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第十一話 決意とその先

アンケートに投票してくださった皆様、本当にありがとうございます。

結果は、本編にて。

「お断りします」



 俺がはっきりとそう告げると、一人が俯き、一人がそっぽを向き、一人が顔をしかめた。

 これは、店長としての決断ではなく、俺個人の話だ。

 私ではなく、俺の決意。


「ただし、俺も少しだけ考えを変えてみました。恐らく、あなた方も納得すると思います。ただ、条件が有りますが」


 そう言って、俺はリースに小声で頼み事をする。

 リースは怪訝そうな顔をしながらも、食堂へと向かう。


「条件って……、アンタ何様のつもり?」


「リン、私達は頼んでいる側よ。……解りました。話を聞きましょう」


 しばし俺の顔を見つめる姫様の顔は、一人の少女のものだった。

 だが、すぐに一国の主となる者の顔になる姫様。

 もしラザウェル王国が残るのなら、きっと良き王になるだろう。


「では、少し見てもらいたいものが有りますので」


「っ!?」


 と、リースが食堂から戻って来た。

 そのリースを見て、護衛の二人が身構える。



 リースに頼んだのは、包丁だ。



 俺はリースから包丁を受け取り、それを握る。


「アンタ、何を考えて——」


「安心してください。あなた方を傷つける事はありません。傷つけるのは、俺自身です」


「!?」



 驚いた三人を一目見て、俺は自分の左腕を包丁で斬りつけた。

 瞬間、赤い鮮血が左腕から溢れ出し、床へと滴り落ちる。



「なっ、何を……」


「リース、頼む」


 俺は包丁を床に起き、右手でリースに呼び寄せる。

 リースは落ち着いた様子でこちらに来て、俺の傷ついた腕の真上に手を掲げる。


 リースは少し目を閉じ、そして魔力を手に集中させる。



 瞬間、淡い緑色の光が俺の腕を包み、次の瞬間には傷跡を残さず綺麗な物とした。



「なっ……………」


 唖然とする三人を見て、やはりこれは今この世界では使われていない魔法だと悟る。


 俺は床に落ちた血をタオルで拭き取り、三人を見て言う。


「この治癒魔法を提供をしましょう。条件は、敵の兵士も治療すると言う事ですが」


「………………」


 三人とも、今起こった出来事が事実かどうか疑っていて話を聞いていない。

 それくらいのインパクトがあるのか。

 と、先日もそれを見ていた護衛二人はすぐに俺の条件に反論して来た。


「敵を助けろと!? 我々の仲間を殺した敵だぞ!」


「敵を助けるのに魔力を使うなんて、そんな事すれば魔力が尽きて逆にアタシ達が死ぬわよ!」


「死ぬはずの命を助けられるのと、敵への復讐。どちらが大切ですか? 戦争には死ぬために行くんですか? 生き残るための戦争でしょう? 戦いの後で結構なので、傷を治してほしいのです」


 生きている——それは、敵も味方も同じだ。

 まあ、助けた後に何があるのか、俺は知らない。

 助けた奴に殺されるかもしれないし、助けた奴が助けてくれる事だってあるだろう。

 それは、この世界の人々の心次第だ。


「…………解りました。良いでしょう」


 と、俺の条件に姫様は同意してくれた。

 おお、話の分かるいい人だ。


「姫様! しかし……」


「私達は、好き好んで戦争をしている訳ではないでしょう? ならば、それで出る犠牲は少ないに越した事は無いはずです」


「ですが……」


「それに、彼が私達を試しているのが解らないんですか? 聞けばここより遥か北から来たと言います。彼は私達がどれほどの心を持っているか、試しているのですよ?」


 北から来た、って冗談で言ってないよな?

 しかし……、そこまで見抜くか。

 まあ、敵を治療しろと言うのは、実はまだ意味が有るのだがな。

 できればその意味は無くなってほしい。


「……解りました」


 男は俯き、それを認めた。


「では、治癒魔法を提供しましょう」


「はい。……ですが、どのようにして教えていただけるのでしょうか?」


「それですが、もう一つの条件あります。リース」


 俺が呼ぶと、リースは少し怖がる素振りを見せながらも、しっかりと頷いてくれる。


「先ほど見た通り、この子が治癒魔法を使えます。ですから、この子を騎士にして下さい。ただ、これを先に言っておかないと不公平なので言いますが、この子は元奴隷です。それでも良いですか?」


 三人は驚いたようにリースを見た。

 無理も無かろう。

 リースの金髪は、一点の曇りも無い綺麗な物。

 その肌もつるつるで、とてもじゃないが元奴隷とは思えない。



 そもそも奴隷は、生まれたその時から奴隷と言う訳ではないらしい。

 保護者から売られた子や身寄りの無い子が対象だ。

 訳も解らず売られ、養子にはなれなかった子が奴隷として育てられる。

 家事は勿論、何でも教えられるのだ。

 男の子は労働力として売られる事が多いため、体力を付けさせられ、女の子は家の中での様々な、それこそあの手の事も躾られるのだとか。

 その時の奴隷の扱いは酷いらしく、体がボロボロになるまでやらされるのだとか。

 奴隷になるかならないか、それは生まれた時の環境しか作用しない。



 リースの場合は、保護者(血のつながらない叔父叔母らしい)に売られた直後で、まだ何も知らなかった。

 要するに、その手の教育は受けていないと言う事で、奴隷と呼ぶには相応しくないのだ。

 俺はおおむねそれを説明し、それでもどうかと問う。


「……奴隷から騎士となった者は過去にいません。ですが、そこに規則もありません。私は良いと思います。でも、それは魔法騎士隊長が決める事ですね。リンはどう?」


「ふえっ!? ……別に良いと思うけど? アタシとしては特に気にした事はないかな。驚くけど、別に差別はしないよ」


 思った以上に寛大だ。

 まあ、これを受け入れなければ治癒魔法の技術は手に入らないしな。

 そしてリースが騎士団に入る事は、俺にとっても二つの意味が有る。

 姫様の方は、もしかすると気付いているかもしれない。

 一つはリースに話したが、もう一つは秘密にしている。

 何だか色々問題が起こりそうな話だからな。


「俺がこの国に出来る事は今の所これだけですね」


「……あなたは、一体どうするつもりなんですか?」


 騎士になる事を断ったためか、俺の今後を心配してくれるらしい。


「そろそろ経営の素人の俺ではこの浴場も立ち回らなくなると思うんで、俺は辞職しますね」


「は? あんた商人じゃないの?」


「いや、商人になったつもりは無いですが?」


 元の世界では一学生にしか過ぎない俺の経営では、どう考えても立ち回らなくなるだろう。

 例えば、食堂。

 今は味を広めるために格安で振る舞っているが、この世界では砂糖は高い。

 『世渡り』で砂糖を持ち込むにしても、あまりたくさんは持ち込めない。

 いずれはこちらの世界で調達しなければならなくなる。

 そうなったとき、こちらの世界をよく知らない俺では騙されかねない。

 要するに——。



「俺は一所に留まりすぎました。見聞を深めるため、旅に出ようと思っています」



 俺はこの世界を知らな過ぎる。

 国も民も、善も悪も、人も心も何も知らない。

 何かを知ったつもりでいるのは、もう止めだ。


 

 目の前で何も知らずに失うのは、もうこりごりだ。


 

 さて、ウサギの姫様。


 死んだ“あの少女”に良く似たお姫様。


 今度は、最後まで見守っててほしいかな。



最後の数行で、何故主人公が選択肢の1番を上位にしたのか解るかもしれません。


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