暖かくなる頃
午前6時。朝起きて最初に、私はシャワーを浴びる。
寝汗を流し、寝て癖がついた髪にシャンプーをする。
暖かくなったとはいえ、まだ肌寒い季節。
お湯から出たくない私は、シャワーを浴びながら歯磨きをする。
終わる頃にはちょうど体も温まっているから。
シャワーから出て、先程脱ぎ捨てた寝間着を着る。
着替えは部屋に置いてあるから。
濡れた髪を温風で乾かす。これが私の朝のルーティン。
体を温めたが寒いものは寒い。だらしないと分かっているが、私は寝巻きの首元を少しはだけさせてドライヤーの温風を流し込む。
体が少し温まったところで部屋に戻る。
ハンガーにかけられた制服と、棚の奥からタイツを取り出して着る。
タイツは寒い、私も昔はそう思っていた。けど最近のタイツは防寒機能が凄くて、このタイツ1枚だけで十分なくらいだ。
着替えが終わる頃に声がかかる。
「幸、ご飯できたわよ」
「うん、すぐ行く」
最後に鏡の前に立って、もう一度確認する。
タイや襟が立っていないことを確認してからダイニングに向かった。
鞄に荷物を詰めながらスマホで時間を見る。
そこにはいつも通りの時間が記されていた。
電源を落としてから行ってきます。と少し声を大きくして言う。リビングから行ってらっしゃい。と母親の声が聞こえてから家を出る。
駅のバス停まで5分ほど、そこからバスに揺られて約15分。そこまで遠くない距離に私の通う学園がある。
春は出会いの季節だと言うけど、高校三年の年に新たな出会いなんてものはそうない。
桜の花びらの下を歩く新入生の顔もチラホラと見えるが、部活に入っていない私には関係なかった。
昇降口で上履きに履き替える友人の姿を見て声をかける。
「おはよ」
「幸、おはよう」
「春休みどうだった?」
私は何気ない会話が好きだ。友人とくだらない話に花を咲かせることが好きだ。
学年がひとつ上がる度に、階層とクラス分けが変わる。4階と3階の間、階段の踊り場に張り出されたクラス分けを見る。
衝羽根幸、3年D組。私の友人はみんなB組に行ってしまった。
つまり、新しく友人を作らないといけない。話しかける事が苦手な私には少し辛かった。
扉を開くと、思った通り、もう既にグループができていて、黒板に貼られた席順に従って席に座った。
去年とは違う席に少し違和感を覚える。
座り心地もだが、1つ階が上がって、窓から見える景色が少し違って見える。
ぼんやりと外を眺めているとチャイムが鳴った。
皆が着席をする。前と右前の席が開いたまま、だった。
ガラガラと扉が開いたのはチャイムが鳴って五分後。
新しい担任と、去年同じクラスだった雛ちゃん、そして、白い髪の子。
初印象は、そう、妖精。
暗い紺色の服も相まって、真っ白な髪が目立つ。
まつ毛まで白い彼女は、何処か浮世離れした存在感だった。
軽い担任の挨拶の後、その白い髪の子の紹介が始まった。
「この子は理事長の娘さん。よく入院していてあまり学校に通えなかったらしい。だから仲良くしてあげてくれ」
そう言うと、クラス中の視線が好奇の目から同情の色に変わった。雛ちゃんは優等生だから、綾瀬さんのお手伝いを頼まれたのかなと、今気づいた。
「綾瀬有希。学校の事はよくわからないの。教えてくれると嬉しい」
そう言うと、いつも聞きなれた拍手より少し大きく、少しうるさい拍手が教室を満たした。
綾瀬さんは軽くお辞儀をして、ゆっくりと歩き出し、私の前の席に座った。
小さかった。
私の妹を見ているようで、心配になる。
真っ白で長い髪を眺めていると、綾瀬さんが振り返ってきて、少し心臓が跳ねた。
「よろしくね、えっと」
「衝羽根幸、です。えっと、よろしく、綾瀬さん」
「有希でいいわ」
有希ちゃんはそう言うと、灰色の瞳を細めた。
見た目、声、名前に至るまで、彼女は雪の妖精のようだった。
お昼誘ってみようかな。そんな考えは授業の始まりによってかき消された。




