第十四話 帝国の第一歩
チートの俺に怖い物など無い。
暴君王女が何のその! 受けてやりましょう。
何より帝国のお嬢様、いわば国の頂点に近い人物だ。
彼女を懐柔もしくは改変出来れば、戦争だって回避出来るかもしれない。
高望みだと解っているし、その分色々大変そうだが。
ラザウェル王国は底辺を味方につけた。
ギルバート帝国では頂点を味方につけるとしよう。
俺は受付にこの依頼を受ける事を言った。
「あっ、こちらの依頼を受けるんですか?」
「ええ。Cランクですが、大丈夫でしょうか?」
う〜んと少し悩み、にっこり笑って受付は言った。
「Sランクの方がプライドをずたずたにされて以来、最近は誰も受けないんで、多分大丈夫でしょう。では、ギルドカードにこの依頼の事を記載しますね」
そう言ってギルドカードを受け取ると、よく解らない機械に入れる受付。
あれ?
Sランクがどうとか言わなかったこの人。
プライドにボロ雑巾がつけるような修飾語。
うわぁ……才能の壁を感じる。
「入国の際にこちらのカードを見せれば、問題なく入れると思いますよ」
「ご丁寧にどうもありがとうございます」
「いえいえ。もしかすると……最初で最後になってしまうかもしれませんから」
「えっ……」
「では、お気をつけて」
うわぁ……、帰って来れないと思ってるよ。
どんなお嬢様の教育だよ。
元の世界で静岡に当たる都市でギルド登録を終え、国境に近づけば近づく程、武装した騎士達に会う。
皆一様に緊張した面持ち、戦争は近い。
百メートル程の非武装地帯を抜け、何事も無く、俺はギルバート帝国の国境へと辿り着いた。
城壁に関してはラザウェル王国と似たような物だろう。
細身の使いやすそうな剣を持った番兵がおり、俺がギルドカードを見せながら近づくと、
「ん、君があのお嬢様の……。まあ、死ぬなよ」
「……生憎、俺はまだ死ぬ気はありません」
なんで皆そんな事言うのかな。
少しでも粗相をしでかしたら斬首とか?
……うわぁ、依頼を無視したくなってきた。
そして恐ろしい程簡単に国境を通してくれた。
あれ? いいの? 戦争近いのに。
ギルバート帝国の町並みを見る前に、目の前に誰かが立った。
「ようこそ、ギルバート帝国へ」
そう言って俺を出迎えたのは、軍人だった。
迷彩服を着込み、銃を構えている。
銃?
俺の持っているエアーガンはプラスチックだが、彼らの持っているのは金属。
無骨なデザインで、まだ試作品のようだが、これは確かに銃だ。
ライフル銃で、どうやら連射性はまだそこまで進歩していないようだ。
外の番兵が剣で、俺を出迎えた軍人が銃。
どうやら銃はまだラザウェル王国に、情報としても武器としても流れていないらしい。
次の戦争での秘密にして主力兵器になりそうだ。
「お嬢様がお待ちです。どうぞご一緒に。何ぶん最近は危険ですので」
俺に有無を言わせぬ睨みを利かせ、俺の脇に立つ軍人さん。
……なるほど、ね。
どうりで戦争間近でも簡単に入国出来る訳だ。
おそらく、ラザウェル王国から入った人には有無を言わせず張り付くのだろう。
怪しげな行動を取れば即射殺か。
銃を知らないラザウェル王国からのスパイは、速攻殺されるだろう。
魔法はどう見ても音速より遅い。
科学を支持しているギルバート帝国の技術は、二十世紀レベルだった。
町並みこそラザウェル王国と大差ないが、技術に関しては二十世紀初頭。
兵士は銃器で武装しているし、街灯も見えるし、水道が通っているみたいだ。
車はガソリンに変わる物が希少なのか無いのか、見ていない。
だが戦争になったら、ラザウェル王国は負けると思う。
そんなことは解っていた事で、気になるのは人体実験の方だが。
そして、俺の今後も。
「こちらでお待ちください」
そう言って軍人さんは、有刺鉄線が張られた施設の修練場らしき場所に俺を放置。
見た感じ、軍事基地。
遠巻きに四人程が監視している。皆銃を携帯。
こんなところで会わされると言うのは……結構お偉いさんの娘さん?
しかし、嫌な予感しかしない。
教育係って……もしかして。
「あなたが新しい教育係? 私の名前はアイラ。階級は大尉よ」
そう言って俺の前に現れたのは、赤い髪をポニーテールにした俺より少し若い少女。
お嬢様……というイメージとは大きくかけ離れている。
なぜなら、彼女が着ているのも迷彩服。
腰には細身の長い剣。
そして教育係。
「じゃあ、早速だけど、あなたの強さを見せて頂戴」
そう言って剣に手を添えるアイラ。
なるほど、そういう事ですか。
俺が彼女に教えるのは、剣や武器の扱い方。
要するに、彼女の戦いの師匠を募集していた訳だ。
だからギルドの依頼にあったのか。
そして、この子は過程は知らないが、Sランクの人すらも倒したのか。
「……でも、あなた見た感じ弱そう。今まで見て来た誰よりも」
ぐはん! 過大評価じゃないかい?
「なんて言うか……普通よね。特に何かに秀でているようには見えない」
確かにそうだろうさ!
俺のステータスは平凡だからな。だからCランクだ。
でも、人に言われるとムカつくな。
「人は見かけによらないものですよ……アイラお嬢様」
早速媚び諂う俺。
好感度を上げておかなければ、意味が無い。
平和の大切さとか、そう言うのを教えに来たのだ。
「そうかしら? じゃあ、せいぜい楽しませて頂戴」
クエスチョンは余計だぞ。
俺は言った。
人は見かけによらない……と。
お前には、『異世界召還補助効果魔法』で俺に特性が付け足されているのが解らないのか?
ステータスなら感じとれても、特性は駄目みたいんだな。
最も、魔法が無ければ俺の特性はきっと、『絶対平均』とか『絶対平凡』みたいな奴だろう。
何でも出来るが、上手くはなれないという残念特性。
努力で才能をどうこう出来はしない。
だが、今は違う!
ステータス反映こそ無いが俺には、『戦闘計算は数値を倍にする』『二回行動』『不思議な守り』などの特性が魔法で追加されている……というイメージを持っている。
才能に勝つには、発想しか無いのだよ!
努力だって所詮才能があってこそだ。
世の中の辛さを知れ。
「アイラお嬢様。殺意の籠った刃を向けていいのは、敵だけですよ?」
アイラの抜刀と共に、俺は彼女の後ろに立ち、首元に手刀を添える。
「なっ!?」
アイラは驚いたように体を硬直させている。
先ほど俺を連れて来た軍人も、監視していた奴らもそうだ。
恐らく、このアイラと言うお嬢様は本当に強いのだろう。
生涯無敗とか、その若さで語っちゃってたんだろう。
それが、一瞬で敗北。
「……………」
手から剣がカランと落ちて、その場にへたり込むアイラ。
もし俺が武器を持ち、自分に向けて殺意があったら、自分は死んでいたと思っているのだろう。
まあ、俺は人を殺す気はさらさらない。
自我が崩壊しない限り、俺は人を殺す気はないのだ。
というか……。
俺は武器持ってないんだよ!
エアーガンは形だけでもパクられるとまずいから、持って来ていないんだよ!
ギルドの人間で手ぶらでここまで来る方が悪いのかもしれないけどさ。
「で、どうなんですか? 俺は失格ですか?」
俺は地面に崩れ落ちたお嬢様を見ながらそう言う。
「……初めて負けた」
うわぁ、冗談で生涯無敗とか言ってたのに、本当だったよ。
妬ましいくらいの才能だな。
『創造魔法』で特性を付加していなければ、予想通り俺の首は飛んでいただろう。
しかし、ここは科学の国。
魔法をなるべく使いたくはなかった。
正直特性で決められなければ、完全に逃げ出していた。
勝てる要素がないもの。
戦略は拮抗した敵には通じるが、圧倒的戦力の前には無意味だ。
ランクSの奴のプライドをボコボコにする戦力に、平凡の俺がいかなる戦略を立てようゴミのように蹴散らされるだけだ。
「……名前は?」
「ん?」
「名前です。あなたの——」
立ち上がり、握手を求めるアイラ。
どうやら暴君と言う訳ではないようだ。
俺はしばし悩み、答える。
「ナインと言いますが、本当は名無しです」
「そう、ナナシ。あなたを教育係にするわ」
また違う勘違いをされた。
ストーリーで触れた『才能』について語る、本編に関係ないあとがき。
無駄に長いので、読み飛ばしてくれていいです。
作者の知り合いに、こんな事を言った人が居ます。
『どれだけ頑張ろうと思っても、頑張れないんだ。好きな事だから努力しようと思っても、努力出来ないんだ。努力も才能が必要で、自分には努力する才能が無い』
確かに努力する才能もあるのかな、と思いました。
さて、作者は首を傾げました。
努力しても才能の壁は超えられないのか。
生まれた時から才能と言う壁が出来ていて、どうやっても覆す事が出来ないのか。
それはもう運命に近い物でしょう。
作者は才能という言葉が嫌いです。
才能という一言で、人生全てが諦めてしまえる点が嫌いです。
そして、憎きそれらを覆す術を考えて見ました。
それが、本編で語られた『発想』です。
考えを飛躍させる、という事です。
同じ土俵では戦わない、というがソレに当てはまります。
例えば、音楽。
歌唱力というのは、ある程度は努力すれば上げられますが、本当に才能のある人にはどうあがいても勝てません。努力して勝てるのは、元々才能がある人でしょう。
努力する才能と言う物も有りそうです。
しかし、ここで『発想』。
音楽と言うのは、表現です。
自分の伝えたい事が伝えられたのなら、歌うのが上手かろうが下手だろうが関係ありません。
伝わりさえすれば、それで良いのではないのでしょうか?
聞いていて耳障りでなければ、それでいて聞く人の心を捉えられれば、音楽としては良いのではないでしょうか?
というような事を思って、主人公を平均で平凡にしたのです。
……まあ、その『発想』すらも、そういう発想を生む才能がない、で片付けられてしまうのですが。
駄々文にお付き合いくださいまして、ありがとうございます。