表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界の向こう側  作者: 森本琉偉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/7

第1話 決意

「隣町でまた一人やられたそうだよ。臓物を抜き取られていたそうだ」 「……いや、恐ろしい。一体、何が起きているんだか」

閉め切った雨戸の隙間から、近所の住人たちが怯えながら囁き合う声が漏れ聞こえてくる。湿った冷気が隙間から細く流れ込み、背筋にひやりとしたものが走る。

そんな物騒な噂も、この頃では朝の挨拶と同じくらいありふれたものになっていた。

この世界において、僕たち奴らにとっての「餌」に過ぎない。 家畜が屠殺とさつを恐れるように、私たちはただ、明日の獲物が自分でないことを祈りながら、息を潜めて生きるしかなかった。

「おはよう、皇月みずき

「おはよう、母さん」

僕は今年で十八になる。 母が差し出した朝食を無言で口に運びながら、僕は壁に立てかけられた一振りの刀を一瞥した。鞘に収まっていてもなお、肌を刺すような冷たい気配を放っている。

「今日も、稽古に行くのかい?」

母さんの声には、隠しきれない不安が混じっていた。僕は短く頷き、静かに席を立った。

庭先へ出ると、湿った朝の空気が肌にまとわりついた。 刀を抜き、一振、二振と空気を切り裂くたび、乾いた音が庭に響く。

刀を握るたび、五年前のあの夜の記憶が蘇る。 血の匂いが立ち込める中、息も絶え絶えだった父が、震える手でこの刀を僕に託した。 「……これを持っていけ。これだけが、奴らを斬る唯一の手段だ」 父の命の灯が消える間際に託された鉄の重み。 その重さは、ただの武器ではなかった。 あの夜、僕は父の仇を討つこと。 そして、誰もが明日を怯えずに生きられる世界を取り戻すことを心に誓った。

「……少年。もしやそれは、妖刀か?」

不意に声をかけられ、僕は手を止めた。 垣根の向こう、道を行く一人の老人が足を止め、じっと僕の刀を見つめていた。使い古された着物を纏っているが、その眼光は鋭い。

「……はい」

僕は短く答えた。この刀がただの鉄ではないことは、見る者が観ればわかる。

「どうやって手に入れた?」 「父さんから、譲り受けました」 「ほう。その父親はどうした」 「……に、魔物にやられました」

僕の言葉に、老人は細い目をさらに細めた。彼は静かに庭へと歩み寄り、落ち着いた声で言った。

「あなた……何者なんですか?」 思わず問い返すと、老人は少しだけ微笑んだ。 その笑みは穏やかだったが、どこか底に深い影を落としていた。 「儂はただの通りすがりよ。かつて魔物達と刃を交えたことがあるだけだ」


老人の告白に、僕は驚きを隠せなかった。かつて、を倒すために立ち向かった先達。そんな人物が、こんな身近にいたなんて。

「少年。お前はなぜ、そんな物騒なものを振り回し、化物共を追おうとする? 修羅の道だぞ」

老人の問いに、僕は迷わず答えた。

「父さんの仇を討ちたい。……それだけじゃありません。父さんが実現したかった世界を作りたいんです。誰もに怯えず、嫌な噂に震えることもない。当たり前の日常が、当たり前に続く世界を」

老人が僕をじっと見つめる。

「誰も怯えぬ世界、か……。あやつらが潜む異界は、地獄。」 「わかっています。でも、僕は行かなきゃならないんだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ