チャイムの音
ノートの上を走るペンが、カリカリと音を立てる。
授業を受けてノートを取る。時々窓を眺めてまた黒板を見る。
授業の一幕、私にとってはどれも初めてのことでとても新鮮。
唯一、誤算だったのはこの化学の授業の内容は既知の物だったらということくらい。
チョークが黒板を叩く音が等間隔で鼓膜に響く。意外と心地よくて、日当たりがいいのもあり少し眠気がする。
小さな欠伸をして2、3分後、チャイムの音が響く。
起立の号令で立ち上がり、礼をする。
着席した瞬間、机を囲まれる。
彼らの目には未知への興味に溢れていた。
同時に多くの質問を受けて動揺する。
興味の視線は数見てきたが、その言葉をぶつけられたことは初めてだった。
何を言われているのか分からず、口を少し開けて戸惑う。
「落ち着きなさい、せめて1人づつになさい」
隣の席に座る雛の一声が皆を落ち着かせた。
一声で人が動く人なのだ、と思った。
また後でねと一声かけて席を立つ。クラスに入った時、一番最初に目が吸われた場所へ杖をつきながら向かう。
「貴方もこの学校だったのね、斥」
「有希、俺も驚いたよ」
会うのはこれで三度目、きっとこれから毎日会うことになる初めての友達。
雛と斥、見知った友人がいることが慣れなくて、少しむず痒くなる。
「知り合いだったんだね」
隣から覗き込むように幸が聞いてきた。
「ええ、病院で何度か」
へぇ。と幸は少し目を見開け、栗色の髪を揺らす。
「あなた達はどうなの?」
幸は少し考える素振りをして続けた。
「雛ちゃんは前のクラス一緒だったから。斥くんは、えっと、その」
そして、言葉を選びながら少しづつ話し始めた。
「その、斥、くんは有名、だったから」
そうなのかと斥を見ると小さく頷いていた。
学年でたった1人、車椅子を使うのが彼だったから、きっと悪目立ちしていたのかもしれない。
「だから、私が一方的に知ってた、だけ」
言い終わると幸は少し口を結んで俯く。
彼女の言葉から謝罪は出なかった。それは彼女に出来る最低限の敬意なのだと思う、
少し沈んだ空気を払うため、斥が手を叩いて質問する
「君たち、お昼どうする?午後休みだからお昼行かない?」
放課後に寄り道をする。菜奈さんの言っていた、本ではあまり書かれない、私の知らない普通。
興味が私の背中を押した。
「いいわよ」
私がそう言うと、斥は2人の顔を見る。
「2人は?」
「私も行こうかな」
「私も行きます」
2人が同意すると、斥は嬉しそうに微笑む。
「じゃあそこのファミレスで」
学校から徒歩3分程、住宅街に隣接する大通にあるファミレス。
私は席に戻ると鞄の中から、菜奈さんから入学祝いに貰った財布を取り出す。
父様に小遣いだと貰った1万円札3枚と5000円札1枚。
ファミレスは安いと聞くけれど、これで足りるのだろうか。
チャイムが鳴り、授業を受ける。
国語の文章問題は、知っている教本を使っているとはいえ、解釈によって答えが変わる。
それが少し楽しかった。




