表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

06:異形の森の狩人達:1

エピソード20ぐらいまでは内容が固まってるので週1~2更新で頑張ります。


2025/04/06 加筆修正

 ベンウッドを囲んで難癖をつけてきた『銀の剣』を名乗る冒険者一行(パーティ)は、バリスフォーグでは上位の実力を持つ冒険者達だ。

 リーダーは大剣使いのドミニク。徒党(パーティ)の構成はドミニクの他に斧使いエンゾと双剣使いのカンタンで戦士3名、弓使いのトマ、魔術師のヴァレリー1名、戦神ヴァルマハートを奉じる神官のギョームの6人編成だ。広義の魔法使い(マジックユーザー)2名を含むとてもバランスの良いパーティと言える。

 彼らは異形の森の浅層域を抜け、中層域に踏み込むことの出来る熟練(ベテラン)と呼んで良いチームだが、実績を手放しで賞賛するには問題のある徒党(パーティ)でもあった。

 ギルドのみならず酒場や娼館、あるいは人目に付かない路地裏で度々問題を起こした。流石に直接的な暴力に至ることは少ないものの、ギルドでのベンウッドとの一件のように、武威をひけらかしての恐喝は日常茶飯事であった。

 そんな彼らが軽微な罰則で済まされているのは、ひとえに土豪ダルシアク氏の軍閥の庇護下にあるからである。バリスフォーグ西の地を支配下に置く土豪ダルシアク氏は地元の冒険者を囲い込み、常備兵と合わせて戦力化することで領主の治世に多大な貢献をしてきた。それゆえに領主と言えども軽々に彼らを罰したりすることは出来ず、結果ますますダルシアク氏の軍閥麾下の者達の増長を招いている。

 ギルドの受付で事務処理を統括するデリックが、ベンウッドの持ち込んだ紹介状の中身を問題ありとして派閥に流したことも、この有力な派閥へ阿った結果である。

 バリスフォーグの西門の開放と共に街を出た一行は、問題のある新人冒険者のベンウッドに先を歩かせ、監視するようにその背後を歩いた。逃走防止のためでもあるが、ベンウッドの力量を測るためでもある。一行はしばらくの観察の後、ベンウッドの大まかな能力を把握しつつあった。

(単独で中層域って話のほうは嘘じゃねえな)

 ドミニクはベンウッドの目の配り方や足運びでおおよその力量を把握した。戦闘に関してはやらせてみないとわからないが、全く何も出来ない事は無さそうだと判断した。紹介状の中身はまるきり嘘ではないが大袈裟に書かれている、冒険者6人の見立ては一致してそのような評価になった。

 虚言であるなら公衆の面前で立場を弁えさせる必要がある。土豪ダルシアク氏の派閥が舐められては冒険者としての名声に傷がつくからだ。自分達の仕事の分け前にも障りがあるだろう。

 同時に彼の装備の品定めも行っていた。虚言を弄した分の謝罪があるならば誠意も当然必要なので、先に見繕っていたほうが話が進めやすい。昨日は外套に隠れてわからなかったが、鎧と腰の山刀はかなりの品だ。魔法が掛かっているかもしれない。新人にはもったいない。これは後でかならず詫びと共に譲り受けよう。最悪死体から奪えばいい。

 6人はそれぞれにこのような賊と変わらない思考を行っていた。その邪な視線に晒されているベンウッドはというと…。

(怖い目してるなあ。何かあったら走れるようにしとこう)

 あんまり恐怖を感じていなかった。文化の中心である街という入れ物にふさわしくない、文化的と言い難い人種だが、そんな彼らでもオークよりマシだ。

 オークはとにかく略奪に躊躇が無い。「お前良い物持ってるな、寄越せ」と喋る合間に相手を殴って殺す。それぐらいは平気でやる。

 人目に付かないところでやろうとしたり、誤魔化すためとは言え会話しようとするだけ文化的だ。比較対象が緑肌の蛮族なのは置いといて、だが。

 この仮初の会話の中でベンウッドも今回の騒動の原因を薄々理解し始めていた。

 ベンウッドが実績を疑われている理由はそれなりに正当性はあった。それは冒険者ギルドの知識の蓄積と、ベンウッドの培った常識の齟齬に起因している。

 ベンウッド以外ではブランドンもそうだが、異形の森へ単独行する冒険者は少数派だが存在する。魔物に関する十分な知識と健脚があるのなら悪い選択肢ではない。魔狼(ワーグ)を討伐可能な冒険者に関しても一定数存在する。魔狼(ワーグ)は追跡や先制が難しい相手ではあるが、中層では弱い方の魔物なので戦いになれば討伐は難しくない。

 実績で疑われているのはこの2つが合わさっている点だ。魔狼(ワーグ)は人語を解する程度に知性があり、強い個体や強い集団には戦いを挑まない。魔狼(ワーグ)にとっての熟練(ベテラン)の冒険者一行(パーティ)は、『倒せはするがその過程の被害が無視できない相手』という分類になる。

 魔狼(ワーグ)がよほど腹を空かせている場合や、冒険者が間抜けで完全な奇襲が可能な場合でなければ襲われることはない。4~6名で異形の森に侵入する冒険者はこの戦力差によって魔狼(ワーグ)の襲撃を防いでいる。

 一方で単独行の冒険者にとって、嗅覚が鋭くて狼よりも足が早く、更に数も多い魔狼(ワーグ)は、異形の森中層域での最大の障害となる。単独行の冒険者はあらゆる手を使って魔狼(ワーグ)との戦闘を回避する、それがギルドでの常識だった。

 単独行で魔狼(ワーグ)を討伐出来るのはギルドでは上位の実力者の更に一部だけ。つまり、紹介状の中身を全て真実として認定するのであれば、ドミニク達よりも更に上位の冒険者ということになってしまう。

 まともな冒険者を排出しない南方開拓村出身の、成人したばかりで図体がでかいだけの若造が、ドミニク達6人を合わせたよりも上手く仕事をこなす。その評価はドミニク達にとって許容し難い内容であったようだ。

 憤懣と共に語られる差別意識と特権意識には辟易したが、その排他性は序列の混乱を恐れてのことだろうと予測は出来た。オーク基準での類推ではあるが。

 理由がわかったところで彼らの不満が収まるわけもなし。偏見まみれの不毛な会話を不定期に続けながら、一行はローバン川の支流にまでたどり着いた。ローバン川はバリスフォーグ近辺の土地を潤す大きな川で、下流は異形の森を抜けて魔人の国の領有する港湾部にまで到達する。

 今回の目的地は川の向こうの森で、渡った先が異形の森の浅層域に指定されている。しばらく南下すれば異形の森の中層域に入ることが出来る。

 ブリスフォーグから最短距離で中層域へ入るならこの川を渡るのが最短経路。そう認識しているのは一行でベンウッドだけだったようだ。

「おい! どこ行く気だ!?」

 急に呼び止められて、理解が及ばぬままベンウッドは振り返る。

 ドミニク達は先程よりも更に剣呑な雰囲気を漂わせていた。何が気に入らなかったのかわからないが、とりあえず聞かれたことには答えることにした。

「どこって…川を渡るんですけど」

「泳いで渡るつもりか?」

 この支流は泳いで渡るには広すぎる。水深が浅い場所も探せばあるだろうが、だいたいは川の中央で足が付かなくなるだろう。装備が無ければ余裕だが、冒険者は保存食や金属製品など、水に浸かると良くないものをたくさん運んでいる。対岸が森なのでこの辺りは渡し舟をやってる人々も居ない。ドミニク達の懸念も妥当なものであった。

 しかし橋のある北側まで向かうと、森に入る頃には日が暮れてしまう。気の進まない用事をさっさと済ませておきたいベンウッドは魔法を惜しまず使うことにした。

「まさか。水上歩行ウォーターウォーキングの術を使います」

 ベンウッドは慣れた手順で川に集まる水の精霊に呼びかけると、足の裏に魔力を集中させる。始点となる古代魔法語を唱えると、足の裏に不可視の膜が貼られた。

 精霊魔法はその場に存在する精霊が出来る範囲でしか魔法を使えないという制限はあるが、環境を味方に変えていく事に関しては無類の強さを発揮する。とはいえ穏やかな川の流れの上のこと、創世魔法でも水上歩行ウォーターウォーキングは実現できるので他の魔法に比べて際立った優位というほどではない。

「ここを渡ればすぐです。さあ行きましょう。そこの魔法使いの人、使えるでしょ?」

「馬鹿言うな! 使えるには使えるが、こんなところで魔力の無駄遣いなど出来るか!」

 ヴァレリー(ベンウッドは彼の名前を既に忘失している)は、同じにされてはたまらないと大声で否定する。両者の間にしばらく気まずい沈黙が横たわった。

 魔力は切り札。元が貧弱な魔力容量しかない人間はどうしても魔力を温存しがちになる。気軽に練習して容量の拡張や変換の最適化をするわけにもいかないらしい。

 ベンウッドは師の言葉を思い出して、ヴァレリーの容量の少なさも遅まきながら理解した。

「…わかりました。じゃ、皆さんの分は俺がかけます。それで良いですか?」

「……てめえがやるなら文句はない」

 ベンウッドは渋々ながら全員分の魔術をかけた。大した手間ではないが魔力総量に自信が無いなら仕方がない。北側の橋まで回り込んで時間を無駄にするよりはマシと思うことにした。

「効果は600秒です。行きましょう」

 直線距離をただ歩くだけなら1分かからない。ベンウッドはこれまでと変わらない速度で川を歩いて渡り始める。気負いなく悠々と川を渡るベンウッドを、ドミニク達は慌てて追いかけた。揺れる水面に足をつける感覚は、わかっていても違和感が残る。おっかなびっくり進んでいく。

 川を渡りながらドミニクは魔法使い(マジックユーザー)の2人、ヴァレリーとギョームの顔が青くなっているのに気づいた。

「…あいつ」

「どうした?」

 ヴァレリーは迷ったかのように俯いてから、声を潜めて続きの言葉を吐き出した。

「7人分、小さな魔法でもあれだけ使えば普通は疲れが来る。なのにあいつ、ピンピンしてやがる。どうなってんだ」

「………やばいのか?」

 ドミニクも魔法使いとの連携の必要上魔法の知識は皆無ではないが、細かいところの知識は任せきりだ。ベンウッドの魔法がどうすごいのか今一理解出来ていない。

「やばい。魔力の変換効率が極まってるか、魔力総量が桁違いか。あるいは両方だ。どっちにしろやばい」

 あの効率で各種魔法投射体(マジックミサイル)を使われた場合、魔法の撃ち合いになったら一方的に負ける。ヴァレリーとギョームの認識は共通していた。

 魔力を通常の2倍使って、魔法投射体(マジックミサイル)を2本出すという芸当はヴァレリーもやる。3倍ぐらいまでならなんとか使えるが、消耗が大きいのでそう連発は出来ない。

 ベンウッドは何倍まで増やせる? それを何回撃てる? 容量と変換効率が大きいとはそういう話になる。妥当なところで石礫(ストーンブラスト)の魔術を6倍の上で奇襲されたら、徒党(パーティ)は半壊するだろう。

 少なくともベンウッドは難なく水上歩行ウォーターウォーキングは6倍にしてみせた。石礫(ストーンブラスト)の3倍拡張ぐらいまでは可能性として十分にあり得る。

 川を渡ったベンウッドは迷いなく森に入る。最初の予定ではこの森の中で脅迫か殺害か、その予定だった。

 なので森に行くなら都合が良いはずだった。本当にそうだろうか。森の中を迷いなく歩いていくベンウッドにそのまま追従していいものか。

 自身の恐れを自覚したドミニクは、迷いを振り払うように一歩前に足を進めた。

 森の闇は深く、前にいるはずのベンウッドは既に見えなくなっていた。

●余談

ドミニク:ファイターLv4、レンジャーLv2

エンゾ:ファイターLv4、レンジャーLv1

カンタン:シーフLv4、レンジャーLv1

トマ:レンジャーLv4、ファイターLv2

ヴァレリー:ソーサラーLv2、セージLv2、レンジャーLv1

ギョーム:プリースト(戦神ヴァルマハート)Lv3、ファイターLv3、レンジャーLv1


環境の都合で余った経験値をレンジャーに振りがち

異形の森の推奨Lvは

浅層域:1~3 中層域:3~5 深層域:6~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ