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境界の向こう側  作者: 森本琉偉


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第7話 天幻回廊(てんげんかいろう)

山を下り、アスファルトの照り返しを浴びながら南へと続く国道を歩く。排気ガスの匂いや遠くで鳴るクラクションの音。

(「――皇月。村を降りて、しばらく南へ歩け。そこには、お前のような者が集う場所がある。」)

凪辻さんの去り際の言葉が、脳裏をよぎる。

 確かに、その通りだった。

 一時間ほど歩くと、地方都市のビルの合間から、突如として空の色を塗り替えるような巨大な輝きが見えてきた。


天幻回廊てんげんかいろう


武具が取引される工房が軒を連ね、高度な医療が施され、あるいはスレイヤーたちが死地を忘れて美酒に酔いしれる――あらゆる欲望と誇りが交差するこの場所は、まさに「極楽」そのものだった。

俺は大門ゲートを潜った

 最新のライフルを担いだスレイヤーや、身の丈を超える大剣を背負った熟練のスレイヤーたちが肩を並べて歩いている。

そこには数千枚のホログラムが浮遊し、刻一刻と変化する魔物の目撃情報や依頼が明滅している。

その時だった。

「……何か、困ってる?」

振り返ると、俺と同じ十八歳くらいの女性が立っていた。

彼女は支給品と思われる戦闘服を着て、その上に私物だろうか、古風な羽織を重ねている。背負っているのは、独特の紋様が刻まれた一振りの「妖弓ようきゅう」だ。

「……はい。山で修行をしていたばかりで、この場所がどういうものなのか、よく分かってなくて。……すみませんが、教えていただけませんか?」

「いいよ、私は如月きさらぎちはや。ここはね、この世界を守るための砦、『天幻回廊てんげんかいろう』。

ちはやは歩き出し、窓の外や、そびえ立つ壁を指差した。

「周りには強力な結界が張られてるから、魔物たちは手を出せない。……もしここがここが破れれば国全体が魔物の支配下に置かれると言われるほどの要所よ。だからみんな、命懸けでここを守ってる。まあ、そう簡単に陥落するようなヤワな造りじゃないけどね」

彼女は軽やかな足取りで、奥へと進んでいく。

「口で説明するより、実際に見て回った方が早いよね。案内してあげる、ついてきて」

ちはやは軽く手を振ると、迷いのない足取りで広いロビーを歩き出した。俺はその背中を追いながら、巨大な砦の内側を目に焼き付けていく。


「まずはここ。『支給窓口』。スレイヤーはみんな、ここで体格に合わせた魔導戦闘服をもらうんだ。皇月くん、その修行着も味があるけど、さすがに外に出るなら一着持っておいたほうがいいよ。丈夫だし、耐性も全然違うから」


窓口には、青や赤の戦闘服が整然と並んでいた。さらに通路を進むと、少し落ち着いた雰囲気のエリアに出た。


「ここは『居住区』。個室もあれば雑魚寝のスペースもある。戦いから戻ったら、ここで泥のように眠るのがスレイヤーの日常だね。……で、その隣が大事な『救護班』。魔物との闘いで傷ついた人たちが運ばれてくる場所。腕利きの医者が揃ってるけど、お世話にならないに越したことはないかな」


消毒液の匂いが鼻をかすめる。救護班の入り口では、包帯を巻いた男たちが力なく椅子に座っていた。


「そして、ここが『食堂』だよ」


ちはやが指差した先には、豪快な肉の焼ける匂いと、大勢の話し声に包まれた活気ある空間が広がっていた。


「食事は基本、無料。しっかり食べないと、魔物と戦う体力が持たないからね。……どう? 思ったより『生活感』あるでしょ? 外は地獄だけど、この中だけは、みんなが必死に守ってる『普通の日常』があるんだ」


俺は、忙しそうに働く人々と、それを見守るようにそびえ立つ重厚な壁を見上げた。


「ただ戦うだけの場所じゃないんですね。……守るべきものが、ここにはたくさんある」

俺の言葉に、ちはやは少しだけ驚いたように目を丸くし、それから満足げに頷いた。




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