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元社畜、転生する

 ブラック企業に勤める私は、今日も残業をしている。

「いつになったら、この地獄が終わるんだろう......」


 もう、死ぬまで働き続ける未来しか見えない。来世は、怠惰な生活ができるお金持ちに生まれたいーーそう願った、まさにその時だった。


 突然、目の前が暗くなった。


 これが私、エステル・シュタインの前世での最後の記憶である。どうやら私は、転生してしまったようである。

(いやー、ほんとに転生ってあるんだなー。しかも、魔法もあるよこの世界、すっごいファンタジー)

 前世に未練など、ないに等しいため、全然驚かなかった。少し未練があるとすれば、残してきた家族のことだろうか。まあでも、年末に一回帰るくらいだったし、そこまで親と仲がいいというわけでもなかったため、そこまで気にすることはないのかもしれない。妹は、三か月に一回帰っていたみたいだし、私が帰らなくても親が寂しく思うことは、それほどなかっただろう。けれど、やっぱり親を残して先に死んでしまうのは、胸が痛くなるものだ。


 ちなみに、私の前世の記憶はなぜか最初からあった。そこは、転んで頭打って、起きたら思い出しましたっていうテンプレではないのかと、少し残念に思った。転生して数日、私は一つの壁に当たった。前世の記憶なんかを持っていたために、授乳やおむつ替えがとてつもなく恥ずかしかったのだ。

 わかっている。私は赤ん坊で自分のことは何一つできないか弱い存在であると。けれど、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


 三歳になった私は気づいたことが一つあった。どうやら、私は伯爵家の長女であるらしいのだが、シュタイン伯爵家当主の妻であり、発明家でもある、お母さまが転生者ではないかと疑っている。なぜなら、お母さまが発明したものは、前世で見たことあるものばかりなのだ。いや、似ているというレベルの話ではない。そっくりそのままなのだ。私はある日急に、目の前にあるドライヤーのようなものを見ていて思ってしまったのだ。これ、ダ〇ソンじゃね?と。そして、他の発明品も見れば見るほど、これ絶対にあれの模倣だろ、というようなものばかりだった。そうして、私の疑問は、いつの間にか確信に変わっていた。まあ、聞くにしても、もう少し成長してから聞いてみようと思う。子どもにそんなこと聞かれたら、さすがに怖い。


 ーーそんなこんなで、私は順調に成長して、五歳になった。転生して五年、早くも私は怠惰な生活に飽きてしまった。やはり、社畜は所詮、社畜ということなのだろうか。この五年間、貴族であるのに両親は私に何もやらせようとしなかった。それをいいことに、ずっと遊びながら暮らしていたのだが、もうすることもなくなり飽きてしまった。けれど、今私には楽しみでたまらないものがある。それは、魔法だ。転生してからずっと興味はあったのだが、両親がまだ早いとやらせてくれなかったのだ。そして、つい先日、ようやく魔法の勉強をしてもいいという許可が下り、今日から魔法の講師が我が家にやってきて、教えてくれることになった。


「お母さま、講師の方はいつ来るの??」


 私は待ちきれなくなってお母さまに聞いた。


「午後から来ると、言ったでしょう?」


 お母さまは困った様子でそう言った。


「だって、待ちきれないんだもの」


 そう言うと、お母さまは私の頭をなでて、あと少しよ、と言った。


 ◇



 午後になり、窓から門のほうを見てみると、門の前に、見たことのない馬車が止まっていた。

 私は、それを見た瞬間、一目散に玄関へ向かった。玄関の近くまで来ると、ちょうど両親が挨拶をしているところが見えた。そして、近くにいた執事のセバスチャンに魔法の講師の方であることを確認し、両親の方に近づいた。


「ああ、ちょうど来たみたいですね。ラフター男爵、これがうちの娘のエステルです。エステル、こちらは今日からお前の講師になっていただくキリアン・ラフター男爵だ」


 そう紹介されると、お父様がこちらをちらっと見た。自己紹介しろという意味なのだろう。いくら怠惰な生活を送っていた私といえど、自己紹介の仕方はお母さまに教えられていたため、知っている。まあ、それも嫌々ではあったが。


 私はスカートの裾を両手で軽く持ち上げ、膝を少し折って礼をした。


「本日よりご指導いただきます、エステル・シュタインです。どうぞよろしくお願い申し上げましゅ」


(やっば、噛んだーーーー。え、待って恥ずかしい。いやでも、ここで取り乱すのはよくない。とりあえず、なかったことにしよう)


 そう思った矢先に、誰かの吹き出す音がした。

(え、先生???あなた今吹き出しましたよね?)


(......仕方ないじゃん。いくら転生者っていっても、体は五歳児だよ?)


「失礼。とてもかわいらしいお嬢様ですね。本日より指導させていただきます、キリアン・ラフターと申します。以後、よろしくお願い申し上げます。」


(この時の私はまだ知らなかった。優しそうなその笑顔の裏に、鬼畜な本性が隠されていることを......)

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