第6話 旅立ちの朝
一修行を終え、俺は自宅の居間に座っていた。
目の前には、茶をいれる母さんの背中がある
今の俺は、あの時とは違う。
座っているだけで、体中のエネルギーが指先まで満ち溢れ、研ぎ澄まされているのがわかる。
「母さん。……話があるんだ」
俺が静かに切り出すと、母さんは手を止め、ゆっくりとこちらを振り向いた。
俺の顔をじっと見つめる母さんの瞳に、一瞬だけ驚きの色が混じった。修行を経て、俺の纏う空気そのものが、鋭い刃物のように変わっていたからだろう。
「明日から、旅に出るよ。この村を出て、もっと広い世界を見てきたいんだ」
「魔物を倒しに行くのね」
「ああ。それだけじゃない。この一ヶ月で手に入れた力が、外の世界でどこまで通用するのか……それを確かめたいんだ。俺はもう、誰かに守られるだけの存在じゃない…そして誰も怯えることのない自由な世界を手に入れたいんだ」
俺は腰に差した刀の柄に、そっと手を置いた。
「……そう。本当に行ってしまうのね」
母さんは小さく溜息をつき、寂しそうに微笑んだ。
「帰ってきたあなたを見た時、あぁ、もう私の知っている小さな皇月じゃないんだって、そう思ったわ。……お父さんも、今のあなたを見たら、きっと誇らしく思うはずよ。止めたりなんてしないわ」
「……ありがとう、母さん。心配はいらないよ。今の俺なら、自分の身くらい自分で守れるから」
俺は母さんの手を優しく握った。その手は小さくて温かかった。俺はこの温もりを守るために、もっと強く、もっと高い場所へ行かなければならない。
その晩、俺は旅の支度を整えた。
翌朝、まだ太陽が地平線の向こう側に隠れている時間。
俺は寝静まった家を後にした。
村の入り口へと続く一本道を歩きながら、俺は一度も振り返らなかった。
(……さあ、ここからが本当の始まりだ)
村を一歩出れば、そこは弱肉強食の世界だ。
俺の視界には、まだ見ぬ巨大な街の影と、そこで待っているであろう数多の試練が、鮮明に見えていた




