの世界、元の世界の掃除機は使えなかった。だから、改良してみた。

 風の魔石を動力部分に使い、吸い込みを実現した一品。

 部屋に有る物の大半は綺麗になっているので、それで十分だろう。

 驚かせれば良いのだ。


「……何ソレ?」


「掃除機ですよ」


「?」


 何なのかさっぱり解らない顔をしているので、電源を入れる。

 どうですか、みるみるゴミが吸い寄せられて行くでしょう! という展開にはならない。

 なぜなら、ここの屋敷仕えるメイドさん達が有能過ぎたからだ。

 とりあえず、見た事の無い機械を見てアイラは驚いていたので良しとしよう。

 元々アイラの目的は俺が四苦八苦して何かをする所を見たいのだろうから。一度驚かせ冷静な分析力を削いでしまえばいいのだ。

 掃除機に関してはメイドさん達に譲り渡した。

 俺の代わりに掃除をすると言う条件で。仕事を奪うのはまずいからな。


 

 という事が有り、アイラは屋敷を飛び出して行った。

 自分の家だと言うのに。

 慣れない執事という仕事で四苦八苦する俺をバカにしたかったのかもしれないが、伊達に万能と揶揄された訳ではない。


「さて、じゃあ俺は街を見てくるかな」


 スーツから学生服へと着替え、目立たぬようにマントを羽織る。

 あまり変わっていないが、スーツはあまり汚したくない。

 どうせ俺は貧乏性ですよ!



 元の世界で名古屋に当たる都市である。

 蒸気機関が発達していないのか、車のようなものは見当たらない。

 代わりに、魔石を用いた技術が異様に発達していると言える。

 大量生産大量消費の時代はまだ来ていないようだ。

 科学というよりは、魔法学が発達したと言うべきだろう。

 街の治安も良く、通りも綺麗な物だ。

 国全体が豊かで、奴隷の扱いも良いのか、一通り街を歩き回ってみたが一目で奴隷だと解るような人は見なかった。

 本当に良い国だ。

 で、なんで戦争になろうとしているのかが解らない。

 ジェイホード家の人に聞けば良いのだが、それは非常にためらわれる事だ。

 間違った知識を植え付けられたくはない。


 

 軍基地へ赴き、戦闘じゃまだ負けると言ってトレーニングしているアイラに、俺は銃の扱い方を教えると言った。

 勿論、裏があっての事だ。

 そして——。


「どうよ、ナナシ!」


 弾け飛ぶ木片を見ながら、俺は溜息をついた。

 場所は軍基地の射撃訓練場。今は俺とアイラしかいない。

 木でできたターゲットの中心をライフル銃で撃ちぬき、アイラは自慢するように俺に言った。ターゲットに当たるが真ん中には当たらない俺に勝てて嬉しいのだろう。

 射撃は、今の特性ではどうにも出来ない事だ。

 まあ、また『創造魔法』で特性付加の魔法を創れば良いのだが、それは労力を使うので却下。それと、何もしなかった時の自分の強さを見たくなったのだ。

 結果は、やはり平凡な物だった。

 しかし、銃を持って喜ぶ姿はお嬢様としてはよろしくない。

 お嬢様はお嬢様らしく、家督を継ぐ勉強をしていれば良いのだ。

 軍人だったら、いずれ争う事になりそうだからな。


「お見事です。……時にお嬢様、お嬢様は人を殺した事はありますか?」


「唐突に何よ……。今の所は無いけど?」


 それは良かった。

 それならば、簡単にこの教育を切り上げられる。


「では、お嬢様は何故軍人になられたのですか?」


「何故って、強くなりたいから」


「強くなってどうするのですか?」


「国民を守るためよ」


 志は良し、だが覚悟が足りないな。

 俺はターゲットがある方に歩いて行き、未だ壊れていないターゲットの横に立った。ちょうど俺の頭の高さにある。


「ではお嬢様。俺の横にあるターゲットを撃ってください」


「えっ!?」


 アイラは声を上げて驚いた。

 人を撃った経験は無い、実践の経験も皆無かな。

 となると、ジェイホード家の地位はそこそこか。

 いくら強くても実戦経験皆無の人間だ。強さだけで大尉まで上げたりはしないだろう。


「くれぐれも外さないでくださいね。お嬢様も知っているでしょう? その銃はいとも簡単に人の頭を吹き飛ばす威力を持っていますから」


 この世界の銃は火薬を使っておらず、風の魔石を用いた風圧で鉛玉を飛ばす。強力なエアーガンだと思えば良い。いや、人の頭を飛ばして尚そんなネーミングはアウトか。


「わ……解ったわ」


 アイラはライフル銃を構える。俺の強化された視力で、アイラのライフルを持つ手が震えているのが解った。

 実に軍人には向いていない少女だ。

 戦いのセンスだけでその地位まで登っているのだから、末恐ろしくも有る。

 だからこそ、ここで諦めてもらおう。

 力なんて、自分と大切な物さえ守れれば不必要な物だ。

 俺は微かに笑みを浮かべる。

 そして、弾ける音が響き——。



   ☆ ☆ ☆



 ナナシに撃てと言われて驚いた。

 もし間違えば、ナナシは怪我をする。いや、死ぬかもしれない。

 たかが練習で、命を駆ける必要など無いはずだ。

 ムカつく奴だけど、……私には何故だか憎めない。だから、きっと死んでしまったら悲しい。だから、こんな危険な事はしたくなかった。

 だけどこれはナナシが私を試しているのだ。

 簡単に人を殺す銃を手に持って、敵と味方が入り交じる戦場で、敵だけを撃てるのかと。

 やってみせるわよ。今まで一発も外した事は無いんだから。


 けど。


 どうしてか、嫌な予感に体が震えていた。

 この引き金を引いてしまえば、何か取り返しのつかない事になりそうな……予感。

 引き金にかかる指が震える。ふと見れば、ナナシは笑みを浮かべている。

 これ以上バカにされたくない!

 私は震える指に鞭打って、ナナシの隣のターゲットに銃口を向け、引き金を引いた。

 そして、銃声が鳴り響き——。



「え……?」



 ターゲットではなく、ナナシの頭が弾け飛んだ。

 真っ赤な花火が打ち上げられた。



 ナナシの体が、重力に従って力なく崩れ落ちた。

 地を血が染め、動かない肢体は死体にしか見えない。


「いやぁああぁあああああああああああ!!」


 嘘だ! 嘘だ! なんで……どうしてこんな事に!

 銃を放り投げ、私はナナシの元へと駆け寄る。


「ひっ!!」


 だけど、そこは近寄りたいと思えない惨状だった。

 砕け散った頭骨からはみ出た脳みそ、ぐじゅぐじゅな液体が穴から溢れ出ている。思わず一瞬怯んでしまう。

 吐きそうになりながら、それでも私はナナシの元へ辿り着きその体に触れる。


「……な、ナナシ?」


 二度と答える事は無いと解りながらも、聞かない訳にはいかなかった。

 ナナシの体は温かい。当たり前だ、つい先ほどまで生きていたのだから。

 そして、立った今私がその命を奪ったのだから。

 だんだんとその体も冷たくなって行く。


「……うっ、ひっく」


 視界が霞む。目頭が熱い。どうして? たった二日しか一緒ではなかったのに。

 それでも、何故か鮮明に、ありありとその記憶が目の前に広がって。

 そうか、私は——。



「どうですか? これがお嬢様の自慢なさっていた事ですよ」



 へ?



   ☆ ☆ ☆



「お嬢様。あなたが振るう力は、人の命を奪う力です。銃とは兵器です。そして、人の命は失われれば、決して戻る事は有りま——げふ」


 ぶん殴られた。本日二度目。

 いかん、すぐ横に立って居たのは間違いだった。

 『創造魔法』で作り上げた幻覚は、少々リアル過ぎだったかもしれない。

 俺の横には、しっかり破壊されたターゲットが有る。

 本当に、妬ましいくらいの才能だ。


「痛いです。おじょ——」


「——死んだと思った!」


 瞬間、アイラの瞳に小さな雫を見た。

 あれ? なんで? 俺ってそんなに愛されるような奴だったか?

 ……ああ、そういう事か。


「ナナシの頭が弾け飛んで、力なく倒れて! 動かないし冷たくなって行くんだもん! 死んだと思った!」


「……すいません。心配かけましたね」


 俺はそっとアイラの頭を撫でてやる。

 久々だな、優しさに触れるのは。


「ですがお嬢様。もし、これからも銃を手に取り続けるのであれば、覚えていてください。あなたが奪う人の命は、戻ってきません。お嬢様が俺を心配してくれたように、命を奪われた人にも同じような人がいる事を、忘れないでください。人が死ぬのは悲しく、そして辛い物です」


 コクコク頷くアイラに、小さく笑みを作って頭をもみくしゃにしてみる。


「ただ、時には奪わなければならない時も有るはずです。お嬢様が守りたい物が冒されたとき、殺さなければ殺されるような時が有るでしょう」


「……その時は、どうすればいいの?」


 目に涙をためて上目遣いは、なかなか俺の心に突き刺さる威力があった。

 急に子供っぽくなったな、と内心思いながら俺は答える。


「今は考える必要は有りませんよ。その時、自分の素直な思いが出るはずですから。本能のまま行動して下さい。まあ——」


 俺は不敵な笑みを浮かべてみせる。



「俺がお嬢様の執事をしている限り、そんな事はありませんけどね」



 勿論、それは長くはない。

 情報収集にこの地位はちょうどいいから居座っているだけなのだ。

 だが、将来的にも一つの拠点と出来そうだ。

 

 司法と軍事、それは俺の介入したい事である。


 そのため、せいぜい俺色に染まってくれ。

 悪いようにはしませんから。


スランプです。

書きたい事が書けませんでした。

あと、そろそろ賞に応募する作品を執筆しなければならないからですね。

そのため、更新はかなり不定期になります。

すいません。

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