パーティの残り香。
笑い声が消えた家に残ったのは、柔らかい土と、濃すぎる花の香りだけだった
庭には、季節の色が満ちていた。
春には桜とチューリップが、夏には紫陽花とヒマワリが、秋にはコスモスと紅葉が、冬には椿が、静かに咲き誇っていた。
スミレが丹精込めて育てた花々は、どんなパーティの喧騒の中にあっても、静かな威厳を保っていた。
夫のアキラは、その庭を見ていつも満足げに微笑んだ。
「これで本場のバーベキューが開ける」と。
広い庭に面した家は、アキラの長年の夢だった。アメリカ仕込みの大型グリル、専用の煙突、そして何より、庭そのものがパーティ会場になる設計。
週末ごとに友人や知人が集まり、肉の焼ける匂いと笑い声が夜遅くまで続いた。
スミレは文句を言わなかった。むしろ、花を手入れしながら、夫の楽しそうな顔を眺めるのを好んだ。
ただ、ゴミだけが問題だった。パーティの残り物は想像以上に多かった。
家庭用の処理機では到底追いつかず、アキラは業務用の大型機を取り寄せた。
牛一頭を一気に処理できる、という触れ込みの、温風乾燥と強力粉砕を兼ね備えた米国製の最高峰モデル。
業者は丁寧に設置し、動作確認を済ませると、サービスだと包丁を置いていった。
「アキラさんは骨太で大柄ですから、相当にお食べになるでしょう。これだけの設備があるのなら、一頭分も扱えるものを」
ノコギリのような刃を持つその包丁を、アキラは嬉しそうに受け取った。
数日後、いつものように大きなパーティが開かれた。夜が更け、笑い声が途切れた頃、庭の照明は一つ、また一つと消えていった。
翌朝、近隣の者が気になって様子を見に来たが、家は静まり返っていた。
ドアは施錠され、中に人影はない。車もそのまま。庭の花々だけが、いつもと変わらず鮮やかに咲いていた。
警察が介入したのは、それから数日後のことだ。財産も、貴重品も、痕跡もほとんど残されていなかった。
ただ、庭の土が、どこか不自然に柔らかく、ところどころ黒ずんで見えたという。
花の根元には、細かな白い欠片のようなものが混じっていた、と報告した捜査員もいたが、すぐに「肥料の残り」として片付けられた。
処理機は正常に作動する状態で残されていた。包丁は、見当たらなかった。近所の人々は、口々に同じことを言った。
「あの家の庭は、いつ見ても綺麗だった」
「季節の花が、本当に見事でね」
「でも、あの日から、なんだか…花の色が、少し濃くなった気がする」
誰もが、はっきりとは言えなかった。
ただ、春が巡るたび、夏が深まるたび、庭の花々は以前にも増して豊かに、そしてどこか湿ったような濃い香りを漂わせるようになった。
アキラとスミレ、そして家族の姿は、未だに見つかっていない。ただ、庭だけが、静かに、季節を重ねている。
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